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15章
宿泊者達と条件【1】
しおりを挟む働いてくれる人材の目処が立ったので、ベーネさんの宿との日程調節をし、アーロンさん他、お帰りいただいた人達に連絡を取った。
今回は初回のため、全員まとめて泊まってもらう。その方が疑問点や不備が浮き彫りになりそうだからね。
ただ、その際は問い合わせのみ。文句は言わないことを了承してもらった。まぁ、多分ちょっとくらい何かあってもあーだこーだ言うメンバーじゃないんだけどね。
調理担当のおじさん……エフディアさんや、ベーネさんの宿の人達に今まで登録したレシピを中心に料理教室を開くこと数日、ついにその日がやってきた。
時間指定で二組に分かれて来てもらう。
最初はアーロンさんと暗部の二人。
先日と同様に案内して、注意事項を説明。鍵を渡して部屋へ入ってもらった。
暗部であるアーノルドさんとドナルドさんには別件で用があるので、二人だけお呼び出し。
インプが各部屋に付けてくれた伝言板魔道具はメッセージがくると音が鳴る仕様で、普段は宿泊者からの要望を記すためのもの。送受信が可能なため、こちら側から宿泊者に伝えることもできる優れものだ。
インプのあの超高級旅館のドアに貼り付けてあったものと同じもの、もしくは改良型だと思われる。
ただ、派遣スタッフには説明してないから、送信できるのは私達及び常駐メンバーのみ。
早速活用させてもらっちゃった。
フロントに現れた二人を別室へと連れて行く。
この二人には私達だけの方がいいだろうと、ジィジ達はお留守番だ。
応接室のソファに座り、ジルが紅茶をセットし終わったのを確認したアーノルドさんは耐えきれなかったのか口を開いた。
「お嬢ちゃん、アーロンにも内緒の話ってなんだ?」
「その前に、ここで話すことは内緒にするって神に宣誓してくれる?」
「そんなにヤバい話なのか?」
「一応、念のためだよ、念のため」
私の発言に顔を見合わせた二人は、「ここで話す内容は他言しない」と誓ってくれた。
「あの無口な暗部のお兄さん二人もそうなんだけど、アーノルドさんとドナルドさんはこの国に調べもの……諜報活動をしに来るでしょ? そのとき、私達がいてもいなくても泊まって大丈夫だよ。アーロンさんが一緒じゃなければ、事前連絡も特にいらない。連絡がなかった場合は今日みたいにスタッフはいないから素泊まりになるけど、さっき連絡した伝言板魔道具に書いてくれれば簡単な食事くらいは用意してあげられる」
「おぉ!」
「……条件は?」
アーノルドさんは喜んだけど、ドナルドさんは私の意図を見極めるかのように目を細めた。
「私達に情報を流すこと」
「は!?」
「……俺達に陛下を裏切れと言うのか?」
若干の怒りを湛えたドナルドさんは低く、聞き咎めた。
「あぁ、違う、違う。そんなこと言わないよ。私もアーロンさん好きな方だし。アーノルドさんとドナルドさんはさ、情報をマルっと全部アーロンさんに伝えてるワケじゃないでしょ? 精査した内容を伝え、それを聞いたアーロンさんが必要だと思ったことを私達に教えてくれるじゃん? そのふるいにかけられた情報を教えて欲しいの。ジィジや私達が知っておいて損はないんじゃないかなってレベルのものを。タルゴー商会の本店はキアーロ国だけど支店の数で言えばシュグタイルハン国のが多いし、ドヴァレーさんは信用し切れないから、二人が協力してくれると助かるんだよね」
「それだけ……か?」
「うん、それだけ。ジィジ達やタルゴー商会の安全のために噂程度のものでも情報が欲しいんだよ。タルゴー商会については、タルゴーさんが前にスパイがどうのこうのって言ってたから心配でさ」
「それならアーロンに言っても許可されるんじゃね?」
「そうだとは思うんだけどさ、私達のためにもアーノルドさん達他、レナードさんやリシクさんのためにも言わない方がいいと思うんだよね」
「なんでだ?」
「よく考えてみて。アーノルドさんとドナルドさんはたまに情報を持ってくれば、ここに泊まり放題なんだよ? ここは私が登録したレシピは全て許可してある。そしてお城には転移門があって、すぐに来られる」
「「あぁ……」」
「仕事ほっぽり出してご飯食べに来そうでしょ? で、お供も付けずに『腹ごなしだ』なんて城下町をプラプラする可能性も出てくるワケ」
「すげぇ納得した……」
「そうだな。その可能性は高い。それだけでいいならその話に乗ろう。ただ、何かあって陛下にバレたときはそのままこの話をさせてもらう」
「うん、それで大丈夫だよ。バレたら『オレは食えてないのに』って拗ねるとは思うけど」
「「……」」
そんなにしょっちゅうこの国に来ないだろうし……おそらく、罰を与えられたとしてもご飯分の労働を科すか、しばらく二人は宿泊禁止令が出されるくらいだと思うんだよね。もしくは『オレの国の暗部を使ったんだからオレも泊まらせろ』って私が言われる感じかな?
ただ、説明すれば納得はしてもらえそう(主にレナードさんとリシクさん)だから、こちら的には被害はないって算段。
「あ、そうそう。大事なこと言うの忘れてた。例え誰かに追われてたり、夜中や明け方だったりしたとしても、絶対門を通ってね。空からとか塀からとか入ると防犯システムが作動して排除されちゃうらしいから」
「「は!?」」
「門前に立てばちゃんと門開くから。そしたら、そのままこの建物まで歩いてきて。フロントに鍵が用意されているハズだから」
門を開けるのも、フロントで鍵を出しておくのも姿を見せないままゾーノがやってくれる予定である。夜食はエフディアさんが作ったやつが一定量保管されてて、それをこれまたゾーノが運んでくれる手筈になっている。
とってもありがたい妖精だよね。
「排除ってどういうことだ?」
「インプが言ってただけだから私もよくわかってないんだよね」
「「は⁉」」
「大丈夫、大丈夫! 敵って認識されなければ何もないハズだから」
「「……」」
気にしなくていいって意味だったのに、二人は顔を見合わせてからゴクリと唾を飲んだ。
怖がらせたくて言ったワケじゃないんだけど……警備ゴーレムの話はできないんだよね。
「あと、これ。あの無口なお兄さん達に渡しておいてくれる?」
「これは?」
「紹介状みたいな感じ。それを門前で出してくれれば、あの二人も泊まれるよ。素泊まりなら何時でも大丈夫だし、二回目以降はそれなくても大丈夫だから。ただ、二人にも絶対に門から入ってって伝えて」
「……わかった。もしこっちに来ることがあればよくよく言い聞かせておく」
本当は初回時にゾーノが紹介状を回収する予定なんだ。お兄さん達の魔力はちょっと特徴がある。ゾーノに覚えて欲しいってお願いしておいたから、二回目以降も泊まれるハズ。
私が信頼している人達だから、契約したスタッフとは違う扱い。別にベーネさん達が信用できないってワケじゃないよ。
なんて言えばいいかな? 友人に近い感じ? 私に甘いみたいだし。
アーノルドさんとドナルドさんは排除って言葉に少しビビり気味なものの、それでもこのホテルは魅力的みたい。レシピ登録してあるご飯に惹かれたのかもしれないけど。
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