上 下
497 / 538
15章

宿泊者達と条件【1】

しおりを挟む


 働いてくれる人材の目処が立ったので、ベーネさんの宿との日程調節をし、アーロンさん他、お帰りいただいた人達に連絡を取った。
 今回は初回のため、全員まとめて泊まってもらう。その方が疑問点や不備が浮き彫りになりそうだからね。
 ただ、その際は問い合わせのみ。文句は言わないことを了承してもらった。まぁ、多分ちょっとくらい何かあってもあーだこーだ言うメンバーじゃないんだけどね。


 調理担当のおじさん……エフディアさんや、ベーネさんの宿の人達に今まで登録したレシピを中心に料理教室を開くこと数日、ついにその日がやってきた。
 時間指定で二組に分かれて来てもらう。

 最初はアーロンさんと暗部の二人。
 先日と同様に案内して、注意事項を説明。鍵を渡して部屋へ入ってもらった。
 暗部であるアーノルドさんとドナルドさんには別件で用があるので、二人だけお呼び出し。


 インプが各部屋に付けてくれた伝言板魔道具はメッセージがくると音が鳴る仕様で、普段は宿泊者からの要望を記すためのもの。送受信が可能なため、こちら側から宿泊者に伝えることもできる優れものだ。
 インプのあの超高級旅館のドアに貼り付けてあったものと同じもの、もしくは改良型だと思われる。
 ただ、派遣スタッフには説明してないから、送信できるのは私達及び常駐メンバーのみ。
 早速活用させてもらっちゃった。


 フロントに現れた二人を別室へと連れて行く。
 この二人には私達だけの方がいいだろうと、ジィジ達はお留守番だ。
 応接室のソファに座り、ジルが紅茶をセットし終わったのを確認したアーノルドさんは耐えきれなかったのか口を開いた。

「お嬢ちゃん、アーロンにも内緒の話ってなんだ?」
「その前に、ここで話すことは内緒にするって神に宣誓してくれる?」
「そんなにヤバい話なのか?」
「一応、念のためだよ、念のため」

 私の発言に顔を見合わせた二人は、「ここで話す内容は他言しない」と誓ってくれた。

「あの無口な暗部のお兄さん二人もそうなんだけど、アーノルドさんとドナルドさんはこの国に調べもの……諜報活動をしに来るでしょ? そのとき、私達がいてもいなくても泊まって大丈夫だよ。アーロンさんが一緒じゃなければ、事前連絡も特にいらない。連絡がなかった場合は今日みたいにスタッフはいないから素泊まりになるけど、さっき連絡した伝言板魔道具に書いてくれれば簡単な食事くらいは用意してあげられる」
「おぉ!」
「……条件は?」

 アーノルドさんは喜んだけど、ドナルドさんは私の意図を見極めるかのように目を細めた。

「私達に情報を流すこと」
「は!?」
「……俺達に陛下を裏切れと言うのか?」

 若干の怒りを湛えたドナルドさんは低く、聞き咎めた。

「あぁ、違う、違う。そんなこと言わないよ。私もアーロンさん好きな方だし。アーノルドさんとドナルドさんはさ、情報をマルっと全部アーロンさんに伝えてるワケじゃないでしょ? 精査した内容を伝え、それを聞いたアーロンさんが必要だと思ったことを私達に教えてくれるじゃん? そのふるいにかけられた情報を教えて欲しいの。ジィジや私達が知っておいて損はないんじゃないかなってレベルのものを。タルゴー商会の本店はキアーロ国だけど支店の数で言えばシュグタイルハン国のが多いし、ドヴァレーさんは信用し切れないから、二人が協力してくれると助かるんだよね」
「それだけ……か?」
「うん、それだけ。ジィジ達やタルゴー商会の安全のために噂程度のものでも情報が欲しいんだよ。タルゴー商会については、タルゴーさんが前にスパイがどうのこうのって言ってたから心配でさ」
「それならアーロンに言っても許可されるんじゃね?」
「そうだとは思うんだけどさ、私達のためにもアーノルドさん達他、レナードさんやリシクさんのためにも言わない方がいいと思うんだよね」
「なんでだ?」
「よく考えてみて。アーノルドさんとドナルドさんはたまに情報を持ってくれば、ここに泊まり放題なんだよ? ここは私が登録したレシピは全て許可してある。そしてお城には転移門ゲートがあって、すぐに来られる」
「「あぁ……」」
「仕事ほっぽり出してご飯食べに来そうでしょ? で、お供も付けずに『腹ごなしだ』なんて城下町をプラプラする可能性も出てくるワケ」
「すげぇ納得した……」
「そうだな。その可能性は高い。それだけでいいならその話に乗ろう。ただ、何かあって陛下にバレたときはそのままこの話をさせてもらう」
「うん、それで大丈夫だよ。バレたら『オレは食えてないのに』って拗ねるとは思うけど」
「「……」」

 そんなにしょっちゅうこの国に来ないだろうし……おそらく、罰を与えられたとしてもご飯分の労働を科すか、しばらく二人は宿泊禁止令が出されるくらいだと思うんだよね。もしくは『オレの国の暗部を使ったんだからオレも泊まらせろ』って私が言われる感じかな?
 ただ、説明すれば納得はしてもらえそう(主にレナードさんとリシクさん)だから、こちら的には被害はないって算段。

「あ、そうそう。大事なこと言うの忘れてた。例え誰かに追われてたり、夜中や明け方だったりしたとしても、門を通ってね。空からとか塀からとか入ると防犯システムが作動してされちゃうらしいから」
「「は!?」」
「門前に立てばちゃんと門開くから。そしたら、そのままこの建物まで歩いてきて。フロントに鍵が用意されているハズだから」

 門を開けるのも、フロントで鍵を出しておくのも姿を見せないままゾーノがやってくれる予定である。夜食はエフディアさんが作ったやつが一定量保管されてて、それをこれまたゾーノが運んでくれる手筈になっている。
 とってもありがたい妖精だよね。

「排除ってどういうことだ?」
「インプが言ってただけだから私もよくわかってないんだよね」
「「は⁉」」
「大丈夫、大丈夫! って認識されなければ何もないハズだから」
「「……」」

 気にしなくていいって意味だったのに、二人は顔を見合わせてからゴクリと唾を飲んだ。
 怖がらせたくて言ったワケじゃないんだけど……警備ゴーレムの話はできないんだよね。

「あと、これ。あの無口なお兄さん達に渡しておいてくれる?」
「これは?」
「紹介状みたいな感じ。それを門前で出してくれれば、あの二人も泊まれるよ。素泊まりなら何時でも大丈夫だし、二回目以降はそれなくても大丈夫だから。ただ、二人にも門から入ってって伝えて」
「……わかった。もしこっちに来ることがあればよくよく言い聞かせておく」

 本当は初回時にゾーノが紹介状を回収する予定なんだ。お兄さん達の魔力はちょっと特徴がある。ゾーノに覚えて欲しいってお願いしておいたから、二回目以降も泊まれるハズ。

 私が信頼している人達だから、契約したスタッフとは違う扱い。別にベーネさん達が信用できないってワケじゃないよ。
 なんて言えばいいかな? 友人に近い感じ? 私に甘いみたいだし。

 アーノルドさんとドナルドさんはって言葉に少しビビり気味なものの、それでもこのホテルは魅力的みたい。レシピ登録してあるご飯に惹かれたのかもしれないけど。


しおりを挟む
感想 1,797

あなたにおすすめの小説

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな

しげむろ ゆうき
恋愛
 卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく  しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ  おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~

白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」 マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。 そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。 だが、この世には例外というものがある。 ストロング家の次女であるアールマティだ。 実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。 そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】 戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。 「仰せのままに」 父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。 「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」 脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。 アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃 ストロング領は大飢饉となっていた。 農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。 主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。 短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。