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番外編まとめ
お年玉企画【番外編】:雪まつり2
しおりを挟む二人の村人を連れて戻ってきた天狐は、すぐにギャイオさんとお仕事の話に。
もうすでに小型のクーラーボックスみたいな保存箱は作成されてるんだけど、ジィジの依頼は家ほどもある大きなもの。
大きさがネックみたいで、魔石の個数や配置する位置、刻む魔法陣……と課題がいっぱい。
ジィジによると、魔石を魔道具化しちゃう私と精霊が作ったものは魔道具でも特殊なものに分類されるそうで、後学のためにも国民に頑張ってもらうんだって。
◇
ちょうどご飯を作り終わったタイミングで帰って来たのはギャイオさんの息子。この子が天狐が言っていたギャチョー君だった。
ギャチョー君は全く人見知りしないようで、私にもジルにもグレンにも屈託なく話しかけてくる。
「おれがみんなに紹介してやる! 一緒に遊ぼうぜ!」
と、お昼ご飯の肉炒めをかき込んだギャチョー君に拒否る間もなく腕を引かれて連れて行かれたのは、村からほど近い場所にある小山。
よく遊んでいるのか、ここら一体は雪が踏みしめられていた。
私もジルもまだ途中だったんだけど……
置いていかれたグレンに念話を飛ばしたら、〈寒すぎるから待ってる。天狐もまだ魔道具について話してるから、しばらくはこのままだな〉と返ってきた。
集まった子から手短に紹介された子供は六歳から十歳までの少年少女五人。八歳のギャチョー君を中心にいつもこのメンバーで遊んでいるらしい。
「ギャチョーはねぇ、すごいんだよ!」
「すごい?」
得意気な女の子にジルと顔を見合わせる。
「セナちゃんもジルベルト君も見てろよ!」
そう宣言して、女の子以外のメンバーと一緒に私達がいる小山より少し高さのある小山に走っていった。
頂上に着いたギャチョー君はただの木の板に乗り、滑り降りる。
「おぉ! えぇ!? すごーい!」
立ち乗りだけでもすごいと思ったのに、ちょっとした段差で板に乗ったままジャンプした。
その姿は正にスノーボード! 雪だからね! 車輪なしスケートボードとも言えそうだし、正面向いてるからまた違うかもしれないけど。
ズザザッと私とジルの近くまで滑り降りて来たギャチョー君は、思わず拍手していた私とジルを見て、照れくさそうに頬をかいた。
「すごいね! バインディングもないのにジャンプなんてスノボの選手もビックリだよ!」
「ばいん?」
「すのぼのせーしゅ? セナちゃんじゃないの?」
「あぁ……もちろん私も驚いてるよ! えっとね、私の故郷にも木の板で滑るスポーツっていうか遊びがあるんだけど、その遊びをスノーボードって言うの。ギャチョー君とは違って足が板に固定されてるんだよ」
二人に首を傾げられ、わかりやすく説明したつもりだったんだけど……再び首を傾げられた。
「見た方が早いかな? ちょっと待ってね」
無限収納から取り出した木をスノボのボードのように削っていく。
バインディングは……即興で作れる気がしないので、板に穴を開けてクラオルの蔓と添え木で両足首を固定するようにした。
「できた!」
「「「「「「おぉー!」」」」」」
いつの間にか全員集合してたのね……
「私のところではこういう板で……こうやって斜めに滑るの。私は数回しかやったことないから下手くそだけど……板に足がくっ付いてるから、方向が変えやすいんだよ」
「「「「「「おぉ!」」」」」」
「楽しそう!」
「やってみたい!」
「やってみる? 全員分作ろうか?」
「「「「「いいの!?」」」」」
ギャチョー君以外の子供達は興奮して目を輝かせた。
「ギャチョー君はいらない?」
「……セナちゃんは大丈夫なのか? その作り方……魔力たくさん使うだろ?」
「……ふふっ。心配してくれてありがとう。これくらいなら大丈夫だよ」
「ならおれも欲しい! でもおれのは最後でいい。キツくなったら言って」
「ふふふ。わかった」
キツければ自分のはいらないと言外に伝わってくる。
(こんな気遣いができるなんていい子! 優しいギャチョー君のためにお姉さんが一肌脱いであげましょう!)
ジルに手助けしてもらいながら全員分を作り、全員揃ってさっきギャチョー君が滑っていた小山に向かう。
頂上で転び方を簡単に説明し、みんなの足をクラオルの蔓で固定すると、早速滑って行った。
バランス感覚が素晴らしき少年少女は本当に初めてか疑うくらいボードの扱い方が上手い。
しかもさ、ギャチョー君と話している間に先に滑り降りたハズの年長君が戻ってきたんだよね……蔓で足が固定されたまま。
みんな降りたら蔓を切って、また頂上に来たら固定しようと思ってたのに……
「よくそのままで登って来られたね」
「うん。こうやると簡単だったよ!」
年長君が見せてくれたのは……かかと側のサイドでボードを立たせ、右足側、左足側と交互に浮かせて歩くやり方だった。
なんて器用な……
それを見ていたのか、一番若い六歳の子まで同じようにして登ってくる始末。
いくら小さな小山だとはいえ、驚くどころじゃない。
三、四回ほど滑ったギャチョー君はすぐにジャンプできるようになり……さらに一時間ほど経ったころ、年長の子がコツを掴んだ。
さらに数時間後――ギャチョー君はフラットスピンまでやってのけ、他の子達も軽いジャンプからオーリーまで可能に。
ジルはジルでギャチョー君に負けじと滑りまくっていた。
運動神経抜群のジルはトリック名はわからないけど、空中で前転する大技を見せて子供達から賞賛を浴びてたよ……
私? 私は早々に諦めて、滑りやすいようにジャンプ台を整え、保護者さながらケガをしないように見守っていただけ。
「あー! 楽しかった!」
「それはよかった。もう帰るの?」
「ううん、まだだよ。付いてきて!」
ギャチョー君がジルの手を、女の子が私の手を取り、言われるがまま歩いていく。
いくつもの小山を越え、子供がギリギリ通れるだけの狭い雪道を進むこと一時間……着いたのは三メートルほどの真っ平らに開けた谷底だった。
「ここ、おれたちの秘密の泉!」
「泉……そんなところを私達に教えちゃっていいの?」
「うん! おれたち、もう友達だろ? 取ってくるからちょっと待ってて」
「取ってく……って、えぇ!? ちょっと、ちょっと!」
何を思ったのかいきなり服を脱ぎだしたギャチョー君と年長君はパンツ一丁姿に。
さらに二人は狼狽える私にニヤ~っと笑いかけ、次の瞬間にはクルッと後ろを向いて走り出し……さらには奥のほうに穴でも開いていたのか、ドボンと飛び込んでしまった。
「えぇぇぇぇ!?」
「あはは。セナちゃん慌てすぎ。大丈夫だよ」
「え!? 大丈夫じゃなくない!? 風邪引いちゃうよ!」
「大丈夫、大丈夫。いつもあたしも泳いでるけど、それで風邪引いたことないよ」
「マジか……」
(このクソ寒い中いつも寒中水泳やってるの!? ここの子達強すぎじゃない!?)
残されたメンバーはのんびりとしたもんで、その様子に少し冷静になった。
てっきりアイススケートみたいに滑るのかと思ってたのに……
当のギャチョー君達は五分経っても上がってこない。
気配は弱まっていないものの、いい加減助けに行った方がいいんじゃないかとソワソワし始めたとき、ザバッ! ザバッ! と水中から飛び出てきた。
ずぶ濡れのギャチョー君達は寒そうな様子は一切なく、自分で【ドライ】をかけて乾かし、笑顔でこちらに歩いてくる。その手には桶のようなものが。
飛び込むときあんなの持ってたっけ?
「ね? 大丈夫だったでしょう? 取れたー?」
クスクスと笑った女の子がギャチョー君に問いかけると、元気に「うん!」と返ってきた。
(普通! めっちゃ普通!)
無事に生還(?)したギャチョー君は自慢げに桶を差し出した。
「これあげる!」
「あ、ありがとう? 泉の……水?」
水がめいっぱい入っていたと思われる桶は物の見事に凍っていて、正直穴の縁から掬うだけでよかったんじゃないかと思ってしまう。
「違う違う。グラトゥロイユだよ。中に入ってる黄色いやつ。見た目は気持ち悪いけど美味しいんだ」
「気持ち悪いんだ……」
年長君が説明してくれたけど、この凍った桶では中の様子が窺い知れない。どれだけグロテスクなものなのか……
思わず引きつった私を安心させるように「味は保証するよ」と微笑まれた。
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