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15章
最終防衛ライン
しおりを挟む朝早く、クラオルに叩き起こされた。
ガイ兄から「全員でパパ達の像がある祈りの間へ来て欲しい」と連絡が入ったらしい。
眠気まなこのまま像のある祈りの間に向かうと、すでにシルキーやスタルティを含めた全員が集合していた。ガルドさん達はベンチに座って頭カクカクさせているけど。
いつも素通りか裏口を使っていた私は久しぶりに像を見上げて違和感に襲われた。
(あれ? パナーテル様じゃなくて……おばあちゃんになってる?)
作ったハズのパナーテル様の頭部が明らかにボヤけている。
私は本人にあったことがあるから、多分、おそらくおばあちゃんだろうと雰囲気でわかる程度。
一度気になると気になって仕方ない。
なるべく早く他の像と同じようにハッキリとした顔立ちにするべく、直そうと心に決めた。
全員で祈りを捧げると、エアリルパパの声が聞こえて神界へ。
花畑にはパナーテル様以外の神様が集合していた。
久しぶりの対面だからか、パパ達を落ち着かせるのに一苦労。
「ヒャッヒャッヒャ。これこれ、落ち着かぬか。スタルティは初めてじゃろぅ」
「あ、そうでした。セナさんに会えたのが嬉しくてつい……」
おばあちゃんが揉みくちゃにされていた私を腕の中に避難させる。
おばあちゃんの言葉で気が付いたエアリルパパが「まずは自己紹介からですねと」順番に神様ズを紹介。
呆然としていたスタルティは驚きつつも礼儀正しくしっかりと自身も名乗った。
「ずっと一人眠らせていたけど、流石に今回は知らせた方がいいという話になったんだよ。目撃することもあるだろうし、何よりセナさんが気にしていたしね」
「なるほど。目撃って?」
「それはこれから。まずは場所を移そうか」
ガイ兄がパチンと指を鳴らして移動した場所はいつものラウンジじゃなくてガゼボのある草原だった。
「説明の前に。セナさんは以前、ダンジョンで手に入れたコレを覚えているかな?」
そう言うガイ兄の手の上には見覚えのあるものが乗っていた。
「ん? んん? スライムの核にそんな色のあったっけ??」
『主様……覚えてないの? ゴーレムよ、ゴーレム! 大きさが全然違うでしょ!』
「あぁ! ゴーレムね! そういえばそんなこともあったね」
すっかりさっぱり忘れてたよ。あのときはガルドさんとちょっと気まずくなっちゃったんだったっけ。
ガイ兄に言われるがまま核に魔力を流すと、以前ダンジョンで試したようにゲームに出てくる巨大な岩の人形と化した。
「やっぱりこの形になったね」
「形がどうかしたの? ってまさか……」
「ふふっ。正解。ちょっと調べたらいろいろ便利そうでね、今回家を作るのにあたってコレに警備させようと思ってたんだ」
「マジか……」
ただでさえ超チートで一般的な家から超越しているのに、それにゴーレムがプラスされるなんて……
「な、なんかとっても物騒な家ね……」
「そうかな?」
「インプのトラップ城だけでも充分な気がするよ……」
「ヒャーッヒャッヒャ! あれは楽しんでいたからの。じゃが、セナは王都よりカリダの街の方が好きじゃろ?」
「うん」
「じゃと思うたから似たモノを作った。セナが手に入れた核の部下のようなものじゃな。だが、少々問題があっての……」
「問題?」
「あくまでもゴーレムだからね。力仕事は得意でも細かい作業は苦手なんだ」
(あぁ……なるほど。私のイメージも関係してそうだけど、人工生命体や人造人間とは違うってことね)
ガイ兄が言わんとしていることがわかった。
たしかに岩の人形であるゴーレムがゴッツゴツの大きな手で細かい作業……例えるなら、裁縫なんかできたら驚きだ。それはそれで見てみたい気もするけどさ。
「それで僕達はコレをいつお披露目するか迷ってたんですけど、シルキーをキヒターが連れて来たのでちょうどいいと思ったんです」
「ちょうどいい?」
「ブラウニーもそうですが、このシルキーも魔力を糧として存在します。呪淵の森の魔素に晒され続けたこのシルキーは妖精の力が著しく弱っているんです。それもセナさんのところにいればすぐに回復できるでしょう。さらに! この子はこのゴーレムとは逆に、力仕事は苦手ですが細かい作業が得意なんです」
「つまり、得意不得意を補い合うゴーレムとシルキーに警備させようと?」
「はい!」
ガイ兄の代わりに答えたエアリルパパに確認を取ると、満面の笑みで頷かれた。
「マジか……ま、まぁ、ジィジ達の安全性が増すならいいんじゃないかな?」
もう決定事項なら私が言ったところでどうにもならないだろう。
ジィジが驚いてないところを見ると、聞いていたんだろうしね。
「通常ならセナさんが疑問に思っていたように家に憑くので契約は必要ないんですが、契約すればセナさんの家全てを管理できるようになります」
「あぁ、そういうことね。全てってことはキヒターの教会も?」
「はい。繋がりができるので遊びに行けるようになりますね」
《本当ですか!?》
エアリルパパの言葉にパッと顔を上げるキヒター。
これは契約確定だね。名前考えないと……家事妖精……メイド……かせ……あ、でも女の子とは限らないのか。ヤバい。アレしか頭に出てこない! そしたら……
「うーん。ゾーノ……ってどうかな?」
《……ゾーノ……!》
嬉しそうな声色で復唱したシルキーが発光し、無事契約が完了。
ホットプレートの製作者であるゲーノさんと名前が似ちゃったけど、一度アレを思い浮かべたら、もうそれしか頭に浮かばなかったから許してもらいたい。
《オレ、キヒター!》
《……ゾーノ……よろしく……》
喜ぶ二人のやり取りを見ていたおばあちゃんが笑いながら指を鳴らすと、ゾーノの服が可愛らしいメイド服へと変わった。
それを見たキヒターが《似合ってます!》と褒め、ゾーノは照れている。
うん。仲よきことはいいことよ。
「セナ、こっちの核にも魔力を流してくれ」
「はーい」
アクエスパパに言われて、おばあちゃんが作った小さいゴーレムの核に魔力を流した。
パパの説明によると、ダンジョンで手に入れた核は一番大きく、一番機能を兼ね備えた王都のあの家を護るそう。
ただ、四、五メートルはあるから、普段は隠れていて、その代わりに二体の一,五メートルほどのチビゴーレムが巡回するんだって。
カリダの街の家もチビゴーレムが警備に付くらしい。
「ゴーレムの仕事は敵の追い返しと排除じゃ。自爆してでも護るようにしてあるから安全じゃぞ。あとは……力仕事の手伝いくらいはできると思うぞ」
「え……ちょっと待って。自爆!? 安全じゃなくない!?」
「敵を滅するにはよいじゃろう? まぁ、妾達の力も注いであるからこのゴーレム達はなかなかに強い。最終手段というやつじゃ!」
得意気に微笑むイグ姐に顔が引き攣る。
「そ、その機能はいらないんじゃないかな? 街に被害が出そうだし、ゴーレムが可哀想じゃん」
「はぁ……セナは優しいのぅ。流石妾の癒し」
デレっと相好を崩したイグ姐はおばあちゃんの腕の中から私を抱き上げ、頭にチュッチュとキスを落としていく。直す気は……なさそうだ。
イグ姐が強いと言うからには事実強いんだろう。爆発なんて怖いことが起こらないことを祈るしかない。
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