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15章

貴族事情と使用人

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 ギルドへ着くなりサルースさんに手を引かれ、以前料理教室をやった部屋へ連れて行かれた。

「料理のレシピを登録するんだろう? 楽しみだったんだよ!」

 なんで知ってるのかと聞いたところ、昨日、ジルが精算は後日になると伝言に走ってくれていたらしい。そのときに「ギルドが立て替えてる」って話になって、気を利かせたジルが「料理のレシピ登録のこともあるから今日は無理」って言ったんだって。
 ジルいわく、「渋られていましたが、それを聞いて態度が軟化いたしました」とのこと。レシピパワーって絶大だね……

 ワクワクを隠そうともしていないサルースさんを落ち着かせるよりは先にレシピを披露した方がよさそう。
 急かされるままピーマン料理を作り、食後のドリンクとしてフルーツソーダを作った。

「また美味しそうな料理じゃないか! 食べていいかい!?」
「いいよ~」

 私が許可を出したと同時にサルースさんはピーマンの肉詰めにフォークを伸ばした。
 口に入れた瞬間にカッ! と目を見開いたサルースさんに笑ってしまう。

「美味い! 美味いよ! こっちの炒め物も絶品だね!」
「流石セナ様ですね。こちらも食べたことのない味付けですが、クセになります」
「それは甘酢あんだよ。ペリアペティの街で黒蜜酢が手に入ったから」
「ん゛!? 辛っ! ゴホッゴホッ……! こっ、これ辛いじゃないか!」
「ふふっ。それはラー油……じゃなくて辛油からあぶらかけてあるからね。それもペリアペティのダンジョンのやつだよ。あと、キャベツがいっぱい入ってるやつはキャベツ八宝菜ね。前に登録したやつなんだけど、食べたことないと思って作ってみた」
「こりゃパンが進むね!」

 サルースさんもサブマスのゲハイトさんも勢いよく食べていて、自分達が用意していたパンの山がどんどん減っていく。
 年齢的にそこまで食べなさそうに思えるのに、サルースさんの食欲に脱帽だよ……

「あぁ……セナの料理はやっぱり美味しいねぇ。このソーダってやつも口の中がスッキリする。こりゃ売れるね」
「そうですね。早速ヴィルシル国とシュグタイルハン国から買い取りを強化しましょう」

 ポッコリと出たおなかをさするサルースさんは満足気に笑っている。
 ご飯を食べ終わったところでその場でレシピの登録、ついでにあのお城の建築費を精算した。

「確かに受け取ったよ。さて、セナ。あの建物の管理はどうするんだい?」
「管理って?」
「なんだい、考えてなかったのかい? セナはあっちこっち行くだろう? だがあの広さだ。いない間の掃除や木々の剪定が必要なのさ。派遣なり常駐なり使用人を雇うのが普通なんだよ」
「えぇ……知らない人が知らない間に出入りするとか嫌なんだけど……」
「……普通に宿に泊まってたんだから、それと変わらないだろう?」
「宿と家は別だよ」
われも反対だ! セナが狙われたらどうする!〉

 それまで大人しかったグレンが声を荒らげた。
 グレンさん、もっと言って!
 それに私達が寝泊まりする赤瓦の民家には近付けないって言ってたけど、門の正面に構えている首里城の転移門ゲートのことがある。赤の他人にはあまり近付いて欲しくない。

「ふむ……困ったねぇ。あの大きさの建物や敷地だろ? 各方面から問い合わせがきているのさ。雇わないとなればそれ相応の理由が必要になる」
「各方面って?」
「貴族から平民の女中及び使用人の希望者さね」
「あぁ、なるほど……あ、すみません」

 思わずといったように反応したアチャにどういうことかと聞いてみる。
 アチャが教えてくれたのは高位貴族に仕えるのは一種のステータスとなること。高位貴族に仕えるにはそれなりの教養が求められるため、それより下位の貴族の娘がメイドとして働くことが多いということだった。

「セナ様のお宅は元公爵邸。セナ様も王族と同等ということですので、公爵・侯爵・辺境伯あたりの年頃の女性が働きたがると思います。しかもセナ様は冒険者。留守がちであれば平民を下に見ている方からも好条件かな……と思いまして」
「えぇ……ますます嫌なんだけど」
「平民でもかい?? 少しでも雇ってもらえたらギルドとしては助かるんだけどねぇ」
「うーん……」

 渋る私にサルースさんとゲハイトさんは思案顔だ。
 平民があのトラップだらけのお城に入って大丈夫なの? いや、逆に純粋に働く平民なら大丈夫なのかな? でもなぁ……せっかくの家なら何も気にせず安らぎたいんだよなぁ……貴族を納得させるにはどんな理由がいいかなぁ?
 どうやって回避しようかと考えていると、ジィジに呼ばれた。

「セナ。うぬが向こうから呼んでくるか?」
「向こうってジィジのお城?」
「うむ。うぬの私兵だ。何人かはスタルティもアリシアも会っているから、話題にも困らんだろう」
「でもそれだとジィジの国でジィジの味方が少なくなっちゃう」

 アチャとスタルティの顔が一瞬明るくなったけど、そう簡単にお願いはできない。まだまだジィジへの偏見は収まっていないハズだ。
 私の発言に虚を付かれたのか、ジィジは目を丸くしてから口元を緩めた。

「……フッ。大丈夫だ。この大陸と取引するのにあたって元々数人はこちらに呼ぶ予定だった。その者達に言えばや剪定など容易い」
「大丈夫ならお願いしてもいい? ちゃんとお給料は払うよ」
「うむ。構わん。うぬとしても連絡が取りやすいからありがたい。給金はうぬが払うから気にするな」

 これなら納得するんじゃない? とサルースさんに顔を向けたら、どうも納得していなそうだった。

「ダメなの?」
「うーむ。そうだねぇ……ジャレッド王の国の者ってことだろ? この国の貴族達からすれば面白くない。一波乱ありそうな気がするのさ」
「フラグみたいなこと言わないでよ……」
「ふらぐ? ってなんだい?」
「いや、気にしないで」
「ふむ。よくわからないが、まぁいい。ちょっとこっちも対策を考えておくよ」
「ふむ。うぬも少々考えておこう。それとは別として、うぬの国の者を呼ぶのにあたって物件を見せて欲しい」
「……ちょっと待ってな。ゲハイト」

 サルースさんがゲハイトさんを呼ぶと、承知したとばかりにゲハイトさんが部屋から出て行った。

「ねぇ、ジィジ。二の丸じゃダメなの?」
「あの脇に建っていたやつか? あれは来客者に付いてきた使用人用の家だろう」
「そうなの? ならどうせ家のことお願いするなら、建てちゃえば? 敷地いっぱい余ってるし」
「おや! それはいいね! また職人共が大喜びするに違いないよ」

 使用人問題で眉間にシワを寄せていた先ほどとは打って変わって、上機嫌になったサルースさんはジィジに間取りやら建物の素材やらと希望を矢継ぎ早に質問していく。
 途中から物件リストを持って戻ってきたゲハイトさんも加わり、勢いに呑まれたジィジは顔を引き攣らせていた。


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