489 / 541
15章
城は城でも……
しおりを挟む私に追い付いたガルドさん達も驚いたらしく、「なんだあの建物は……」と驚いている。
そりゃそうだ。この世界にあるハズのない日本を代表するお城――カラス城と地元民に呼ばれて親しまれている松本城だもん。
しかも黒いからめちゃくちゃ目立つし、街の景観から完全に浮いているじゃん。
何故、数あるお城の中からこのお城をチョイスしたのか……
「天守だけじゃなくて二の丸や石垣まで再現しなくても……」
『主様、あれは家……なの?』
「えっとね……家っていうか……」
クラオルから投げかけられた質問にどう答えるのが正解なのか悩む。
城主が住んでたのって天守じゃなくて本丸じゃなかった?? 天守に住んでた人っているの? 私お城詳しくないんだけど……
必死に記憶を掘り起こしていた私はバーン! と何かが割れる音に驚いて顔を上げた。
三階ほどの高さの窓から何か黒いものが飛び出してきておったまげる。あれは……
「インプ!?」
インプは私の声で気が付いたようで、留まっていた空中から私達の方へ舞い降りてきた。
「イッヒッヒ。おかえりなさいませ。お早いお着きでしたねぇ」
「ただい、ま? ……大丈夫なの?」
「ご心配ありがとうございます。あれくらいでケガを負うほど弱くはありませんよ。イーッヒッヒ」
「ならよかった……ってそうじゃなくて! あ、いや、ケガがないのはよかったけど、なんでアレなの!?」
「おや? お気に召しませんでしたか? こちらの城は白っぽいのが多いですからねぇ。黒いのにしたんですよ」
そんな理由!?
さも当然そうに告げるインプに気が抜ける。
「なんでお城なのよ……普通の一軒家がよかった……」
「あぁ! なるほど。セナ様の家は別にありますよ。アレは来客用です。インパクトがあるでしょう?」
「インパクト……ありすぎでしょ! 周り見てよ! 目立ってるじゃん! 浮いてるじゃん!」
「……ふむ。では少し移動させましょうかねぇ。正面には違うものを持って来ましょう」
移動……これを取り壊す気はないのね……来客なんて来ないよ……
再び肩を落とした私をクラオルとグレウスが慰めてくれた。
「移動はできるのね……」
「イッヒッヒ。可能ですよ。中もまだ途中なので少々お時間をいただきますがねぇ。では、セナ様の家に案内致しましょうか。こちらです」
門を開けた途端歩き出したインプを慌てて追いかける。
土が剥き出しだったハズの地面は芝生、木々も植えられていて、さながら森のよう。
相変わらず滑るように歩くなぁ……
足元に注目していると、前を歩いていたインプが止まった。
「イッヒッヒ。この蔓が巻かれた二本の木が目印です。お先にどうぞ」
促された私達が先に進むと、途端に開けた。
そこにはまたも見覚えのある建築物が。
背の低い石壁に囲まれた赤瓦の趣きある平屋型の家……旅行で訪れた際に見た民家そっくりだった。
違うところと言えば風避けの壁――ヒンプンがないことと、この空間を守るように木に囲まれていることくらい。
「沖縄じゃん……」
「イッヒッヒ。セナ様の理想のイメージだとお聞きしましたので。お気に召しましたか?」
「……うん!」
「イーッヒッヒ! それはようございました」
嬉しそうに笑ったインプによると、私達の家はお城とは違ってインプが造ったそう。
一番大きい母屋が私の家で、ガルドさん達用の家とジィジ達用の家、さらにニキーダ用の家が離れとして用意されているらしい。
全てコテージばりの魔道具化された家具家電付き、さらに私が好きだからという理由で露天風呂もあるんだって。
説明がてら案内してもらったらなんと! 首里城モドキまであったんだよ……見た瞬間、乾いた笑いが漏れちゃった。ここまでくると何も言えなくなっちゃうよね。
これはパパ達が遊びに来られる用で、神力が漏れない仕様になっているそう。
しかもね、首里城の一室に転移門が設置されていて、カリダの街・キヒターの教会・ジィジの国と行き来ができるらしいよ! ヤバいよね!
これらを全て使えるのは今ここにいるメンバーのみ。私が希望するだろうと、ブラン団長達はカリダの街にだけ行けるようにしてくれたそう。ただ、私がいるときのみだからあまり使われなさそうだ。
「……チートじゃん。ありがたいけど、こんなにしてもらっていいの?」
「イッヒッヒ。もちろんです。おばあちゃんからのお詫びも込められてるんですよ」
「お詫び?」
「解決したとはいえグレンさんが火山で想定以上に弱ったことと、里のお詫びです」
「……あぁ、なるほど」
理由を聞くと少し納得してしまう。それでも融通しすぎな気もするけど、もうできちゃったものを遠慮するのもね……と、いうことでありがたくいただくことにした。
ジィジとニキーダは移動が楽になるし、毎度宿を取らなくて済むしね。
「これから先ほどのマツモトジョーを移動させますので、今日はごゆるりとお休みください」
「はーい! ありがとう!」
インプが去り、私達は中に入った。
私以外のメンバーは戸惑いつつも見慣れない家屋に興奮が隠せないようで、探検してくると好きに動いている。
「はぁぁ……なんかドッと疲れた……」
畳にゴロンと横になり、クラオルとグレウスをモフモフさせてもらう。
まさか畳まで造ってもらえるとは思っていなかった。気持ちいい……
松本城のインパクトが強すぎて今なら何されても驚かないよ。
『主様、ギルドはいいの?』
「あぁ……忘れてた。明日にしてもらおうかな……今日はもうやる気出ない」
レシピの件もあるから時間かかるんだよね。きっとサルースさんなら実演すれば許してくれるハズ。
なんてゴロゴロできたのはつかの間……戻ってきたみんなはテンション高く、何があったかを報告してくれた。
それは夕食時まで続き、みんなが気に入ったことが否が応でも理解した。
650
お気に入りに追加
24,992
あなたにおすすめの小説

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。

【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

【完結】え、別れましょう?
須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」
「は?え?別れましょう?」
何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。
ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?
だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。
※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。
ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。