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15章
成長する者しない者
しおりを挟むジルの布教活動は子供達だけではなく、三匹の老害以外の全員に及んだ。
おかげで私達がウロチョロしても威圧されることも文句を言われることもなくなったんだけど……やたらと話しかけられるようになった。外がどんな場所か興味を持ったみたい。
最初に取り引きとしてオーク肉を渡してから、大人の分の食料は私達は担当していない。
赤獄龍が毎日どこからか運んでくるんだよね。
毎日グレンと成人の儀をする岩屋に朝から夜までずっと閉じこもっているのに謎だ。
特訓のせいでグレンの食欲は倍増し、私とジュードさんは毎日ご飯作りでいっぱいいっぱい。途中、お米が足りなくなってパパ達にオネダリするハメに。
ガルドさん達やジルのおかげかアデトア君はそこら辺の冒険者よりも魔法も剣術も上手くなった。
みんなそれぞれ忙しくしている中、ニキーダだけはインプが言っていた霊草や貴重な薬草などの採取に明け暮れている。
ニキーダはルンルンなのに毎度連れ回されている兄者がゲッソリして帰ってくるのはなんでだろうね? ニキーダに一回聞いたら「そんなことよりこれ見て!」と手に入れた霊草を見せられたため、理由はわからないまま。
二週間とちょっと経ったころ、晴れて無事にグレンは成人の儀に合格。
いや~、見事だったんだよ! 私とジルだけ特別に見学させてもらえたのね。老害トリオをぶちのめし、折り重なって倒れたドラゴンを踏んずけて咆哮を上げたグレンは最高にカッコよかった! 私の鬱憤もスッキリ爽快!
私的にはちょっとキラキラ度が増したかな? ってくらいしかわからないけど、おじいさんも兄者も息を飲むくらいの龍の気になったんだって。
赤獄龍いわく、当時成龍となるよりも強く成長したそう。〈まあ、我が特訓のおかげだな!〉と笑っていた。
特訓もして、成龍となったのにグレンは赤獄龍を父親とは認めたくないらしい。チャラいもんね……気持ちがちょっとわかるだけに何も言わないでおいた。
里のおばさんが成龍となったグレンを見て〈粉をかけておくべきだったかしら〉と言っていたのは聞こえなかったことにした。強い男に対しての執念を感じるよね……
その日の夜はお祝いとしてパーティーを開催。
翌日のことなど気にせず、飲んで食べてと大盛り上がりだった。
あ、そうそう。火山のドラゴンは赤獄龍直系の血筋ではないことを知って、ショックとおなかを壊すダブルパンチで寝込むことになった。
一回見に行ったけど、悪いことはできなそうだったから大丈夫だろう。
◇
それから数日、まだ私達は里に滞在している。インプが来ないんだよね。
グレンの食欲も元に戻り、急いでいるワケじゃないし、のんびりとした日々が戻ってきたからそれはいい。
それよりもつい最近気付いたことがある。
「やっぱりおかしい……」
「おかしいって何がだ?」
「アデトア君、私より背が低かったハズなのに……!」
「そういや、いつの間にか伸びてるな」
今気付きましたとばかりに私とアデトア君を交互に見つめるガルドさん。
アデトア君は私を見て得意気にフッと笑った。
ぐぬぬ……めっちゃ悔しい!
「多分、魔力のせいで成長できなかったけど、魔力を扱えるようになったから成長し始めたのね」
「私だって……!」
「セナちゃんは根本的に魔力が多いからよ。アデトアよりはるかにね」
それにしてもじゃない? こんな差が出る? 一ヶ月も経ってないよ!?
「むぅ……(成長痛になればいいのに)」
「おい! 今よく聞こえなかったが不吉なこと言っただろ!」
「ナンノコトカナー」
本当にそうなって欲しいワケじゃない。ただ、私だっていい加減大きくなってもよくない!?
怒るアデトア君にとぼける私。
ニキーダとガルドさん達はそんな私達を微笑ましそうに見ていた。
そこへインプの高笑いが聞こえてきた。
「イーッヒッヒ。お待たせしました。戻れますよ。テルメの街近くまで送りますので御安心ください」
「はーい!」
インプの登場でうやむやになり、私達はパタパタと片付けを開始。
その後おじいさんや赤獄龍、兄者に別れの挨拶しに向かった。
〈里を助けてもらい感謝しかない。何かあれば必ずや力になろう。これを〉
〈弟を……グレンを頼む〉
〈ハッハッハ! また会うこともあるだろう! 達者でな!〉
おじいさん、兄者、赤獄龍の三人からプレゼントを渡された。
おじいさんからは笛、兄者からは古代龍の魔石、赤獄龍からは赤い鱗を十枚ほど。
笛は鳴らせば駆けつけてくれるという龍笛。以前グレンからもらったものと同じ効果のもの。
魔石は言わずもがな。
鱗は……なんと食べろと言われた。赤獄龍いわく、食べれば龍の力が付くらしい。
〈ついでに加護も付けておいたからな! そこらのドラゴンなら跪くだろう〉
「はい!?」
〈我が一族とは別の古代龍もいる。交渉できると思うぞ! 感謝しろよ! ハッハッハ!〉
「……」
マジかよ……せめて一言欲しかったよ。普通はあなたと違っていきなり襲いかかってくることもないと思うんだけど……まあ、もらっておいて損はないと思おう。うん、気にしたら負けな気がする。
「では送りますよ。イッヒッヒ」
「ばいばーい! またねー!」
インプから声がかかり、おじいさん達に手を振る。すると、視界がぐにゃりと歪み、次の瞬間には荒野にポツンと立っていた。
すでにインプはいない。
地図で確認してみたら、テルメの街まで十キロほど。
久しぶりに馬車の出番だ。
グリネロに馬車を引いてもらい、テルメの街まで戻った私達はジィジがいる建物へ。
ちょうど会議をしていた建物で、王族達が一室に全員集合していた。
「スタルティただいまー!」
「セナ!? ……おかえり。ケガはないか?」
突撃した私を抱きとめ、心配してくれるスタルティに笑顔で頷く。
アチャやブラン団長達にもハグでただいまの挨拶をすると口々に心配したと言われた。
わしゃわしゃと撫でられる心地よさに帰ってきたんだと実感するね。
一応ニキーダから連絡がいっているハズだけど、火山のことから龍の里での出来事を報告。
ジィジ以外はみんな驚き、顔を引き攣らせながら聞いていた。
「――ってワケ。もう大丈夫よ。アデトアもちゃんとコントロールできるようになったから暴発する危険もないわ」
「そうか……感謝する」
「さ、アタシ達はゆっくりさせてもらうわね。久しぶりにアリシアちゃんのお菓子が食べたいし。ね、セナちゃん?」
「うん! 丸ぼうろ! スタルティも一緒がいい!」
「ブラン達もどう?」
「……わかった。行こう」
ニキーダの意味ありげな目線を受けて、ブラン団長達は快諾してくれた。
「さ、行きましょ! アデトア、言いたいことはちゃんと自分の口で言いなさい」
私達を促したニキーダは最後に振り返ってアデトア君に告げた。
お酒の席でいろいろな思いを吐き出していたアデトア君へのニキーダなりの後押しだ。
魔力の心配もなくなったことだし、お城でのアデトア君の立場や境遇が改善されたらいいな。
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