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15章

従者頑張る

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 早速特訓をと息巻く赤獄龍せきごくりゅうをインプが言いくるめ、特訓は明日から。
 里の長であるおじいさんの家にお邪魔する案も出たんだけど、人数が多いためグレンの家近くで野宿することに決まった。

〈セナさん……だったか?〉
「なーに?」
〈……恥を忍んで頼みたいことがあるんだ。里の者に食料をわけてはもらえないか?〉
「……小さいグレンをイジめてたのに? グレンが狩った魔物を奪ってたんでしょ? 自業自得じゃない?」
〈セナ、兄者とジジイはたまにくれたぞ。あと、あの面倒なやつが散々自慢してから置いていったことが何度かある〉

 火山のドラゴン、グレンのこと嫌ってるのに食べ物は渡すのか……ますますよくわからない人だね。

「里の者にってことはそこのドラゴンにもってこと……あ! いいこと思いついた! ちゃんとグレンに謝って、お礼を言うなら……」
〈……な!? われに許せと言うのか?〉
「え? そんなこと言わないよ。悪いことしたらごめんなさい、何かしてもらったらありがとうは基本でしょ? 許す許さないとは別」

 基本的にイジメは、やられた側の心に深い傷やトラウマを植え付けられていたとしても、やった側は大したことないと思っていることが多い。
 年月が経ったからといってその傷が治るなんてことはない。かさぶたができて表面上は取り繕えるようになっても傷は傷だ。
 どれだけ傷ついたかなんて本人にしかわからないのに、許しなさいなんて他人が簡単に言うことじゃない。
 謝れば許されるなら殺人や強盗だって許されてしまう。

「私は心が狭いんだよ。今まで邪険にしていたグレンに頭を下げて、おのれの誤ちを後悔すればいい。大体、狩りに行けばいいじゃん。成龍なら里から出られるんでしょ? 飛んでって、狩って、それを持って帰ってくれば……」
「イーッヒッヒ! 時間のない子もおられるようですねぇ」

 私がくどくどと話している途中でインプが笑い声を上げた。
 時間がないとはどういうことかと聞けば、親に置いていかれた子供が数人いるらしい。
 子供は大切に育てられるんじゃなかったのかと憤れば、そんな余裕がないほどに事情は切迫していたと答えられた。

「信じられない! 余裕とかそういう問題じゃない! ネグレクトじゃん! おじいさんと兄者はその子達連れてきて! ジュードさん、超特急!」
「りょーかい!」

 その場でコンロを出し、子供達用にポーション入り塩スープを作る。
 噛む力がないことも考えて、スープの肉はひき肉にした。

 二人が連れてきた子は五人ほど。みんな息をしているのか疑いたくなるほどグッタリとしていた。
 協力してスープを飲ませること数回、意識を取り戻した子供達は相当おなかが空いていたみたいでグビグビと飲んでいく。
 作った先から消費され、塩スープだけで何回作ったかわからない。

 子供達は私達が人族だと知るや否や様々な反応を示した。攻撃してこようとする子、罵声を上げる子、泣きだす子……一人を除いて。人族嫌いは子供にまで浸透しているらしい。
 ジルが「これは教育が必要ですね」と底冷えするような声で呟いていた。

 子供達が元気を取り戻したら、次は兄者のいう弱い龍。結局グレンが去った後も成人の儀はできていないそうで、その人達や女性の龍も総じて弱っているらしい。
 私達に噛み付いてきた三人は他者から奪っていた分元気なんだそうだ。
 老害ってどこにでもいるんだなぁと実感した瞬間だった。

〈子供はわかるが、なぜ他のやつらのまでセナが作るんだ!〉
「そうですね。セナ様、解体していない肉はありますか?」
「あるよ~。んとね、オークにフォンにボアでしょ。あとは……」
「在庫が多いのはどれでしょう?」
「オークだね」
「わかりました。ならばこれよりは取り引きといたしましょう。セナ様の役に立つものを持ってきた方にはオーク肉を渡す……いかがですか?」
〈わかった。ワシが伝えよう〉

 ウォッホン! と咳払いしたおじいさんはドラゴン姿に変化して長く鳴いた。
 しばらくするとバザバサと羽音が聞こえ、一匹、また一匹とドラゴンが集まってきた。

〈セナは近付くな。われが見極めてやる〉
「何をくれるのかしらねぇ。楽しみだわ」

 警戒するグレンとは反対にニキーダはワクワクと期待を滲ませている。精霊達からは早速鑑定結果が念話で飛んできた。

「イッヒッヒ。真ん中のお嬢さんの持っているそれは古代樹の樹液が結晶化したものですねぇ。あまり役には立ちませんが希少性から小さめなオークを一体というところでしょうか」
「はーい」

 インプのわかりやすい説明を受け、言われた通りにオークを出す。
 精霊達は相場がわかったのか、次の人のはどれくらいの肉かと予想が念話で飛び交い始めた。
 持って来られたものは宝石や鉱石、お酒や親の形見の龍の髭とバラバラ。
 列を作った十五人ほどのうち、最大でオーク三匹、最小でオーク肉五キロと思っていたよりも出費は少なかった。

「これで終わりましたねぇ。また迎えに来ますので。イッヒッヒ」
「え、ちょっとインプ!」

 スーッと音もなく消えたインプはしばらく戻って来なそう。
 おばあちゃんに差し入れと、心配していると思うからアデトア君を先に送ってあげて欲しかったんだけどな……
 そのことについてはニキーダがジィジに連絡してくれることになった。
 アデトア君はアデトア君で「心配? 羽を伸ばすの間違いだろう。それよりまだセナ達の料理が味わえそうだな」なんて言っていた。
 普段どんな態度を取られていたのかがわかるね……


 おじいさんと兄者にもオーク肉を渡し、私達はグレンの家へ戻ってきた。

「ねぇ、ジルお願いがあるんだけど」
「なんでしょう?」
「多分さ、しばらく龍の子達のご飯は私達が用意しなきゃいけないと思うのね。一人の子が言ってたでしょ?〝はみ出しモノって聞いた〟って。グレンが悪く言われるのは嫌。だから龍の子達のグレンのイメージを払拭して欲しいの。お願いできない?」

 今までのジルを考えれば布教できると思うんだよね。
 今回はその布教スキルをグレンのために使ってもらいたい。

「流石セナ様。お任せください。期待に応えてみせます」
「ありがとうー!」

 と、会話してから一週間。
 スキルを充分に発揮したジルのおかげで、グレンのイメージは見事に払拭。さらに私まで〝セナ様〟と呼ばれるようになってしまった。
 布教スキル……本当にそんなスキルがあるのかは怖くて見てないけど、持っているのかもしれない。
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