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15章
伝説の赤獄龍
しおりを挟むインプいわく、私に浄化をして欲しい場所がいくつかあるらしい。ひとまずこの場も……とのことで、ラスボスステージ全体を浄化。
よくわからないモノに罹っていた族長のおじいさんと兄者にポーションを飲ませてから、促されるままに私達はゾロゾロと移動を開始した。
先ほどまでの寒さのせいで震えが止まらない私は再びニキーダに抱っこされることになった。
ニキーダの温かい魔力に包まれて、体の芯が冷えていたんだと実感する。
(テルメの街でもコテージでもどっちでもいいから、早く温泉に入りたい……)
凍えるような寒さはなくなったけど、寒いもんは寒い。私にはジルが言う暑さを全く感じない。
ドラゴン達は族長の姿に驚きつつも、私達に送ってくる殺気は変わっていなかった。
インプは刺すような視線も気にせず、先へ先へと進む。
「居心地悪いわねぇ……かなり歩いてるけど、まだなの?」
「イッヒッヒ。もうすぐですよ。……はい、ここを登ったところです」
「えぇ……」
「マジかよ……さっきより高ぇじゃねぇか……」
インプが止まった場所はタワーマンションのように空に向かって伸びる……壁。
三十メートル以上はありそうな断崖絶壁にガルドさんは顔を引き攣らせた。
〈ワシが運ぼう。おヌシらにはキツいだろう〉
言うなり、ドラゴン姿に変化したおじいさんは私達をまとめて掴み、ひとっ飛び。
グンッと上がった視界を怖がる間もなく、一瞬で崖の上に到着した。
そこには巨大な羽を広げたドラゴンの石像が一つ鎮座していた。
「これ? 随分と古そうだけど……」
風雨に晒されていた像は風化が激しく、私達に関係があるとは思えない。
兄者いわく、大昔に活躍した伝説の赤獄龍で、古代龍の上位に当たるそう。グレン達一族の始祖だと言われているらしい。
〈グレンの父親だ〉
〈……は?〉
急に自分の話題になったグレンはワンテンポ遅れて反応した。
〈我はジジイに拾われたのだろう?〉
〈ふむ。おヌシ……いや、里の者にはそう言っておったがな。ある日ワシが祈りを捧げていたとき、像から〝我が子を頼む〟と託された……というのが正しい〉
「像から……?」
〈……ハンッ! そんなバカな話があるか! 嘘をつくならもっとマシな嘘をつけ!〉
〈今更取り繕ったところで意味がない〉
鼻で笑ったグレン同様、像から託されたなんて信じがたい。だって時代がおかしくない? 兄者ですら伝説って言うくらい昔のドラゴンなんでしょ?
「イーッヒッヒ! この後のこともあるので、セナ様はルフスさん達を呼んでいただけますか?」
「はーい」
一度ニキーダに下ろしてもらい、ネラース達を呼ぶ。
久しぶりに呼ばれたのが嬉しいのか、じゃれてくるモフモフ達が可愛い。
インプの指示を受け、私はニキーダの腕の中から石像に浄化をかける。石像はその後すぐにルフスとウェヌスによって浄化の炎に包まれた。
ゴウゴウと音を立てて燃える火柱を見つめていると、石像が赤く色付き始めた。
石像にはピシピシとヒビが入り、外側から石が剥がれていく。
全て剥がれ落ちてから数分――ドラゴンの瞳が光を伴ってカッ! と見開かれた。
――ギャオオオオオオオオオオオ!
「うひゃぁぁ!」
襲いくる凄まじい威圧にニキーダにしがみつく。
「!」
――人族……!――
目が合った私目がけて放たれた火の玉は、目の前に滑り込んできたインプによって私達に当たることはなかった。
インプの手に当たって爆発した火の玉の爆風が吹き荒れる中、インプが笑い声が響く。
「イーッヒッヒ。あなたは変わりませんねぇ。……しかし、セナ様に手を上げることは許しませんよ。目を覚ましなさい」
お返しとばかりに、インプは超巨大な黒い玉を連続で叩き付ける。
言い方は軽いのに、全然笑ってる感じがしない。特に後半。オーラが怖い。これはアレだ。絶対怒らせちゃいけない人だ!
――む? インプか?――
「やっと気が付きましたか。人型になってください」
〈これでよいか? 久しぶりだな!〉
ニカッと笑顔でインプに話しかける人型ドラゴンは長い赤髪をポニーテールにしているイケメン。石像のときは何も持っていなかったのに、背中に長剣を二本背負っていた。
この人がグレンのお父さん……?
〈しかし、なぜこの里に人族が……ん? んん? おおおおおお! 我が子じゃないか! む……そうか、そうか! よく見ればその幼子からは我が一族の魔力を感じる! そこな女子を娶ったのか!〉
「違います」
〈セナに近付くな!〉
目を輝かせて近付いてくるドラゴンから護ろうと、グレンがニキーダごと私を抱きしめる。
〈そうか、そうか! 子の成長は早いな! 異種族なれど、我が子の番と孫なら歓迎しようではないっ、か!?〉
インプの話を聞かずに勘違いを暴走させていたドラゴンの首根っこを掴んで後ろへ投げ飛ばした。
〈何をする! 驚いたではないか!〉
「……相変わらずですねぇ。ニキーダさんはグレンさんの奥様ではありませんよ」
「アタシ? やめてよ。タイプじゃないわ。アタシは妥協しないんだから」
〈我だってこんな年増などごめんだ〉
「ちょっと! 撤回しなさいよ!」
言い争いを始めたニキーダとグレン、〈グレン?〉と首を傾げるドラゴンを見たインプはやれやれとため息をついた。
「……細かいことは後ほど説明します。そんなことより、まずは移動です。セナ様のためにも先に済ませなければ。族長、セナ様方を全員、下の右側にある広場に運んでいただけますか?」
説明が面倒になったのか、私達を族長に頼んだインプは「ほら、行きますよ」とドラゴンを連れて先に飛んで行った。
ガルドさんからなんとかしろと目で訴えられ、悩んでから口を開く。
「大好きな二人がケンカするのは悲しいな……」
〈「!」〉
「んもう、可愛いんだから。……セナちゃんに免じて今回は許してあげるわ」
あざといと言われるのを覚悟していたけど、大丈夫だったらしい。
アデトア君から「お前何言ってんの?」って顔をされたけど、ケンカの雰囲気は霧散したからよしとしよう。うん。気にしちゃダメだ。
「グレンは大丈夫?」
〈うむ。我はあんなやつが親などとは認めん。セナも近付くな〉
「人嫌いみたいだから、向こうが嫌がると……」
〈セーナー〉
「ふふっ。わかった。自分からは近付かない」
私の返事に満足したのか、グレンに頭を撫でられた。相変わらず心配性だ。
グレンは認めたくないみたいだけど、おそらく血縁者であることは間違いない。
魔力の質が似てるし……なんと言っても反応が似てるんだよね。眉の上げ方とか、手の動かし方とか……ちょっとしたところがさ。顔を見たときは似てないって思ったけど、並んだら似てるところがあるかもしれない。
「おじいさん、お願いします」
〈ではゆくぞ。右の広場は少し距離がある。しっかり捕まれ〉
再びドラゴン化したおじいさんの手に包まれ、私達は広場へ向かった。
「おお!」
揺れずに真っ直ぐ滑空していくのはジップラインみたいでちょっと楽しい。
アデトア君は思いっきり目を閉じてガルドさんの背中にしがみついていた。オマルのときは平気そうだったのに怖いみたい。スピードの問題かねぇ?
距離があると言っていたわりには数十秒ほど。短いアトラクションだった。
面白かったから、今度グレンにお願いしようかな?
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