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15章

赤き古代龍の故郷へ

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「まず、あなたはここで生まれ育ったワケじゃないでしょ? どうしてこの火山に来たのよ?」
〈お前はバカか? ここで生まれ育ったワケがないだろう。オレ様は旅をしていたにすぎん。ほら、答えてやったぞ! それをよこせ!〉
「……答えになってないんだから、あげるワケないでしょ」
〈なんだと!? オレ様は腹が減っているんだぞ! そこのはみ出し者を従魔にしたくらいでいい気になるな!〉

 大口を開けてベビーカステラを催促する人型ドラゴンはニキーダに怒鳴り散らす。
 あの苦しんでいた姿は演技だったんだろう。喚くドラゴンに下剤が効いているとは思えない。
 どうしようかと顔を見合わせたとき、チリンチリーンと頭の中で音が鳴った。
 何が届いたのかと無限収納インベントリのアイテム欄をスクロールしていく。

「あ、おばあちゃんからお手紙届いたよ」
「なんだって?」
「ちょっと待ってね」

 驚いたアデトア君にモルトさんが何かを説明してあげているから、そっちは大丈夫でしょう。
 ガルドさんに聞かれ、手紙を出して読んでみる。

「んとね、一緒に送った道具を持ってグレンの故郷に行って欲しいって」
「……それだけか?」
「うん。それだけ。予想だけど、急いだ方がよさそうだね」
「イーッヒッヒ! 流石セナ様ですねぇ」
「!」

 再び現れたインプはまたも生首だった。
 登場の仕方が本当に心臓に悪い。

「インプさん……」
「セナ様のおっしゃる通り、少々急ぎの案件です」
〈本当に行くのか?〉
「アデトア君はどうするの?」
「一緒に送りますよ。イッヒッヒ。一応関係者ですからねぇ。その代わり、神に誓って不要な発言は控えていただきますがね」
「わかった。誓おう。不要な発言はしない」

 少しくらい悩まなくていいのかと聞きたくなるくらい、アデトア君は即答だった。

「イッヒッヒ。話が早くて助かりますよ。では送りますねぇ」
「え、今すぐ!?」
「イーッヒッヒ!」

 インプの不気味な高笑いが響いた瞬間――周りの空気がぐにゃりと動き、ハッ! としたときにはすでに違う場所に立っていた。
 周りの状況から岩山の一角であることはわかる。空気は乾燥していて、つい先ほどまでいた火山とは違った暑さが漂っている。
 ここはどこだとマップを確認すれば私達がいた大陸からかなり東……春と夏の間にある四方を海に囲まれた島だった。

「ふむ。やはりそこまで近付けませんでしたね。さ、こちらです」

 インプは特に説明する気はないようで、私達に移動を促した。
 アイコンタクトで頷き合った私達は先に行ってしまったインプを追いかける。
 意外だったのはアデトア君がそこまで驚いていないことだった。

 インプはスルスルと滑るように道なき道を進んで行くけど、かなり傾斜がキツい。
 私達でも大変なのに、アデトア君は弱音も文句も言うことなく必死で付いてきている。

「ねぇ、グリネロ達呼んじゃダメなの?」
「今は呼ぶべきではないですねぇ。気付かれてしまいますので」

 グレンの故郷なのに気付かれたらダメなの? すでにかなり大人数だと思うんだけど……

「背中に乗るか?」
「いや、大丈夫だ。魔力で多少はカバーできる。ずっといらないと思っていたが、今日だけはこの魔力に感謝してもいい」
「イーッヒッヒ。その意気です。もうすぐですよ」

 インプがそう告げてから一時間。ようやく道らしき場所に行き当たった。
 全然すぐじゃない! 一時間はすぐって言わない!
 ここからはこの道沿いを進むらしい。バレると言っていたのにいいのか……

〈本当に行くのか?〉
「グレンは嫌? 私はグレンの故郷だからちょっと楽しみなんだけど」
〈嫌というか……行っても気持ちのいい場所じゃないぞ? われだけでもいいのではないか?〉
「でもグレンって禁を犯して旅に出たんでしょ? 戻ったら最後出られないとかありそうじゃん。それにおじいさんにお礼を言わないとだし」
〈ジジイに礼なんぞ不要だ。人族が入ることは禁止されている。何をされるかわからん〉
「イッヒッヒ。手出しはさせませんし、セナ様がいれば大丈夫だと思いますよ」
「私?」
「イーッヒッヒ!」

 インプは高笑いで誤魔化し、答える気はないみたい。
 グレンの記憶に飛ばされたときに会ったおじいさんの感じだと、特に偏見を持っている気はしなかったんだけど……アデトア君にガルドさん達から離れないようにお願いしよう。

「ねぇ、インプ。そういえばあのドラゴンは?」
「あれは後ほどに送ります。イッヒッヒ。今向かっているのはそのため……ふむ。このペースだと着くのは夕方近くになりそうですねぇ。夜闇は何があるかわかりませんので、本日は泊まりましょうか?」
「岩がゴロゴロしてて開けたところを一回も見てねぇが、全員がまとまって泊まれる場所があんのか?」
〈あと二時間ほど進めばある〉

 ガルドさんの質問に答えたのはインプではなくグレンだった。
 グレンの先導で進むこと二時間強。道を少し外れたところ……大きな岩と岩の間に隠れるようにしてその場所はあった。

〈ここなら里のやつらには見つからん〉
「イッヒッヒ。流石グレンさん。助かります。皆さんはゆっくり休んでください」
「インプは?」
に報告へ。明日また参ります」
「はーい。わかった。気をつけて行ってらっしゃい」
「イーッヒッヒ! ありがとうございます。行って参りますねぇ」

 インプは一際嬉しそうに笑ってから溶けるように消えてしまった。
 残された私達は野営の準備を始める。
 慣れない登山で疲労を滲ませているアデトア君のために鰻にしてあげたかったんだけど、匂いが広がるとの指摘を受けて断念。
 結局、あまり匂いのしない塩スープとパンという簡素な食事になった。

 夜、疲れていたアデトア君は早々に眠りにつき、それぞれ静かな時間をすごす。
 暗闇にパチパチと焚き火が爆ぜる中、私はみんなから少し離れた場所にいるグレンに話しかけた。

「ねぇ、グレン。ちょっといい?」
〈セナか。どうした?〉
「嫌だったら答えなくてもいいんだけど……どうして私に逆鱗を渡したの? 弱体化しちゃうんでしょ?」
〈……セナ、こっちへ〉

 手を引かれて膝の上に座らされた私の頭を撫でるグレンの手つきはいつになく優しい。
 どうしたのかと見上げると、グレンは遠くを見つめていた。

〈……成人の儀をしなければ成龍にはなれないという話はしたな?〉
「うん」
〈成龍になれなかった者はどう足掻いても成龍にはかなわない。それほど格が違う。だからセナを護るにはわれを渡すしかないと思った。龍の魔力を纏えば多少は緩和されるハズだからな。ふっ。そんな顔をするな。セナのおかげでもうなんともない〉
「本当?」
〈本当だ。われは嘘はつかん〉
「ならよかった……」

 私のおかげと言うよりは、食べさせた鱗のおかげだろう。
 あのおじいさんにお礼言わないとね。

〈…………セナ。われも聞きたいことがある〉
「なーに?」
〈セナは他のヤツらが従魔になりたいと言ったらどうする?〉
「どうって……みんな次第かなぁ? グレンやクラオル達がいいって言わなきゃ契約はしないよ」
〈強くてもか?〉
「強さは別に求めてないもん。ただでさえみんな強いのに、これ以上強くなってもねぇ……みんなと仲よくできるかどうかの方が重要でしょ?」
〈そうか……!〉

 短い返事だったけど、グレンの声は嬉しそうだった。
 成人の儀を受けていないことを気にしていたみたいだから、に立場を奪われるとでも思ったのかね? そんなわけないのに。


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