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15章
効果はバツグンだ
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グレンに言われたクラオルが下へ降りるためのぶっとい蔓を出してくれた。
「セナとジルベルトは……」
〈我が運ぶ〉
「んじゃ、殿下は俺の背中に……」
「いや、いい。小さいこいつができるならオレでもできるハズだ」
いやいや。私とほとんど身長変わらないじゃん。それにグレンはこの蔓使うなんて言ってないよ!
そう思ったのは私だけではないようで、ガルドさん達は困り顔だ。
「グレンは……」
「ふふっ。それなら自力で降りなさいな」
「大丈夫なのか?」
「何事も経験よ、経験。落ちてケガでもしたら回復くらいはかけてあげるわ」
ニキーダはわかっているのに本人にやらせるつもりらしい。
身体強化の使い方を軽くレクチャーして、プルトンに抱えられて下に降りていった。
「さっきも飛んでいたが、あいつはすごい魔法の使い手なんだな……」
そういえばと、精霊達のことを紹介していなかったことに思い至った。
普通に名前を呼んでいたのに、アデトア君は精霊達が起こした現象を全てニキーダが魔法でやっていると思ってるみたい。
ガルドさん達から〝どうするんだ?〟と目で訴えられた私は「ママだからね」とお茶を濁した。
アデトア君なら話してもよさそうではある。でも勘違いをしてくれているなら、わざわざ訂正しなくてもいいでしょう。
「俺とコルトは先に降りる。何かあったら受け止めるから焦らなくていい」
安心させるように言ったガルドさん達が降りるのを見守っていたアデトア君は、強ばった顔のままゴクリと喉を鳴らした。
「高いな……」
〈貴様もさっさと降りろ〉
「……わかった」
グレンにせっつかれたアデトア君が覚悟を決めたような顔付きで蔓に足をかけた。
一応念話で精霊達に補助をお願い。
彼はあんなにビビっていたのに、意外にもスルスルと降りていった。
そんなアデトア君をニキーダが「やればできるじゃない」と褒めていた。
続けてジュードさんとモルトさんが降り、最後の私達の番。
両脇に私とジルを抱えたグレンは翼で優雅に着陸した。
それを目撃したアデトア君は「そういうことか……」と少し悔しそうだった。
島はバカでかい古代龍が余裕で乗っていたくらい大きい。
上の出っ張りの真下の壁際にも陸地があり、そこには出入口と思わしき隙間を発見。
ものすごく暑いものの、マグマが近いわりには我慢できないほどじゃない。ただ冬の大陸出身のニキーダだけは「溶けそうだわ」と暑さにやられていた。
件の古代龍は上半身は出ているのに気を失っているため、人型の体はくの字に曲がり、バンザイをしながら地面とキスしていらっしゃる。
少し離れた位置から問題の古代龍にバシャッと水をぶっかけてあげる。
何回やっても起きてもらえず、下半身しか埋められていないドラゴンの上半身はビショビショに。
それでも起きない古代龍に焦れたのか、お猿さんが脳天を思いっきり殴って起こした。
〈――イッ、テェェェ!〉
「うわ……流石に痛そう……」
〈ん? なんだお前達は。む? 何故オレ様は埋まっている? これはお前達の仕業か? むっ!? これは……〉
大声を上げた割には痛くなかったみたい。しかも魔に侵されていた間の記憶はないらしい。
ドラゴンの疑問を無視してニキーダが質問を投げかける。
「ねぇ、あなたはなんでここにいるの?」
〈……わっはっはっは! そうか、そうか! オレ様を一目見ようとわざわざやって来たのか!〉
「……は?」
〈いやー、オレ様も罪な男だ。種族の違う女をも落とすとは〉
「……あなた何言ってるの? 魔に侵されて頭がおかしくなったのかしら?」
〈残念だろうがオレ様はお前の気持ちに応えることはできない。しかし、このような熱烈な求愛をしてくるお前の心意気に免じて、オレ様お気に入りの果実を分けてやらんこともない。オレ様は寛大だからな!〉
「……」
得意気な古代龍に反応すらしなくなったニキーダはものすごく冷たい目を向けている。
〈はぁ……だから言っただろう? こいつは話が通じないんだ〉
〈ん? おやおや、これはこれははみ出し者の弱龍じゃないか。聞いたぞ、成人の儀から逃げたんだろう? ……ん? そうかそうか、なるほど。流石はみ出し者。オレ様を売ったのか。だがオレ様はお前とは格が違う。残念だったな。わっはっはっは!〉
〈……〉
「ねぇ、グレン。成人の儀って?」
〈グレン? ぶはははは! 人の配下に下ったか! お前は期待を裏切らないな! わっはっはっは!〉
「む……ちょっと静かにして」
〈!?〉
グレンをバカにする古代龍に遮音の結界を張り、グレンを見上げる。
グレンは諦めたようにため息を吐いて語り出した。
〈我がいた里では、ある年頃になると成人の儀を行う。儀では知力・体力・魔力・戦闘力と総合的に判断される。それに合格して初めて成龍と認められ、里を出ることを許される。我が受ける前、こいつが受けた。無駄に暴れたこいつのせいで儀式の間が壊れ、時間がかかると言われた。百年待っても儀式は再開されず、さっさと旅に出たかった我は里を飛び出した〉
「じゃあグレンは成人してないの?」
〈いや、人族の言う成人は年齢のことだ。古代龍の成龍とは格が上がることを示す。そもそもの意味が違う〉
「なるほど。なんとなくわかった気がする」
受けても不合格の人もいるわけだ。
でも説明してくれているグレンのテンションが低いのはなんでだろう? 実はまだ体調が戻ってないとか? それならちゃっちゃと原因究明して、マッハで戻って、ゆっくり温泉で養生してもらわないと。
「セナっちー!! この人ヤバいよー!」
焦った様子のジュードさんの声に振り返ると、問題の古代龍は血の気が引き、脂汗を流していた。
急いで結界を解除し、話しかける。
「え!? 大丈夫!?」
〈ぐ……うぅ……ここ、から出せ……〉
〈フッ。ジジイの丸薬が効いてきたようだな。おい、我とは格が違うんだろう? 龍化すればすぐ抜け出せるぞ〉
〈おま、え……ぐっ! ハァハァ……わかってて、言ってるな……〉
「セナちゃん、大丈夫よ。さ、出して欲しいならちゃんと質問に答えなさい。何故あなたはここにいたの?」
〈オレ様、の気に入っている、果実があった……ハァハァ……からだ〉
「あなた、魔に侵されていたわけだけど、記憶はないの?」
〈なん、だと!? ぐ、ふぅ…………オレ様が、堕ちる、わけない……だろう〉
埋められている彼は青白い顔をしながらも、先ほどの通じなさが嘘のように質問に応えた。
小猿は古代龍のすぐ近くで飛んで跳ねて振動を与えていて、その度に彼は苦しそうに呻いている。
最早拷問じゃない!? 一回くらいトイレ行かせてあげてもよくない!?
「セナちゃん、ヒールはダメよ」
「え!?」
「また話が通じなくなったら困るもの」
「えぇ…………でも……わかった。えっと、ごめんね?」
〈ぐ、ぬぅぅ……〉
「魔法陣が描いてあったのよ。その人物に心当たりはないの?」
息を切らし、便意を我慢する古代龍が流石に可哀想でオロオロする私を撫でながら、ニキーダは尚も質問を続ける。
〈わかった……謝る。謝って、やるから……ここから、出せ……〉
「心のない謝罪なんて意味ないわ。そんなことよりちゃんと答えてよ」
バッサリと切り捨てられた古代龍は予想外だと言わんばかりに目を見開いた。
そしてさらにいくつか質問した後……ついに古代龍はノックアウト。
プルトンがいきなり結界を張った刹那――我慢に我慢を重ねた彼は叫びながら白目を剥いてバッタリと倒れてしまった。
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