上 下
475 / 538
15章

効果はバツグンだ

しおりを挟む




 グレンに言われたクラオルが下へ降りるためのぶっといつるを出してくれた。

「セナとジルベルトは……」
われが運ぶ〉
「んじゃ、殿下は俺の背中に……」
「いや、いい。小さいこいつができるならオレでもできるハズだ」

 いやいや。私とほとんど身長変わらないじゃん。それにグレンはこのつる使うなんて言ってないよ!
 そう思ったのは私だけではないようで、ガルドさん達は困り顔だ。

「グレンは……」
「ふふっ。それなら自力で降りなさいな」
「大丈夫なのか?」
「何事も経験よ、経験。落ちてケガでもしたら回復くらいはかけてあげるわ」

 ニキーダはわかっているのに本人にやらせるつもりらしい。
 身体強化の使い方を軽くレクチャーして、プルトンに抱えられて下に降りていった。

「さっきも飛んでいたが、あいつはすごい魔法の使い手なんだな……」

 そういえばと、精霊達のことを紹介していなかったことに思い至った。
 普通に名前を呼んでいたのに、アデトア君は精霊達が起こした現象を全てニキーダが魔法でやっていると思ってるみたい。
 ガルドさん達から〝どうするんだ?〟と目で訴えられた私は「ママだからね」とお茶を濁した。
 アデトア君なら話してもよさそうではある。でも勘違いをしてくれているなら、わざわざ訂正しなくてもいいでしょう。

「俺とコルトは先に降りる。何かあったら受け止めるから焦らなくていい」

 安心させるように言ったガルドさん達が降りるのを見守っていたアデトア君は、強ばった顔のままゴクリと喉を鳴らした。

「高いな……」
〈貴様もさっさと降りろ〉
「……わかった」

 グレンにせっつかれたアデトア君が覚悟を決めたような顔付きでつるに足をかけた。
 一応念話で精霊達に補助をお願い。
 彼はあんなにビビっていたのに、意外にもスルスルと降りていった。
 そんなアデトア君をニキーダが「やればできるじゃない」と褒めていた。
 続けてジュードさんとモルトさんが降り、最後の私達の番。
 両脇に私とジルを抱えたグレンは翼で優雅に着陸した。
 それを目撃したアデトア君は「そういうことか……」と少し悔しそうだった。


 島はバカでかい古代龍エンシェントドラゴンが余裕で乗っていたくらい大きい。
 上の出っ張りの真下の壁際にも陸地があり、そこには出入口と思わしき隙間を発見。
 ものすごく暑いものの、マグマが近いわりには我慢できないほどじゃない。ただ冬の大陸出身のニキーダだけは「溶けそうだわ」と暑さにやられていた。

 くだん古代龍エンシェントドラゴンは上半身は出ているのに気を失っているため、人型の体はくの字に曲がり、バンザイをしながら地面とキスしていらっしゃる。
 少し離れた位置から問題の古代龍エンシェントドラゴンにバシャッと水をぶっかけてあげる。
 何回やっても起きてもらえず、下半身しか埋められていないドラゴンの上半身はビショビショに。
 それでも起きない古代龍エンシェントドラゴンに焦れたのか、お猿さんが脳天を思いっきり殴って起こした。

〈――イッ、テェェェ!〉
「うわ……流石に痛そう……」
〈ん? なんだお前達は。む? 何故オレ様は埋まっている? これはお前達の仕業か? むっ!? これは……〉

 大声を上げた割には痛くなかったみたい。しかも魔に侵されていた間の記憶はないらしい。
 ドラゴンの疑問を無視してニキーダが質問を投げかける。

「ねぇ、あなたはなんでここにいるの?」
〈……わっはっはっは! そうか、そうか! オレ様を一目見ようとわざわざやって来たのか!〉
「……は?」
〈いやー、オレ様も罪な男だ。種族の違う女をも落とすとは〉
「……あなた何言ってるの? 魔に侵されて頭がおかしくなったのかしら?」
〈残念だろうがオレ様はお前の気持ちに応えることはできない。しかし、このような熱烈な求愛をしてくるお前の心意気に免じて、オレ様お気に入りの果実を分けてやらんこともない。オレ様は寛大だからな!〉
「……」

 得意気な古代龍エンシェントドラゴンに反応すらしなくなったニキーダはものすごく冷たい目を向けている。
 
〈はぁ……だから言っただろう? こいつは話が通じないんだ〉
〈ん? おやおや、これはこれははみ出し者の弱龍じゃないか。聞いたぞ、成人の儀から逃げたんだろう? ……ん? そうかそうか、なるほど。流石はみ出し者。オレ様を売ったのか。だがオレ様はお前とは格が違う。残念だったな。わっはっはっは!〉
〈……〉
「ねぇ、グレン。成人の儀って?」
〈グレン? ぶはははは! 人の配下に下ったか! お前は期待を裏切らないな! わっはっはっは!〉
「む……ちょっと静かにして」
〈!?〉

 グレンをバカにする古代龍エンシェントドラゴンに遮音の結界を張り、グレンを見上げる。
 グレンは諦めたようにため息を吐いて語り出した。

われがいた里では、ある年頃になると成人の儀をおこなう。儀では知力・体力・魔力・戦闘力と総合的に判断される。それに合格して初めて成龍と認められ、里を出ることを許される。われが受ける前、こいつが受けた。無駄に暴れたこいつのせいで儀式の間が壊れ、時間がかかると言われた。百年待っても儀式は再開されず、さっさと旅に出たかったわれは里を飛び出した〉
「じゃあグレンは成人してないの?」
〈いや、人族の言う成人は年齢のことだ。古代龍エンシェントドラゴンの成龍とは格が上がることを示す。そもそもの意味が違う〉
「なるほど。なんとなくわかった気がする」

 受けても不合格の人もいるわけだ。
 でも説明してくれているグレンのテンションが低いのはなんでだろう? 実はまだ体調が戻ってないとか? それならちゃっちゃと原因究明して、マッハで戻って、ゆっくり温泉で養生してもらわないと。

「セナっちー!! この人ヤバいよー!」

 焦った様子のジュードさんの声に振り返ると、問題の古代龍エンシェントドラゴンは血の気が引き、脂汗を流していた。
 急いで結界を解除し、話しかける。

「え!? 大丈夫!?」
〈ぐ……うぅ……ここ、から出せ……〉
〈フッ。ジジイの丸薬が効いてきたようだな。おい、われとは格が違うんだろう? 龍化りゅうかすればすぐ抜け出せるぞ〉
〈おま、え……ぐっ! ハァハァ……わかってて、言ってるな……〉
「セナちゃん、大丈夫よ。さ、出して欲しいならちゃんと質問に答えなさい。何故あなたはここにいたの?」
〈オレ様、の気に入っている、果実があった……ハァハァ……からだ〉
「あなた、魔に侵されていたわけだけど、記憶はないの?」
〈なん、だと!? ぐ、ふぅ…………オレ様が、堕ちる、わけない……だろう〉

 埋められている彼は青白い顔をしながらも、先ほどの通じなさが嘘のように質問に応えた。
 小猿は古代龍エンシェントドラゴンのすぐ近くで飛んで跳ねて振動を与えていて、その度に彼は苦しそうに呻いている。
 最早拷問じゃない!? 一回くらいトイレ行かせてあげてもよくない!?

「セナちゃん、ヒールはダメよ」
「え!?」
「また話が通じなくなったら困るもの」
「えぇ…………でも……わかった。えっと、ごめんね?」
〈ぐ、ぬぅぅ……〉
「魔法陣が描いてあったのよ。その人物に心当たりはないの?」

 息を切らし、便意を我慢する古代龍エンシェントドラゴンが流石に可哀想でオロオロする私を撫でながら、ニキーダは尚も質問を続ける。

〈わかった……謝る。謝って、やるから……ここから、出せ……〉
「心のない謝罪なんて意味ないわ。そんなことよりちゃんと答えてよ」

 バッサリと切り捨てられた古代龍エンシェントドラゴンは予想外だと言わんばかりに目を見開いた。
 そしてさらにいくつか質問した後……ついに古代龍エンシェントドラゴンはノックアウト。
 プルトンがいきなり結界を張った刹那――我慢に我慢を重ねた彼は叫びながら白目を剥いてバッタリと倒れてしまった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます

銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。 死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。 そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。 そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。 ※10万文字が超えそうなので、長編にしました。

目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお
ファンタジー
夢半ばに死んでしまった少女が異世界に転生して、様々な困難を乗り越えて行く物語。 *小説を読もう!にも掲載中

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。