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15章
禁忌の地火山
しおりを挟む〈ぐぁ……!〉
「ゔ! いてててて……」
〈……セナ、大丈夫か?〉
グレンと共に地面に叩きつけられた私が唸りながら顔を上げると、心配そうに私を見つめるグレンと目が合った。
「大、丈夫。グレンは?」
〈セナのおかげで大したキズはない〉
かなりの高度ではあったけど、グレンに抱えられていたことと、ギリギリで発動させた魔法が幸いしたみたい。
いつも私にくっ付いているクラオル達も無事で一安心。
グレンにヒールをかけ、バラバラになってしまったみんなの居場所を探る。
「……ん? おかしい」
何故か上手く気配が掴めない。
そのことに気が付いた私が眉を寄せたタイミングで、ジルから切羽詰まった声で念話が届いた。
「((セナ様! ご無事でおられますか!? 返事を、返事をしてください!))」
「((大丈夫だよ。ジルは?))」
「((ご無事でよかった……僕も大丈夫です))」
私の声に安心したのか、返ってきたのはひどくホッしたような声だった。
私と同じく、気配が掴めなくてかなり焦っていたらしい。
ニキーダ達を頼んだエルミス達には念話、ガルドさん達には魔通を使って連絡を取ると、皆似たような状態であることが判明した。
グレンは顔色が悪く、休息が必要だ。
オマルもガルドさん達の従魔も先ほどの咆哮で失神してしまったそう。
ただの森だと思っていたこの森も、見たことのない木や植物で構成されていて、さながらジャングルのよう。何が出てくるのかわからない。
気配察知が上手くできない今、どうやって集まるべきか……
「こういうときは……狼煙かな?」
『ノロシ?』
「そう。たき火を作ろう」
クラオル達に協力してもらい、周辺の植物を刈って場所を確保。結界を張って安全も確保。
大きめのたき火にどんどん木をくべて煙を出させる。
木が密集しているけど、精霊達は木の上まで浮かび上がれるし、ガルドさん達は木に登れば見えるハズだ。
それを伝えると、みんな確認できたみたい。こちらに向かってくれるとのことだった。
ひとまずみんなが集まるまでには時間がかかる。
ちょうどいいからご飯を作っちゃおう。
料理を作り始めてからしばらくして、木の根元に座ってずっと何かを考えこんでいたグレンが話しかけてきた。
〈……セナ。セナは我に聞かないのか?〉
「うん。だって言いたくないんでしょ? グレンが話してくれるのを待つよ」
〈……そうか〉
フッと笑ったグレンはそれきり黙ってしまい、私は調理を再開した。
あの声はおそらくドラゴン。私達が威圧に弾かれて落下してからは鳴いていない。グレンの顔色が悪いのも気になる。多分、声の主に何かしら心当たりがあるんだろう。
(グレンに何かあったら、教会に聞きに行ったときに何も教えてくれなかったおばあちゃんに文句言ってやるんだから!)
気合いを入れて作る私は、グレンが少し寂しそうな笑みを湛えて私を見つめていることに気付いていなかった。
ニキーダが私達のところに着いたのは一時間後。
気絶したオマルは強制的に影に入れたそうで、同じく気絶したアデトア君はウェヌスに抱えられていた。
「セナちゃん! 無事でよかったわ! ケガは?」
着くなり、抱きしめてくるニキーダは全身が汗ばんでいる。
卓球大会でもあんなに激しく動き回って汗一つかいてなかったのに意外だった。
大丈夫なことを伝え、ニキーダ達を守ってくれた精霊達にお礼を伝える。
特にウェヌスは指輪で呼び出すと同時にお願いしたからね。
ニキーダ達が合流してからさらに一時間後、ガルドさん達も到着した。
四人はバラバラに落とされていたけど、ここへ向かっている途中で徐々に集まったんだって。
全員無事に集合したところでランチタイムの始まり。
ニキーダ達もガルドさん達も魔物と遭遇したそう。気配が探れないことも相まって、いつも以上に警戒して疲れちゃったみたい。
このジメジメとした湿気もベタベタして気持ち悪いと大不評。
みんなはグレンの顔色の悪さを見て察したのか、先ほどの鳴き声の話題には触れないでいてくれている。
絶対気になっているだろうに、優しい人達だ。
「んん……」
「あ、おはよう。ご飯食べられる?」
「……食べる」
ご飯の匂いに釣られたのか、アデトア君が起きた。
食べると言うアデトア君にもスープを渡し、みんなで作戦会議。
精霊達によると、このジャングルの植物は本来、この大陸にはないもの。この世界の東……つまり夏の季節の大陸や島にしか生えないんだそう。
《昔、放浪していたときはこのような植物は生えていなかったと思う》
そう言うアルヴィンの言葉に引っかかりを覚える。
「ねぇ、それって昔は立ち入り禁止じゃなかったってこと?」
《うむ》
「は? 昔からじゃないのか?」
《いや、昔は違った》
断言するくらいだ。アデトア君が知らなかっただけで、間違いないだろう。
アルヴィンが生きていた時代を考えれば軽く千年以上昔であることは確実。
アルヴィンも正確な年数は流石に覚えていないらしい。
「何かがあって禁足の地に制定されたってことね。アデトア君、資料に理由って書いてなかった?」
「理由? 確か……我が国の火山は国に繁栄をもたらす。聖地を穢さないよう、禁足の地となったと……」
「ふーん、なるほど」
繁栄ねぇ……それって聖地とする何かがあったってことだよね? そんな聖地にあんなに攻撃的な威圧を発してくるドラゴンがいるの? 聖地の何かに惹かれたのか、はたまた何かを守っているのか……これは一筋縄じゃいかないね。
グレンを見てみると、不機嫌そうに眉を寄せたまま静止していた。
持っているスープはほとんど減っていない。
「グレン大丈夫? 食欲ない?」
〈……いや。大丈夫だ〉
「大丈夫じゃないわよ。そうね……みんな慣れないことで疲れてるでしょうから、今日はココに泊まりましょ」
〈我は問題ない!〉
「はい、却下。あなたひどい顔よ? 急いでケガでもしたらどうするのよ。今日は休みなさい」
声を荒らげたグレンは、私達の顔を見回して〈わかった〉と納得してくれた。心配しているのが伝わってよかった。
グレンのスープにだけチートなリンゴポーション入れてみたんだけど……効果はなさそう。
食べ終わった私達はそれぞれ思い思いにくつろぐ。
今日は流石にアデトア君のレッスンもお休みだ。
グレンは尚もずっと考えこんでいる。
これは何とかしなければ。
「そうだ! グレン、おいで」
〈む?〉
敷き布の上に正座して膝をパンパンと叩く。
「膝枕してあげる。私の足を枕にして横になって」
首を傾げながらも言う通りにしたグレンの頭を撫でる。
深く刻まれていた眉間のシワが段々と緩まっていく姿に少し安心する。
ちょっとでも癒されてくれればいい。
そう思った私はスキルの音楽再生でスマホに入っていた曲を小音で再生させた。
私が昔眠れないときに聞いていた波の音。
それを聞いてクラオルやグレウスもウトウトし始めた。
契約しているみんなに聞かせられるって便利ね。パパ達に感謝しなくちゃ。
ジルから視線を感じてそちらを見ると、慌てて目を逸らされた。
え……なぜ? 他のみんなは微笑ましいものを見るみたいな顔してるのに。
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