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15章

墜落

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 翌日にはガルドさん達は完全復活。
 ただ、アデトア君だけはそのまま寝かせていたからか、「昨日は平気だったのに体が痛い。城のベッドが良質のものだと痛感した」なんて言っていた。
 うん、運ばなくてごめん。私達が元気なのはコテージで寝たからなの。この宿のベッドで眠るより、野宿スタイルでもコテージの方が疲れ取れるんだもん。


 さらに観光と買い物で二つほど街を経由し、三つ目の街で夜ご飯を済ませた。
 各々おのおの自由に過ごしている中、私は一人、コテージの錬金部屋でアデトア君用のお面作り。
 前に中途半端に作っていたやつを少し改良していると、グレンが部屋に入ってきた。
 グレンは私を持ち上げ、イスに座ってから自分の膝の上に私を乗せた。

「どうしたの?」
〈セナ、これを〉
「わぁ! キレイ……! これ、鱗だよね?」

 グレンから渡されたのは見たことのある鱗。魔力を豊富に含んでいて、厚く、濃い紅色で艶々。部屋の明かりを乱反射してキラキラと光っているように見える。
 以前見せてもらった鱗もキレイだったのに、それとは比にならないくらい神秘的な美しさだった。
 なんだろう……持っているだけでグレンの温かさが伝わってくるような……

〈うむ。われの鱗だ。それを少なくともこの国を出るまでは肌身離さず持っていろ〉
無限収納インベントリはダメなの?」
〈ダメだ。ポケットでもいいから、ちゃんと持て〉
「ん~、わかった。ポケットは落としそうで嫌だから服の裏地に縫い付ける。それならいい?」
〈うむ〉

 後でポラルに協力してもらおう。私がやったら表に縫い目が出ちゃいそうだ。
 グレンがそのまま動かないことをいいことに、私は作業を再開。
 手を動かしながらいつもと様子が違うグレンを窺っていると、独り言のような小ささでグレンに呼ばれた。

〈セナ……〉
「なーに? どうしたの?」
〈前に役に立たないドラゴンはいらないと言っていたが、今もそうか?〉

 わざと明るく返した私はグレンのセリフに手を止めて振り返る。
 それはかなり前、二日酔いになるまで飲んじゃうグレンに対し、クラオルとプルトンがふざけて言ったセリフじゃなかろうか。あの場にいた全員が冗談だとわかっていたハズだ。

「え……グレン?」
〈いらないか?〉

 再び問うてきたグレンの瞳は頼りなさそうに揺れている。
 いらないってなに? 使えないって……動けなくなるとでも言うの?

「グレンは家族だよ? そんなわけないでしょ? 大好きなのに……そんな寂しいこと言わないで。ずっと一緒にいてくれるんじゃないの?」

 何故いきなりそんな話になったのかわからない私は、死亡フラグのような気がして、声が震えそうになるのを必死に抑える。
 おばあちゃんが夢で言っていた。グレンから離れるなと。それはグレンが離れたら、グレンの身に何かが起きるということなのか……

〈そうか……ならいい。そんな泣きそうな顔をするな〉
「私何か言った? グレン傷付けちゃうようなことしちゃった?」
〈断じて違う〉
「…………それなら、火山に何かあるの? グレンがいなくなるなら行かない。グレンの方が大事だもん」
〈ふっ……大丈夫だ。それに…………われも確かめたい〉
「……確かめる?」

 やはり何かあると言うのか……
 口早に言う私を安心させるように撫でてくれるグレンはどこか遠くを見ていて、静かに決意したようだった。

 不安になった私はお面作りを再開する気はおきず、グレンに抱っこをせがんで一緒に部屋に戻る。
 みんなに念話で確認したら、「最近ちょっと様子がおかしいとは思っていたけど、特に理由は思い付かない」と返ってきた。

 夜、こっそりとウェヌスを呼び、グレンだけを眠らせてもらう。
 疲れているときは寝るのが一番。睡眠不足はネガティブになりがちだ。
 眠りに落ちる寸前、グレンは〈われはセナと共にいたい……〉と呟いていた。
 眠ったグレンをギュッと抱きしめてから頭に手を伸ばす。ゆっくりと頭を撫でてあげると少しだけ口角が上がった。

◇ ◆ ◇

 翌朝、再びオマルの背に乗った私達は火山へ向けて出発。
 朝方まで情報収集をしていた私はグレンが起きる前にアポの実を食べておいたから体調もバッチリ。ポラルがパーカーの裏地に鱗用ポケット(落ちない対策済み)を作ってくれたから、グレンとの約束も完璧。

 おばあちゃんと話がしたくて夜中にキヒターの教会に飛んだんだけど……おばあちゃんいわく、「詳しいことは言えないが、セナがセナである限り大丈夫じゃ」とのことだった。
 それなら態度に出さない方がいいかと、いつも通り接している……つもり。
 いつもよりちょっとだけグレンとの距離が近いのは許して欲しい。
 グレンは嬉しそうだし、アデトア君以外のメンバーは理由を知ってるから気にしないでくれている。アデトア君は……興味がなさそうだからよし。



 街を出発してから二時間ほどで眼下には森が広がった。

「おかしい。ここに森があるなど城の資料には載っていなかったハズだ」
「あら、そうなの?」
「一度しか見たことがないが……記憶が確かなら、火山の影響で周りにはほとんど草木が生えないとなっていた」

 アデトア君の言葉に私達は顔を見合わせる。
 これはやっぱり火山に何かあるのは確実だろう。
 気を引き締めた私達を乗せ、オマルは尚も火山に向かって飛んでいく。

 見えてきた火山は、火山跡であるカルデラに造られたテルメの街よりはるかに規模が大きい。
 火山の周りは森になっているが、山そのものには木々は生えていないみたい。
 火山の山裾に差し掛かったとき、グレンが叫んだ。

〈止まれ!〉
『ピギ!?』

 車は急に止まれない。
 オマルも急に止まれない。
 さらにオマルはホバリングできない。
 方向転換しようとしたとき、火山から雄叫びと共に空気を震わせながら圧が襲いかかってきた。

――グオオオオオオオオオオオ!!
「え゛!? キャァァァ!」

 バランスを崩したオマルの背中からズリ落ちる。

――グオオオオオオオオオオオ!!

 再び襲ってきた威圧でオマルやアデトア君は気を失い、森へ向かって真っ逆さま。

「エルミス、プルトン、ウェヌスー! ニキーダ達を守ってぇぇぇ!」
――グオオオオオオオオオオオ!!
「うおっ!」
〈ぐ……〉

 ガルドさん達は咄嗟に従魔の龍走馬ドラゴンライダーホースを呼んで難を逃れていたけど、三度襲いかかってきた威圧により、従魔と共に墜ちていく。
 グレンとアルヴィンに抱えられた私とジルも例に漏れず、空中に留まることはできなかった。
 クッションになるように急いでみんなに風魔法と水魔法を展開させる。
 魔力が抜けるのとズザザザザと森の中へ落ちるのはほぼ同時だった。


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