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15章
第一回卓球大会
しおりを挟む盛り上がった夕食の後、いいことを思いついた私はある物を制作してみんなを呼び出した。
「セナ、何かあったのか?」
「ううん。みんなで楽しもうと思って」
「楽しむ……?」
「そう! 温泉と言えば……卓球です! ということで、第一回卓球大会を開催します!!」
――パチパチパチパチ。
そう宣言した私にジルと精霊達が拍手をしてくれた。
優しい! ありがとう! この〝何それ、美味しいの?〟って空気が救われるよ!
「……タッキュー……ってなんだ?」
「ガルドさん、卓球ね、卓球。まぁ、お遊びだからピンポンのが正解かもしれないんだけど…………とりあえず、これを使います!」
有名人のあだ名のような発音を正してからじゃーん! と作った卓球台を二台出すと、揃って首を傾げられた。
「この台で、このラケットを使って、このボールを打ち合うの。見た方がわかりやすいだろうから、ちょっと見ててね。ジル」
「はい」
チェックするときにおおまか説明していたジルを相手に、説明しながらラリーをして見せる。
ラケットはちゃんとペンとシェイク両方作った。これにはスニーカーにも使ったラバーソールが大活躍。
ボールはプラスチックの玉だと跳ねてくれなくて、いろいろ試したところ何故かスーパーボールみたいになっちゃったんだけど……その辺はご愛嬌ってことで!
「参加賞もあるし、優勝者には新作のデザートをプレゼントします!」
「へぇー! 面白そうだねー! しかも新作!!」
「えぇ、初めて見る道具ですが、セナさんのデザートが食べられるなら参加しなければなりませんね」
「……負けない」
ジュードさん達はキラリと目を光らせて気合い充分。
こういうのは嫌がるかと思ったジィジは意外にも参加してくれるらしい。
全員参加が決まったところで、ジャンケンをしてもらい、勝った順からラケットを選んでもらう。一応ネタ枠として、フライパン・スリッパ・スプーンも用意した。
ルールは総当たり戦で十点マッチ。サーブは一回交代で魔法は禁止。一番勝ち星を上げた人が優勝となる。審判は精霊達が持ち回りでしてくれることになった。
「では、温泉卓球大会を始めます!」
〈いくぞ!〉
――パァン!
開会宣言をした瞬間、やる気満々のグレンが放ったサーブは台にバウンドすることなく、まっすぐ壁に向かって一直線。
ボールが頬を掠めたジュードさんは驚きに目をパチクリさせていた。
「ひぇぇ……」
〈む!?〉
「はい、ジュードさんに一点ね」
〈やり直しだろ!〉
「ネットに引っかかってないからダメだよ」
〈くっ……我が勝つ!〉
試合再開をしたもののスーパーボールの扱いが難しいのか、もう一台の卓球台で試合をしているスタルティとアチャもボールをぶっ飛ばしていた。
部屋の壁に結界張っててよかった……
精霊達に任せ、私はみんな用のドリンクを準備。いくらエルミスが部屋を冷やしてくれていても動けば暑いからね!
十点マッチにしたからか試合はどんどん消化されていく。ほとんどがサーブミスで勝敗が決まる中、スプーンで戦うジィジとスリッパで応戦するニキーダがいい勝負をしていた。
「甘い!」
「させないわよ!」
「くっ……これでどうだ!」
「んなっ! 危ないじゃないの!」
ラリーが続いているっぽいけど、球が速くて目でほとんど追えない……っていうか、スプーンなのにジィジ強すぎじゃない?? ここまで盛り上がるとは思ってなかったよ……
〈セナ! 我と勝負しろ! リバーシでは勝てないが、これならやり方がわかった!〉
「いいよ~」
得意気なグレンに誘われて、急遽私も参戦。
さっきグレンの試合を見ていた私は緩い試合だろうとタカをくくっていたことを後悔することになった。
スピードもさることながら、回転がかかったボールに四苦八苦。あっという間に五点先取されてしまった。
ちょっと真剣にならないとグレンもつまらないよね。
「やっと目が慣れてきたかも。いくよ~」
〈……な!? なんだ今のは!〉
確かこんな感じだったよね……とサーブを出してみると、想像以上に回転がかかっていたのか、バウンドした瞬間、キュイーンとすごい曲がり方をした。そのせいでグレンは見事に空振りだ。
私にそんな技量があるワケがないから、おそらくスキルのせい。
(武器術か武闘術かわかんないけど……でもこういうのはつまんないから、スキル使わないようにしなくちゃ。こういうチートは好きじゃない)
マグレかな~なんて誤魔化しつつ、グレンのサーブを返したら怒られた。
〈セナ! 加減をするな! 我を侮辱するのか?〉
「えぇ……そんなつもりないんだけど……わかった。ちゃんとやる」
グレンがそう言うならと、体が反応するままに返してたら、ラリーをことごとく制して逆転してしまった。
「なんかごめんね」
〈何故謝る? 我は楽しかったぞ!〉
ニカッと笑顔を見せてくるグレンにホッと一安心。楽しんでもらえるのが一番だからね!
暑いというみんなに蜂蜜レモン水を配って休憩。
ジィジとニキーダの試合は延長戦にまで発展し、ジィジがギリギリ勝ったそうだ。スプーンだったのに強いな!
しかも二人共、暑いと言ってるのに汗を全然かいてないことにも驚きだ。
ネタ枠の中で一番大きいフライパンのモルトさんは連敗だったみたい。
「じゃあ、優勝はジィジ?」
「そうね。あそこで床に滑らなかったらアタシが勝てたのに残念だわ……」
「セナっちー、参加賞ってなにー?」
「動いて暑くなると思ってたからアイスだよ~!」
「「「「おぉー!」」」」
「優勝者には水まんじゅうモドキ・ずんだ餡バージョン! って思ってたんだけど、ジィジは甘いもの苦手だからコーヒーアイスにする?」
「うむ。そのほうがよさそうだな」
「なら、アイスコーヒーも付けてあげるね」
似たような名称に眉を寄せたジィジに、指で示しながら説明するとフッと笑顔を零した。
運動後のアイスも大好評で、みんな幸せそうに頬張っている。
また開催できたらやりたいね。
◇
運動場を後にした私達は汗を流そうと露天風呂へ向かう。
せっかくならと、従魔達も呼んで男女で分かれた。今回はニキーダとアチャも一緒だから、クラオルとグレウスとポラルも男風呂だ。
「露天風呂なんて初めてです」
「アタシもよ。セナちゃんは……ってそれなーに?」
「ふふふふふ。せっかくだから、月見酒でも飲もうと思って」
「あら、いいじゃない! お酒なんてあのパーティー以来だわ」
「ジャレッド様が飲まないのによろしいんでしょうか?」
「大丈夫よ。そんなことで怒るほど小さい男じゃないもの。それにあとは寝るだけじゃない」
「では少しだけ……」
脱衣場で三人で秘密の共有にクスクスと笑い合い、お酒の準備もバッチリ。
いざ、入ろうと服を脱いでいるときに隣りの露天風呂から断末魔の叫びのような絶叫が響き渡った。
「え!? 何!?」
「急ぎましょ!」
驚いた私達は取るものも取りあえず男風呂へ走り、もう一方の脱衣場へ飛び込んだ。
「何があったの!?」
「「!」」
「……セナ様!? なんて格好を……! 服を、服を着てください!」
「バスタオル巻いてるよ! そんなことより今の叫び声は!?」
そう言うジルもタオルを腰に巻いているだけだ。
慌てふためくジルじゃ話にならないとジィジを見ると、スタルティの目を隠したジィジが「落ち着け」と話始めた。
ジィジが言うには……オマルが初めてのお風呂だと喜んで飛び込んだ瞬間――叫びながら飛び上がったらしい。
「湯が熱すぎて火傷を負ったようだが、セナの精霊がすぐさま冷やしたから大事ない。とりあえず三人は着替えて来い。話はそれからだ」
ジィジに追い払われ、着替えてから再び男風呂へ。
私達が戻ったときには、オマルはウェヌスに回復魔法をかけてもらい、エルミスが作ってあげた氷の桶の冷水に満足そうに浸かっていた。今さっきあんな雄叫びを上げたとは思えないほど機嫌よく。
そんなペンギンを後目に、調べてみると男風呂だけお湯の温度を調整する道具が壊れされていた。誰かが無理矢理外そうとしたみたい。
前に泊まった人か、掃除をした人が何かぶつけたのかはわからない。私や精霊でも直せそうだったけど、ジィジは問い合わせするらしい。
「ふぅ。人騒がせなピングーノだったわね」
「でも危ないところでしたね。ジャレッド様やスタルティ様が火傷をしたかもしれないなんて……」
「そうね。アタシ達があっちのお風呂に入ろうとしてたら、アタシ達が火傷をするところだったわ。管理はギルドがやってるって言ってたから責任取ってもらわなくちゃね。ほら、セナちゃん、ちゃんと肩まで浸からなきゃダメよ」
「はーい」
女同士でゆっくりと……のつもりだったけど、男風呂に入れないメンズが後に控えている。
月見酒はおあずけだね。
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