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15章
バチバチガン
しおりを挟むモフモフに包まれて眠りにつき、目覚めは最高。寝起きにワシャワシャとネラース達を撫でまくって気分も最高!
朝ご飯を済ませた私達一行は揃って街へ繰り出した。
私はジルとスタルティに挟まれ、すぐ後ろにはグレンとガルドさん達。少し離れて見守るようにジィジ・アチャ・ニキーダが歩いている。
今日はジィジとスタルティは冒険者スタイル、アチャも一般的なワンピースだ。これなら一平民として紛れ込めるからね。
ひとまず昨日のことがあるから商業ギルドへ。王族であるジィジ本人がお忍びスタイルで現れたとギルド内は騒然となった。
昨日ジルが使いに走ったおかげで、すでに修理する手筈は整っているらしい。
ただ、平身低頭で謝るギルマスによると、少し時間がかかるとのこと。
あの邸は露天風呂が二つあることがウリだそうで、それが使えないとなると価値が下がっちゃうんだって。そのため、レンタル料がかなり値引きされるらしい。
「アタシ達は回復魔法が使えるけど、他の貴族や王族なら巨額な慰謝料請求されてもおかしくないわ。アタシだって、もしセナちゃんやスタルティ、アリシアちゃんが火傷したらあの邸をぶっ飛ばすくらいじゃ気が済まないもの。今後は気を付けなさい」
ママ……ジィジが入ってないよ?
口調は軽くとも目に鋭さを持たせたニキーダの発言に、ギルマスは真っ青な顔をしてブンブンと頷いていた。
同じく、うんうんと頷いているクラオルはあれですね……パパ達の怒りですね……
商業ギルドを後にした私達は気分を変えて商業エリアの散策。
温泉だから温泉まんじゅうとか温泉卵とかあるかなぁ? なんて期待してたんだけど、あったのは温泉で茹でられた肉や野菜くらい。
お店のおじさんが言う通り、臭みやアクが消えて食べやすかった。
(でもこれじゃないんだよねぇ……お風呂直す前に温玉作ればよかったかな? 本場の温玉食べたい……この街にいる間に作ってみなくちゃ)
食べ終わった私達は再びプラプラと歩き始める。
とある服屋さんの窓辺に飾られていたブラウスをきっかけに、ニキーダとアチャの買い物魂に火がつき、私とスタルティは服屋に強制連行。何軒も回ってあれもこれもと言われるがままに試着。
男性陣は二人の雰囲気に呑まれて口を挟めず……ガルドさんなんか放心状態だったよ。
どさくさに紛れて一緒に会計されていたニキーダやアチャの服も全てジィジ持ちとなった。
「あの……僕もよろしかったのですか?」
「もちろんよ。ジルベルトだって家族でしょ?」
「あ、ありがとうございます」
「ふふっ。それにしても異国っていいわねぇ。見たことのないデザインがいっぱいだわ」
「そうですね。シュグタイルハンの王都ともまたちょっと違って……お国柄でしょうか?」
機嫌のいい二人の会話を聞きながら、こっそりとジィジによかったのかと確認したら、「スタルティにこういう体験をさせてやりたかったからいい。アリシアは会計のことなど頭から抜けてるだろうな。普段より楽しそうだし、わざわざ言うこともない。セナも遠慮するな」とのこと。
めっちゃいい男……デキメンだね!
ちょうどそのとき、どこからか「バチバチ丸が入ったぞー!」と聞こえてきた。
「バチバチガン? って何? 銃? ジィジ知ってる?」
「わからん。気になるなら行ってみるか」
「うん!」
ゾロゾロと声を張り上げていたお店を探す。
お目当てのお店に着いたときにはすでに売り切れていた。
ガックリと肩を落とした私に、店主のおじさんは売ってそうなお店を教えてくれた。
四店舗も教えてくれたのに、ことごとく売り切れ。最後の露店のお店も私が着く寸前に売れてしまったらしい。
「わりぃな。掘ってもあんま出てこねぇから、ちっと高くてもすぐ売れちまうんだ。採掘次第だから次はいつ入るかもわからねぇ」
「そうなんだぁ……残念。珍しいなら尚更見てみたかったな……」
「んん? 嬢ちゃん、まさか知らねぇで探してたのか?」
「うん。初めて聞いたから」
お兄さんがしてくれた説明によると……バチバチ丸は温泉というか、湯船に入れる玉らしい。丸いからそう呼ばれているだけで、正真正銘の鉱石。ただ、その玉自体はバチバチさせた後消えてなくなっちゃうそう。
銃じゃなかった……バチバチって何がどうバチバチするの? 電気風呂みたいになるの?
「バチバチはバチバチだな! んー、売れねぇけど……ちと待ってな」
露店から出たお兄さんは露店裏の家に入ってしまい、私達は顔を見合わせた。
五分ほどでお兄さんはバケツを手に出てきた。
「いいか? これがバチバチ丸! ……の欠片だ」
「欠片……」
「そうだ。実際には十センチってところだな。んで、こっちのバケツが風呂だとするだろ? これに入れると……」
お兄さんが持っていた一センチほどの白い石をバケツに入れると……軽石みたいな石はシュワシュワと泡が立ち、徐々に小さくなっていく。石が消えてもバケツの中からはパチパチと気泡が上がっていた。それはまるで……
「……炭酸入浴剤じゃん!」
「うお! いきなり大声出すなよ。ビックリすんだろ。よくわかんねぇが、これに手突っ込んでみろ。バチバチすっから。ほら、遠慮すんな」
「では、僕が。……!? は、初めての感覚です!」
〈我も。……おぉ! なんだこれは!〉
ジルやグレンが面白いとはしゃぐ声が聞こえている中、私の考えは飛んでいた。
「これがあれば炭酸飲める……? ラムネ……コーラ……ジンジャーエール……メロンソーダ……」
一度飲みたかったジュースの数々を思い浮かべてしまうと、頭の中はそれ一色に染められてしまう。
ブツブツと呟く私の肩から怪訝そうなクラオルの視線をビシビシ感じるけど、それどころじゃない。作れるかはわかんないけど……飲みたいんだよ、炭酸が!
「……お兄さん! う……これ超欲しい!! 買い占めたいくらい欲しい!!」
ズイッと近付いたらジィジに首根っこを引かれて元の位置に戻された。
近付くのはダメらしい……
そんなことは気にも留めていないお兄さんは「って言われてもなー」と頭をポリポリかいていた。
「掘るってことは坑道でしょ? 採掘しに入っちゃダメ?」
「は? 嬢ちゃんがか? そいつぁ無理だろ。そっちの兄ちゃん達ならいけるかもしんねぇが……どのみち鉱夫の親方に許可もらわねぇと入れねぇよ」
「その人どこにいるの?」
詳しい場所を聞いた私はお兄さんにお礼のチップを渡し、意気揚々と歩き出した。
辿り着いた場所はこじんまりとしながらもどっしりとした家。親方っていうくらいだから大きい家を想像してたんだけど、違ったみたい。
「こんにちはー! 親方さんいらっしゃいますかー?」
気配はするのに出てきてもらえなくて、ドアをノックしながら呼び続けていると「うるせぇ! 何回も言わんでも聞こえてらぁ!」と不機嫌そうなおじさんが顔を出した。
反応してくれないから呼んでたのに……
おじさんは六十代くらいの顔つきで私より少し身長が大きく、口元にはヒゲがもじゃもじゃ。全身に土汚れがついたドワーフだった。
「あぁん? おめぇみてぇなガキんちょが遊びで入るような場所じゃねぇ」
「大丈夫! 前にも掘ったことあるから、迷惑かけないよ! ツルハシもあるし! ほら!」
「なっ!?」
説明で納得してもらえない親方の目の前にツルハシを出して見せると目を丸くされた。
「……おい、てめぇら! こいつの保護者だろ。なんで止め……」
――グゥゥーー。
「「「「……」」」」
「っなんで止めねぇんだ。それでも親か? この前の貴族といい、最近のやつらは……んぐっ!?」
途中、盛大におなかを鳴らしたおじさんは誤魔化すように言い募る。
そんなおじさんの口に私はジャムパンを突っ込んだ。
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