459 / 541
15章
温泉の街テルメ
しおりを挟む森を抜けてから街道沿いを進むこと四日、やっと……やっとお目当てのテルメの街が目の前に。
いや~長かった! 長かったよ!
地面に開いた穴でドヴァレーさんの馬車の車輪が壊れたり、その原因になったアーマーラットの討伐に乱入してきたロンヌ君のフォローが大変だったり、ロンヌ君が「初めて倒した魔物だ」と死骸を持ち上げたのを見た王妃が卒倒したり……と、最後の最後でやたらと濃い数日間だった。
それも今日で終わりよ! イエーイ!
「ようこそおいでくださいました。陛下より連絡が来ております」
街の入り口でチェックを受けて中に入ると、街はちょっと面白い構造をしていた。
カルデラに作られているらしく、底に向かって段々畑のように家々が建ち、一番上である出入口からは下に建つ建物の屋根が上から見える。さらに温泉の街だからか、そこかしこからモクモクと煙が上がっていて、ところどころに溶岩が固まったような歪な形の岩まであった。
ブラン団長によると、私達が入った門は貴族用で、普通の冒険者や平民が出入りするのは別の場所に構えられている。
上から貴族エリア、商業エリア、平民及び冒険者エリアと分かれている。
他国の貴族もこの街に別荘を持っている人が多く、観光産業で成り立つ街らしい。
ドヴァレーさん一家とブラン団長達はキアーロ国が所有している別荘に泊まるそう。
初めて訪れたジィジが別荘を持ってるわけないため、ジィジ達はそういった場合用の迎賓館に宿泊予定らしい。
ドヴァレーさんを別荘前まで送り、案内してくれる騎士とブラン団長に付いて行く。
先を歩いていた二人が止まったのは……まさかの隣り。
お互いの敷地が広いから〝隣近所の騒音が!〟なんてことにはならなそうだけど、もっと離れてるかと思ってたよ……ま、私は宿だから関係ないけど。
「え、ここ?」
「……そうだ。近い方が連絡を取るのに便利だろうと手配した」
「なるほど。それもそうだね!」
「では、この街は初めてとお聞きしましたので説明いたしますね」
納得したところで、騎士から説明が入った。
ドヴァレーさんの別荘とは違って、迎賓館は基本的に在中スタッフはおらず、定期的に清掃が入るシステムみたい。使用人を連れていなかったため、料理やその他雑用をする派遣スタッフをオススメされた。
商業ギルドに清掃人や料理人はもちろん、執事や御者まで登録されているらしい。すごいよね。
ジィジは「アリシアがいるから不要だ」ってすげなく断ってたけどね。
鍵を受け取って中に入ると、見た目通りめちゃくちゃ広い。吹き抜けの玄関は広間のようで、そこから二階に上がるカーブした階段。フカフカの絨毯に高そうな調度品。
「うわぁ……マンガとかで見るザ・貴族の家みたい……」
「さっき聞いたけど、外にもお風呂があるんですって」
「おぉ! 露天風呂だね! ねぇ、ジィジ。街の宿に露天風呂がなかったら入れさせてもらってもいい?」
「……は? セナも泊まるだろう?」
「……え?」
ジィジと顔を見合わせ、二人して目をパチクリ。
沈黙を破ったのはスタルティだった。
「セナは……一緒じゃないのか?」
「私達護衛として来たから宿に泊まるつもりだったんだけど……ね?」
「あぁ。俺達は平民だからな」
「せっかく親しくなったのに寂しいだろう……」
私の視線を受けたガルドさんが言うと、スタルティが恥ずかしそうに目を逸らしながら呟いた。
(か、可愛い……!)
「今さら遠慮する仲でもあるまい。セナ達もガルド達も好きな部屋を使え」
「そうよぉ! アリシアちゃんも一緒に三人でお風呂入りましょ!」
「うん!」
「……んじゃ、遠慮なく」
ガルドさん達もスタルティのデレにやられたのか笑顔で了承。
スタルティは早速コルトさんに話しかけていた。
それぞれ自分が泊まる部屋を選ぶために邸の中を見て回る。
ニキーダが聞いた通り、広い内風呂や各部屋にシャワールームもあるのに露天風呂もあった。しかも二つ! ちゃんと囲いもあって、覗き防止もバッチリ。
さらになんと、パーティールームとは別に立食会場のような部屋、室内運動場に衣装部屋まである徹底ぶり。
王族用って言うだけあるよね……中の物は好きに使っていいって言われたけど、使わなそう……
ガルドさん達は「場違いすぎる……」ってドン引きしてたよ。
「あ! ここがいい! こじんまりしてるし、キッチン近い!」
「…………セナ様。ここは使用人用の部屋だと思います」
「え……そうなの? 私別に気にしないからここにする」
「…………違う部屋にしましょう」
「えぇ……」
有無を言わさず、呆れ気味のジルに手を引かれてその場を後に。ジル的にはアウトだったみたい。
結局、階段からほど近いバルコニー付きの部屋になった。広すぎて落ち着かないから、夜はネラース達も呼んじゃおう。
全員の部屋が決まったところで、リビングに集まって一息つく。
「まだヴィルシル国の王は来ていないらしいが、セナ達はどうするんだ?」
「ん~……とりあえずお店見てみたいかな?」
「あぁ、そうだ。店で思い出した。天狐に黄スイト芋が欲しいと言っていたんだろう?」
「うん。買ったやつ食べちゃったから」
「天狐から連絡が来たから持ってきたぞ」
「マジ!?」
〈おぉ! 焼き芋だな!〉
「あ! それってオレっち達が食べられなかったやつでしょー!?」
「そうそう。グレンが食べ尽くしちゃったやつ」
「おおおお! やったー!!」
興奮する私達に驚きつつ、ジィジが大量の箱入り黄色いさつま芋を出してくれた。
早速食べたいというジュードさんのため、私達は庭に移動。
グレウスに穴を掘ってもらい、全員でアルミホイルに包む。
「こんなので美味くなるのか?」
「もちろん! 楽しみにしてて! 焼けるまで時間がかかるから夜ご飯でも作ろうかな? 何かリクエストある?」
〈肉だな!〉
「アタシは前にセナちゃんが作ってたツクダーニってやつが食べたいわ」
「ツクダーニ? あ、佃煮ね。わかった~」
〈セーナー〉
「ちゃんと肉料理も作るから大丈夫だよ。たき火だし、串焼きも作る?」
〈うむ!〉
頷いたグレンに材料を出して任せ、料理ができるメンバーは邸のキッチンへ。
ワイワイと楽しく料理して、作り終わったら庭に運ぶ。
作り方を教えながら作っていたせいでいつもより時間がかかり、外は日が影ってきていた。ちょうどいい時間だ。
ここに来るまでに慣れたのか、ジィジ達も今では「いただきます」って言うようになった。
「んー! 美味しい! ツクダーニってシラコメと合うのねー!」
「このトンジルというスープも美味しいです!」
「己はこのサッパリするキュ・ウリが気に入った」
「シラコメ……こんなに美味しいのか……初めて食べた……」
四者四様の反応に笑みが零れる。
道中はドヴァレーさんもたまに食べにきていた手前、あんまりこういうのは作れなかったんだよね。
盛り上がるご飯を終え、いよいよお楽しみの焼き芋!
火の勢いが弱まったたき火の中からグレンに取り出してもらう。
「熱いから気を付けてね」
私の注意に返事をした面々はフーフーしてから齧り付いた。
「「んー! あまーい!」」
ニキーダとアチャの声が揃い、続いてそこかしこから感想が飛んでくる。
みんな気に入ったみたいで次々おかわり。
〈我が食べるヒマがないではないか!〉
《んもう、しょうがないから私が持ち上げてあげるわ》
律儀に催促に応えていたグレンが怒り、プルトンが笑いながら宥める。
焼いた焼き芋がなくなるまで、庭では笑い声が絶えなかった。
690
お気に入りに追加
25,139
あなたにおすすめの小説
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです
珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。
その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。
それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

〖完結〗愛人が離婚しろと乗り込んで来たのですが、私達はもう離婚していますよ?
藍川みいな
恋愛
「ライナス様と離婚して、とっととこの邸から出て行ってよっ!」
愛人が乗り込んで来たのは、これで何人目でしょう?
私はもう離婚していますし、この邸はお父様のものですから、決してライナス様のものにはなりません。
離婚の理由は、ライナス様が私を一度も抱くことがなかったからなのですが、不能だと思っていたライナス様は愛人を何人も作っていました。
そして親友だと思っていたマリーまで、ライナス様の愛人でした。
愛人を何人も作っていたくせに、やり直したいとか……頭がおかしいのですか?
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全8話で完結になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。