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15章

頑張るオマル

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 パブロさんに頼まれて、幽霊のフリして唸っていた男性に冷水をぶっかける。

「えいっ!」
「……ヒヤァッ!」
「おはよう!」
「……ヒィィ! あばばばば……こ、殺さないでくれぇ! 家族が、家族がいるんだ……!」
「……え?」

 私を見た途端に歯をガチガチと鳴らして懇願してくる男性に目をしばたたかせる。
 起きたから笑顔で話しかけただけなのに……むむむむ……解せぬ!
 パブロさん、ガルドさん、ジュードさん、グレンの四人が話をするとのことで私は他のメンバーと一緒にたき火のところまで戻った。

「全く! 失礼しちゃうね! 旅人を襲ってたのはあの人の方なのにさ! モルトさんもコルトさんもそう思わない?」
「そうですね……セナさんの聖なる気にやられたのかもしれません」
「……大丈夫。可愛い」
(いや、コルトさん……可愛さの話じゃないんだけど……)

 実際は私の肩越しに聴取している四人が睨みを利かせていた……なんて知らない私がプリプリと怒っていると、モルトさんとコルトさんが慰めてくれた。
 「怒っている顔も可愛いですね」と言いながら私の頭を撫でてくる。
 その手の優しさにちょっとずつ怒りが収まってくるのが不思議。この……イケメンめ!

〈セナ、われはガルド達とちょっと行ってくる。グレウスも来い〉
『ボ、ボクもですか?』
〈そうだ。早くしろ〉
『は、はい……』

 困惑しながらグレンの肩に移動したグレウスを見送り、ヒマになった私は二人が頭を撫でる心地よさにウトウト。
 そのまま二人にもたれて眠ってしまった。

◇ ◆ ◇

 翌朝、目を覚ますとすでに村の宿屋だった。
 あの人数の賊をどうやって運んだのか聞いたら、パブロさんが【空間石】を持っていたらしく、それで運んだんだって。
 現在尋問中だそうで、ヒマな私はガルドさん以外のいつものメンバーと共に再び森へ行き、薬草やハーブなどの採取を楽しんでいた。

 お昼前、ガルドさんから連絡があって戻ると、村の入り口でニキーダと巨大化したオマルが揉めていた。
 なんでも、近くの街に運ぶことになったんだけど、一回目でも重かったのにさらに重い二回目なんて嫌だとオマルが拒否しているらしい。
 「ちょっとくらい頑張りなさいよ! 本当に使えないわね!」と言うニキーダに、オマルがプンスカと怒っている。
 私が運ぶのは負担がかかりすぎると却下され、グレンが運ぶのは本人が嫌がった。パブロさんが持っている空間石は大人数用で、スピードを出すと壊れてしまうため今回は使えないんだって。

「あ! ねぇねぇ、オマルは重くなければ運んでもいいんだよね?」
『ピギギ!』
「じゃあさ……」

 ブンブンと頷くオマルのために、賊がまとめて縛られているロープに軽量化が付与されたブレスレットを装着してあげる。

「これでどう?」

 私が聞くとオマルはパタパタと一生懸命羽を動かし、ヨロヨロと浮かび上がった。
 ブレスレットでちょっと軽量化されているとはいえ、賊がまだまだ重いのか動かす羽は忙しなく、顔が超必死。

『ピギピギギ!』
『ギリギリいけそうだって』
「ならよかった。帰ってきたらおやつ食べようね」
『ピギー!!』

 おやつに惹かれたのか、一際大きく鳴いたオマルは背中にニキーダを乗せ、飛び立って行った。
 めっちゃフラフラしてたけど大丈夫かな? 頑張れオマル。踏ん張れオマル。っていうか、精霊の子が作ってくれたブレスレットがこんなところで役に立つとは……今度精霊の国に行ったらお礼言わないと。


 尋問したパブロさんによると、賊は殺人などは犯していなかったらしい。天候不順で作物が育たず、国が何もしてくれなくて村を捨てることを余儀なくされたヴァリージェ国の人達。
 流れ流れてあの森に落ち着き、通行人を驚かせて、置いていった食べ物で食いつないでいたそう。食べ物以外に手を付けておらず、保管されていたんだって。

 八百屋のおばさんが言っていた通り、女子供だけの場合は良心から驚かせず、村の対策である乗り合い馬車などの大人数はリスクを考えて驚かさなかった。
 普段なら手を出さない子供である私を驚かそうとしたのは、ここのところ乗り合い馬車ばかりで空腹が限界だったから。
 いい人なんだか悪い人なんだかよくわからない。

 ちなみに、一回目で送られたのは離れた場所で隠れていた賊の家族七名。
 そういえば子供を含む弱い気配がまとまってるところがあったよ。離れてたし、街道から近かったから乗り合い馬車の人達かと思ってスルーしちゃったんだよね。次からは気を付けなくちゃ。

 天候不順はおそらく私が行方不明だったときのパパ達のせいなんだけど……ヴァリージェ国って国交成立パーティーのときにいたペギーちゃんの国だったハズ。
 あのパーティーで得た情報でもペギーちゃんの国は情勢がよくなかったから、さらに悪化したことも考えられる。
 ドヴァレーさんはヴァリージェ国を調べるのにヴィルシル国に協力を仰ぐつもりらしい。
 「戦じゃー!」なんてことにはならないで欲しい……



 一時間ほどで戻ってきたニキーダとお昼ご飯を食べ、私達はようやく村を出発。
 オマルは私が用意したジャムパンを十本以上平らげ、さらにアイスもお代わり。グレンやクラオル達に食べすぎだと怒られていた。
 頑張ったんだからよくないかい? 

 そんなオマルは通常サイズでも飛べるみたいで、今は私のコテージの空間で泳いだり、飛んだり、砂浜に潜ったりと一人遊び回っている。
 ペンギンってさ、滑るように飛ぶんだね。水族館で見た泳ぎのまんま飛んでて驚いちゃった。しかも結構速いんだよ。それにしても……腹ばいで草の上をスケルトンのソリなしバージョンみたいに滑るのは痛くないのかね? 


 足止めされていた時間を取り戻すように進み、森で一泊。
 森を抜けると雰囲気がガラッと変わった。
 もうここから先はヴィルシル国だ。
 シュグタイルハンほどではないものの、草地は青々しさがなくなって枯れ草のよう。例えるなら秋の牧草地とでも言えばいいんだろうか? それとも、収穫前の稲の色みたいな草が生えてるって言えばいい? うん、難しいね。
 体感気温もちょっと上がった気がするけど、暑いわけじゃない。暖かさが増した?

 その理由は野営するときに判明した。
 火山の国と言われているだけあって、地熱を発しているみたい。
 ブラン団長いわく、ヴィルシル国は国土全体がこんな感じで夜でもそこまで冷えないんだって。ただ雨が降ると霧が出やすくなるそうで、濃い霧の中入る温泉がまたらしい。
 それはちょっと楽しみだよね! 私も入ってみたい!


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