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15章
化け物とは……
しおりを挟むさらに街を二つほど通過したころにはドヴァレーさんの息子……ロンヌ君が馬車から顔を出すようになった。
最初は私達を窺うように見つめていただけだったけど、耐えきれなかったのかお昼ご飯の準備中に声をかけてきたんだよね。
なぜ子供なのに大人に混じって行動するのかと聞いてくるロンヌ君は、私の行動が本当に不思議でしょうがないみたい。
「戦いは護衛に、料理は使用人に任せるべきだろう?」
「ん~……そういう考えもあるだろうけど、私も冒険者だし……それに私は大事な家族だけが戦うのは嫌なんだよね」
「大事な家族……」
「そ。例え血が繋がってなくても私は家族だと思ってる。見てるだけなんて、もし何かあったときに絶対後悔する。大事な人だから尚更ね。守りたいから一緒に戦うんだよ。料理は私の趣味みたいな感じ」
「守りたいから……だが危ないだろう」
「そうだね~。でも戦う術がある人が勝算があるだけで、その人だってケガするかもしれないでしょう? 危険なのは誰が戦っても変わらないよ」
「なるほど……そういう考えもあるのか」
「うん。ロンヌ君は護衛に守ってもらうのも仕事かもしれないけど、私は冒険者だからね。生きるためにも仲間を守るためにも頑張るの。強くなれれば大切な家族を守れるでしょう?」
まぁ、頑張ったのは呪淵の森にいたときくらいで、基本的にパパ達がくれたスキルでなんとかなっちゃってるんだけど……これは言わないでおこう。
ロンヌ君はしばしブツブツと呟きながら考え込んでいたけど、何かを決意したかのように顔を上げた。
「……僕は今まで母上にやらなくていいと言われていた……父上ー!」
ドヴァレーさんを呼びながら走り去っていったロンヌ君に首を傾げる。
まぁ、いいか。私は考えを改めるつもりはさらさらない。
それにしても頭ごなしに否定してくるという王妃のせいか、気弱そうな少年だったのにあんな大声出せることに驚いたわ。
そんなやりとりがあったせいか、ドヴァレーさんはその日の昼食時に馬車を降りてこなかった。
それから数日後。何があったのかはわからないけど、夜ご飯の前にロンヌ君のトレーニングが始まった。
指南役はブラン団長とフレディ副隊長。
それを見守る王妃はハラハラとした様子ではあるものの、口を出す気はないみたい。聞いていた印象とかなり違う。
馬車の外での筋トレだからか、その日から王妃も夕食時には馬車から出てご飯を食べるようになった。
ここ最近で一番の驚きはニキーダと王妃がいつの間にか仲良くなっていたこと。
ホント、マジでいつから話すようになったかもわからないんだよね。
私自身は相変わらず自由に過ごしている。
◇ ◆ ◇
そんなこんなでさらに移動して、一番国境に近い村に到着した。
村とは言ってもわりと栄えているみたいで、小さな街と言われても納得してしまう。
村と街の違いを聞いてみたら、領地と人口の数らしい。
ただ、村なのにやたら騎士が多く、警備はしっかりしている。国境が近いからかね?
村の八百屋で買い物をしていたら、店員のおばさんが話しかけてきた。
「あんた達どっから来たんだい?」
「王都からだよ」
「おや。ずいぶん遠くから来たんだねぇ。ってことは街道を通って国境を越えるのかい?」
「うん!」
「悪いこと言わないからやめておきな」
「どうして?」
「あそこの森は夜な夜なレイスが出るのさ」
「幽霊?」
「大昔古戦場だったんだけどね、一昨年天気が荒れた日が続いたんだよ。そしたら……それが治まってきたころ出るようになったのさ……夜中カシャカシャと鎧の音がそこかしこから聞こえ……苦しそうな唸り声まで……レイスに見つかったら最後、ズリズリと闇に呑まれちまうんだ……」
おどろおどろしく話していたおばさんは最後に「ま、聞いた話なんだけどね」とカラッと笑った。
「それは人間じゃないのか?」
「賊だったら見境なく襲うだろう? そうじゃないんだよ。女子供が無事だったり、男の冒険者の遺品が見つかったりとバラバラなのさ。大抵の人は着の身着のまま逃げてくるんだよ。どうしても向かうなら乗合馬車みたいな集団で移動しな。安全って言われてるからね」
「なるほど。助言感謝する」
「はいよー! いっぱい買ってくれてありがとうねー!」
おばさんは元気に手を振って見送ってくれた。
その後も買い物を続けた私達は寄った先々で似たような話を耳にした。
本当に村で噂になっているらしく、国境を通る人はみなこぞって乗合馬車を使っているそう。
宿に戻ってきたブラン団長達も王妃の買い物中にその噂を聞いたみたい。
村の騎士だとレイスに対抗できないため、真相の究明をして欲しいとドヴァレーさんが依頼をしてきた。
おそらく山賊だろうっていうのがみんなの予想。ただ、騎士を動かすと話が漏れる可能性があるため、〝気付かれないうちに手早く頼む〟ってことらしい。
不安がる王妃にニキーダが付くことになり、ジィジ達も待機が決定。ブラン団長とフレディ副隊長は彼らの護衛のために残るけど、パブロさんはこっちに参加してくれるらしい。
件の森はちょっとジメジメしているものの、特に変な感じはしない普通の森。
夕方近かったので急ぎめで進み、野営にちょうどよさそうな場所を発見したところでグリネロに止まってもらう。
うん、幽霊の気配はわからないけど、バッチリ人間の気配はするよね。
人に目撃されないようにか、昼夜逆転生活なのか……街道から離れた場所にまとまっていた。
ちょっと距離があるから気付かれるように声を張り上げる。
「疲れたよー! もう歩きたくないー!」
「しょーがねぇなー、今日はここで休むかー」
「「「ぷっ」」」
私以上に演技が下手なガルドさんは棒読みもいいところ。
ジュードさんとモルトさんとパブロさんが笑いを堪えていた。
うん。ちゃんと気付かれたっぽい。
夜ご飯を終えたころには辺りは真っ暗。ランタンとたき火で明かりを確保する。
何も起きなくてしびれを切らした私が寝る前にトイレと、みんなから少し離れたときに事態は動き出した。
「ヴゥ……」
「え? な、なーに? だ、誰かいるの?」
夜目が利く私にはバッチリ木陰に隠れる姿が見えているため、笑いそうになるのを耐えたら声が震えてしまった。
「ヴゥゥ……」
「大丈夫? 具合悪いの?」
「ヴゥ……オイテケ……」
「ポーションが欲しいのね!」
「チガウ…………クルシイ……ニモツオイテケ」
「まぁ、大変! 苦しいのね! お兄達を呼んであげるわ! ヒールも使えるから大丈夫よ!」
「チガウ……! ヤメ……」
〈ブハハハ! セナ、面白すぎるぞ!〉
「!」
〈よっと〉
私の悪ふざけにグレンが噴き出してようやく、すでに真後ろに立っていたことがわかったらしい。
驚いた本人はすぐさまグレンに昏倒させられちゃったけどね。
それが合図だったかのようにジルとポラルとパブロさんの三人が次々に賊を気絶させていく。
数分で十五人ほど確保された。
「あっけねぇな……っつーか、俺があれを言った意味あったのか?」
「もちろん。あの会話で私達に気づいてくれたんだよ」
「……ならいいんだけどよ……ジュードでもよかったんじゃねぇか?」
「……さ、ロープで縛らなきゃ」
「おい、セナ!」
話題を変えた私を咎めるように呼ばれて振り返ると、ガルドさんの両肩をモルトさんとコルトさんが、ドンマイとでも言うように叩いているところだった。
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