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15章

よそはよそ、うちはうち

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 やしきがなんとかなる目処が立った私達は、予定より少し遅くキアーロ国の王都を出発した。
 ニキーダが「王様達と一緒に行くわよ~」って宣言したため、回避どころじゃなくなったんだよね。まぁ、いい案も浮かばなかったんだけどさ。

 ドヴァレーさん一家、ジィジ達、私達で馬車は三台。ブラン団長達の馬車はなく、馬に乗って並走している。私が結界を張れるから馬車はいらないんだって。
 てっきり、大名行列みたいにゾロゾロと使用人を乗せた馬車が列を作るのかと思ってたんだけど、付いてきたのは王妃とその子供のお世話をする乳母だけらしい。

「意外だね~。もっと大所帯かと思ってた」
「言ってみるもんよねぇ」
「え……ニキーダ何か言ったの?」
「ええ。必要最低限の人数にしなさいって言ったわね」
「わーお。よく了承されたね」
「王族ならマジックバッグの一つや二つくらい持ってるでしょ? 必要なアイテムも料理も入れておけば余計な人はいらないじゃない。そうねぇ……守りきれなくても文句言わないでって言ったのが効いたのかしらね?」

 めっちゃ脅してるじゃんか……
 悪びれもせずに言うニキーダは「そんなことより」と手を叩いた。

「話があるからジルベルトもいらっしゃい」
「……はい。お待たせいたしました。いかがいたしましたか?」
「ジルベルトに代わってもらうこともあると思うけど、道中は基本的にアタシが御者をするわ。だからセナちゃん達はいつも通り好きにすごして大丈夫。ガルド達やジャレッド達も知ってるから、安心して」

 どういうことかと問えば、王妃に合わせる必要がないからってことで、ドヴァレーさんから許可ももらってるらしい。
 依頼料なしで護衛してあげる代わりに、こっちの行動に口出さないって契約書を交わしたそう。
 ニキーダいわく、「よそはよそ、うちはうちよ!」だって。
 まさかこの世界でそのフレーズを聞くとは思ってなかったよ……

「あと、これは重要なんだけど……しばらくアタシのことはママって呼んでね」
「ニキーダじゃダメなの?」
「ちょっと考えがあってね。協力して欲しいの」
「ん、わかった。気を付ける」
「うんうん。いい子ね」

 ニキーダは満足そうに私の頭を撫でた後、御者席に向かっていった。


 お昼休憩の時間、ドヴァレーさんは下りてきてブラン団長やガルドさんと話していたけど、王妃と子供は馬車から下りてこない。
 ニキーダが言っていた通り、ご飯もトイレも何もかも馬車内で済ませるらしい。

 そんな王妃に構わず、私達は普通にお昼ご飯を食べる。
 もっぱら話題はとある人物について。

「あの人に任せて大丈夫だったのー?」
「多分? インプがいるから大丈夫だと思う。サルースさんも協力してくれるって言ってたし」
「あぁ、あのおばあさんねー。ノリノリだったよねー」

 ジュードさんに話題を振られた私は数日前のことを思い出した。



 強制休みとなってベッドから出られず……その翌日にようやく許可が下りて街へ繰り出した。
 建物をぶっ壊すにあたって魔力を使うことを禁止された私は、魔道具に頼ろうととある人物を訪ねた。

 その人は爆発はロマンだと語っていたモヤシ……否。シヤモさん。
 彼が騎士団で修行した結果……魔道具の暴発にも負けない肉体(主にメンタル)を手に入れたんだそう。
 そのせいで対魔物用である爆発の魔道具に魅入り、見つけ次第買い占めてるんだって。

 久しぶりに会ったシヤモさんは少し筋肉が付いて線の細さはなくなっていたものの、色の白さやクネクネと体を動かす姿は変わっていなかった。
 断固拒否! とまではいかないけど、「せっかく集めたのに……」とゴネるシヤモさんに、爆発の規模実験をエサとしてチラつかせると態度を急変させて了承してくれた。

 彼一人だけだと不安なので、インプの監督の下、シヤモさんが魔道具で建物全てを解体する予定である。
 その瓦礫は商業ギルド長のサルースさんが運び出す手筈を整えてくれ、戻ってくるまでには更地になっていることだろう。
 ちなみに、トゥリーさんも強制参加。きっとまた頭を掻き乱すことになるに違いない。



 思い返していた私はグレンの叫び声で我に返った。

〈あー!! もうないではないか! よこせ!〉
「あぁー!? オレっちの肉!」

 人数が格段に増えたせいか、多めに作ったハズのスープは空になってしまったらしい。
 ブラン団長達やジィジ達も足りないみたいで、作り置きのパンを出してあげた。

「これジャムパンね! 美味しいわ!」
「はい! この甘さが後を引きますね。何個でも食べられます!」

 ニキーダとアチャまでパンの山に手を伸ばしては消費していく。
 夜ご飯はもっと多く作らなきゃダメだね……

 ご飯を終えた私達は出発。
 そのままニキーダが御者をしてくれるとのことだったので、私はジュードさんとアチャを誘ってパンやスープを量産することにした。

◇ ◆ ◇

 三日ほど経ったころ、次の街に到着。
 ここで初めて王妃と息子の顔を見た。マジで馬車から一歩も出てこなかったからね。
 気を利かせたブラン団長達が街中の警護を担当してくれるとのことで、私達は別行動を取らせてもらう。
 文句を言われる前で助かったよ……チラチラ見られまくってるけど、スルーだ、スルー。

 私達の買い物はすぐに終わったけど、数日買い物に明け暮れる王妃を待つハメになった。
 なんでも、王族……というか、貴族は立ち寄った街でお金を落とさなきゃいけないらしい。経済を回すためなんだって。


 一度顔を合わせたからか、それからちょこちょこと王妃が馬車から顔を出すようになった。
 それは馬車をしまってグリネロに乗せてもらってるときや、夜野宿スタイルで眠るときなど私が外に出ているとき。
 ものすごく視線を感じるけど、話しかけてくることはないんだよね。
 気にはなるものの、そのまま放置している。

「セナっちー、そっち終わったらこっち手伝ってー」
「はーい!」

 夜ご飯の準備中、ジュードさんに呼ばれてそちらへ向かう。

「今日はセナっちが言ってたさっぱりネギ塩チキンだよー」
「美味しそう!」
「ネギの味付け確認してくれるー? ジルベルトがコショウって言ってたから、コショウは足したんだけど、ちょっと物足りないんだよねー」
「……もうちょっとだけレモの汁入れるといいと思う」
「りょーかい! ……これでどうー?」
「ん~! 完璧!」
「ハハハッ! そりゃよかったー」

 使用人はいないもののブラン団長達やジィジ達の分もあるし、最近はドヴァレーさんまで私達のご飯を食べたがるから毎度作る量は多い。
 串焼きの担当化したグレン、ジル、アチャはもちろん、スタルティも最近は手伝ってくれている。
 この準備時間が結構楽しいんだよね!

◆ ◇ ◆

 笑顔で料理を作るセナをこっそりと覗いていた王妃にスーッと寄っていく影があった。

「ウチの子可愛いでしょ?」
「!」
「ウチの子可愛いでしょ?」

 驚いた王妃にニキーダは同じ質問を投げかける。

「え、えぇ……でもケガでもしたらどうするのですか?」
「そのときはそのときよ。アタシはね、セナちゃんがやりたいことはやらせてあげたいの。あんなに笑顔を弾けさせてることを止めさせたくないわ。さすがに本当に危険なことは注意するけど、あれもダメ、これもダメなんて言ってたらつまらないでしょ? 失敗から学ぶことも多いわ。困ったときに手を差し伸べればいいのよ。一緒に悩んで、一緒に解決するの。それがアタシのやり方」
「…………」
「あなただって小さいころ、ダメダメ言われて『どうして?』って思ったことくらいあるでしょ?」
「……そう、ね……」
「それにあなたは貴族だけど、平民や貧民は生活のために子供も働くわ。それは貧しさゆえ。確かに中には子供を使う親もいるだろうけど、ほとんどの親は働かせたいわけじゃないのよ」
「…………」

 王妃は何か心あたりがあるのか黙ってしまった。
 そんな王妃の肩をポンポンと叩いてニキーダは離れる。
 ――まぁ、セナちゃんの場合、失敗なんてほとんどないのよね。これで考え方を変えてくれればいいんだけど……もう一押し必要かしら? と思いながら。

「ママー! もうすぐできるよー!」

 セナに呼ばれたニキーダは笑顔で手を振り返し、顔を綻ばせた。

◆ ◇ ◆


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