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14章
ドラゴン便
しおりを挟む数日休息を取り、ガルドさん達はパパ達のお使いに出立。二週間ほどで戻ってくるとのことで、この街で待つことになった。
ずっと付き添っていてくれた精霊達も国に戻り、賑やかだった一ヶ月は終わりを迎えた。
精霊達も寂しいと思ってくれているのか、以前より念話が飛んでくるのがちょっと嬉しい。
まず私は商業ギルドを訪れた。
全部終わってからって思ってたんだけど、タルゴーさんにせっつかれちゃったんだよね。
なので一つ目と二つ目のダンジョンから、ガルドさん達が採ってきてくれた食材と素材で作ったものをレシピ登録。
参加したタルゴー商会の職員からタルゴーさんに話が伝わり、ジルが受講者達を実験台にして改良に改良を重ねたどくだみ茶もレシピ登録した。
これは〝怪しげなものや毒物が入っていませんよ〟とギルドに証明してもらうため。
不定期で卸すことになったけど、ジルしか作れないから限定品として扱われる予定だ。
タルゴーさんは美肌とダイエット効果、さらに便秘解消を謳って得意先のご婦人方に売り込むらしい。
どくだみ茶と新しいレシピ、麓の村で買った猿の皮を使った工芸品をタルゴーさんに送ると、感動と感謝が綴られた分厚い手紙が送られてきた。
無事にヌイカミさんと契約もして、送った猿の工芸品も気に入ったみたいで買い付けに行くことが決まったそう。最後に〝あのニャーワンがいい働きをしていますわ〟とオマケ程度に書かれていた。
あの人面猫に追いかけ回されるスパイがちょっと不憫な気がしないでもないけど……自業自得だね。うん。
コテージに籠って実験に明け暮れている間、グレンはよく狩りに行っていた。
夕飯をモリモリ食べるグレンにおねだりしてみた。
「ねぇ、グレン。ニャーベルの街に買い物に行ってきて欲しいんだけど……」
〈ニャーベルはアレがいたところだろう? 買い物はいいがアレは好かん〉
「だよねぇ……」
例え偶然にでもギルマスの娘とは遭遇したくないと顔に書いてあるグレンにどうしようかと悩む。
グレープフルーツの在庫が少ないことに気が付いちゃったんだよね……タルゴー商会に言ったら、送ってもらえるかな?
「ねぇねぇ、ギルドの簡易輸送装置ってどれくらい送れるもんなの? 量とか大きさとか」
〈ふむ……街によって違うから何とも言えん〉
「え? ギルドにあるのって同じじゃないの?」
〈いや、なんて言えばいいんだ?〉
グレンに顔を向けられたジルが「送受信できることは共通ですが、全てが全く一緒ではないのです」と教えてくれた。
街の中でも商業ギルドと冒険者ギルドで容量が違うこともザラにあるそう。送れない場合は一回で送る量を調整することもあるんだけど、基本的には馬車を使って輸送することが多いらしい。
「そっか……じゃあやっぱり自分で買いに行った方が確実だし速そうだね」
〈アレにまた絡まれたらどうする?〉
「適当にあしらうよ。転移で行くから追っては来られないだろうし」
〈……ふむ。我の配下を使うか?〉
「それは申し訳なくない?」
〈セナの役に立とうと人化も練習してたから大丈夫だ。それに前に食わせた分は働かせないとな〉
あ……前に自分がパン食べられなかったこと根に持ってらっしゃるのね。
〈……問題は喋りだな。人族の言葉を話せるやつが少ない。誰を向かわせるか……〉
「(もう決定なのね……)それなら、お店にはタルゴー商会が買いに行ってもらって、買ったものをタルゴー商会から運んでもらうっていうのは? タルゴー商会なら連絡しておけば喋れなくても大丈夫だと思うよ」
〈うむ! それはいいな!〉
目下の問題は街に自然に入れるかどうか。飛来したら〝ドラゴンが現れた〟と驚かれそうだし、追い払おうと攻撃されちゃうかもしれない。
「一番いいのはギルドカードみたいな身分証持ってることだよね」
「そうですね……持っていないとお金を余分に払わせられることが多いですし、話せないとなれば取り調べで時間がかかると思います」
「だよねぇ……文字が書けたらまだ会話ができるだろうけど……」
私がグレンを窺うように見ると、ニカッと笑いながら〈書けんな!〉と断言された。
(ですよね! そうだと思ったわ!)
「……うーん。よし! 全員一気に登録しちゃおう!」
〈ん? どういうことだ?〉
「一回グレンに全員呼んでもらって、揃って登録するの。喋れなくてもグレンなら名前とかその他もろもろ登録に必要なことはわかるでしょ? それを代筆してギルドカード発行してもらおうと思って」
「なるほど。それでしたら、話のわかるギルドがよろしいかと思いますが……冒険者ギルドと商業ギルドどちらで登録なさいますか?」
「あぁ……どっちがいいかなぁ?」
私的にはお金も稼げるし、言葉や文字を学ぶ観点からドラゴン便を仕事にしちゃうのも手だと思うんだけど……それだと仕事に追われそうな気もするんだよね。それにドラゴン達が嫌がるかもしれない。
精霊達やクラオル達にも聞きつつ、どうするか話をまとめていく。
結局、冒険者ギルドと商業ギルドにも話を聞こうと手紙を送ることになった。
相手は……悩んだけどシュグタイルハン国の王都マルマロにある両ギルド。キアーロ国と迷ったんだけど、一度ドラゴンの来襲を目撃してるハズだから話が通じるかなって。
タルゴーさんにもドラゴン達がお使いをするかもしれないことを連絡しておいた。
◇ ◆ ◇
ギルドと手紙のやり取りをした翌日グレンがドラゴン達に会いに行き、その次の日、ドラゴン達全員が商業ギルドに登録。
登録時に名前がないことを知って急遽つけることになったんだけど、いきなり十人の名前なんて思いつくわけもなく……頭を捻って捻ってなんとか名前を決めた。
いや~、むちゃくちゃ大変でめっちゃ時間かかったよ。
商業ギルドの方にした理由は「商業ギルドに登録したら税金などはわたくしがまとめて払いますし、何か素材を持ってきて下されば最優先で買い取りますわ!」とタルゴーさんが言ったから。
さらにすごいのが、数ヶ月に一度商会の仕事を手伝うだけで、文字や言葉、お金の計算などの勉強、報酬とは別に食べ物のご褒美……と内容は盛りだくさん。
タルゴーさんいわく、「セナ様のお知り合いですもの! それにドラゴン便なんて……おそらく世界で初めてですわ! 本当にセナ様は聡明でいらっしゃいますわ!」とのこと。
うん、信者化が激しいね。べた褒めもいいとこだわ。
ドラゴン達は勉強よりも食べ物に惹かれたみたい。
税金をまとめて払うなんてできるのか聞いたら、各ギルドカードにその分入金してくれるらしい。
ちなみに、そういう登録をしておけば、毎月や毎年、二ヶ月に一度など……自動で一定金額を振り込めるんだって。日本の銀行と遜色ないことに驚いちゃったよ。
ドラゴン達には私の知り合いってわかるように、神銀のメダル型ネックレスをプレゼント。グレンの鱗も使ったからか、ものすごく喜んでくれた。
◇
そんなことがあった明くる日、以前話したおじさんドラゴン――一番のアインスさんがグレープフルーツを届けてくれた。
グレンに褒められたアインスさんは〈ヤクニタツ、ウレシイ〉とホクホク顔で帰って行った。
これなら他のドラゴン達も大丈夫そうだ。一応タルゴーさん達にはよく褒めてあげて欲しいとお願いしておこう。
数日後、ガルドさん達が帰ってきてドラゴン達のことを報告しているとき、パブロさんの防犯ブザーネックレスが発動されたのがわかった。
「っ!? 大変! パブロさんが危ない!」
「は? パブロってカリダの街でたすけてくれたってやつだよな?」
「そう! ちょっと行って……」
「待て! 俺達も連れてけ!」
転移しようとしたところ、ガルドさんにガシッと腕を掴まれた。
「行くよ!」
一刻を争うと踏んだ私は未だ結界を張っているネックレス目掛けて転移を行使した。
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