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14章
保護者達の帰還
しおりを挟むそれから約一ヶ月。
グレンにもやしを買い付けに行ってもらって在庫も確保。
ジルはたまにお出かけしていたけど、ある日を境にパッタリと出かけなくなった。
ヒマそうなマッチョも授業に参加するようになり、生徒メンバーの監視をしつつベビーカステラのために頑張っている。
猿族のギルド職員とビキニアーマーのお姉さんはいつの間にか仲よくなり、授業が終わった後一緒に勉強をしているらしい。一回、揃ってどくだみ茶と【ハカールの粉】の餌食になったおかげかな?
授業中に激臭坊主が乱入してきたり、勉強を教えていることを知ったタルゴー商会がノウハウを……と参加するようになったりといろいろあった。
乱入された際に「お礼とかいらないから風呂に入ってこい」と追い返したせいか……今では激臭坊主以外の冒険者達もお風呂に入るようになり、ギルド内の汗臭さは劇的に改善され、心做しか清潔感もアップした。
よく声もかけられるようになって、たまにお土産という名のプレゼントを渡されることもしばしば。
それは薬草だったり、お肉だったり……なかには魔石をくれる人もいた。
お礼を言うだけで、私は彼らに何もしていないのに、ここの冒険者達は太っ腹だよね。
ちょっと面白いこともあった。
ガルドさん達が一つ目のダンジョンから戻ってきたとき、ギルドに迎えに来てくれたんだけど……一階が騒がしくて見に行ったら、ガルドさん達が女性パーティに絡まれてたんだよね。
ダンジョン内でガルドさん達が狩った魔物を「狙っていた」なんて言ってイチャモンを付けた人達らしい。
私が近付いてガルドさんに「ケンカ?」って聞いたら、態度を急変させて「悪かった」とそのときは去って行った。
女性パーティは坊主パーティと仲が悪いみたいで、見かける度にケンカしていた。ただ、私がいることに気が付くとケンカを止めて、笑顔で話しかけてくるの。
豹変具合が面白いんだよ。「てめぇ、このやろう!」なんて言った次の瞬間には、「あら、セナちゃん! 今日も一段と可愛いね! これお姉さんからプレゼント」といろいろくれる。
しかも、しかもね、坊主と仲悪かったハズなのにいつの間にか意気投合してて……なんと結婚したんだよ! 驚きのスピード婚!
さらにそれに影響を受けたのか、パーティメンバーにもカップルが誕生して、今やペリアペティの街の冒険者ギルドは空前の恋愛フィーバー中。
いや~、人生って何があるかわからないよね。
私はガルドさん達が持ち帰ってくれた素材で実験したり、新しい料理を作ったり、休みの日にはみんなでグーさんの森を訪ねたり、精霊達と遊んだり……とわりと楽しく過ごしている。
授業は昨日で終わり、これからは猿族のギルド職員が私の代わりに請け負うらしい。
最終日には試験の応援ってことで、みんなに夜ご飯を作ってあげた。
これには全員が大興奮。作ったコンソメスープはすぐに空っぽになってしまった。
ギルドのおばさんからもものすごーく感謝され、「セナ様のおかげでこの街のギルドは生まれ変わりました」なんてよくわからないことを言われた。
その言葉の真意はわからないけど、授業料を割増してくれたあげく、珍しいという薬草をもらった。
◇ ◆ ◇
今日はガルドさん達が三つ目のダンジョンから戻ってくる。
私達は朝からコテージで慌ただしく新しい料理を作っている。
「戻ったぞ」
「ただいまー」
「あ! 帰ってきちゃった!」
コテージの玄関の方からガルドさんとジュードさんの声が聞こえ、片付けもそこそこにキッチンを出ると、ちょうどガルドさん達もリビングに入ってきたところだった。
「おかえりなさーい!」
「おう、ただいま」
――グゥー。
足に抱きついた私をガシガシと撫でるガルドさんのおなかがタイミングよく鳴った。
「ふふっ。いっぱい作ったからご飯食べよ?」
「助かる。腹ペコだ」
「ご飯の前に自分達はお風呂に入りたいんですが、いいですか?」
「もちろん! その間に準備しとくね」
ネラース達も撫でて労ってあげる。
ガルドさん達はそれぞれの部屋に向かい、私はキッチンに戻って最後のデザートの仕上げだ。
スッキリした顔をして戻ってきたガルドさん達は、テーブルの上の料理に目を輝かせた。
「おぉー! すごーい!」
「お米が食べたいってリクエストだったから、それ系にしてみたんだ~」
レタスチャーハン、醤油味のチャーハン、キムチチャーハン、梅しそチャーハンとチャーハンだけでも四種類。さらに五目ご飯にガパオライス、オムライスに鶏そぼろ丼と用意した。
一応おかずとして餃子や肉炒めも作ってあるし、お味噌汁と中華スープも作ってある。
ネラース達はチャーハンの盛り合わせにしておいた。
なんとも統一感はないけど、ピザをおかずに米を食べる人達だから問題はないでしょう。
実際食べ始めたら味付けをされていないご飯を求められた。
チャーハンおかずに白米食べるってすごいよね……そんなに味は濃くしてないハズなんだけどな……
結局、量で言えばいつもの倍以上は作っていたのにほとんど残らず、その残りもグレンによって食べ尽くされた。
「あぁ……食った、食った」
「おなかいっぱいだよー」
「とても美味しかったです」
「……うん、ありがとう」
「ふふっ。よかった! でもデザートもあるよ? 入らない?」
「それはもちろん食べるよー!」
デザートは別腹! みたいに食い気味で答えたジュードさんから順番に〝ごま団子風ドーナツ〟を配っていく。
あんこがないから〝ごまドーナツ〟の方が正しいかもしれないけど……本当はごま団子が作りたかったから前述の風の方で!
「んまい、んまい! ……いただき!」
「あぁ!! 俺の! お前腹いっぱいって言ってたじゃねぇか! 返せ!」
「へっへー。もうたへひゃっひゃー」
モグモグと幸せそうに頬張るジュードさんは気に入ったみたいで、隣りに座るガルドさんのお皿から奪った。
ケンカをする二人のお皿に追加してあげると、モルトさんとコルトさんもお皿を私の方に移動してきた。
無言の要求に笑いながら、こちらにも入れてあげる。
「もういっちょ!」
「させねぇよ!」
「……うん、美味しい」
「あぁ!? おい、コルト!」
再び奪い取ろうとしたジュードさんを回避した先からコルトさんに盗られたガルドさんはぐぬぬと悔しそう。
相変わらず仲よしだね。
いじられキャラのガルドさんのお皿に二つ入れてあげると、渡さんとばかりに口に詰め込んで……むせた。
「大丈夫?」
「ゴフッ、ゴフッ……だいじょぶだ……」
〈セーナー! ガルド達ばかりずるいだろう!〉
「はいはい。ごめんね。ちゃんとグレンのもジルのもあるよ」
「ありがとうございます」
グレンもジルもバッチリおかわりして、揚げまくったはずなのに、こちらも在庫はゼロになってしまった。
食後は持って帰ってきてもらった素材のチェック。
「お? おぉ! ラー油じゃん! 流石中華ダンジョン!」
「それはルフスが言うから採ったんだけど、あんまり人気ないって聞いたよー?」
「これは料理にちょっとしたアクセントみたいに使うんだよ~。明日試してみようか?」
「そうしよー! 楽しみにしてるー!」
今回はラー油の他に花椒もあった。本当にこの街のダンジョンは中華料理に使うものが多い。
中華調味料……日本で缶やチューブで売ってるペースト状のアレが最初のダンジョンで手に入ったときは万歳三唱したいくらい嬉しかった。
しかも、最近出るようになったというスライム……【シャータスライム】のドロップ品らしくて、プルトンとエルミスが核をいっぱいゲットしてくれたんだよ! 最高でしょ?
あとXO醤と蜜酢ってやつ。XO醤はそのままだけど、黒蜜酢は甘い黒酢みたいな感じだった。
黒蜜酢も最近出るようになった【ブラックズフライ】って蜂と蚊を足したような魔物のドロップ品らしい。
そんなことができるのかはわからないけど、私はスライムとこやつはおばあさんがダンジョンに出現するようにしたんじゃないかと踏んでいる。
おかげで腐呪の森の酢を使わずに中華料理も登録できるからいいの!
細かいことは気にしたら負けよ!
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