上 下
448 / 538
14章

保護者達の帰還

しおりを挟む


 それから約一ヶ月。
 グレンにもやしを買い付けに行ってもらって在庫も確保。
 ジルはたまにお出かけしていたけど、ある日を境にパッタリと出かけなくなった。

 ヒマそうなマッチョも授業に参加するようになり、生徒メンバーの監視をしつつベビーカステラのために頑張っている。
 猿族のギルド職員とビキニアーマーのお姉さんはいつの間にか仲よくなり、授業が終わった後一緒に勉強をしているらしい。一回、揃ってどくだみ茶と【ハカールの粉】の餌食になったおかげかな?

 授業中に激臭坊主が乱入してきたり、勉強を教えていることを知ったタルゴー商会がノウハウを……と参加するようになったりといろいろあった。
 乱入された際に「お礼とかいらないから風呂に入ってこい」と追い返したせいか……今では激臭坊主以外の冒険者達もお風呂に入るようになり、ギルド内の汗臭さは劇的に改善され、心做しか清潔感もアップした。

 よく声もかけられるようになって、たまにお土産という名のプレゼントを渡されることもしばしば。
 それは薬草だったり、お肉だったり……なかには魔石をくれる人もいた。
 お礼を言うだけで、私は彼らに何もしていないのに、ここの冒険者達は太っ腹だよね。

 ちょっと面白いこともあった。
 ガルドさん達が一つ目のダンジョンから戻ってきたとき、ギルドに迎えに来てくれたんだけど……一階が騒がしくて見に行ったら、ガルドさん達が女性パーティに絡まれてたんだよね。
 ダンジョン内でガルドさん達が狩った魔物を「狙っていた」なんて言ってイチャモンを付けた人達らしい。
 私が近付いてガルドさんに「ケンカ?」って聞いたら、態度を急変させて「悪かった」とそのときは去って行った。

 女性パーティは坊主パーティと仲が悪いみたいで、見かける度にケンカしていた。ただ、私がいることに気が付くとケンカを止めて、笑顔で話しかけてくるの。
 豹変具合が面白いんだよ。「てめぇ、このやろう!」なんて言った次の瞬間には、「あら、セナちゃん! 今日も一段と可愛いね! これお姉さんからプレゼント」といろいろくれる。
 しかも、しかもね、坊主と仲悪かったハズなのにいつの間にか意気投合してて……なんと結婚したんだよ! 驚きのスピード婚!
 さらにそれに影響を受けたのか、パーティメンバーにもカップルが誕生して、今やペリアペティの街の冒険者ギルドは空前の恋愛フィーバー中。
 いや~、人生って何があるかわからないよね。

 私はガルドさん達が持ち帰ってくれた素材で実験したり、新しい料理を作ったり、休みの日にはみんなでグーさんの森を訪ねたり、精霊達と遊んだり……とわりと楽しく過ごしている。

 授業は昨日で終わり、これからは猿族のギルド職員が私の代わりに請け負うらしい。
 最終日には試験の応援ってことで、みんなに夜ご飯を作ってあげた。
 これには全員が大興奮。作ったコンソメスープはすぐに空っぽになってしまった。

 ギルドのおばさんからもものすごーく感謝され、「セナ様のおかげでこの街のギルドは生まれ変わりました」なんてよくわからないことを言われた。
 その言葉の真意はわからないけど、授業料を割増してくれたあげく、珍しいという薬草をもらった。

◇ ◆ ◇

 今日はガルドさん達が三つ目のダンジョンから戻ってくる。
 私達は朝からコテージで慌ただしく新しい料理を作っている。

「戻ったぞ」
「ただいまー」
「あ! 帰ってきちゃった!」

 コテージの玄関の方からガルドさんとジュードさんの声が聞こえ、片付けもそこそこにキッチンを出ると、ちょうどガルドさん達もリビングに入ってきたところだった。

「おかえりなさーい!」
「おう、ただいま」
――グゥー。

 足に抱きついた私をガシガシと撫でるガルドさんのおなかがタイミングよく鳴った。

「ふふっ。いっぱい作ったからご飯食べよ?」
「助かる。腹ペコだ」
「ご飯の前に自分達はお風呂に入りたいんですが、いいですか?」
「もちろん! その間に準備しとくね」

 ネラース達も撫でて労ってあげる。
 ガルドさん達はそれぞれの部屋に向かい、私はキッチンに戻って最後のデザートの仕上げだ。
 スッキリした顔をして戻ってきたガルドさん達は、テーブルの上の料理に目を輝かせた。

「おぉー! すごーい!」
「お米が食べたいってリクエストだったから、それ系にしてみたんだ~」

 レタスチャーハン、醤油味のチャーハン、キムチチャーハン、梅しそチャーハンとチャーハンだけでも四種類。さらに五目ご飯にガパオライス、オムライスに鶏そぼろ丼と用意した。
 一応おかずとして餃子や肉炒めも作ってあるし、お味噌汁と中華スープも作ってある。
 ネラース達はチャーハンの盛り合わせにしておいた。
 なんとも統一感はないけど、ピザをおかずに米を食べる人達だから問題はないでしょう。

 実際食べ始めたら味付けをされていないご飯を求められた。
 チャーハンおかずに白米食べるってすごいよね……そんなに味は濃くしてないハズなんだけどな……
 結局、量で言えばいつもの倍以上は作っていたのにほとんど残らず、その残りもグレンによって食べ尽くされた。

「あぁ……食った、食った」
「おなかいっぱいだよー」
「とても美味しかったです」
「……うん、ありがとう」
「ふふっ。よかった! でもデザートもあるよ? 入らない?」
「それはもちろん食べるよー!」

 デザートは別腹! みたいに食い気味で答えたジュードさんから順番に〝ごま団子風ドーナツ〟を配っていく。
 あんこがないから〝ごまドーナツ〟の方が正しいかもしれないけど……本当はごま団子が作りたかったから前述のの方で!

「んまい、んまい! ……いただき!」
「あぁ!! 俺の! お前腹いっぱいって言ってたじゃねぇか! 返せ!」
「へっへー。もうたへひゃっひゃー」

 モグモグと幸せそうに頬張るジュードさんは気に入ったみたいで、隣りに座るガルドさんのお皿から奪った。
 ケンカをする二人のお皿に追加してあげると、モルトさんとコルトさんもお皿を私の方に移動してきた。
 無言の要求に笑いながら、こちらにも入れてあげる。

「もういっちょ!」
「させねぇよ!」
「……うん、美味しい」
「あぁ!? おい、コルト!」

 再び奪い取ろうとしたジュードさんを回避した先からコルトさんに盗られたガルドさんはぐぬぬと悔しそう。
 相変わらず仲よしだね。
 いじられキャラのガルドさんのお皿に二つ入れてあげると、渡さんとばかりに口に詰め込んで……むせた。

「大丈夫?」
「ゴフッ、ゴフッ……だいじょぶだ……」
〈セーナー! ガルド達ばかりずるいだろう!〉
「はいはい。ごめんね。ちゃんとグレンのもジルのもあるよ」
「ありがとうございます」

 グレンもジルもバッチリおかわりして、揚げまくったはずなのに、こちらも在庫はゼロになってしまった。
 食後は持って帰ってきてもらった素材のチェック。

「お? おぉ! ラー油じゃん! 流石中華ダンジョン!」
「それはルフスが言うから採ったんだけど、あんまり人気ないって聞いたよー?」
「これは料理にちょっとしたアクセントみたいに使うんだよ~。明日試してみようか?」
「そうしよー! 楽しみにしてるー!」

 今回はラー油の他に花椒もあった。本当にこの街のダンジョンは中華料理に使うものが多い。
 中華調味料……日本で缶やチューブで売ってるペースト状のアレが最初のダンジョンで手に入ったときは万歳三唱したいくらい嬉しかった。
 しかも、最近出るようになったというスライム……【シャータスライム】のドロップ品らしくて、プルトンとエルミスが核をいっぱいゲットしてくれたんだよ! 最高でしょ?

 あとXO醤と蜜酢ってやつ。XO醤はそのままだけど、黒蜜酢は甘い黒酢みたいな感じだった。
 黒蜜酢も最近出るようになった【ブラックズフライ】って蜂と蚊を足したような魔物のドロップ品らしい。
 そんなことができるのかはわからないけど、私はスライムとこやつはおばあさんがダンジョンに出現するようにしたんじゃないかと踏んでいる。

 おかげで腐呪ふじゅの森の酢を使わずに中華料理も登録できるからいいの!
 細かいことは気にしたら負けよ!

しおりを挟む
感想 1,797

あなたにおすすめの小説

卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな

しげむろ ゆうき
恋愛
 卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく  しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ  おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~

白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」 マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。 そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。 だが、この世には例外というものがある。 ストロング家の次女であるアールマティだ。 実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。 そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】 戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。 「仰せのままに」 父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。 「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」 脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。 アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃 ストロング領は大飢饉となっていた。 農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。 主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。 短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。