上 下
444 / 540
14章

アメとムチ

しおりを挟む


 授業は午後からだと言われたので、先に教室で実力を測るための問題を作成した。
 これは前にアーロンさんの甥っ子姪っ子用にリシクさんが作った計算問題を丸々パクっちゃった。
 お昼ご飯を食べ終わったころ、私の試験官をしたマッチョが入ってきた。
 授業を受けるのかと思ったら、受講者達の監視なんだって。マッチョいわく、「一応徴収はしてるが、真剣にやらないヤツには倍払わせる」んだそう。ギルドも必死だね。

 パラパラと集まり始めた受講者達はマッチョの指示の下、席に着いていく。
 むさいおっさんや若いお兄さんなど年齢層はバラバラ。唯一の女性であるあのビキニアーマーのお姉さんは一番前の真ん中の席で期待の面持ちだ。
 全員が着席したのを確認したマッチョから説明が入ると、私が教えることに驚かれ、さらに罰金の話でどよめきが走った。

「帰りたければ帰っても構わん。ただそうなると、昇給試験は絶望的だと思え。ここにいる資格がないと判断すれば、容赦なく追い出す」

 マッチョが脅したせいで、教室内は緊張感が漂い始めてしまった。
 さらにグレンまで威圧を放ちながら〈セナに何かすれば燃やしてやる〉なんて言うもんだから、受講者達は萎縮しまくりだ。

「真面目にやれば大丈夫だよ。一緒に頑張ろう! まずはどれくらいできるのかわからないから実力テストをするね。解けた人から持ってきて。ちなみに、問題はランダムだから他の人の答えを写しても意味ないよ」

 ジルにテスト用紙を配ってもらって、解けるのを待つ。
 マッチョは教室の後ろで仁王立ちして圧を放っていた。

 五問だけだし、簡単だからすぐに終わるかなって思ってたのに、三十分経っても一時間経っても誰も持ってこない。
 お姉さんは指を使って数えてるし、おっさんなんかウトウトと船を漕いでいた。
 痺れを切らした私が回収すると、驚愕の事実を突きつけられた。

「ね、ねぇ……みなさん数は数えられるんだよね?」
「うんとね、ぶっちゃけ苦手なんだよね。そもそもウチは文字も依頼書を見てなんとなくわかるようになった感じなんだ」

 お姉さんが申し訳なさそうに述べると、若いお兄さんまで「お、おれも……」と小さく手を挙げた。
 他の人達もみな似たり寄ったりで、依頼の内容と違ってやり直しなんてこともあるらしい。
 マジかよ……算数教えるとかそういうレベルですらないじゃんか……確認してから依頼受けなさいよ……
 聞けばギルドで文字を教えてもらえるワケもなく、依頼報酬の詳細が書かれた紙をちゃんと見たことがないそう。
 私、みんなを騙せる自信があるよ……よく今まで大丈夫だったね……っていうか、文字もロクにわからない人達を教えろって無理があるんじゃ……

「……まぁ、依頼受けちゃったからにはやるしかないよね……」
「僕は断ってもよいかと思います」
「そんな! ウチはランクアップしたいんだ! 頼むよ!」

 私の呟きに反応したジルの発言に焦ったのか、お姉さんがガバッと頭を下げた。
 そんなお姉さんを見たジルの瞳がキラリと光った気がした。

「ジ、ジルさん?」
「……そうですか。では覚悟はおありですか?」

 私にニッコリと微笑んだジルが言うと、お姉さんは「もちろんだ!」と叫ぶように訴えた。
 他の受講者にも言質を取ったジルは鷹揚に頷いて、無表情でとんでもないことを言い出した。

「では、危機感を持っていただきましょう。本日中に文字を覚えられなければ、こちらを飲んでいただきます」
「それは……毒か?」
「いえいえ。まさか。こちらはおなかの調子を整えるです。害などはありません。強力ですので、三日くらいトイレに籠ることになるかもしれませんが……体の中のものを出し尽くして健康になれる代物ですよ」

 ジルが掲げた濁った紫色の液体の入ったポーション容器を見た受講者達のノドがゴクリと鳴った。顔がこれでもかと引き攣っている。
 ジルさんそれ……濃縮どくだみ茶じゃん……効果がヤバいって封印したんじゃなかったの?

「そんな恐ろしいもん飲ませるのか?」
「えぇ。覚悟があると仰ったのはあなた方です。貴重なセナ様の時間を無駄にするようなことは許しません。飲みたくないのなら覚えてください。いい大人なのですからできるでしょう」

 ジルの有無を言わさぬ様子にマッチョまで押し黙ってしまった。
 私的には、大人の方が吸収しにくいと思うんだけど……恐怖政治みたいなやり方じゃなくて、もっとやる気を上げさせられたら……

「あ! それなら覚えられた人には私からおやつをあげるよ。出来次第で個数を変えるからね」
「おやつ?」
「あー、えっと……甘いお菓子のこと。見た方が早いかな? これだよ」
〈セナ!?〉

 私がベビーカステラを出すと、グレンに咎めるように名前を呼ばれた。

〈王都でも売ってるだろ。セナが作ったやつをこんなやつらにやることはない〉
「いいじゃん。ご褒美があった方がやる気出るでしょ? 手伝ってくれたらグレンには後で特別バージョン作ってあげるから」
〈む……絶対だぞ?〉
「うん」
「ね、ねぇ……それお嬢ちゃんが作ったやつなの?」
「そうだよ」
「そうか……あの美味いスープを作ったお嬢ちゃんの……そんなの美味いに決まってるじゃないか! やる! やるよ!! 覚えてそれ食べる!」

 手作りだとわかったお姉さんは途端にやる気を上げ、他の人は豹変具合に目を見張った。

 文字を教え始めると、お姉さんに影響を受けたのか全員真剣に取り組みだした。
 食べ物で釣るしか思い付かなかったけど、人参ぶら下げ作戦は功を奏したみたい。
 読むだけではなく書けるようにと、声に出しながら写させる。
 テストのときにウトウトしていたおじさんまで必死の形相だ。

「はい! 今日の授業はここまで~!」

 私が手を叩くと、揃って「ふぅ」と息を吐かれた。お姉さんなんかは机に突っ伏して唸っている。

「みんな一応は覚えられたみたいだね」
「そうですね。とても残念です」
「と、いうわけで、もれなく全員に配ります! 出来高次第って言った通り、個数は違うからね。まず、お姉さん。頑張ったお姉さんは三個ね」
「やったー!!」

 お姉さんは早速一つ口に放り込んで「うっまーい!」と叫んだ。
 それを見た男性陣がバッと私に向かって手を伸ばしてきた。
 それぞれレベルに応じて手のひらに乗せてあげる。

「う、美味い……こんな美味いもん初めて食った……」
〈当たり前だ。セナの手作りだぞ。そこらに売ってるのとは訳が違う。味わえ〉
「もう遅せぇよ……」

 〝もっと食いたい〟と視線を送ってくるお兄さんの視線はスルーして、「明日はお休みにするから、覚えてきてね」と全員に伝えて今日は解散。
 ギルドの受付けで今日の授業料をもらって宿に戻った。


しおりを挟む
感想 1,799

あなたにおすすめの小説

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。