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14章

ランクアップ試験【3】

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 日が陰り始めた時間、突如として岩山が崩れたような轟音が響き渡った。

「「!」」
「……離れてて助かったな」
「ん!? あ! 大変!」
「お、おい! 何してる!」
「ヤバいの! 行くよ!」
「は!?」
「早く!」

 超特急で荷物を片付け、お兄さんを急かして現場へ急ぐ。
 途中、ジルにも念話を飛ばして現地へ向かうように頼んだ。

「間に合えっ!」
「くっ……早ぇ……」
「お兄さん! このまままっすぐだからね! 先行くよ!」
「あ……おいっ!」

 刻一刻と弱っていく気配に祈りを込める。
 私が駆け付けると、小型の猿がわんさか岩山から降りてきていた。
 岩をどかしたいのに、猿が上から岩を転がしてきたり、引っ掻こうとしてきたりと攻撃を仕掛けてくるため触れない。
 人命がかかっているから精霊達も姿を消したまま魔法で応戦してくれている。

――キキッ! キキキキー!
「もう! 邪魔だよ!」
「ハァハァ……やっと……って何だこいつらは!」
「お兄さん、手伝って! 死んじゃう!」
「は!? うおっ! クソッ! オラァァ!」

 追い付いたマッチョが自身に向かってきた猿を片手剣で斬り捨てる。
 離れた位置の猿は精霊達に任せ、目の前の猿を氷漬けにしていく。
 猿の勢いが鈍り始めたころ、ジルが受験者達を伴ってやってきた。

「セナ様! 呼んでまいりました!」
「流石ジル!」

 ジルが声をかけてくれた二組のペアは驚きながらも加勢してくれ、みるみるうちに猿の数を減らしていく。
 ある程度数が減ったところで、私は崩れた岩をどかす作業に入る。
 身体強化を使って岩をぶん投げていると、一人の指先が見えてきた。
 微かに震える指先に急ぎたいけど再び崩れたら困るため、ガンガン魔法が使えないのがもどかしい。

「終わったから手伝うよ!」
「ありがとう! その白っぽい岩があるところにもいるハズなの!」
「はいよ! 力仕事は任せときな!」

 ビキニアーマーのお姉さんはむんずと大きな岩を抱え、持ち上げる。それを見た男性達が率先して大きめな岩をどかしてくれた。
 ほどなくして全身を掘り起こされた二人は血まみれで、問答無用で二人の口にポーションを突っ込む。
 まだ息はある。間に合うハズ!

「ンブッ……ゴフッ……」
「ゴハッ……ヴウ……」

 弱っていた呼吸が大きく息をついてホッと一安心。

「こいつはひでぇ……」
「あ、大丈夫だよ。えいっ!」
「グアッ! ……ウァァ……」

 変な方向に折れ曲がっていた足を引っ張ってまっすぐにすると、手伝ってくれていた男の受験者が「ヒッ!」と小さな悲鳴を上げた。
 二人の骨を正常な位置に戻し、再びポーションを口に流し込む。
 三本目のポーションを飲ませたところで二人共目を覚ました。

「大丈夫? 痛いところない?」
「え……あ、あぁ……」
「おぉ! よかったなー!」

 鑑定でも異常がないことを確認したから、もう大丈夫そう。粉々の骨も元に戻しちゃう素晴らしきポーションよ!
 まだよくわかっていない二人をバンバンと叩いて男性とビキニアーマーのお姉さんが祝福している。集まってくれた人達の顔はみんな揃って晴れやかだ。

 すっかり暗くなってしまったため、今回は特例としてみんなで野宿することになった。
 こっそりとマッチョに結界石とコンロは出すなって言われたから、出していない。そのため、交代交代で見張ることになった。ただ、功労者ってことで私とジルは免除となり、代わりに「興奮して眠れないよ!」と笑うビキニアーマーのお姉さんとマッチョが請け負ってくれることになった。
 プルトンが結界を張ってくれたから安全なんだけどね!

 被害に遭った二人の説明では、野営の準備をしようとしたら、急に上から岩石が降ってきたらしい。
 この森は試験で使われるため、普通の依頼で入る人があまりいないんだそう。そのため、自ずと岩山の方にも人が立ち入らない。
 ギルド職員の見立てでは、数が増えた猿達の縄張り争いに巻き込まれたんだろうとのことだった。数が多かったから説得力があるね。
 私とジル以外は試験である討伐ができていなかったらしいんだけど、猿がEランクだからその場で討伐が認められた。
 生き埋めになってた受験者は、念の為にギルドで診察するとのことで今回は強制送還が決まった。

◇ ◆ ◇

 翌朝、ジルにくっ付いて浅い眠りについていた私は、クラオルからの念話で目を覚ました。
 見張りを免除してくれたお礼にみんなに朝ご飯のスープを配ると、ギルド職員の試験官にまで喜ばれた。

 昨日回収できなかった猿の回収をした後、ぞろぞろと馬車へ向かう。着くと他のメンバーが勢揃いしていた。
 待っていた受験者達は揃って現れた私達を見て驚いたものの、試験官達の話を聞いて納得したみたい。
 一人不服そうな受験者がいたけど、文句を言わないところを見ると、ペリアペティの街ではギルドの立ち位置的なものが高いのかもしれない。
 
 待っていた人達は全員討伐済みだったため、そのまま馬車に乗り込んだ。
 帰りはビキニアーマーのお姉さんが膝の上に乗せてくれたので、馬車にしがみつかなくても落ちる心配はない。
 お姉さんと小声で喋りながら馬車に揺られギルド横の広場に到着すると、グレンが待ち構えていた。

〈セナ!〉
「グレン! ただいまー!」

 駆け寄って抱きついた私を抱え、ケガの有無を確認したグレンは安心したように息を吐いた。クラオル達はいつものポジションに移動して私にグリグリと頭を擦り付けている。

「ふふっ。心配してくれてありがとう。私は大丈夫だよ」
「ウォッホン!」
「あ! まだダメだった?」
「……まぁ、いい。三時間後に結果を発表する!」

 討伐した魔物はギルドで一時預かりとなるそうで、一人一人倉庫に呼ばれた。
 ついでに猿も回収だと言われたので出したら、一緒にいたハズなのにマッチョにまで驚かれた。

「お前……こんなに狩ってたのか?」
「うん。素材考えるどころじゃなかったから、傷んでるのが多いけどね」
「はぁ……そういう意味じゃねぇよ……」
「?」
「……あぁ、いい。なんでもねぇ。三時間後だ。遅れるなよ」
「はーい?」

 よくわからないままシッシッと追い払われた。
 三時間かぁ……何しようかな?
 みんなに聞いてみると、「宿!」と声を揃えられた。

 宿の部屋で精霊達にはフレンチトーストとパンケーキを作り、私達は作り置き料理でお昼ご飯を食べる。

〈約束なら仕方ないが……われだって留守番してたぞ〉
「ん~……じゃあグレンには特別にてりたまバーガー作ってあげるよ」
〈うむ! 肉だな!? われだけ特別なんだな!?〉
「ふふっ。そうだね」

 肉だとわかった途端に笑顔を弾けさせるグレンに笑ってしまう。
 クラオル達とジルにはプリンを出し、グレン用にてりたまバーガーを作ってあげる。
 いつも通りおかわりしまくってたのに、デザート替わりのてりたまバーガーを満面の笑みで食べるなんてグレンくらいだよね。
 グレンが食べている間、私はモフモフさせてもらう。

「あぁ……私の癒し……」
『ふふっ。主様ったらくすぐったいわ』

 お返しとばかりにクラオルがホワホワのしっぽで私の顔をフワッと撫でてきた。
 むふふふ。ん~! 天国! モフモフパラダイス!

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