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14章

ランクアップ試験【2】

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 マッチョのスピードを考えて緩めのスピードで森への中を走る。
 一番近い魔物は前にルフスが黒焦げにした【エギューラビ】だった。これはGランクの魔物だから対象外だ。
(まぁ、いいか。狩らなかったら狩らなかったで、なんか言われそうだし)
 いざ水魔法をお見舞いしようとしたらプルトンに止められた。

《((セナちゃん! 一応適当に呪文唱えた方がいいわ))》
「((え……マジで言ってる?))」

 あの厨二病みたいな一節を言わなきゃいけないの? 恥ずかしすぎるんだけど……

《((完全無詠唱じゃない方がいいと思うの。あいつが信用できるかわからないから、念の為よ、念の為))》
「((わかった))えーっと、えと……水球!」

 文面が思い付かなくて、勢いに任せたら単語になってしまった。完全無詠唱じゃないからギリセーフってことにしよう。
 溺死した兎を回収して、次の魔物へ向かう。

 ……なぜ?
 倒した【ホーンラビ】をしまいながら首を捻る。
 遭遇するのは兎ばかりで、これで四匹目だ。Dランク以上って言ってたから、てっきりそれくらいのランク帯が多いのかと思っていたのに、どうやら違うらしい。
 大変って探すのが大変ってこと? これはピンポイントで狙わないと、日数が伸びそうだね……
 ちょっと真剣に気配を探る。するとさほど遠くない場所に強そうな個体を発見した。
 なんで今まで気が付かなかったのか……ってくらい兎とは明らかに異なる。
 これは期待できそうだね!

 気合いを入れて走ること十分。
 現れたのは黒いオークだった。
 オークはDランクだからランクもバッチリクリアだ。

「トロ水!」
――ブモオオオオオ!
「わぉ……マジか」

 いつも通りにトロトロ水魔法ですぐに終わると思ったのに、いち早く察知されて魔法で相殺されてしまった。
 今のは闇魔法っぽいな……闇には光が効果的ってのがセオリーだよね。ちょっと実験してもいいかな?
 精霊達と念話で話しながらオークと睨み合っていると、お兄さんが遅れてやってきた。

「なっ!? ブラックオークだと!? おい、無理だ! 離れろ!」
「お兄さん、目閉じて!」
「は!?」
「いいから! いっくよー! フラッシュビーム!!」
――ブモッ!?
「ぬあ゛っ!!」

 フラッシュはフラッシュでもイメージは太陽光線。
 ビーム状に発光させた光魔法で、怯んだオークの足元に一瓶のローションを投げつける。
 滑って転んだオークがもがいている間に水魔法を投げつけて溺死させた。

「うぅ……強すぎて目がチカチカする。もうちょい抑えないと自滅しちゃう……((ごめんね、大丈夫?))」
《((目、目が開けられないわ))》

 私と同じく目がやられた精霊達に【ヒール】をかけてあげると、復活したプルトンにブシブシとほっぺをつつかれた。

「((ごめんね。張り切りすぎたみたい))」
《((んもう、セナちゃんったら! フレンチトーストもなくちゃ嫌よ?))》

 そんなんで許してもらえるなら、戻った後いっぱい作ってあげよう!

「う、あぁ……ど、どうなったんだ? 無事か?」
「あ、お兄さん。ちょっと待ってね」
《((ポーションを渡して誤魔化した方がいい))》

 光魔法使った後だから意味がない気がするけど、エルミスが言うならその方がいいのかな?

「はい、お兄さん。これ飲んで? 零さないように気を付けてね」
「は?」
「目、治るから」

 目をシュパシュパさせていたマッチョがグイッと一気飲みしたタイミングに合わせて【ヒール】をかけてあげる。
 治ったらしいマッチョはパチパチと瞬きした後、目を見開いた。

「んあ!? あれ倒したのか!?」
「え? あぁ、うん」
「はぁぁぁぁ……なんつー子供だよ……(ブラックオークってBランクだぞ……)」
「大丈夫?」
「……大丈夫だ。オレのことは気にするな」

 目頭を押さえたから頭でも痛いのかと思ったんだけど、そうではないらしい。
 気を取り直してオークを回収したら、今夜泊まる場所探しだ。
 馬車が止まっている森の入り口に向いつつ、薬草を採取すること二時間。ちょっと開けている場所を見つけた。

「お兄さーん。ここに泊まるから、ちょっとこっち来て~」
「お前なぁ……手助けしないと説明……」
「結界石の中にいたらお兄さんも安全でしょ? 置いてくるからちょっと待っててね」

 視線を感じる中結界石を設置したら、野営の準備だ。
 焚き火を燃やし、ラグを敷く。作り置きのスープでもよかったんだけど、時間があるから採った薬草で簡単に作った。
 普通のことしかしてないのに、マッチョがいちいち目を丸くするのが面白い。

「頑丈な結界石だから心配ないさ~。ちょっと早いけどお兄さんも一緒に食べようよ~」
――くぅぅぅー。
「いらん」
「ふふふ。めっちゃ可愛くおなか鳴ってるじゃん。お昼ご飯も干し肉だけだったでしょ? 結界石で安全だし、これで有利になるとか思ってないから。食べてるところ見られるのが気になってしょうがないんだよ。はい、こっち座ってね~」

 無理矢理座らせ、一口ひとくちコンロで作ったコンソメスープを渡すと、マッチョの目がスープに釘付けになった。
 再三おなかに訴えられて折れたらしい。「オレは甘くないぞ」なんて言ってたのに、食べたら「おかわりしていいか?」と聞かれた。

「ふふっ。いいよ、いいよ~。あのお鍋好きなだけ食べていいよ」

 眉を八の字にして聞いてくるマッチョに笑ってしまう。

「いつもこんなウマいもん食ってんのか?」
「そうだね~。基本はグレンがいっぱい食べるから毎回作ってるよ」
「グレンってあの男か」
「そそ。ちょっと心配性だけど可愛いでしょ?」
「可愛いくはないだろ……(心配する気持ちはわからんでもないな)」
「ん? なーに?」
「なんでもない。お前はもう食わないのか?」
「うん。お兄さんがいっぱい食べるかと思って作ったから、全部食べても大丈夫だよ」

 いっぱいとは言ってもいつもの半分ほど。
 マッチョは何回も私に確認して、結局鍋を空にした。

「暇だねぇ……」
「お前なぁ……緊張感はないのか? 野営だぞ? 何があるかわからないだろうが」
「道具禁止とか魔法禁止だったら警戒もするけど、禁止なのはテントだけでしょ? 結界石置いたし……それにこの森、そんな強い気配しないじゃん」
「(さっきの目潰しの魔法といい、子供とは思えねぇセリフだな……)」

 グレン達には念話で報告しちゃったし、マッチョがいるから精霊達とも遊べない。

「ねぇねぇ。お兄さんはダンジョン入ったことある?」
「あるが……なぜそんなにダンジョンに入りたがる?」
「面白いじゃん。何より、食材だったら新しい料理作れるよ!」
「……メシかよ!? そんなもん買えばいい。コンロといい結界石といい、金持ってんだろ?」
「違うんだよ~。今まで見向きもされてなかったものが何かに使えるかもしれないじゃん? 料理じゃなくて道具とかでさ。そういうのを発見するのが楽しいんだよね」
「ふーん? よくわからんが、お前が変人だということはわかった」
「ひどいなぁ~」

 マッチョは手をヒラヒラと振って話を終わらせた。
 再び手持ち無沙汰になってしまった私は久しぶりに薬草図鑑を開いた。

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