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14章

霧は幻を連れてくる

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 感覚がなくなっていく中、耳が声を拾う。

――「ねぇねぇ、セナさんから手紙きた?」
――「……いや。前にきたきりだ」
(この声はパブロさんとブラン団長?)
――「今どの辺にいるんだろうね?」
――「セナだからな……わからん」
――「会いたいよー! 癒しが欲しいよー!」
(そういえばお手紙出してないや……パブロさんは声がお疲れっぽいね。大丈夫かな?)
――「それは俺も同じだ。それよりアレはどうなった?」
――「あぁ、それは……」

 視界は相変わらず白いモヤで見えないのに、パブロさんとブラン団長の声だけ聞こえてくる。
 二人の名前を呼んでみても、話に割り込むように遮ってみても反応は返ってこなかった。
 この状況はなんなんだろうか?
 ブラン団長達の会話は私がいるときには絶対しないだろう仕事の話だ。途中からフレディ副隊長も合流したみたいで、三人の会話を盗み聞きしている気分になってくる。
 現在、過去、未来どれとも受け取れるし、嘘か誠かもわからない。

〈……ナ! セナ!〉
(ん?)

 ふとグレンの声が耳元に響き、体を揺すられた。
 スーッとモヤが晴れたと思ったら、私を心配そうに見つめているグレンと目が合った。

「グレン?」
〈よかった……気が付いたな〉
「あぁ……セナ様。体調など違和感はございませんか?」
「んー? うん。何ともないよ。ただちょっと……グレン達はなんともなかったの?」

 聞くと、グレンは会いたくない人物に、ジルはスタルティに会ったらしい。音声だけだった私とは違って、二人共いつの間にか現れたその人物達に話しかけられて対話をしたそう。

《グレンやジルベルトには話してあるが、それはあの花が原因だ。あれは【幻灯花】。滅多に咲かない霊草だが、花開いた瞬間に近くにいる者をいざなう》
「あぁ……なるほど」

 エルミスいわく、あのモヤを吸い込むと幻を見るそう。人によって見る内容は違っていて、私みたいな声だけパターンは珍しいとのこと。ただ、幻は一時的なもので、時間を置けば自然と消えるらしい。
 思い出して吸わないように言ったときには遅かったと謝られてしまった。何か言ってるな~って思ったのはそれだったみたい。

《この花はすっごく珍しいの! どういうタイミングでどこで生えるかわからないのよ。本当、セナちゃんと一緒にいると面白いことだらけだわ!》
「……それ、褒めてる?」
《もちろん! 収穫しましょ? セナちゃんなら扱えるはずよ》
「私なら?」
《そう。セナちゃんは作ってるから慣れてるでしょ?》
「あぁ、そういうことね」

 花そのものに危険性はなく、素材としては滅多に出回らない超高級品なんて聞いちゃったら摘むに決まってるよね。
 いつの間にか四本に増えていたアヤメのような花を三本だけゲット。残りの一本はまた生えるように残しておいた。

《明日は多分動けないわ》
「え?」
《幻灯花は霧を呼ぶとも言われているのよ》
「へぇー! そうなんだ」

 気になるなら見てみるといいとプルトンに言われ、入り口まで見に行ってみた。
 首しか出してないけど、すでに外は視界ゼロの真っ白な濃霧。
 足場の悪い外で野営してなくてよかったかもしれない。

◇ ◆ ◇

 翌日、いつもよりちょっと早めに起きた私はすぐに外をチェックしに向かう。

「おぉ~! キレイな雲海!」

 若干まだ霧は残っているけど、そんなのが気にならないくらい下に見える雲海は幻想的で美しい。
 そうだったらいいなと思ってたけど、実際に目の当たりにすると感動モノだね!
 プルトンが言ってた通り、今日は動かない方がよさそうだ。
 眼下に広がる光景に魅了された私は、痺れを切らしたグレンが呼びにくるまで壮大な雲海を眺めていた。

「あれ? そういえば残しておいた花は?」
《明け方に散ってしまった》
「マジか。数時間しか持たないの?」
《謎に満ちている花だからわしらもわからぬ》
〈セーナー!〉
「はいはい。すぐ作るから待って」

 ご飯を食べてもグレンは昨日見させられた幻のせいでちょっとご機嫌ナナメ。
 精霊達によると、見る幻は人によって異なり、トラウマを刺激されることもあるんだって。
 毒じゃないし、状態異常とも違うから耐性を持っていても関係ないんだそう。音声だけだったのは私がパパ達全員の加護を持っているからじゃないか……っていうのがエルミス達の予想だった。

 いくら幻でも大嫌いな虫が出てきたら発狂してしまう気がする……
 グレンがそんなに嫌がるなんてどんな人物か気になったけど、話題にするのも嫌がられて詳しく聞くことはできなかった。

われのことよりセナだ。何を聞いたんだ?〉
「えっとね、ブラン団長達のお仕事の話だったよ。警備がどうのって話してた」
〈ふーん? ジルベルトは?〉
「僕はスタルティ様に『遊びに行くことになったが、面白い場所はあるか?』と聞かれました」
「それなんて答えたの?」
「ピリクの街のタルゴー商会の工房をオススメしておきました。セナ様の案が随所に用いられておりますので」
「か、観光地的な話じゃないんだね……」

 スタルティの幻にまで信者発言してたなんて……いくら幻でも言われたスタルティは困っただろうな……

「それはぜひ一度見てみたいとおっしゃられていました」
「……マジか。もっとこう、お花畑とかキレイな景色とか……見て楽しいところがいいと思うんだけど……」
「充分見て楽しいと思いますよ?」
「そっか……」

 ジルはさも不思議そうにコテンと首を傾げた。
 今日も絶好調に信者ですね!
 本当にスタルティが来たら別なところに案内してあげよう。うん、そうしよう。観光地聞いておかなくちゃ。サルースさんあたりなら詳しいかな?

〈暇だな……セナ、リバーシ!〉
《私達はダーツがいい!》
「はーい」

 ニヴェス達にはボールを渡し、私はクラオルとグレウスをモフモフしながらポラルと服のデザインを考える。

『あら! 可愛い! 珍しくスカートなのね!』
「うん。シュティー達が好きそうでしょ?」
『主様は着ないの?』
「いや~……甘ロリもゴスロリも私にはハードルが高いかな」
『似合いそうなのに残念ね……主様のは考えないの?』
「私の? パパ達からもらった服があるし、ポラルがパーカー作ってくれたからなぁ……」

 RPGの序盤で出てきそうな服はこの世界にも売っている。でもパパ達のチート服の性能を考えると……わざわざ買う必要性を感じない。
 日本で着ていたもので作ってまで着たい服も特に思い浮かばない。
 動くことが前提だからロングスカートやヒールは向いていないんだよね。
(クラオルが言ってるのって可愛い系でしょ? ジャージは可愛くないから……ヒラヒラしてないものっていうと着ぐるみとか?)

「でも動きにくい……」
『主様なーに?』
「あ、何でもない。おばあちゃんが着てたアオザイみたいな服なら着たいかな」
『あぁ、あれも似合いそうね』

 誤魔化されてくれたクラオルはそれ以上ツッコんでこなかった。

◇ ◆ ◇

 魔物を狩りつつ岩山を登り、途中から山肌を沿うように進むこと二日。峠を越え、下り始めてから一昼夜、ようやく麓にある村が見えてきた。
 見えてきてからが長くて、村に着くまでにさらに一泊することになった。

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