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13章

オマージュらしい

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 翌朝、宿を出ると活動している人は多いものの、昨日とは一変してあの曲は聞こえてこなかった。
 冒険者ギルドに寄ってネルピオじぃにそれとなく聞いてみた結果、昨日とは少し内容が違っていた。
 村から伝わったところはそのままだけど、〝簡単に口に出していいものではない〟という解釈になったらしい。村への観光は神聖視され、創世の女神の巡礼地みたいな扱いなんだそう。

 なんか思ってたのと違ったけど、昨日みたいに街のそこかしこで楽しそうに大声で歌われるよりはマシ……だよね?
 あんまり深くツッコんでパパ達がいじったネルピオじぃの記憶が混乱しても困るし、これはそっとしておいた方がよさそうだ。


 ギルドを出た私達は昨日買い物できなかった商会にお邪魔した。
 商会長に頼んで、お店の中を案内がてら新しく取り扱うことになったものを教えてもらう。

「あ、これ……」
「ここここちらは秘密箱となっておりまして、こここのように……開けると収納ができますです」
「……あぁ! なるほど。へぇ~、こういうの面白いよね」

 どこかで見たことあると思ったけど、見た目もからくり箱なところも箱根の寄木細工にそっくり。この世界にも工芸品として類似品があるなんて驚きだ。
 商会長いわく、動かす順番や場所が職人によって違うそうで動かし方を忘れると大変なんだとか。
 これ魔道具化して、魔力通したら勝手に動いて開く……なんてなったら面白くない?

「これさ、模様が綺麗だから表面薄く削って違うものに貼り付けたら可愛い小物もできそうだよね。もしくはピアスとかで普段は四角いけど、細工を動かすと違う形になるなんてのも惹かれるかな」
「!」

 箱根にはそんな感じでストラップとかキーホルダーとか売っていたのを見かけた記憶がある。ピアスは今思い付いただけ。実際にそういうのが現地にあったかもしれないし、ないかもしれない。
 私が行ったときは……食べ物ばっかり見てました。職人さんごめんなさい。

「それは素晴らしい案です! それが可能でしたら価格も抑えられます! 小物と仰っておりましたが、具体的な構想はございますか?」

 私の発言に商会長は目を輝かせて質問攻めしてくる。
 三人で話している間、グレンは興味なさそうにアクビをしてるし、プルトンとエルミスは部屋の中を飛び回って鑑定をかけまくっているみたい。

「仕掛けトラップなどがあれば防犯にもなりますね。可能ならば貴族が諸手を挙げて買うでしょう」
「なるほど! なるほど!」

 ジルさん……それもう工芸品レベルじゃないと思うんだけど……
 恐縮して噛みまくりだったのに、商人として惹かれたのか、メモ帳を片手に聞いてくる商会長の顔は生き生きとしていた。
 ジルがボソッと「針などを隠せる小物があれば……」なんて言っているのが聞こえ、それは全力で止めた。暗殺なんかに使われたら工芸品が泣くよ。

「ちゃんと技術に対価を払ってあげてね」
「もももちろんです! お、おお時間取らせてしまい申し訳ございません。つ、次の部屋は薬草やポーション、ハーブがまとめられております」

 まだ噛んではいるものの、ちょっと慣れたのか前ほどビクビクとされなくなった。
 みんなが気になったものや見たことのないもの、ガルドさん達やブラン団長達へのお土産も買い、予想以上の量になってしまった。



 お昼の時間を過ぎているけど、私はそのまま勘を頼りにおばあちゃんのお店を探す。昨日ガイアにぃに言われたんだよね。
 メイン通りから外れ、裏通りの小路を進んだ先にそれはあった。
 相変わらず目立たないように細工されているけど、放つ雰囲気が正解だと物語っている。
 ドアを開けた瞬間、魔女おばあちゃんの笑い声が響き渡った。

「ヒャーッヒャッヒャ! 待っておったよ」
「おばあちゃん、こんにちは。今日はどうしたの?」
「ヒャッヒャッヒャ。久しいの。焦らずともよい。こっちへおいで」

 手招きされるままカウンター裏のティールームに入った。

〈セナ〉
「あ、そうだね。私達お昼ご飯まだなの。おばあちゃんも一緒に食べよ?」
「……ヒャーッヒャッヒャ! それはご相伴にあずかりたいの」

 虚をつかれたように目を丸くしたおばあちゃんは一際声を大きくして笑った。
 今日は日本でお世話になったイタリアンファミレスをイメージして、メインはディアボラ風チキンとハンバーグだ。
 おばあちゃんはテーブルに広げられた料理を見て嬉しそうに目尻を下げた。
 みんなでいただきますをしてから食べ始める。

「これもコレも……セナの料理はいつも絶品じゃの」
「よかった。サラダとサーモンのカルパッチョも食べてね」

 おばあちゃんは意外にもお肉料理の方が好きみたいで、鶏肉をおかわりしていた。
 デザートはバニラアイス付きコーヒーゼリー。グレンとジルのは甘めに作ってある。
 おばあちゃんの淹れてくれた紅茶を飲み終わったころ、「さて、そろそろ本題に入ろうかね」と声がかけられた。

「ガルド達との連絡手段じゃ」
「おおおぉ!! できるの!?」
「ヒャーッヒャッヒャ。その前に……セナとジルベルトはギルドネックレス、グレンは……そうじゃな、従魔の首輪を渡してもらえるかの?」
われもか?〉
「グレンもいざというときに連絡が取れた方がいいじゃろう」

 おばあちゃんは私達から受け取ったネックレスを片手に乗せて何か呟いた。その途端、手の平にボッと黒い炎が燃え上がった。

「えぇ!?」
〈おい! 何する!〉
「ヒャッヒャッヒャ。落ち着け。大丈夫じゃ。まぁ、見ておれ」

 立ち上がったグレンを強制的に座らせたおばあちゃんは、もう片方の手を炎にかざす。すると、ネックレスが炎を纏ったまま宙に浮かび上がった。
 炎は段々と球体状になり、クルクルと回転しながらそれぞれの持ち主の前へ。
 移動してきた球体は徐々に小さくなって、最後はネックレスに吸い込まれるようにして消えてしまった。

「わっ!」

 浮力を失ったネックレスが落ちてきたのを慌ててキャッチする。

「ヒャッヒャッヒャ。それに連絡を取りたいと想いを込め魔力を通せばよい」

 試しに魔力を流してみると……メニュー画面のような半透明な板が現れた。
 それは日本にいたときに毎日のように使っていたチャットアプリのようで、私の顔は一瞬にして引き攣った。

「これはスキルではないゆえ、ステータスには出ん。名付けるなら……そうじゃな……魔力通信。魔通とでもしておこうかの」
「おばあちゃん……これパクリじゃ……」
「ヒャーッヒャッヒャ! セナの希望を叶えるために参考にしたことは確かじゃが……オマージュじゃオマージュ」

 ものは言いようだね……
 どうやって使うのかを聞きながら、操作の確認をしてみる。
 まずは登録者を選択。キーボードはなく、念話をするように意識を向けると、それが文字となってチャットみたいに送信されるそう。
 グループルーム機能もあり、大人数でのやりとりが可能。さらに上部にある黒電話マークを押せば、電話のように念話で会話することもできるらしい。
 ただ、念話中はずっと魔力を流していなければいけないため、ガルドさん達とはあまり長い時間はできないだろうとのことだった。
 通話とチャット特化型ってとこかな? 確かに、写真機能がないから登録者は名前だけだし、魔力を使う点からオマージュと言えなくは……ない?
 この世界の創造神であるおばあちゃんが是とするなら是となるのかもしれない。違う世界だしね。

「先ほどの茶を飲んだセナ達ならば、連絡がきたら本人にはわかるじゃろう」
「え……?」
「ヒャッヒャッヒャ。作った薬を混ぜておいたからの」
「マジか……それならそうと言ってくれればいいのに……」
「ヒャーッヒャッヒャ!」

 おばあちゃんはイタズラが成功した子供みたいに笑うだけ。

〈ガルド達が念話スキルを持てば済む話だろう〉
「そう思うたが、ジルベルトとは違って取得までに時間がかかる。それに一人、スキル取得ができなさそうなのがいての。仲間外れは可哀想じゃろ?」
「なるほど。でもよかったの?」
「パナーテルの詫びじゃ。すまんかったの」

 お礼を言う私の頭をおばあちゃんは優しく撫でてくれた。



 夜、ガルドさん達から魔通の返事がきて試しに通話してみたら、五分ほどで強制終了となった。
 その後すぐにチャットが飛んできて、大事には至らなかったけど魔力消費が著しいことがわかった。

 ガルドさん達とも繋がれたし、会いたかった人にも会えた。
 明日からどうしようか? 急いでないからゆっくり東を目指そうか? それとも、ブラン団長達に挨拶しなかったから一度キアーロ国に戻る? 明日みんなに聞いて決めようかな。



--------キリトリ線--------

 一応これでこの部は完結です。
 

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