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13章
モフモフ療法
しおりを挟む戻ってきたグレンはホクホク顔でプルトンに指示を出し、結界でテーブルを作らせた。
〈セナも食べるだろ? フルーツ串が売ってたから買ってきたぞ〉
「ありがとう。フルーツなら食べようかな?」
〈ジルベルトも食べろ〉
「ありがとうございます」
グレンが買ってきた屋台料理は日本でいえば縁日料理の部類みたい。
普段見かけないフルーツ串や分厚いステーキ串、野菜串に砂糖コーティングされたパンの串……なんてのもあった。買い出し人の好みのせいで、それ以上に肉系の串焼きが大量なんだけどさ。
聞いてみたら、皿料理やスープ、果実水も売ってはいたらしい。
〈普通の料理はセナが作ったやつの方が美味しいからな。片手間に食べられるやつにした〉
「なるほど……それでこのラインナップなのね」
クラオルやプルトンに言われずともみんなの分も買ってきてくれたことにグレンの成長を感じる。
うん。そっちのが重要だよね。前だったら絶対全部肉だったもん。
ネルピオ爺が言っていた通り、街全体に人が増えている。まさかあの件が旅行者を呼ぶことになるとは思っていなかった。
どっちかっていうと倦厭されそうなのに……何がキッカケになるかなんてわかんないもんだね……
「セナ様、始まるようです」
「はーい」
ボーッと広場の人混みを眺めていたらジルから声がかかった。
視線を向けると、既に広場の中央にはRPGに出てきそうなマントにトンガリ帽子を被った人物が、琵琶みたいな楽器を構えていた。両サイドにはシンプルながらも露出の激しい踊り子みたいな人までいる。
――ポロロロン~♪
「昔むかし~の大昔~危~機を救った創世の女~神様は~巡り巡り~感謝を忘れ~た村人に~呪いをかけ~♪」
特徴のある歌い方で弾き語る吟遊詩人の回りで、踊り子がゆったりとした動作で動き始めた。
歌は村の伝承から始まり、旅人に助けられたことと物語は進んでいく。私が村長に聞いた昔話を簡略化した感じだ。
「眠り~につく~と~もう目覚めない~絶望の~闇に呑まれしとき~女~神の使い現れた~♪」
――ポロロロ~ン♪
ところどころ端折ってるハズなのにメロディーに乗せてるせいで長い。
特に後半の歌詞のせいで私のメンタルはゴリゴリと削られていく。
無意識に食べるスピードが上がっていたらしく、掴もうと思って伸ばした手が空を切った。
あ! イチゴ串もピーチ串もなくなっちゃった……残ってるのは肉と野菜……無限収納のグレープフルーツでも食べようかな?
吟遊詩人いわく、あのラブバラードは女神の使いが人々のために歌った曲ってことになっているらしい。
いつの間にか観客まで吟遊詩人に合わせて歌い始め、大合唱が広場に響き渡っている。
「あーぁ……なんだかなぁ……コルトさんとの思い出だったのに……」
私の呟きは歌声にかき消されたけど、クラオルだけはスリスリと慰めてくれた。
曲が終わると、広場は溢れんばかりの拍手に包まれた。
今回の出し物はこれで終わりみたいで、集まった人々はそれぞれ感想を述べながら置かれている箱にコインを入れて去っていく。
グレンもジルも満足そうだけど、私は精神がボッコボコだよ。
◇ ◆ ◇
明くる日、やさぐれた私は癒しを求めてクラオルファミリーに会いに飛んできた。
グレンが狩りに行っている間、私はひたすらファミリー達を愛でている。
「はぁ……モフモフって素晴らしい……可愛いねぇ。モフモフだねぇ~」
私がデレデレと頬ずりしているオレンジ色の子もスリスリと寄ってきてくれるのがたまらない。
グデーっとラグの上に横になっている私の周りではクラオルファミリーが寛いでいて、それもまた癒される。
ふわふわに囲まれた私はあまりの気持ちよさに睡魔に誘われるまま眠りについた。
◇
「セナさん、セナさん」
「……ん?」
呼ばれながらほっぺをツンツンとされて目を開けると、視界いっぱいにガイ兄のドアップで心臓が止まるかと思った。
「!」
「セナさん大丈夫ですか?」
「あれ? パパ?」
驚いて息を呑んだ私の耳元でエアリルパパの声が聞こえた。
何故私はエアリルパパの膝の上で抱えられているのかな?
問いかけると、ちょっと話がしたくて眠った私の精神を呼んだらしい。
「セナさんが嫌がっているから、少し村人達の記憶をいじろうかと思ってね」
「本当!?」
「うん。でも根付いているから、完全に記憶を消すことはできないんだよ。私達ができるのは関心を薄くすることくらい。じゃないと齟齬が出て混乱を招いてしまうからね」
「なるほど……でもこのままより断然いい!」
「それなら任せてもらってもいいかな?」
「うん! お願いします!」
関心が薄くなったらこんなに気まずい思いをしなくて済む。観光客は減っちゃうかもしれないけど……彼らが言う女神の使いが嫌がってるってことで許してもらいたい。
違う世界だから逢えないだろうけど、もしこの世界にあの御方達が転生とかしたら土下座して謝ります!
◇
パパ達とのお話が終わった私が目を覚ますと、クラオルファミリーもジルもすぐ近くで眠っていた。
モフモフに囲まれて眠るジル。
何この破壊力抜群の可愛さは! 写真撮りたいけどないから心のメモリーにしっかり保存しないと!
夕暮れまで素晴らしきモフモフ達に癒された私は、キヒター達にも会いに教会にも寄ってささくれだった心が温まった。
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