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13章
女神賛歌
しおりを挟む宿の朝食中にみんなに聞いた結果、ベヌグの街へは転移で向かうことになった。
理由は……普通に向かうとこの街からでも時間がかかるから。私は別に気にしないんだけど、クラオルいわく、ガイ兄がそうした方がいいって言ってたらしい。
途中の街とか村で何かあるのかね?
「じゃあ飛ぶよ~?」
〈うむ〉
「はい。お願い致します」
ラゴーネさんにはしばらく出かけることを伝え、私は宿の部屋で転移魔法を行使した。
作った中級のマジックポーションを飲みながら何回も転移を繰り返し、ベヌグの街の近くで馬車に乗った。
ちょうどタイミングよく前回もお世話になった門番の兵士さんで、並んでいる人達の順番を抜かしたあげくに顔パスだった。
街自体は人が多い以外に特に変わった様子はなかったんだけど……
「……とりあえずギルドに行こう」
ギルドも前より冒険者が多くて、混む時間帯じゃないのにそこそこ人がいた。
そんな中、私達を発見した受付けのお兄さんはギョッとした後すぐにアワアワと二階に行くようにジェスチャーしてきた。
ギルマスの執務室では、ネルピオ爺が驚きつつも笑顔で迎えてくれた。
「久しいの。よう来た、よう来た。ほんに無事でよかったわい。【黒煙】のパーティとは一緒じゃないのか?」
「ガルドさん達はお仕事で別行動なの」
「なるほどの。それで、今日はどうしたんじゃ?」
「心配かけちゃったし、会いたかったからネルピオ爺に会いに来たんだよ」
「なんとっ! そうかそうか……! 嬉しいの……長生きするもんじゃな」
ネルピオ爺は涙を湛え、うんうんと頷いた。
会いに来ただけでこうも感動されるとむずがゆいよね。
「ねぇねぇ、ネルピオ爺に聞きたいことがあるんだけど……」
「ん? 何じゃ?」
「街に入った途端に聞こえてきた歌って?」
「あぁ、あれか。あれは今では〝女神の歌〟と言われておるの」
「め、女神の歌……」
「ホッホッホ。まずはお前さん達が去った後の話からじゃな」
――私達が王都へ旅立った後、早速行商人がヒュノス村に向かった。村では〝女神の使いの歌〟がそこかしこで歌われていて、行商人の耳に残った。街に戻ってきた行商人から、村人から聞いた話と共に〝女神の使いの歌〟が伝えられた。それは街の住人に広まり、いつの間にか〝女神の歌〟として定着した。
話を聞いている私の頬は傍目から見てもピクピクと引き攣っていることだろう。
「ホッホッホ。お前さんの歌じゃろう? 不思議なメロディー故広まるのは早かったの。女神伝説の村として、今では村を救った……ポーションと皿を持った姿の女神の使いの像を見に行く者も多い」
「うげ……マジか…………」
ネルピオ爺は楽しそうな笑顔を浮かべているけど、私は全くもって喜べない。
もしかしたら私は関係ないかも……なんて希望は木っ端微塵に打ち砕かれた。
あまりのショックで隣りに座るグレンに、唸りながら顔をグリグリと押し付けてしまう。
〈セナやめろ。ほら、鼻が赤くなってるではないか〉
「だってぇ……」
情けない声を出した私に逆サイドに座っているジルがヒールをかけてくれた。
〈いいではないか〉
「よくないよ! 私女神の使いじゃないし、あの曲だって……」
ちゃんとした曲名があるし、私が作ったわけじゃない。それにあれはラブソングであって女神なんて一切関係ない。恋人同士の愛の詩なんだよ。
(なんで女神からの想いなんて解釈されてんの!? どんな感受性よ!? 著作権無視もいいところだわ!)
「大体何故に村の人が知ってるのさ……あのときはコルトさんしか知らなかったハズなのに……」
「おそらくですが、セナ様が歌っておられたのを覚えていたのでしょう。コルトさんが起きる前、セナ様の歌声が村に響いておりましたので」
「え!?」
〈皆空を見上げて聞き入ってたな〉
「えぇ!? 何それ!」
マジかよ……私のせい? 確かに窓開けてたけどさ……声を張ってたわけでもないし、普通に歌ってただけなのに……ご近所さんの一人カラオケとかスルーしてよ! スルー!!
「昨日から吟遊詩人が来ておるから、広場に行ってみるとええ。屋台もいつもより出ておるでの」
〈屋台……!〉
「それはぜひ行ってみましょう!」
「えぇ……」
撃沈の私とは対照的にグレンもジルもノリノリだ。
エルミスが頭を撫でてくれているのと、クラオル達からのスリスリが心に沁みるね……
パパ達になんとかならないか聞かないと……あのアーティストに申し訳がなさすぎる。
「話は変わるが、村には行くのか?」
「ううん。行く予定はないよ。またジルが絡まれたら困るし……その話聞いたら余計に行く気失せたよ。これ以上祀り上げられたくない」
「セナ様……」
「ホッホッホ。そのうち落ち着くのを待つ他ないの。関心があるうちはワシが何か言っても意味を成さん。それに……近隣の村も含め、薬草や鉱石、工芸品も届くようになった。悪いことばかりではないんじゃ。お前さんの役に立つものもあるかもしれんの」
それはちょっと楽しみだ。工芸品は……タルゴーさんが気に入りそうなのがあったら送ってあげようかな?
その後は行方不明になってたときのことや近況を報告し、逆にネルピオ爺からは私がいなくなってからのことを聞いた。
お昼ご飯をご馳走になり、納品を終わらせた私達はギルドを出た。
グレンとジルたっての希望で吟遊詩人を見に向かう。これから広場でその吟遊詩人の催しがあるんだって。
広場に近付くと既に人でごった返していて、私は早々にグレンに抱えられることになった。
「ジル大丈夫?」
「は、はい」
〈邪魔だな……〉
「私はいいけど、威圧したら歌聞けなくなっちゃうよ?」
「グレン様……!」
〈……チッ。仕方ない。ジルベルト、背中に乗るか?〉
「あ! あっち、あっち!」
いい事を思い付いた私はグレンにお願いして移動してもらう。
お目当ての場所はこの街の商会。
中へ入ると外ほどには及ばないものの、商会もそこそこ混んでいた。受付嬢がおらず、他の店員さんがいないかとキョロキョロと見回す。
〈セナ? 買い物なら後でいいだろう〉
「違うよ~。あ! いたいた! 商会長!」
ちょうど忙しそうに通りかかった商会長を呼び止める。
「はい? ハッ! セセセセセナ様!?」
「ねぇねぇ、後で買い物に来るから、屋根登ってもいい? 広場の催し物見たいの」
「や、屋根でございますか? 構いませんが……どうやって……それに危険では?」
「大丈夫! ありがとう!」
〈そういうことか!〉
不満そうだったグレンは合点がいったのか、途端に笑顔を弾けさせた。
路地裏からグレンに抱えてもらって屋根の上に飛んでもらう。
ここは広場に面しているし、みんな視力がいいからピッタリじゃない?
緩やかな傾斜の屋根に敷いたラグに座れば特等席の出来上がりだ。身体能力が高い二人なら落ちる心配もないでしょう。
下を覗けば、人の頭が路上を埋めつくしている。
〈これなら煩わしくないな!〉
「流石セナ様です」
さっきお昼ご飯を食べたのに屋台で買い物をしてくるというグレンにお金を渡すと、するりと降りて行った。
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