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14章
新しき旅路の始まり
しおりを挟む翌日、みんなに聞いた結果……前に言っていたこの国のダンジョンに寄ってからキアーロ国に戻ることに決まった。
何かあったら転移で来られるけど、出発したらしばらくはそっちにかかりきりだろうからね。
ネルピオ爺とお茶をしたり、依頼を受けたりと三日ほど滞在してからミカニアの街に戻った。
◇ ◆ ◇
丸一日ゆっくりと休息を取って、今日からまた旅が始まる。
午前中、冒険者ギルドと商業ギルドに街を出るご挨拶。ついでに両ギルドにジル作のポーションを卸すと大喜びで買い取ってくれ、少し得意げなジルが可愛かった。
ラゴーネさんから料理のおすそ分けをもらって街を出発。
あんまり汚れてなかったけど、こっそり宿の井戸掃除をしておいたから、またしばらくは大丈夫でしょう。
街を離れ、お昼ご飯を食べ終わったころを見計らってみんなに話題を振る。
「さて、しばらく進むと岩山になりますが……みんなは普通に山越えするのと、ちょっと冒険するのどっちがいい?」
「ニャーベルの街に向かうのではないのですか?」
「ニャーベルはぶっちゃけ寄っても寄らなくてもいいんだよね。前は岩山の西側の街道を通ったけど、今度は東側に行ってもいいかなって」
ただ、問題は道が途中で消えていること。おそらく馬車での移動は厳しくなるし、場所によっては夜もテントを出せないかもしれない。
まぁ、野宿に関してはコテージのドアを出すっていう反則技があるから気にしなくても大丈夫なんだけどね。
そう告げると、満場一致で街道とは違う道を進むことになった。
みんなニャーベルの冒険者ギルドには行きたくなかったらしい……
「じゃあ、私は作り置きいっぱい作らないと。ジルにも手伝ってもらいたいから……グレン御者お願いできる?」
〈ふむ。おやつは?〉
「うーん。すぐに出せるのはいつもと変わらないけど……あ! 夜ご飯のときに新しいの一緒に作ろうか? そのときも手伝ってくれたら、グレンはみんなより多く食べても……」
〈やる!〉
めっちゃ食いついたな……
流石グレンさん。食欲求がすごい。
おやつに惹かれたグレンにあまりグリネロを煽って飛ばしすぎないように言ってから、私達はコテージに入った。
《私達も手伝うわ!》
「ありがとう。今日はもう午後だからジャム作りにしようかな?」
《それならウェヌスも呼んでやってくれ》
エルミスに言われてウェヌスを呼んだら、《あのジャムの制作に携われるのですね!》と、予想外に喜ばれた。
そんなことで呼ぶなんて……って嫌がられるかと思ったのに、喜ぶポイントが謎だ。
念話でグレンと話しつつ、みんなでジャム作り。
定番ものから好評だった桃やグレープフルーツ、新しくアセロラジャムも作ってみた。
ここでの驚きはハニーベアの蜂蜜の効能。ジュースなら美味しいのに、砂糖だけだと納得するアセロラジャムが作れなかったのね。で、いろいろ試した結果、ハニーベアの蜂蜜を入れた途端に美味しくなったんだよ。他の蜂蜜じゃダメだったのに……ホントこの世界って謎だらけだよね。
日が陰ってきたとグレンから念話が飛んできて、私達は片付けを開始。
コテージから戻ると、グレンとグリネロは私が言わなくても大きな木の根元に馬車を寄せてくれていた。
〈セナ! 我のおやつは!?〉
「それはこれから作るよ。デザートで食べられるように夜ご飯と一緒に作るつもりだから、もうちょっと待ってて」
〈……そうか〉
「ふふっ。多分気に入るから。さ、夜ご飯作るのも手伝って?」
〈わかった〉
ガックリと肩を落としたグレンにお肉を渡し、いつもより大きめなたき火で串焼きをお願いしておく。
今日はグレンが大人しく御者をしてくれてたから、ミートボールのトマト煮にしようかな?
確かジィジの国で買ったやつが残ってたよね~と、私は無限収納からグレンセレクションの【ブリザードイーグルの肉団子】を取り出した。
どうせならとユキシタダンジョンで採取した人参と大量のキャベツを使って、カサ増しもバッチリよ!
あとは煮込むだけになり、私はみんなを集めた。
「さて、これからグレンお待ちかねのおやつを作ります! まずは……エルミス、この紙を塩水でピタピタにして」
《御意》
「セナ様、こちらよろしいのですか?」
「うん。書き損じた紙だから大丈夫」
《できたが、これを使うのか?》
「ありがとう。そうだよ! これでね~……これを包むの!」
得意気にみんなの前に木箱入りのさつま芋を出したのに、みんなの反応は「はぁ?」だった。
「セナ様……こちら黄スイト芋に見えますが……」
「そうそう。ジィジの国でいっぱい買った黄色いやつだよ。この芋にこう……やって塩水に浸った紙で巻きつけるの。で、さらにアルミホイルで包むんだよ」
〈……おやつ……芋……〉
日本人なら盛り上がるアウトドアな焼き芋作りなのに、グレンは期待外れだったのか芋と私を交互に見ている。
焼き芋だよ? 美味しいよ?
『主様、できたわ!』
「わ! クラオル上手だね!」
『うふふ。嫌なら食べなきゃいいのよ。ねぇ? 主様』
〈ムムッ〉
クラオルはグレンにフンッと鼻を鳴らし、私の手に体を擦り寄せる。するとグレンの眉がピクッと動いた。
普段は仲よしなのにこういうときだけ売り言葉に買い言葉になるんだから……
『主! ボクもできました!』
どうこの場を収めようかと思案し始めたら、グレウスが明るい声を上げた。
〝どう? どう?〟と見せてくる姿はたまらん可愛い。
私がデレデレとグレウスを褒めながら撫でると、エルミスとプルトンもさつま芋を包みだした。
グレンも触発されたのか〈美味しくなかったら承知しないからな!〉なんて言いつつ、包んでいく。
三箱分のさつま芋を準備したら、それをたき火に投入する。
グレンが火力を調節して、プルトンが魔法で燃えくずを持ち上げてくれたので楽ちんだった。
「あとは火が落ち着くまで放置しておけばいいの。焼いている間にご飯食べよ?」
〈うむ!〉
作ったミートボールのトマト煮と串焼き。他のおかずはラゴーネさんが渡してくれた、マッシュポテトと野菜たっぷりの炒め物だ。
久しぶりにお魚が食べたいから、明日はお魚にしようかな?
食べ終わった私達はさつま芋をたき火から出してみる。
〈熱いな……〉
「それもこれの醍醐味だよ。ヤケドに気を付けて食べてね」
みんなハフハフと熱さと格闘しつつ一口食べた瞬間――「ん゛ん゛ー!」と唸った。
「うん! 甘いしトロトロ! やっぱ普通のさつま芋よりネットリ系だ」
『ホフハフ』
クラオルも熱すぎて喋れないみたいだけど、メンバー全員表情は柔らかい。
グレンは喋ることより食べることにシフトしたのか、ガツガツと食べ、なくなるとたき火に手を突っ込んで焼き芋を取り出している。
「気に入った?」
〈うむ! これは干し芋とは違うがいくらでも食べられるな!〉
「ふふっ。あんまり食べすぎると、次作るまで食べられないよ?」
〈ムッ……だが止まらん!〉
一瞬悩む素振りを見せたグレンは数秒で開き直った。
結局、たらふくご飯も食べていたのに、残ったのは数個だけ。
明日も焼き芋を作ることを約束させられてしまった。
焼き芋も食べ終わったころ、ガルドさんからチャットが飛んできた。
どうやらグレンが御者中に暇潰しに連絡していたらしい。
しかも「セナが新しくおやつを作ってくれるらしい。羨ましいだろ?」なんて内容だったらしくて、「会ったら俺達にも食べさせろ」と訴えられた。
いい反応をしてくれるガルドさん達に対し、さらに「美味しかった」とグレンが煽る。
私よりもグレンの方が活用してない?
楽しい夜ご飯後の時間を過ごし、私は穏やかな眠りについた。
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