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13章
兄達からのサプライズ
しおりを挟むゆっくりとパパ達との時間を過ごした私達は夕食前に宿に戻った。
ご飯を食べ、お風呂に入ろうとコテージの空間に入ると……なんとガルドさん達が待ち構えていた。
「え!? 何で!?」
「街に戻って教会に報告に行ったら、お前さんが寂しがってるってガイア様に言われたんだよ」
「ガイ兄大好き! おかえりー!!」
ガルドさんの足に抱きついたら、ガシガシと頭を撫でられた。
「ただいま。つっても朝には戻るんだけどな」
「そっかぁ……ご飯食べた?」
「まだだ。お前さんは食ったのか?」
「うん。宿のご飯食べちゃった」
「んじゃ、風呂か。俺達はメシ食ってるから先に風呂入ってこい」
「はーい!」
機嫌よくお風呂から上がってリビングに入ると、ガルドさん達はまだご飯の真っ最中だった。
ガルドさん達も食後にお風呂に入り、今はみんなでコテージの前の広場でまったり。
みんなで泊まれる部屋がないから今日は野宿スタイルです!
私とジルはモルトさんとコルトさんに挟まれ、二人して頭を撫でられている。
そんな中、レシピ登録の話やテントの報告をすると驚かれた。
「そんな便利なもんがあるのか……」
「うん! すごいんだよ! 魔道具じゃないらしいんだけど、魔道具みたいなの!」
「へぇー! あったら便利そうだねー! オレっち達も頼んだら作ってもらえるかなー?」
「多分大丈夫だと思うよ! 欲しいならお手紙送ろうか?」
「そうだな。頼んでいいか?」
「うん、もちろん! それにね、素材にめっちゃ詳しくて……なんとグレンがドラゴンって見破ったんだよ~! すごいよね~!」
「へぇー! すごいねぇー!」
「話を聞いてると面白そうな人物ですね」
「うん! 面白いし、いい人だったよ~。今度みんなで会いに行こうね!」
私がニコニコと言うと、コルトさんが私を撫でるスピードが上がった。
賛成ってことかな?
話したいことはいっぱいあるのに、撫でられる心地よさと温もりでだんだんと瞼が重くなってくる。
ジルは私の手を握りながら、モルトさんに凭れて眠ってしまった。
(もうちょっと……もうちょっと話したいのに……)
◆ ◇ ◆
「寝たか?」
「……うん」
「ジルベルトがセナより早く眠るって珍しいな」
「疲れもあると思いますが、ここがセナさんの空間内だからでしょう。危険がないので」
「うんうん。オレっちもそう思うよー。さて、空元気っぽかったけど何かあったのー?」
《んー、多分……あれかしら?》
ジュードに問いかけられたプルトンは元ギルド職員の事の顛末を小声で説明する。
《私達はもっと酷い罰でもいいと思うんだけど、セナちゃんは嫌だったみたいなのよねー》
《……それもあるが……おそらく、その者に真っ直ぐ悪意を向けられたせいだろう。あの日主は寝付きが悪く、夜中に酒を飲んでいたのだ》
《え!? そうだったの!?》
《プルトンが探りに行っていた間にな。グレンが起きて寝かし付けたが……主は気にされると気にする故……黙っていた》
エルミスは遠い目をしながら苦笑していたセナを思い出し、セナの頬に触れた。
あのときもあまりに儚げな様子に、目の前から消えるのではないかと不安になったのだ。
触れた手からセナの体温を感じて、エルミスの心に安堵が広がる。
《優しすぎる主には堪えたのだろう。それほどあの者は憎しみに満ちていた》
「ジル君も少し落ち着かないようでしたが、そのせいですか?」
《……いや、ジルベルトは悪意には耐性がある。セナに心酔している故、セナに影響されるのだ》
普段あまり話さないアルヴィンの説明は簡潔であったが、ガルド達を納得させるのには充分だった。
ただ、その言葉のチョイスはガルド達が日頃抱いていた疑問を大きくした。
「ねぇー、聞いてもいいかわからないけど、なんでジルベルトはそうなったのー? 神格化してるよねー?」
ジュードの問いかけにクラオルや精霊達は顔を見合わせる。
さほど時を置かずにエルミスが口を開いた。
《それは儂が説明しよう。ジルベルトが主を狙っていたのは知っているな?》
「うん」
《それは自身の祖父の命令によるものだが、ジルベルトはそやつに酷い虐待を受けていた……》
エルミスは言葉を選びながら、話しても差し支えのない範囲でジルベルトの身の上から語る。
体罰や罵倒、母親や乳母の境遇、心が壊れる寸前だったこと、ジルベルトの覚悟……それはガルド達の表情を曇らせていく。
《主はジルベルトをしがらみから解放しようと、国王に進言したのだ。報酬としてジルベルトが自由に生きる権利が欲しいと……この辺りはガルド達も知っているだろう? それは許可され、一族郎党捕らえられた。もう何にも畏れることはないと証明して見せた主は……態度を変えることもなく、家族として接している》
「あぁー。すごく合点がいったー」
「だから女神とか天使とか言ってたのか……」
「セナさん自身が人一倍優しいですからね。セナさんの態度はジル君にとっては驚きだったんでしょう……」
《今では神をも認める従者となった》
語られない部分があることもガルド達は理解していた。しかし根掘り葉掘り聞こうとは思えなかった。
ジルベルトの心情、セナの優しさ……神達すら認めたならばそれが最良なことに思えた。
それぞれ肩の力を抜き、温かい眼差しをジルベルトに向ける。
モルトが優しく髪を梳いてやると、ジルベルトはふんわりと微笑んで「セナ様……」と呟いた。
そんなジルベルトを見て、ガルド達にも笑顔が浮かぶ。
アルヴィンだけが申し訳なさそうにジルベルトを見つめていたが、ガルド達には気付かれなかった。
「セナもジルベルトももっと子供らしくしてくれりゃあいいんだがな」
「そうだねー。すぐ無理するし、遠慮するもんねー」
「二人共ワガママも言わないですしね」
『それは神達も気にしてたわね』
「ん? なんだ?」
クラオルの言葉がわからないガルドにプルトンが通訳する。
「……頼りない?」
『違うわ。主様はみんな利用しているようで嫌なのよ。自分は何も役に立ててないって。料理くらいしかできないって……みんなを振り回してるって前に言ってたもの』
「なんだそりゃ……どう育ったらそんな考えになるんだ? 俺達は二回も命救われてんだぞ?」
『それも主様は自分せいだと思ってるわよ』
「なんだと?」
『呪淵の森は自分がいなければ裏切られることはなかった。眠り病は自分を探していてくれたせいってね。……主様からすれば、危険な目に遭わせちゃったけど、好きだから一緒にいたいな……っていう最大のワガママなのよ』
通訳してもらっていたガルドは深いため息をついた。
「マジかよ……そんなんワガママでもなんでもないだろ……」
「オレっち達が望んだことなのにねー。こうなったらさー、セナっちとジルベルトに意地でもワガママ言わせたいよねー」
《賛成ー!!》
「しかし、セナさんが考えるワガママがワガママではない気がするんですが……」
《……ふむ。なら逆にガルド達がワガママを言ってみるのはどうだ? ガルド達が言えば主も言いやすくなるかもしれぬ》
「そんなもんか?」
「わかんないけどやってみる価値はあるかもー」
セナとジルベルトを起こさないようにガルド達は計画を練っていく。
それはクラオルによって神界にも筒抜けとなり、神達は神達でプランを立て始めた。
それはセナが起きる少し前、明け方までかかっても終わらず……持ち越すことになった。
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