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13章
置き土産と妖精
しおりを挟む再び薬草採取する気にもなれず……ちょっと早いけど森の入り口に戻ることにした。
人面猫は大人サイズになったプルトンが棒端を持って運んでくれている。そのため、プルトンが見えない人からは豚の丸焼き状態の人面猫が宙に浮かんでいるように見えるだろう。
私達が集合場所に着くと、すでにタルゴーさん達は戻って来ていた。
笑顔で迎えてくれたタルゴーさんは浮かぶ人面猫を見て首を傾げる。
「そちらは?」
「ちょっと厄介な魔物で……先に馬車に乗せちゃうね」
断ってから馬車の荷台の隅に横たえた。ウェヌスが眠らせたからそう簡単に起きないハズ。
その後簡単に説明すると、ダーリさんが何かを察したらしくタルゴーさんに耳打ち。何を聞いたのかわからないけど、タルゴーさんは何か納得した様子。
「なるほど。美しい顔をしているだけに不快になりますわね……」
「ごめんね。野放しにはしたくなかったし、ギルドに報告したくて」
「まぁ! 流石セナ様、お優しいですわ!」
別に優しいわけじゃないのに、タルゴーさんは大げさに私を持ち上げる。
いつどこでタルゴーさんも洗脳状態になったのか……
(あっ! あれか! 初っ端のジルの布教活動!)
またマシンガントークで褒め称えられるのも困るし、さっさと話題を変えちゃおう。
「私達はダメだったんだけど、タルゴーさん達は会えた?」
「はい! 会えましたわ! セナ様方はやはり会えなかったのですのね……」
「うん。薬草採取してたらアレと遭遇したんだよね……って、やはり?」
タルゴーさんのセリフに引っかかりを覚えて聞き返すと、「セナ様に渡して欲しいと頼まれましたの!」と折りたたまれた紙を渡された。
白い紙に子供がラクガキしたような線が引かれていて、一ヶ所にバツ印が描かれている。
「んん? 地図?? これ……山かな?」
〈何言ってる? 真っ白だぞ?〉
「え? バッチリ描かれてるじゃん。ジルはわかるよね?」
「僕もただの白紙に見えます」
精霊達やタルゴーさん達に確認しても、誰一人としてこの地図が見える人はいなかった。
「おそらく、セナ様にしかわからないようになっているのでしょう」
「そんなことできるんだね……とりあえずこれはまた後にして、ご飯食べよう!」
この地図がドコの地域を示しているのかがわからないため、ヒントが欲しくても描き写さないと聞けない。
グレンがおなか減ったって言ってたし、先にご飯の方がいいよね!
「まぁ! 作っていただけると聞いていたので楽しみにしておりましたわ!」
「メインは下ごしらえまでしてきたんだけど……スープもあった方がいいよね。ミルクスープでいい?」
「セナ様にお任せ致しますわ!」
「はーい」
タルゴーさん達には自由にしていてもらい、私はジルとグレンと一緒に昼食を作り始める。
グレウスに作ってもらった即席竈でスープ、焚き火で串焼き、コンロでフライドチキンを仕上げる。
スープにはちょうどいいからとさっき採取した空芯菜みたいな薬草【ウンチェー菜】を入れてみた。
初めの方はダーリさんからバシバシ視線を感じてたんだけど……私が動き回れば回るほど護衛さん達からも注目を浴びることになった。
振り返ってみると、タルゴーさんとダーリさんにはニッコリと微笑まれ、護衛さん達には気まずそうに目を逸らされた。
何も言われないならいいかと調理を再開した途端、後ろから盛大なおなかの音に訴えられて吹き出してしまった。
私を見てたのはおなかがペッコリンだからなのね。
出来上がった料理を全員に配り、大きなラグに円形に座る。そのど真ん中にダーリさんに用意してもらったパンをドン! と置いたら説明だ。
「このフライドチキンとこっちの塩ダレキャベツはタルゴーさんが望んでたやつで、メモったレシピは帰りに渡すね。で、この串焼きはダンジョンで手に入れた白ネギ草なんだけど、タレ味と塩味の二種類作ってみたの。塩味なら焼いて塩振りかけるだけだから普通の野営のときとかでも作れると思うよ。後はミルクスープとラゴーネさんが用意してくれた串焼きとパンだよ。スープはおかわりがあるから、自分でよそってね。以上です!」
「まぁ! こちらがそうなのですのね!」
「よくわからんが美味そうだ!」
〈セナが作ったんだ。美味いに決まってるだろうが〉
「はいはい! ケンカしないで食べるよ~! いただきます!」
〈「いただきます!」〉
私に続いてグレンとジルが手を合わせると、タルゴーさん達は呆気に取られた。
そういえばみんな言わないんだっけ。
思い至ったときにはすでにみんな食べ始めていて、聞かれたらでいいかと私も箸を進める。
「うめぇ! 何だこのうまさは!」
リーダーを中心に護衛さん達は「美味い! 美味い!」とガツガツと頬張り、競うようにおかわりに走って行った。
それぞれ三杯ほど食べてようやく少し落ち着いたみたい。
「それも美味そうだな」
〈フフン。やらんぞ。これは手伝った我のだ!〉
間髪入れずに拒否したグレンは見せつけるように串焼きに齧りついた。
リーダーが指差したのはグレンのお皿に載っている串焼き。
火の番をしてもらうために用意したやつだ。串打ちも焼くのもグレンがやったから、用意したっていうのとはちょっと違うかもしれないけど。
リーダーは無理だとわかったのかスープを一気飲みして、再び鍋に走って行った。
驚いたことにタルゴーさんもさりげなくおかわりしていて、トータルで三杯も平らげていた。
長めのランチタイムを終え、ミカニアの街まで戻る。
道中、気になったのでシノノラーのことを聞いてみた。
「少々面白い見た目でしたわ! 羽根のような物が付いた箱を背負っておりましたの! あれを模したバッグは貴族の子供に人気になりそうですわ!」
「年齢は三十歳くらいに見えましたね」
「なんか変な髪型だったな。こことこことココがくせ毛でクルクルしてたぜ」
「んーとねー、話し方が特徴だったよー。『ぐふふぅ~』って笑ってたー」
「変な匂いがしただす。あれは大昔に食べた異国の魚の匂いだす」
「……赤いスカート」
順番にタルゴーさん、ダーリさん、リーダー、人懐っこい笑顔のお兄さん、丸っこい蜂蜜大好きお兄さん、物静かなお兄さん。
物静かなお兄さんに関しては初めて声を聞いたよ。
全員の話を聞きながら似顔絵を描いていく。
出来上がった絵は見覚えのある容姿だった。
顔と髪型……サ○エさん。お魚くわえたネコ追いかけちゃうあのキャラ。
服……ちびま○子ちゃん。もしくはトイレの花子さん。
え? 何このニチヨルのコラボは……長年放送してて妖精になっちゃったの?
ただ、タルゴーさんが言ってたカバンだけは私が最初に名前を聞いたときに思い浮かんだやつだった。
ランドセルに羽根が付いてるんだよ? アレにしか見えないよね……
「マジか……これはいかんでしょ。会わなくてよかったのかも……このコラボレーションは見たくない……」
(おばあちゃん……前の熊もそうだけど、パクりもコラージュも日本なら大問題だよ……)
疲れた精神状態で心の中でおばあちゃんに訴えると、おばあちゃんの笑い声が聞こえた気がした。
気分を変えるためにタルゴーさん達は何をもらったのかのか聞いてみると、タルゴーさんは物じゃなくてアドバイス、護衛さん達は武器の手入れに使う素材だったそう。
タルゴーさんも護衛さん達もちゃんと役立つ物だった。
私がもらった地図のバツ印には何があるんだろうね?
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