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13章
大きすぎる代償
しおりを挟む作っている途中でプルトンが機嫌よさそうに戻ってきた。
《セナちゃーん!》
「プルトン、エルミスおかえり」
《戻った》
《聞いて聞いて! 面白いことがわかったのよ!》
「どうしたの?」
私が聞くと、プルトンはニマーっと笑ってから話始めた。
《まずアイツを調べようと思って兵士の詰所に行ったのね。そしたら暴れたみたいでイスにぐるぐる巻きにされてたんだけど……七百万ゼニの罰金と犯罪者として二十年間井戸と街中の掃除することになったのよ!》
「はい!?」
《私達的には甘い気がするから……》
「ちょ、ちょっとたんま!」
《あ、やっぱりセナちゃんも不満?》
「違う、違う!」
驚いて途中で遮った私を見て、プルトンは不思議そうに首を傾げた。
え……罰金高いよね? 私達なら払える金額だけど、普通に考えて高いよね? しかも二十年間も掃除とか長くない? え……私の感覚がおかしいの?
「えっと……何でその罰になったの?」
端折らないで欲しいと頼むと、今度はエルミスが順序立てて教えてくれた。
エルミスによると――前回の件でギルドスタッフの職をクビになり、さらにギルドランクがBからFに降格。ランクアップは普通の人の二倍こなさなければいけなくなった。ランクダウンに腹を立てた彼女は態度を激変させ、素行が悪くなった。
そこへ今回のことがあり、兵士が激おこ。「死ね」って発言と街中で騒ぎを起こした責任を取らせるにあたり、冒険者ランクをさらに下げてHランクにしたんだけど……犯罪奴隷としてすぐに収監するより、人の目に触れる罰ってことで掃除をさせることになったらしい。
「街のおじさん達が味方してくれた理由はあの人に困らされてたからだったんだね……」
《そうだな。それに主が井戸掃除をしてから、領主から水がキレイになったのは主のおかげだと通達があったそうだ。主の名前を出せばアレはさらに住民から嫌われるだろう》
「マジか……でも騒ぎを起こしたって言っても、あの小さな火じゃヤケドもしないよ? 魔法が不得意なら物理で攻撃した方がいいじゃん。なのに魔法使おうとしたってことは私にケガさせるつもりはなかったんじゃない?」
『それは神がスキルを封印したからよ』
クラオルの爆弾発言に一瞬思考が停止する。
パパ達が……
「……スキル封印!?」
『そうよ。どっからどう見ても主様の方が可愛いじゃない。勘違い女にお仕置きしただけよ』
「えぇー!? 私そんなの聞いてないよ!」
『話題に出すのすら嫌なのよ。あのときは一応生活はできるように持ってるスキルを最小にしてたけど……さっきガイア様が怒ってたから、全部使えなくなるんじゃないかしら?』
「え……それって……生きにくくならない?」
『神達に愛されるワタシ達の主様に殺意を向けたのよ? 自業自得だわ。もっと厳しくてもいいくらいよ』
《そうよね! だから冒険者ランクを二度と上げさせないって書類に書き足して、犯罪者ってことを街の住民に通達するように仕向けたの。あとちょっとした呪いをかけてきたわ》
「呪いまでかけたの!?」
《セナちゃんが気にすると思ったから、すっごい弱いやつよ》
プルトンさん……気にするのわかってるならかけないで欲しかったよ……
「……ちなみにどんな呪いか聞いても?」
《本当に大したことないから安心して! ちょっと足の小指をぶつけやすくなったり、道に迷いやすくなるだけよ。あ! エルミスがおなかを壊しやすくなるようにしたけど、可愛いもんでしょ?》
「マジか……」
それはまた地味に嫌な呪いだね……確かに殺意は感じたけど……それにしても……グレンへの淡い恋心からこんなことになるなんて……
(なんか申し訳なくなってきちゃうよ……)
『ん……主様、「充分優しい罰だ。覆すつもりはないからアレのことは忘れなさい。気分を落ち着けるためにさっきセナさんが作っていた料理が食べたいな」ってガイア様から伝言よ』
「…………わかった」
クラオルからの伝言がガイ兄の言葉まんまだとすると怒ってる。言葉遣いが怒ってる!
これはパパ達全員に作った方がよさそう。
気分変えていかないとね!
「よし! デザートは日本酒を使ったフルーツポンチモドキにしよう! 杏仁豆腐も入れちゃうよ!」
『あら! 久しぶりのアンニュイトーフね!』
「ふふっ。杏仁豆腐だよ、杏仁豆腐。言いにくい?」
『気を付けないと間違えちゃうわ』
《主が作る料理は他では食べられないからな》
地球の食べ物の名称は覚えにくいみたい。私がこの世界の魔物の肉の種類が多すぎると思うのと同じ感じかな?
パパ達の分も作るとなると時間かかっちゃうから、みんなにも手伝ってもらわらないと!
念話でグレンに夜ご飯はいらないという主旨の言伝を頼むと、私が作る肉料理に惹かれたのか食い気味に〈わかった!〉と返ってきた。
大急ぎで大量の中華料理を仕上げ、みんなで夜ご飯を食べる。
パパ達の分はロッカーに入れておいたから、時間ができたら食べてくれるでしょう。
セミエビの黒胡椒炒め、油淋鶏、蒸し鶏のピリ辛ソース、レバニラ炒め……と色々作ったけど、グレンはフライドチキン、クラオル達は私のお気に入りのもやし料理が特に気に入ったみたい。
私のせいか、みんな安上がりだよね……
デザートのフルーツポンチモドキも大好評で、あっという間に食べ尽くされた。
食後、みんなが遊んでいる間に商業ギルドとタルゴーさん用のレシピをまとめる。
おそらく、キアーロ国のサルースさんやブラン団長達も食べたがるだろうから、デタリョ商会のおじいちゃんにも手紙出さないとね。
そこまで考えて、ブラン団長達に手紙を書いてなかったことを思い出した。
ちゃんと報告しないと、また心配かけちゃう!
もろもろ書き終わった私はみんなに声をかけてお風呂に入り、早々にベッドで眠りについた。
……ハズだったんだけど……眠れない。あの人の憎悪の込められた眼が目に焼き付いて離れない。瞼を閉じると浮かんでくる。
一時間経ち、二時間経ち……両隣りのベッドからはグレンとジルの寝息が聞こえている。
眠ることを諦めた私は、胸元で丸まっているクラオルとグレウスを起こさないようにベッドに下ろした。
起き上がった私にエルミスが小声で話しかけてきた。
《……眠れないのか?》
「うん……プルトンは?」
《情報収集に行った》
「そっか……ねぇ、エルミス。ちょっと付き合ってくれない?」
頷いたエルミスと一緒にベッドルームからリビングに移動して、ソファで二人分のお酒を注ぐ。
《珍しいな》
「……うん。ちょっとね」
《アレが原因か?》
バレバレだった。私に隠し事はできないらしい。
「……目を閉じるとさ……あの人の眼がチラつくんだよね……老害のときは何ともなかったのに……」
《……》
エルミスは大人サイズになって隣りに座り、黙って頭を撫でてくれた。
きっとこの先もこういうことは起こりえる。
グレンもそうだし、ジルも、ガルドさん達だってイケメンだ。
私と一緒にいない方が全部上手くいくんじゃないかとも思うけど、私がみんなと離れたくないから言わない。
エルミスに寄りかかりながら、なんてワガママなんだろうと自嘲の笑みが零れる。
《主は厳しい罰だと思っているのだろう?》
「……うん」
《別々なものだ》
「ん? どういうこと?」
《神達は仕置としてヤツのスキルを最小化した。それはギルドとは関係ない。ギルドはギルドでできうる罰を与えた。それだけだ。それは今回も同じこと》
それぞれの立場で与えた罰が同じ人に下っただけって言いたいのかな?
《犯罪奴隷に落とされ、過酷な労働や慰み者となるわけではない。それに……》
「それに?」
《昔、神の意にそぐわぬ輩に後悔させるため、そやつの一族全全員に神の呪いが下ったそうだ》
「マジ?」
《マジだ。それよりはマシであろう?》
「そりゃ、そんなの聞いちゃったらマシだとは思うけど……」
その呪いの原因となった人が何したのか気になるところだよね……
パパ達に聞いても覚えてないとか、思い出したくないとかってはぐらかされそうな気がするし、イグ姐なんかは思い出して機嫌が悪くなりそうだから聞けない。
今までも嬉々として罰を与えようとしてたことを踏まえて、一応私が気にするからって少し優しい罰にしてくれたのかな?
優しい……か? いや。そう思うことにしよう。うん。気にしたら負けだ。優しくしてくれたんだよ。きっと。ガイ兄もそう言ってたし!
私達が話していると、グレンが目をこすりながら起きてきてしまった。
〈セナ?〉
「ごめん。うるさかった?」
〈いや。飲んでたのか?〉
「うん。ちょっと眠れなくて……」
〈…………そうか。寝不足になるぞ〉
「そうだね。今なら眠れそうだから寝ようかな」
ズルいって言われるかと思ったけど、グレンは純粋に心配してくれたみたい。
お酒を片付けた私を抱えてベッドルームに戻ったグレンは、私を抱えたまま自分のベッドに横になった。
〈我が護ってやる。安心しろ……〉
グレンが寝ぼけながらもポンポンと落ち着かせるように背中を叩くリズムに、だんだんと睡魔がやってくる。
あんなに眠れなかったのに、すんなりとまどろみに沈んだ。
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