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13章
根深い嫉妬
しおりを挟む「本日はどうなさいますか?」
「タルゴーさんが期待してるから、実験かなぁ?」
「キーッ! 青銀髪女ぁぁぁ! 無視するんじゃないわよぉぉぉぉぉ!!」
話続けていた私達は〝銀髪〟という単語に揃って顔を上げた。
すると、私達の行く手を阻むように道のど真ん中で怒りに任せダンダン! と片足で地面を踏みつけている女の子がいた。
「アンタ……アンタのせいでぇぇぇぇ!」
「なんか見たことあるような……」
〈何だこいつは?〉
ギリギリと歯ぎしりまでして睨みつけてくる女の子に、グレンが苛立たしげに喉を鳴らし始める。
「以前セナ様より自分の方が可愛いと頭のおかしい発言をしていたギルド職員ですね。失礼極まりない人物ですので覚える価値はありません」
「……あぁ! グレンのことが好きだった人か!」
思い出した私がポンッと手を打つと、女の子はさらに眦を決した。
「グレンに何か用なのかな?」
〈フンッ。我は雑魚に用はない〉
「いやいや。向こうがあるかもしれないじゃん」
「セナ様。先ほど申しました通り、覚えておく価値もありませんが、話す価値もない取るに足らない人物です。時間を割くだけ無駄になります。参りましょう」
「えぇ……」
ジルさん……さっきも思ったけど発言が酷くないかい? おばちゃん悲しくなっちゃうよ?
『そうよ! こんなやつに構うことないわ!』
「クラオルまで……」
「いい加減にしなさいよぉぉぉぉ!!」
女の子の声が大きく、通りには人が集まり始めてしまった。
(これ……どうしよう……)
この場をどう収めようかと思案している私を持ち上げ、グレンが女の子に見せつけるように私の頭に頬擦り。
それを見た女の子の瞳の中に明らかな殺意が芽生え、仄暗く濁っていく。
「そう……アンタはそういうやつよね……」
「え?」
「アンタのせいでギルドをクビになって、ランクも降格……全部……全部アンタのせい……! 死ぃぃぃぃぃねぇぇぇぇぇ!!」
怒気を膨らませた女の子はブツブツと詠唱してポンッ! と炎を生み出した。
それはマッチの火ほどの大きさで……私達の前に躍り出たエルミスが展開したバケツをひっくり返したような水によってすぐに消火された。
「か、完全無詠唱……」
「いや……今のは私じゃないんだけど……」
「アンタ以外に誰がいるのよ!」
エルミスが見えていない女の子は、全部私のせいにしたいらしい。
ジルもグレンもいるし、肩のクラオルとグレウスって可能性もあるのに……
ギラギラと燃える憎悪を感じてブルッと震えが走る。
安心させるように私を抱えるグレンの腕の力が強くなった。
「グレン、人が多いから威圧はダメだよ?」
〈ムッ……〉
《不愉快だ》
《同感! お仕置きが必要だわ!》
「穏便にいこ?」
〈無理だな。殺るか〉
「えぇ。存在価値がありません」
「ちょっと、ちょっと! 街で問題起こしたらダメだよ?」
「だぁかぁらぁぁぁ! 無視すんなって言ってんでしょぉぉぉぉぉぉ!!」
地団駄を踏みながら叫んだ女の子が再び小声で詠唱し始めると、「こっちだ。こっち!」と誰かを呼ぶ男性の声が聞こえた。
人混みをかき分け「何をしている!?」と現れたのは兵士さん。誰かが呼んだみたい。
兵士さんは私達を見るなり、合点がいったように頷いた。
「この騒ぎの原因はお前か」
「何でアタシなのよ! 全部アイツのせいよ!」
「オレ見てたぜー! この子がそっちの子達に絡んで、怒鳴り散らしてたんだよ」
「そうそう! しかもさっき『死ねー!』ってしょっぼい火魔法で攻撃しようとして、即行水かけられてんの。冒険者じゃねぇおれの火魔法よりひどかったぜ」
「いやぁ、あれなら生活魔法のがマシだろ?」
野次馬のおじさん達に笑われた女の子はキッ! と話していたおじさんを睨みつける。
「話を聞かせてもらおうか」
「ちょ、ちょっと何すんのよ!? アタシよりアイツらでしょ!?」
暴れる女の子をものともせず、兵士さんが引っ立てて行った。
ホッと息を吐く私に、笑っていたおじさんが「礼は店に買いに来てくれりゃいいぜ!」とニカッと笑いかけてきた。
(なるほど……商売上手だね)
「おれんとこも来いよ!」
「本日セナ様は疲れておられますので、また後日お伺い致します」
「おう! 災難だったな! ゆっくり休め」
何故か味方をしてくれたおじさん達に見送られて、私達は宿に向かって歩き出した。
私のほっぺにスリスリとしながら、クラオルが『神の怒りを味わえばいいわ』なんてボソッと呟いてたのは何かの間違いだと思うことにしよう。
うん。気のせい、気のせい。私は何も聞いてない。ナニモシラナイヨ。
宿に着いた私は時間がもったいないからと、すぐにコテージに入った。
ジルはネズミのしっぽを使ったポーションの実験をするらしく、錬金部屋へ。グレンは鍛治部屋で私はキッチンだ。プルトンとエルミスはお出かけしてくるとどこかに行っちゃった。
「さて。気分変えて頑張らないと」
『料理を作るの?』
「うん。ゴブリンもそうだけどコボルトのドロップ品もロクなのなかったからね」
『今回のスライムは道具じゃないの?』
「今回のはねぇ……うま味調味料だったんだよ! うふふ。ここへきてコレが手に入るとは思ってなかったよね!」
『料理に使うのね……』
今回のスライムは【パプーカスライム】と【ラージグリスライム】。
【パプーカスライム】は赤い粉末の【パプスラ粉】、【ラージグリスライム】が半透明な粉の【グリの素】。赤い粉末が名前から想像できるようにパプリカパウダーで、半透明な粒子の方がうま味調味料だ。
粉と素の違いはなんだろうね?
もう一つ謎なのが、【グリの素】の方に業務用って書かれてるんだよね。一般用もあるのかい? って聞きたくなった。
パプリカパウダーは有名チェーン店のフライドチキンの味を再現したレシピにしよう!
お店のレシピは秘匿されてるから、あくまで風。
レシピアプリで出てきたまんまは申し訳ないなぁ~って思ったら、そのままじゃ作れなかった。
何回か調整のために作り直し、味が微妙に異なるフライドチキンがいっぱいできてしまった。
まぁ、これはグレンが喜んで食べてくれるでしょう!
うま味調味料は……もやしが手に入ったときからずっと作りたかったやつがあるんだよ!
レシピ登録しちゃうと消費がヤバくなりそうだから……ってのは言い訳で、これは私の超お気に入りだから登録はしない。登録は塩ダレキャベツにしとこう。
「んふふふ」
『主様、怪しいわ』
「今日は中華にしようね!」
本当ならラーメンがよかった。
くそぅ……マジでカンスイがないのが残念すぎる!
私のお気に入りのこのメニューは地元のラーメン屋さんのトッピング。
あまりに好きすぎて店員さんが作ってるのを何回もガン見して、アレは何だ? それは何だ? って調べた賜物。直接店員さんに聞いたわけじゃないから本当は違うかもしれないけど、味はかなり似せられたと自負している。
まずはもやしを軽く茹でて~、ちょっと流水で冷やして水を切る。ボウルの中で塩コショウにごま油をかけるでしょ。ここで出てきた余分な水分を捨てて、うま味調味料を振りかけて……さらに粗挽きコショウをかけたら一丁上がり!
「ん? ちょっと薄い……ごま油とうま味調味料足しちゃお!」
簡単だし、全部目分量で調整できるのが素敵でしょ!? コツは出てきた水分を捨てることよ!
「ん~! 最っ高!! クラオル達も食べてみて」
『あら! 美味しいわ!』
『美味しいですぅ』
クラオル達が大丈夫ならグレンも大丈夫そう。
テンションの上がった私はそのまま夜ご飯の中華料理に取り掛かった。
応援ありがとうございます!
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