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13章
ぶち上がるテンション
しおりを挟むグリネロに少し急ぎめに走ってもらい、国境の手前で一泊。
お昼頃に国境の門の検問所に着いた。
御者席に座ってギルドカードを掲示すると、前回同様に他の人をそっちのけでビシッと敬礼する兵士さん達。
「セナ様でしたか! 大変失礼しました! どうぞお通りください!」
「あ、ありがとうございます」
前もそうだったけど、馬車の中の確認はしないのね……
まぁ、確認されたところで何もないんだけどさ。
私達が門をくぐると、ちょうど反対側……キアーロ国に入るために並んでいる列の中に見覚えのある馬車がいた。
「あれ?」
「……セナ様!?」
御者席に座っていたダーリさんと目が合うと、彼は目を丸くしてパチクリした後、「奥様! セナ様です!」と荷台の幌に向かって叫んだ。
「セナ様ですって!? ……まぁー! セナ様! お会いしたかったですわ!」
タルゴーさんは幌から顔を出すと、これでもかと大きな声を上げた。
うん。めっちゃ目立ってる……
周りからはジロジロと見られ、〝あいつは何だ〟〝うるせぇよ〟って話しているのが聞こえてくる。
ですよね! 私も関係なかったらそう思っちゃうかもしれない。
「えーっと……ちょっと移動しましょうか」
「もちろんですわ!」
門から少し離れ、馬車を降りるとタルゴーさんが怒濤の勢いで話し始めた。
もやしのレシピを登録したってことをあの代理人から聞いていたらしい。
タルゴーさんの話はレシピ、もやし、戻ってレシピ、討伐隊の話、また戻ってレシピ……と、あっちこっちに話題が飛ぶ。
勢いをキープしたまま一時間ほど過ぎたころ、執事のダーリさんがタルゴーさんの肩を叩いた。
「奥様。落ち着いて下さい」
「は! ちょっと夢中になってしまいましたわ」
かなり夢中だと思ったんだけど……タルゴーさんにとってはちょっとの部類に入るみたい。
「あ! そうだ。タルゴーさんにミカニアの街でお手紙出そうと思ってたんだ」
「何かありましたの?」
「あのね、もやしとは別のレシピを登録したいんだ。それ……」
「まぁ! それは素晴らしいですわ! でしたら、こんなところではなくてゆっくりお話を……そうですわ! ミカニアの街が近いので、そちらでゆっくりとお話をお伺い致しますわ!」
話の途中で遮られたけど、私としてもその案はありがたい。
護衛の人は大丈夫なのか聞いてみると、大丈夫だと返ってきた。
今回の護衛はそこそこ有名なBランクのパーティだそうで、タルゴーさんが割り増し料金を支払い、走ってもらうことになった。
タルゴーさんには送ろうと思っていた手紙を先に馬車で読んでもらおうと渡しておく。
魔物が現れたとき用に御者席に座ってたんだけど……途中で「素晴らしいですわー!」と、タルゴーさんの叫び声が聞こえてきたよ……
ミカニアの街の入り口でラゴーネさんの宿の予約を兵士さんに頼み、私達はそのまま商業ギルドへ向かう。
ここでもタルゴーさんは護衛パーティに暇潰し用のお小遣いを渡していた。
商会長だからか貴族だからか……わからないけど、気前がいいよね。
商業ギルドの応接室に入った途端、タルゴーさんのスイッチが再び入った。
「あのようなデザイン画は初めて見ましたわ! セナ様は本当に素晴らしい才能をお持ちですのね!」
「ウォッホン! 申し訳ありませんが、私めにもわかるように説明をお願い致します」
わざとらしく咳払いをした商業ギルマスはニッコリと微笑んだ。
「そうですわね。失礼しましたわ」
「えっと、見た方が早いと思います。これです」
テーブルの上に行燈を出すと、ギルマスは首を捻った。
「申し訳ありませんが、こちらの箱はどのような物なのですか?」
「これは明かりの魔道具なんです。部屋を暗くしてもらえますか?」
私が言うと、ギルマスはカーテンを閉め、部屋の明かりを消した。
そこで私は行燈に取り付けているライトの魔道具のスイッチを入れる。
「壁に模様が浮き出るんです。これは薔薇模様ですが、デザインを変えればそのデザインが映し出されます。下にセットするライトの魔道具の明かりの強さ次第では模様がハッキリと見えるでしょう。暗いベッドルームに置けばロマンチックな部屋になりますし、普通に明かりの魔道具としても使えます。そして軽いので女性でも簡単に持ち運べて、壊れにくいんです」
「「……」」
「あれ? 微妙ですか?」
沈黙するギルマスとタルゴーさんに問いかけると、一呼吸置いた後「す、素晴らしいですわぁぁぁ!!」とタルゴーさんが叫んだ。
「お手紙で拝見した以上ですわ! しかもお手紙では違う大きさのものもあるのですわよね!? 見た目だけでも華やかですし、間違いなく貴族を中心に売れますわ!」
顔を赤く染めて早口でまくし立てるタルゴーさんは鼻息が荒い。
「い、今職人さんに作ってもらっているので持ってはいないですが、タルゴーさんの商会の人が契約に向かうときにはできていると思います」
「流石セナ様ですわ!」
「あと、もう一つあって……あ、もう明るさを戻しても大丈夫です」
ギルマスが明かりを灯してくれたところで、根付けストラップのデザイン画を見せる。
「これは先ほどのライトとは違って、組紐でぶら下げる物になります。この四角いものが行燈の枠の小さいものです。この輪の部分を……」
口で説明できなくて、ストラップの取り付け方をリボンで実演した。さらに宝石を散りばめることや、扇に付ける宣伝文句のことを説明すると、タルゴーさんがプルプルと震え出した。
「大丈夫ですか?」
「だ……」
「だ?」
「大丈夫じゃありませんわー!! 何て素晴らしいものをお考えになりますの!? これは夜会の話題を独占ですわ! 特別……あぁ……なんて素敵な……」
叫ぶように話していたタルゴーさんは頬に手を当て、最後にうっとりと呟いた。
だ、大丈夫かな?
「こちらの組紐も登録しましょう」
「え? 他の村とかで工芸品としてこういうのあるんじゃないの?」
笑顔で書類を用意し始めたギルマスに疑問をぶつける。
ギルマスいわく、似ているものはあるけど、普通のは輪になっていないらしい。結びたいところにリボンのように結びつけるんだそう。
こんなのまでレシピ登録するのね……
「こちらの編み方を登録すればよろしいのでなくって?」
「そうですね。そう致しましょう」
「村の工房にお願いしてきたけど、完成品を見てないから、どんな編み方になってるかわからないです」
「なるほど。でしたはこちらは確認後に登録致しましょう」
ギルマスは私にいくつか質問しながら書類を書いていく。
値段や、ヌイカミさんの工房などの話をしていると、どんどん時間が過ぎていく。
途中からタルゴーさんとギルマスの話し合いになり、私は見ているだけ。
グレンとジルとお菓子を食べながら待つ。
話がまとまったときには既に、外は夕日色に染まっていた。
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