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13章

炊き出しランチ

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 お昼ちょっと前、六人の従業員が中庭に集合したけど、親方さん以外にもう一人建物内にいたので、その人も呼んできてもらう。
 集まった従業員達も前に見たときより元気がないし、そこかしこから空腹を訴える腹の虫の音が聞こえてくるから、あまり食べていないのかもしれない。そう考えると今回のこれは正解な気がする。
 おなかが満たされれば気分も上がるよね!

「では、これより食事を配りますが……文句がある方は食べなくて結構です。同様にケンカするような方には渡しません。それに納得した方のみ一列に並んで受け取って下さい」

 ジルが従業員達に向かって告げると、従業員達は無言でササッと列を作った。
 入れ物はこういうとき用に作っておいたプラスチック製の丼皿。自分達用のは使いたくないし、割れても溶かして成形し直すこともできる。

 ポトフ、串焼き、パンを受け取った従業員達は、汚れも気にせず地べたに座って食べ始めた。
 ただ、相当おなかが空いていたのか、早々に食べ終わった人が再び列に並び、それを見た別の従業員もそれに続いて列が途切れることがない。
 一人当たり約十杯食べた従業員達は満足そうにおなかをさすっている者、地面に寝転がる者とさまざま。
 作った鍋もほぼ空っぽになった。

 ふと親方さんが動く気配がした。起きたみたい。
 親方さんの気配は真っ直ぐこの中庭に向かってくる。

「おはよう」
「おい……お前ら……」
「「「「!」」」」

 親方さんが低く咎めるように声をかけると、従業員達は蜘蛛の子を散らすようにピューっと走って逃げた。
 素早い……

「これは……何だ」
「何だって? ご飯食べてただけだよ」
「そんな金なんかねぇぞ」
「あぁ、それは別にいらないよ」
「は?」
「親方さんも食べるでしょ? 親方さんの分はちゃんと取っておいてあるよ。はい、どーぞ」
「ちょ、ちょっと待て」
「ん? あ! イスね」
「あ、悪ぃ……ってそうじゃねぇよ!」
〈セナ、われは手伝ったぞ〉
「そうだね。みんないなくなっちゃったし私達も食べようか?」
「おい! オレの話を聞け!」
〈何だ騒がしい。セナが作った料理に文句でもあるのか?〉
「いや、そうじゃねぇが……」
〈なら黙って食え〉
「はぁ……わかったよ。食えばいいんだろ……」

 グレンに睨まれた親方さんは一口食べた瞬間にカッ! と目を見開いてバクバクと食べていき、あっという間にお皿を空にした。

「鍋出しておくから好きなだけよそって食べてね」
〈セーナー〉
「はいはい。グレンとジルはスペシャルチャーシュー丼と特盛りチャーシューうどんだよ」
「ありがとうございます」
〈おぉ! 肉だ! ……んまい!〉

 グレンはチャーシューを気に入ったようでこちらもすごい勢いで食べていく。
 本当ならラーメンがよかったんだけど……まぁ、しょうがないよね。

「うん! くさみもないし、味も染みてる。我ながら美味しい! このレシピは当たりだったねぇ」
「セナ様の料理は全て美味しいです」
〈セナ! おかわり! 肉大盛りがいい〉
「もう? ちゃんと噛んでる?」
〈早く〉
「はいはい。ちょっと待って」

 茹でておいたうどんとスライスしたチャーシューを山盛りにしてグレンに渡す。

「美味そうだな……」
〈やらんぞ! これは手伝ったわれのご褒美だ! 貴様はその鍋があるだろう!〉
「僕を見ても渡しません」

 グレンもジルも親方さんに分けてあげる気はないみたい。
 手伝ってもらったグレン達の分を渡すのはダメな気がして、親方さんには串焼きとパンを追加で出してあげた。
 その後もグレンとジルがおかわりをし続けたため、うどん、米と順番になくなり……最後はチャーシューだけ食べていた。

〈ふぅ……まだ食べられるが、今日は止めておこう〉
「流石ドラゴン……すげぇ食うな……」

 いや、親方さん。感心してるけど、あなたも結局鍋一つ空っぽにしてるじゃん。充分よく食べたと思うよ……

「で、何でこうなったんだ?」
「ん? みんな疲れてるみたいだし、おなか減ってるみたいだったから、食べたら元気になるかなって思って」
「あぁ……最近は仕事がちょっとな……」
「まぁ、それは置いておいて、このテント、いくら払えばいい?」
「いらん。元々オレがふっかけたんだ。アンタらはそれ以上の仕事をして、尚且つドラゴンの鱗なんつーレアな素材をオレに渡してくれた。それだけでこれを作る以上の価値がある。そうだな……金はいらねぇが、残ったドラゴンの鱗とムレナバイパーサーペントの鱗をもらいたい」
〈ほう……考えたな。われの鱗を売るのか。確かに金になるだろうな〉
「んなことしねぇよ! 何でちゃんとした価値もわからねぇそこらの商人に売らなきゃいけねぇんだ! 価値が下がっちまうだろうが!」
「まぁまぁ、落ち着いて」

 興奮して声を荒らげる親方さんを宥める。
 売るつもりがないならどうするのかと聞いてみると、研究したいんだそう。魔力伝導率がどうのこうのと説明されたけど、私にはよくわからなかった。

「グレンがいいなら私は構わないよ。ウツボの鱗もまだまだいっぱいあるし」
「ウツボ?」
「えーと、ムレナバイパーサーペントのこと。それより、工房はどうするの? 仕事あるの?」
「それは……」

 親方さんは気まずそうに目を逸らした。
 やっぱり考えてなかったみたい。

「あのさ、モノは相談なんだけど……行燈あんどん作ってみない?」
「アンドン?」
「照明器具……魔道具のライトみたいな感じなんだけど、間接照明……って言ってもわからないよね。ちょっと見てて」

 紙にサラサラとデザイン画を描いてみせると、親方さんは首を傾げた。

「鉄板扱えるし、曲げるのもくり抜きもできるでしょ?」
「できるが……なんでライトなんだ?」
「ライトって暗い部屋で使うでしょ? 例えば外側をお花の模様にしておけば、壁にそのお花が映るの。私が見た商会ではこういうのなかったから貴族とかに売れると思うんだよね」
「……ハッハッハ! オレみたいな職人が作ったやつが貴族に売れるわけねぇだろうが」
「あぁ、それは大丈夫。伝手があるし、多分『素晴らしいですわ!』って食いつくと思うから。魔道具のライトは別にいいんだけど、この外側ってどれくらいで作れる?」
「……は? いやいやいや! ちょっと待て。作るのはいいが、本当に売れんのか?」
「うん。売れると思うけど……売れなかったら私が全部買い取ってあげるよ。それならいい?」
「あ、あぁ……それなら構わねぇが……」
「これくらいの大きさだと、どれくらいでできる?」
「その大きさの外側だけなら明日には渡せる」
「いいね! そしたらまた明日取りにくるよ! じゃあ、私達宿に戻るからテント片付けるね」
「あ、あぁ……」

 理解が追いついていないっぽい親方さんをテントから出し、テントを片付ける。呆然としている親方さんに「よろしくね~」と挨拶して、私達は宿に戻った。

「セナ様、よろしかったのですか?」
「うん。プルトンがね、親方さんが工房閉めようとしてるって教えてくれたの。かなり強引だったと思うけど、きっかけがあれば盛り返せると思って。だからタルゴーさんには自由に作らせてあげて欲しいって頼むつもり」
〈確かにあやつを潰すのはもったいないな。素材を理解しているから、この先セナが望むものを作れるだろう。あの女ならセナが言えば悪いようにはしないだろう〉
《うんうん! 見てて面白かったわよ! あんなおっかない顔してるのに慕われてるみたいだし、私も賛成!》

 グレンもプルトンも紹介することに異論はないみたい。二人の言葉を聞いてジルは「そうですね。ソイヤ村のように、セナ様の素晴らしさを広めてくれるでしょう」と納得? した。
 あの信者村みたいにならないようにタルゴーさんにはクギを刺しておこう……

 部屋でタルゴーさんへの手紙を書き、プルトンを介して精霊の子に行燈用の魔道具のライトの制作を頼んだ。作ろうとしたんだけど、私の魔力は強すぎてダメなんだって……


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