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13章

鉱人族の意地

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◇ ◆ ◇

 再びプルトンとポラルに情報収集してもらい、ジルと対策を考えた結果、工房主達と面談することにした。
 親方さんのところのお姉さんに頼んで手紙を配ってもらい、数度やり取り。
 場所は村の会議が行われるという、この村の中で一番大きな工房だ。

 一応、形式上親方さんも参加している。ひいきされているって文句を言わせないためらしい。執務室以上に顔を強ばらせて、話しかけんなオーラを醸し出していた。

 挨拶もそこそこに狩ってきた素材の見本を並べ、希望の数量と値段を紙に書いてもらう。

「何故こんな面倒なことせにゃならん! ワシの坑道で出た魔物の素材を寄こせ!」

 と怒鳴る工房主はジルが理詰めして黙らせた。
 一匹の上位種に逃げたくらいなのに、「探して生け捕りにしたリメインロックフィッシュを坑道に放ちましょうか?」なんて言われちゃったら何も言えなくなっちゃうよね。
 まさに、ぐうの音も出ないって感じ。

「ギルドに卸す金額を目安にしています。ギルドから仕入れるより安いと思いますが、ギルドより下回った場合は売りません。職人ならば素材をよく見てご判断下さい」

 ジルが説明してくれている後ろで、私はグレンの膝の上に乗せられて紅茶を飲んでいるだけ。
 私が話すことを渋ったジルはテキパキと指示を出し、文字がわからない人には口頭で説明して上手くまとめてくれている。
 私だけだったら、面倒になって放置しちゃいそう……本当一緒にいてくれることに感謝だわ。

 二時間ほどで素材即売会は終わり、半分ほどの素材がはけた。
 半数なのは質がよすぎたため。上位種はもちろん、他の素材も一般に出回っている物より高値になったことが原因。これは工房主達も納得していたから大丈夫だろう。
 ただ、素材のよさに目を付けた工房主二人から、今後も取り引きしたいと要望があった。

 工房を出た私達は誘われるまま三ヶ所の工房見学。
 金属製の可愛い入れ物や裁縫道具をお買い上げ。
 他にも小さいスプーンやフォークなどのカトラリーに惹かれたんだけど、グレンが使うわけじゃないのに許可が下りなかった。

◇ ◆ ◇

 工房主達との会合が終わった翌日から、私達は狩りに出かけたり、コテージで作り置き料理を作ったりとのんびりとすごしている。
 一週間ほどすると遭遇した村人が挨拶してくれるようになった。
 こんなに長期間村に泊まり続ける商人はいないんだって。

 そこからさらに一週間、グレンが飽きてきたから遠出を考え始めた夜、親方さんから連絡がきた。
 翌日に意気揚々と工房へ向かうと、明らかに疲れ果てた親方さんが待ち構えていた。肌艶がなくなり、死んだ魚のような目。その目の下にはクッキリとクマができていて、以前のような覇気がない。

「……おう。待たせたな……」
「え? だ、大丈夫?」
「……大丈夫だ。こっちにこい」

 親方さんに案内されて工房の奥から外に出ると、そこは建物に囲まれた中庭のような場所だった。その中心に私が求めていたあのテントがあった。

「おぉ~! すごーい! これ、これー!」

 駆け寄って支柱や繋ぎ目などを見て回る。

「火・水・雷は天災でもない限り耐えられると思う。一応防風も付けたから、嵐くらいなら倒れん」
「わぁ~! すごいね! ありがとう!」
「それだけじゃない。外側から見てろ」

 親方さんはそう言って私達をテントの横に並ばせ、真ん中の支柱に付いているボタンみたいなのを押す。
 すると、カシャカシャカシャカシャと機械音のような音が聞こえ、テントにがなくなった。

「こうなったら、端の柱が楽に動かせる。いいか? 見てろよ!」

 親方さんはサイドに回って支柱の一本を
 通常ならば考えられないのに、親方さんはありえない方向にゆっくりと進む。
 がなくなって幌がたわんだテントは……屏風のようと言えばいいのか、ジャバラ式に折りたたまれると言えばいいのか、はたまた突っ張り棒を短くするようにと言えばいいのか……どうなっているのかわからないけど、最後は支柱がまとめられれて幌で包まれた状態になった。

「えぇ!? わかんないけどすごいね!」
「これでアンタでも簡単に立てられるだろ? 柱は軽くしてある。これはら解除されて重くなるから気をつけろ。ときは今やったのの逆をやりゃあいい。やってみるか?」
「うん!」

 親方さんの指示の元、包んでいる幌の一部を外して支柱を出し、それを引っ張っていく。テント型にまで広げたら、最後に真ん中の支柱にあるボタンを押すと、再びカシャカシャと音が鳴って一番最初に見たテントらしいテントになった。

「すごい! すごい! 魔道具?」
「正確には違うから半魔道具ってところだな。研究すりゃもっといいもんができるだろうが、今のオレにはこれが精一杯だ」
「充分だよ! 簡単だし、時間もかからないとか最高!」
〈ふむ。やるではないか〉
「っ! ドラゴンに……ドラゴンに認められたぞ……!」

 両手を上げて喜んだ親方さんがいきなりバタン! と倒れた。

「えぇー!? ちょっと大丈夫!?」
「寝ておられますね」
「えぇ!?」

 親方さんはグレンの一言で緊張の糸が切れたのか、疲れが限界だったのか……そのまま幸せそうに眠ってしまった。
 ジルに工房の人を呼んでもらい、グレンに親方さんを親方さんのベッドルームまで運んでもらう。
 工房の人に聞いたところ、親方さんはグレンを唸らせてやるとロクに睡眠も取らず制作していたらしい。付き合わされた工房の従業員も忙しく動いていたんだそう。

「急ぎの仕事とかある?」
「いえ……こんなこと言っていいのかわかりませんが、あなた方が来るまで仕事はあってないようなものだったので……」
「よし! それなら二時間後……いや、ちょうどいいからお昼にしよう。お昼にさっきの中庭に従業員全員集めてくれる?」
「え……ぜ、全員ですか?」
「そう、全員」
〈いいからさっさと行け〉
「は、はいぃぃ!」

 グレンがひと睨みすると、若い男の子は慌ただしく部屋を飛び出して行った。
 んもう、グレンってば……

「セナ様、人を集めてどうするのですか?」
「ん? 大変だったみたいだから、みんなでご飯食べようと思って。準備の間、プルトンはどんな技術があるか工房の中を見てきてもらってもいい?」
《いいわよ~》
「グレンとジルは手伝ってね」
「かしこまりました」
〈ム……われもか?〉
「手伝ってくれたらスペシャルメニュー出してあげる」
〈そうか! さっさと行くぞ!〉

 ご褒美のご飯に目を輝かせたグレンは、すぐにドアに向かって歩き出した。



 出しっぱなしのテントの下で早速料理開始。
 グレウスに焚き火と即席竈を作ってもらい、鍋と串焼きをセット。
 串焼きの串打ちと火の番はグレンに頼んだ。

 グレンとジル用の料理を作りつつ、従業員用のスープを作る。
 従業員用は野菜たっぷりポトフ。この世界の人に馴染み深いコンソメ味だ。豚汁でもよかったんだけど、警戒されるかなってこっちにした。

 ジルに協力してもらって野菜をザクザクと刻み、鍋に投入。
 大食い具合とおなかの空き具合を考えて、さらにグレウスに竈を作ってもらった。
 煮込み終わった鍋を無限収納インベントリに回収して、別な鍋で新たに作る。

 匂いに釣られたのか、お昼が近付くと従業員達がコチラを窺っているのがわかった。

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