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13章

雨の避難先

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 精霊の国で大歓待を受けた私達はピリクの街に戻ってフライドポテトのレシピ登録を済ませた。
 あの無口なお兄さんと女店主、代理人に商業ギルドでレッスン。って言っても、油で揚げるだけだからコンソメとバターフレーバーの作り方も教えてあげた。
 酒場【ヴィノー】はそのまま提供を許可したけど、タルゴー商会でも屋台を出したいと言われたのでそれについてはやる気満々の代理人に丸投げしちゃった。
 代理人いわく、簡単で材費も安上がりだから支店がある街で販売するらしい。

 グリネロはまだ安定して飛べないため、コテージで特訓中。
 なのでピリクの街からは、久しぶりにニヴェスが馬車を牽引してくれている。

 精霊の国で底をつきかけたパンを量産した私はジルがいる御者席にお邪魔した。

「セナ様、いかが致しました?」
「ううん。何もないんだけど、ジルと話したかったの」
「気遣っていただきありがとうございます。お体が冷えてしまいますので、こちらをお使い下さい」
「ありがとう。ジルも一緒に使お?」

 かけてくれたブランケットをジルの膝にも広げて身を寄せる。

「今日はどん曇りだねぇ」
「はい。エルミス様が先ほど雨が降ると仰っていました。この暗さですと、激しくなるかもしれません」
「そっか。雨が降る前にネラース達に避難してもらないと」

 今日もネラース達はじゃれ合いながら馬車と並走している。
 お昼休憩時に影に戻るかコテージに行くか聞いてみると、三人ともコテージを選んだ。
 一人馬車を引かなきゃいけないニヴェスに謝ると、『役に立てるの嬉しいですン』なんて健気なことを言ってくれた。
 わざわざ小さくなって体を擦り付けてくるニヴェスを欲望のままにワシャワシャと撫でまくってしまったのは、可愛いニヴェスがいけない。あの可愛さは罪だよ罪!

 出発して二時間ほど経ったころ、ポツポツと雨が降り始めた。
 すぐに雨脚は強くなり、ザーザーと音を立てるまでに激しくなってしまった。
 ここは街道沿い。こんな土砂降りの中移動する人はそうそういないと思うけど、結界を張っていたらバレてしまう。
 近くに雨宿りができるような場所がないかとマップで探すと、近くに村があった。

「ニヴェス、あっちに村があるからそこまで頑張ってもらってもいい?」
『はいですン』

 ニヴェスには体に纏わせるように結界を張り、濡れないように雨を防ぐ。
 十分ほど走ってもらうと、割りと大きな村が見えてきた。
 村には門番さんはいなかったけど、洗濯物を急いで取り込んでいるおばさんがいて、宿の場所を教えてくれた。
 宿は木造で、歩く度にギシギシと鳴る仕様だったけど、掃除はよく行き届いていた。

「宿があって助かったね」
〈わざわざ泊まらなくてもよかったんじゃないか?〉
「街道沿いの木もないところで立ち往生はしたくなかったの。外で眠れないし、丸見えだから大きく結界張れないじゃん?」
〈近付いてくるやつがいればわれが始末してやったのに〉
「外に出たらグレンも雨に濡れちゃうでしょ? これでいいの。さ、夜ご飯まで時間あるからお風呂入ろ!」

 近付いてくるなら一般人だと思うんだけど、もう宿だしグレンには言わないでおいた。
 宿の部屋からコテージに移動してお風呂へ。
 こういうとき、お風呂が何個もあるコテージは順番待ちがないから余計にありがたみを感じる。パパ達に大感謝だわ。

 ニヴェスを連れて、お風呂でホッコリと温まる。湯船には湯の花を入れて、体の芯からぽっかぽかになった。
 ただ、この硫黄臭は嫌がられるから、お風呂から上がったら【クリーン】と【浄化】は必須だ。
 ちなみに、国交パーティーのときにもらった【ショシュ丸】は主要な部屋には設置済み。お風呂場にも置いてあるから、香りは染みつかないよ!
 本当は全部屋に置きたかったんだけど、パパ達のお部屋に入っていいかわからなくて止めておいた。

〈セナ! 暑い! シャーベット!〉
「はいはい。ジルも食べる?」
「僕は何かさっぱりとしたフルーツをいただきたいです」
「いいね! 私もそうしよう!」

 グレンにさくらんぼのシャーベットを渡し、私とジルは白いグレープフルーツ。甘いけど、苦味があるからさっぱりするんだよね。

 夜ご飯ができたら声をかけると言われていた私達は、食べ終わってからすぐに宿に戻った。
 部屋に戻ると、さっきまでは聞こえていなかった隣りの部屋の人の声がボソボソと聞こえてきた。
 壁が薄いんだね……まぁ、丸聞こえじゃないだけマシかな?
 プルトンにお願いして結界を張ってもらったものの、念の為に込み入った話はしないようにしよう。

 呼ばれて一階の食堂に降りると、既に私達の他に三組が食べていた。二人組と一人と一人。全員冒険者には見えないし、一人っていうのが意外。

「お待ちどうさん。おかわりは別料金だよ。あんた達はどこの工房に行くんだい?」
「へ?」

 料理を運んできた女将さんに話しかけられ、私達は首を傾げる。
 女将さんが言うには、この村は工房がいくつかあり、宿に泊まる人はほとんどがその工房に用のある商人、及び商業ギルドの関係者だそう。
 雨で避難してきたことを告げると、「なるほどね。子供だから不思議だったんだよ」と納得された。

「工房って何作ってるの?」
「工房によっていろいろだね。農具に鍋、武器も作ってるし、貴族用の家具を生業なりわいとしているところもある。後は……そういう装飾品もだね」

 女将さんは私が付けている髪留めを指さした。

「屋台のお店とか作ってる工房ってあったりする?」
「屋台かい? それなら確かカパルんとこで作ってたと思うよ」
「そのカパルさんを紹介してもらうことってできる?」
「うーん……あのジジイは偏屈だからねぇ……あたしが言ったところでどうなるか……」
「それなら場所を教えてもらってもいい?」
「それは構わないよ。ちょっと待ってな」

 女将さんはそう言って宿のカウンターで地図を描いてくれた。
 その後、グレンがおかわりしまくって女将さんを驚かせた夕食を終え、私達は部屋に戻ってきた。
 グレン達にリバーシを渡して私はデザインを描く。

「セナ様、そちらは?」
「工房で頼みたいやつ。何回も見てたけど、記憶が……」

 骨組みが思い出せなくて四苦八苦しているうちに夜は更けていき、クラオルに『もうとっくに寝る時間よ!』とデザイン画を奪われた。


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