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13章
お散歩討伐
しおりを挟む宿の朝ご飯を食べ終え、食後のお茶を飲んでいるとガルドさんに呼ばれた。
「なぁ、いつもこんなにゆっくりしてるのか?」
「ゆっくりするときはゆっくりするけど……」
「俺達のせいか?」
「違う、違う。せっかくガルドさん達に会えたのにバタバタしてたらもったいないじゃん……すぐにまた行っちゃうんでしょ?」
もったいないのも寂しいのも本音だけど、パパ達のお手伝いで大変なガルドさん達の疲れを少しでも癒したいのもある。
ガルドさんはそんな私の気持ちを知ってか知らずか、「いっちょ前に気遣いやがって」と私の頭をガシガシと撫でた。
「俺達に遠慮すんな。お前さんはお前さんらしい方がいい」
「そうだよー」
「えぇ。自分達に遠慮されると寂しいです」
「……会うだけで元気出る」
ガルドさん達は優しい。いつも私を優先してくれる。甘えたくなるから、甘やかさないでもらいたい。
ただでさえワガママ自己中なのに、性格の悪さに拍車がかかっちゃうよ。
私はそんなガルドさん達だから、お手伝いがないときは少しでも疲れを取って欲しい。
「グレンは狩りたいんじゃないのか?」
〈ふむ。セナがガルド達といると嬉しそうだからな。少しくらい構わん〉
そんなにわかりやすいかと両手で顔を隠すと、優しく頭を撫でられた。この感覚はコルトさんだ。
指の間から覗いてみると、いつになく嬉しそうに微笑んでいた。
(くっ……相変わらずイケメン!)
「オレっち達は大丈夫だから、今日は狩りに行こうかー? 昨日さー、あの酒場で聞いたんだけど、西の村の近くにグランドラットとアーマーラットが巣を広げてるんだってー」
「セナ様、グランドラット、アーマーラット共に土中に巣を作ります。グランドラットは前歯と手足としっぽ、アーマーラットは硬い毛皮が素材です。両方共に食用ではありません」
私が思い出そうと首を捻っていると、ジルが教えてくれた。
流石ジル! 素晴らしきジル図鑑!
〈何だ食えない肉か〉
「食用ではありませんが、素材は高値で取り引きされているそうです。それにグランドラットは鉱石を集める習性があるそうなので、いい物があるかもしれません」
〈ふむ。セナが使えるものなら行ってもいいぞ〉
「んじゃ決まりだな」
パパッと準備した私達は街を出て、グリネロ達を呼ぶ。
ガルドさん達もそれぞれ、従魔の龍走馬を呼んだ。
「久しぶり~。見てない間にカッコよくなったね~!」
私がガルドさんの馬を撫でると、他の馬も鼻を寄せてくる。
望まれるまま撫でてあげると、馬達は嬉しそうに目を細めた。
ガルドさん達の馬は鱗の面積が少し増え、膝や肘などを守るプロテクターみたい。その鱗の煌めきが凛々しく、またレアものっぽい。
グリネロやジルのクーヴェも再会を喜んでいる。
それぞれが自分の馬に跨ったら出発。グレンは私と一緒にグリネロの背中だ。
ガルドさん達はおばあちゃんに言われたそうで、ちゃんとした馬具を作ったんだそう。見た目がオシャレでちょっと羨ましくなった。
道中の魔物はネラース達が狩ってくれているため、止まらなくていい。って言っても、あんまりいないからネラース達もじゃれて並走しているんだけどね。
しばらく走っていると、モルトさんが何かを思い出したかのように声を上げた。
「あぁ、そうでした。自分達のも羽が生えて空を飛べるようになったんですよ」
「そうそうー。おかげでオレっち達も大助かりだよー」
「へぇー! 本当に飛べるんだね!」
「セナさんは飛んだことがないのですか?」
「うん。飛ぶ用事がなくて……グリネロ早いから、それだけでも充分助かってるし」
ジュードさんもモルトさんも納得した様子だけど、本当は忘れてただけ。羽しまってるし。
従魔契約したことを忘れてたから、グリネロに〝忘れてた〟は禁句だ。『飛べるぞ! スピードも出せるぞ!』なんて、空中でプランプランしたくはない。手綱から手を離したら真っ逆さまだよ。
グリネロから案の定『役に立つ。忘れてくれるな』と何回も訴えられた。
魔馬車より格段に早いグリネロ達のおかげで、お昼休憩してから二時間も経たずに目的地付近に到着。
村は近いけど、グリネロ達に驚かれることを考えて寄らない。
カッポカッポとグリネロ達に歩いてもらい、魔物に逃げられないように気配を殺す。
「ここだねー。魔物の気配がうじゃうじゃだー」
「見当たらねぇから下か。土ん中だとすると土魔法か?」
「それは大丈夫だよ~。準備は大丈夫?」
ガルドさん達に声をかけ、武器を構えたことを確認したところでルフスとグレウスに頼む。
ルフスは『任せるっち!』とやる気充分に火の玉を地面に撃ち込み、グレウスは『頑張ります!』と土魔法でネズミの巣を波打たせる。
驚いたネズミ達が飛び出してきたところをネラース達が嬉嬉として突っ込んで行った。
グランドラットもアーマーラットも体長十センチ~二十センチほどの大きさ。巣がすぐ近くにあったのか、ごちゃ混ぜになって現れた。
(うっ……そこまで小さくないけど、うじゃうじゃは気持ち悪いな……)
ガルドさんやグレン、ジルにネラース達、さらにはグリネロ達まで遠慮なく攻撃している。
おかげで草原の土はめくれ、土埃がモアモアと上がっている。
私はあぶれたネズミをクラオルと一緒に狩るだけで、一時間ほどでほとんどのネズミが駆除された。
習性で集められていた鉱石は鉄鉱石がメイン。鏃を作るのにちょうどいいから全部いただいた。
「相変わらずセナの従魔はすげぇな……」
「だねぇー。数的にもっと時間かかるかと思ってたよー」
ガルドさんとジュードさんに褒められたネラース達は嬉しさに彼らにじゃれつき、撫でられて満足そう。
モルトさんとコルトさんはモフモフを堪能して嬉しそう。
「これから街に戻るのもなんだし、今日は近くで野宿すっか」
「そうしよー! 買ったオーブン使いたかったんだよねー!」
野宿に喜ぶネラース達にちょうどいい場所を探してもらい、私達は野営の準備。
「セナっちと野宿は久しぶりだねー」
「そうだねぇ。ワガママ言ってよければジュードさんのスープが飲みたいな」
「いいよいいよー。それならコンソメスープにしよっかー?」
「やったー!」
はしゃぐ私をジュードさんがワシワシと撫でる。ちょっと耳が赤いから照れてるのかもしれない。
今日の夜ご飯はジュードさんが作るピザとコンソメスープ、私が作るエビとキノコのバター醤油炒めと豚丼と豚の角煮。
なんとも統一感のないメニューだけど、バター醤油炒めと豚丼はガルドさん達からのリクエスト。豚の角煮は言わずもがな肉欲求が激しいグレンからのリクエストだ。
早速買ったオーブンをフル活用してピザを焼くジュードさんはものすごく機嫌がいい。
コンロ付属のオーブンだけだと回数をこなさなきゃ満足するほどのピザの枚数が焼けなかったらしく、「これで野営のときにもいっぱいピザが食べられるよー」とのこと。
ピザ生地はパン屋で焼く前のパン生地を売ってもらってるんだって。
みんなで揃って「いただきます」をして食べ始める。
「あぁ……ジュードさんのコンソメスープ……幸せ……」
「ン゛! ……ゴホッ! ゴホッ!」
「プフッ。おい、セナ。あんまジュードを照れさせんな。噎せて顔真っ赤じゃねぇか」
ジュードさんは涙目でガルドさんを睨んだけど、ガルドさんは笑うだけ。
咳が治まったジュードさんはガルドさんの豚の角煮を横から奪っていった。
「あぁー! 俺の肉!」
「あぁー。セナっちの料理は美味しいなー」
「ふふふ。まだお鍋に入ってるからおかわりできるよ」
私が言うと、ガルドさんとジュードさんは競うように二人してお鍋に走って行った。
ご飯を食べ終わった私達はダーツやリバーシで遊び、久しぶりにみんなで雑魚寝。
ちょいちょいと手招きされた結果、私の両サイドにはモルトさんとコルトさん。
呪淵の森のときみたいに護ってもらえていることを実感。
コルトさんに撫でられる心地よさも相まって、もっと話したかったのに早々に眠りについてしまった。
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