393 / 538
13章
突撃してきた訪問者
しおりを挟む極楽のマッサージを受けた次の日から二日間はコテージでゆっくりすごした。
グレンもジルもマッサージでオフモードになったのか、三人共それぞれ自分の部屋でゴロゴロ。
その間ネラース達やグリネロ達はコテージの周りで遊んでいた。
◇ ◆ ◇
朝ご飯を食べ、お出かけしようと宿の一階に降りると、ちょうど口髭を生やした知的なオジサマが宿に入って来た。
白髪を七三分けにしていて、服はピシッとしたスーツ。小洒落た飾りが胸ポケットのところでキラリと光っている。
「おや、タイミングがよかった。キミがセナ嬢かな?」
〈「!」〉
そのオジサマに話しかけられ、ジルとグレンは警戒心を露にした。
ジルは私を庇うように前に立ち、私は一瞬にしてグレンの腕の中へ。
このオジサマは知らないけど、私は違う気配が近付いていることに気が付いた。
グレンとジルのあからさまな態度を見て、オジサマは目を丸くしたけど、すぐに納得したように頷いた。
「あぁ、すまないね。怪しい者ではないんだ。私は……」
「俺達の連れに何かようか?」
オジサマの真後ろに立った人物は、目に鋭さを持たせ、低く聞き咎めた。
その人物は……ガルドさん。
私がグレンの腕の中からブンブンと手を振ると、目元をちょっとだけ緩ませる。
「で、この子達に何か用なのー?」
と、ジュードさんがガルドさんの横に並んで問いかける。
その様子は口元は笑っているのに目が笑っていなくて、すごく圧を感じた。
「あ、あぁ。私の家に招待しようと思ってね」
「お知り合いには見えないのですが」
答えたオジサマにすかさずモルトさんが疑問を呈した。
「……流石冒険者たる所以か……ふぅ。ちゃんと説明しよう。私はこの街の領主、シパブレ・タルゴー。キミ達に世話になっているタルゴー商会商会長、カルリーノ・タルゴーのいとこにあたる。会う度にキミ達のことは聞かされていたから、ずっと会いたいと思っていたんだ。今回、あの討伐に協力してくれたと報告を受けてね、冒険者ギルドに滞在している宿を聞いたんだよ」
「あぁ……(あのギルマスめ……)」
「ここ二日ほど空振りだったけど、会えてよかった」
小声でごちる私に領主のオジサマはそう言って笑顔を見せた。
とりあえず、遭遇しちゃったからには話をするしかないと場所を移動。宿の隣にある喫茶店の個室に入った。
〈……で、セナに何の用だ〉
「ん? それについてはちょっと待ってもらってもいいかい? このメニューのこれとコレは何が違うのかね?」
「ミエールツが入っているかどうかです」
私達に見えるようにメニューを指さして聞いてきた領主に、ジルが教えてあげると、「それだけの違いで値段が変わるものなのか」と面白そうに呟いた。
オジサマの飲み物が決まり、注文した物が届いてからようやく、オジサマは語りだした。
タルゴーさんを助けたと聞いたこと。ゲーノさんの村を助けたくても自分の領地じゃなくて助けられなかったこと。ラップサンド、ダンジョン、ホットプレートによって村が豊かになったこと。タルゴー商会が雇ったため、街の平民だけじゃなく、貧民も飢えることがなくなったこと。タルゴーさんが私自慢をしていたこと……そして、今回の討伐隊の件。
「キミ達のおかげで私の親族、さらには領内の平和が守られた。カルリーノの執事からセナ嬢は貴族が好きじゃないと聞いていたが、流石に今回ばかりはどうしても直接お礼が言いたくてね」
「なるほど」
「本当に感謝している。ありがとう」
領主は私達に頭を下げた。冒険者だからって態度を変えたり、バカにしたりはしない人らしい。タルゴーさんのいとこだけある。
「それで何かお礼をと思ったのだが、何がいいのかわからなくてね……家の中を探し回ったらコレを見つけたんだ」
そう言う領主がポケットから取り出したのはハンカチ。彼が結び目を解くと、ハンカチはハラリと広がって、黒い物体が現れた。
〈何だそれは……〉
「これは【プラビナの実】の種。【プラビナの実】は、この大陸のはるか北の国で〝気付けの実〟と呼ばれているものだ。本来はこの種を覆っている部分を食する」
「!」
「あの国は今は内政が荒れているらしく、他国とあまり関わりがない。私の祖父が若いころに旅行に行ったときに買ったものだそうだ。カルリーノからセナ嬢は不思議な物を求めると聞いていたんだが……いくら珍しいからといって、やはりこれでは礼にならんよな……他の物は年月を経ちすぎてわからないものが多かったのだ……」
「いやいやいや! それちょっと見せて!」
私の勢いに驚きながらも領主は種を一つ渡してくれた。
種に鑑定をかけてみると、私の予想通りの梅干し! の種。
以前カリダの王城の書庫で読んだ内容そのままだった。
「わぁ~っ! 最高! 北に行けなかったから諦めてたんだよね! これもらっちゃっていいの!?」
「……ククク。構わない。こちら全てもらってくれ」
「やった~!! ジュードさん! これを育てて収穫したら、新しい料理が作れるようになるよ!」
「えぇー!? ホントに!?」
「うん!」
私と盛り上がるジュードさんを見た領主の「まさかここまで喜ばれるとはな」なんて呟きは私の耳には届いていなかった。
「ありがとう! 超嬉しい!」
「そんなに喜んでもらえて私も嬉しく思う。本当にカルリーノから聞いていた通りだ。セナ嬢の笑顔は人を幸せにするのだな。どうだね? 私の孫に一度会ってみないか?」
〈貴様……〉
「じょ、冗談だ」
グレンに睨まれ、領主は苦笑い。
その後は穏やかな面会となり、お昼ご飯をご馳走になって別れた。
ガルドさん達と会えた私達は揃って宿に戻る。
「ガルドさん、ジュードさん、モルトさん、コルトさんおかえりー!」
部屋に案内した私はガルドさん達に順番に抱きついた。
「ただいま」
「ただいまー! 久しぶりだねー」
「お久しぶりです」
「……会えて嬉しい」
「私も嬉しい!」
抱きつく私の頭を撫でてくれるガルドさん達。この感覚は久しぶりだ。
「ジルベルトは普通に身長伸びたねー」
「セナはあんま変わんねぇな」
「むむ! ちょっと伸びたもん!」
「そんなムクれんな。俺達といないときにあんま成長されると、会ったとき気まずいだろうが」
フォローになってないフォローをしながら、誤魔化すように私の頭を撫でるガルドさん。
久しぶりだし、許しちゃうじゃないか!
「ゆっくりできるの??」
「あぁ、少しな。ちょっと休んだらまた出発だ」
「そっかぁ……」
「デカいとこは終わったらしいから、今度はちょこちょこ戻って来られそうだ」
「本当!?」
「あぁ」
「やったー!! ガルドさん達も戻ってきたし、今日のよるはグレンお楽しみのあのお肉にしようか?」
〈おぉ! やっとか! 今日は肉のご馳走だな!〉
グレンは夜ご飯がイグアナドンだとわかって大喜び。
ガルドさん達もゆっくり休んで欲しいから、コテージでご飯にしよう!
そうとなったら準備しないと!
--------キリトリ線--------
すみません。またご報告がありまして……
昨日、近況ボードを更新しましたので、チェックしていただけると幸いです。
あまりの自分の不甲斐なさにショックを受けております。。
597
お気に入りに追加
24,717
あなたにおすすめの小説
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな
しげむろ ゆうき
恋愛
卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく
しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ
おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~
白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」
マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。
そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。
だが、この世には例外というものがある。
ストロング家の次女であるアールマティだ。
実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。
そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】
戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。
「仰せのままに」
父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。
「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」
脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。
アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃
ストロング領は大飢饉となっていた。
農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。
主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。
短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。