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13章
侮れないギルマス
しおりを挟む朝、眠たい目をこすりながら、コテージから宿泊した部屋に戻ってきた。
「セナ様? 寝ていないのですか?」
「うん……ちょっとワケありで……ははは……はぁ……大丈夫。すぐに復活するから」
私達が泊まらせてもらったのはゲーノさん家。あのモノクルおじさんのパーティは村長宅で、他の冒険者達は宿に泊まっている。騎士達もいるから宿だけじゃ賄えなかったんだよね。
それはいいの。以前のままでも不満はなかったけど、ゲーノさん家も村の家屋同様に建て替えられてて、大きく、キレイになってたし。問題はプレゼントよ。プレゼント。
昨日ゲーノさん家に泊まることになった私は内心喜んだ。他の冒険者……特にモノクルおじさんにジロジロ見られなくて済むから。
アクセサリーはゲーノさんが着けそうもないし……役に立つ物で私が作れるものを考えて、グレンが喜んだブーツまで軽くなる中敷きでも作ろうかと思ってたんだよ。あれを目撃しちゃうまでは……
夜、眠った後にこっそり足のサイズを測ってもらおうと、ポラルにお願い。そしたら、ゲーノさんが女将さんに膝枕してもらってて……愛を囁いてらっしゃったのね。
それをポラルが淡々と実況中継してくれて、すぐに引き返してもらった。時間を置いてまた向かってもらったら、チュッチュチュッチュ。これはイカンと再び退避。
……結局、真夜中過ぎまで待つことになった。
ラブラブなのはいいと思う。いいと思うんだけど……知っちゃいけないことだろうし、知りたくなかった。ゲーノさんが子供っぽく甘えるタイプだったなんて……まぁ、完全に二人の時間にお邪魔した私が悪いんだけど……
で、ポラルに手伝ってもらって中敷きとは違うものを作った。夜中の変なノリとテンションで。日本でもらったら困る人が多いだろうアレを。
朝ご飯のデザートでチートなリンゴを食べて寝不足と疲れを解消。
街へ戻る前にゲーノさんと女将さんにプレゼントする。
「はい! 結婚おめでとう!」
「ん? なんだこれは?」
「まぁ! 初めてみるわ! 不思議なデザインね!」
「それは……ペアルックTシャツです! 二人の愛をイメージして作りました!」
私が渡したのはノーマルな白いTシャツではあるんだけど、前と後ろにでっかくメタリックピンクのハートが描かれている。さらにその中に〝I (ハート) ゲーノ〟と〝I (ハート) ペールトナ〟とお互いの名前を入れた。
ハートは【アホスラ粉末】に、前にダンジョンで手に入れた着色料の鱗粉を使って色を付けた。
文字は黒で中のハートは赤。これも着色料で染色した。
私の何とも形容しがたい感情が込められているとはいえ、私の魔力をたんまりと使って、いろいろと付与した渾身のTシャツだ。
こちらの世界ではない文字だから、Tシャツの模様と一緒に二人に説明する。
するとゲーノさんは顔を赤くして「照れるじゃねぇか……」とデレ、女将さんは「あらヤダ! こんな素敵なものもらっちゃっていいのかねぇ」と、意外にも好感触だった。
感情を持て余して、ネタ的に作ったんだけど……予想外すぎる。
二人は早速着て見せてくれ、お互いのを見て照れている。
うん……ご馳走様です。
私達討伐隊が帰るときも、二人はTシャツを着たままだった。
◇
街へ着いたらそのままギルドへ。
ギルマスと各パーティ毎に応接室で報告。
私達は一番最後だったので、待ち時間の間にお昼ご飯を済ませた。
「お待たせしましたー。大活躍だったらしいですねー。ほとんどのイグアナドンを倒してくれたと聞きましたよー。やはりセナ様に頼んで正解でしたー」
「ん?」
言い方に引っかかりを覚え、ギルマスを見つめると、降参だというように両手を上げた。
「いやー、五体以上だとは予想してましたけどー、まさか十五体もいるとは思ってなかったんですよー。そんな目で見ないでくださいー」
ただ見つめただけなのに……そんな目ってどんな目よ……
「あのムレナバイパーサーペントを倒したセナ様とそちらの従魔がいれば、余裕だと思ってたんですよー。実際、他の人達はセナ様方のおかげでケガもしなくて済んだと報告を受けましたしー、ポーションも無駄に消費しなくて済みましたー」
「フォローにめっちゃ疲れたんだけど……」
「アハハー。すみませーん。一応これでも最低限のパーティ数にしたんですけどねー」
「セナ様の負担はお考えにならなかったのですか?」
怒りを湛えてジルがギルマスに問いただす。
「冒険者に知られてるので、派遣しないわけにはいかなかったんですよー。高ランク冒険者がちょうどいませんでしたし、セナ様もCランクですからねー。負担を考えてあの人数ですー」
悪びれないギルマスにジト目を送ってしまう。
この人全部わかってて仕組んだな……
冒険者ギルドのギルマスって立場を最大限に使って、利用した感じか。ただやる気がないように見えるのに、意外にも策士らしい。
あんまり関わりたくないタイプだな……面倒事全部押し付けられそう。
「はぁ……もういいや」
「では、強制依頼の報酬を払いますねー。申し訳ないですけど、セナ様方は五十万ゼニーでーす。他の人より多くしているので、ご了承願いまーす」
この金額は労力を考えたらおそらく安い。グレンが美味しいと言うイグアナドンの肉を買ったと思うしかない。
先に報酬を聞いておかなかった私が悪い。まぁ、聞いていたとしても、グレンが喜んで狩りに行きたがっただろうけど。
大金貨五枚を受け取って部屋を出ようとすると、「素材はいつでもお待ちしてまーす」と言われた。
◇
冒険者ギルドを出た私は、チートなリンゴで回復したのに疲れてしまった。グレンは何ともなさそうだけど、ジルもちょっとご機嫌ナナメ。
こういうときはリラックスが一番! ということで、タルゴー商会のマッサージ店へ向かう。前に「男性にもサービスを始めましたわ!」ってタルゴーさんが言ってたから、グレン達も施術を受けられる。
マッサージ店に着くと、かなり大きな建物だった。
受付嬢の説明によると、このエリアは入口と休憩所。休憩所ではお茶をすることもできるそう。ここから渡り廊下を通って別棟で施術を受ける。男性は右、女性は左だ。
予めタルゴーさんに「セナ様がいらっしゃったら、最優先でお通ししなさい」と伝えられていたらしく、すぐにそれぞれ個室に案内された。
個室で待っていたのは、以前私が【スライム泥】の実験をしたとき、被験者となってくれた女性の一人だった。
「セナ様のおかげで人生が変わったのです。本日はセナ様の疲れが癒せるように、精一杯努めさせていただきます。あちらの更衣室でこちらのみのお姿になってください」
と、大げさな女性から渡されたのはトランクスみたいなパンツ。これは一回穿いたら処分するんだって。
この世界にも紙パンツ的な概念があるのね……
トランクスに着替えて戻ると、部屋はいい香りのお香が焚かれていた。
ベッドにうつ伏せで寝転がったら、泥マッサージがスタート。
「うはぁ……めちゃくちゃ気持ちいい……」
女性は力加減が絶妙で、体から力が抜けていく。
あまりの気持ちよさに早々に瞼が落ちてしまった。
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