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13章
ハジけるドラゴン
しおりを挟む四、五時間くらい経ち、ゲーノさんの村に近付くと、村は様変わりしていた。
以前はザ・田舎村だったのに、村を囲う柵はボロボロの木から鉄製の新しいものになり、家屋は建て替えられていた。
そういえばタルゴーさんが村の変化が目覚ましいって言ってたっけ。
確かスライムダンジョンで村を訪れる冒険者達が増え、さらにホットプレート作りで村人達の生活が向上された……みたいなことが手紙に書いてあった。
ただ、真っ昼間なのに外を歩いている人は皆無。
気配を探ると、みんな家に閉じこもっているらしい。
私達討伐隊の魔馬車はそのまま村の中を進み、村長宅前の広場で降ろされた。
「注目! 我々騎士は皆さんを案内した後、この村の警備にあたります。この村の宿を借り、救護所と致します。ケガをした方はこちらに戻り……」
「ねぇねぇ、お兄さん」
話している途中だけど、それはダメだと説明しているお兄さんに話しかける。
お兄さんは一瞬〝何だよ〟って顔をしたけど、私を見た途端に取り繕った。
「セナ様、いかが致しました? 何か問題でしょうか?」
「戦っている最中に大ケガしたら、戻ってくるどころじゃないよ。もし、ケガ人をパーティみんなで運ぶってなった場合仲間の人も危険に晒されちゃう」
「はっ! ですが……」
「だからさ、それぞれみんな用意してるとは思うけど、一人に一つずつポーションとマジックポーション配っておくのはどうかな? ケガをしたらそれを飲めば止血くらいにはなると思う。救護班の騎士さん達も回復させるのに魔力少なくて済むし……使わなかったポーションやマジックポーションは最後にマジックバッグと一緒に回収すれば、無駄にならないよ。ここにいる冒険者の人達は信頼できるってギルマスが言ってたから、嘘の報告する人はいないと思うの!」
最後に〝そんな狡いマネしないでよ〟って意味を込めてニッコリと言い切った。
これでポーションとマジックポーションをちょろまかしたら、ギルドの貢献度が高いからと言って信用できる人物とは限らないってことだね。
私の説明で納得したのか、冒険者達の「その方がオレ達も助かる」との援護のせいか、救護班の人達がポーションを配った。
全員にポーションが行き渡ったところで出発。
歩きなので、歩幅の小さい私はグレンの腕の中。
「嬢ちゃんすげぇな……」
「ん? 何が?」
「オレは考えもしなかったぜ。っつーか、フリクエ達以外は驚いてたぞ」
「俺達は最初に会ったときに驚いたからな」
「そうそう。あのタルゴー商会の商会長と子供とは思えないやり取りしてたんだよー。『ご一緒していただいてもよろしいでしょうか?』『この護衛の人に失礼では?』ってねー」
「ふふっ。最後はタルゴーさんに押し切られちゃったけどね」
タルゴーさんのマネをする弟のエルコさんに笑ってしまう。
護衛の話をするタルゴーさんに困惑してると思ってたけど、私に驚いてたのね。
あのときはタルゴーさんを面倒なおばさんだと思っちゃったんだよね……今となってはすごくありがたいご縁で、いっぱい助けてもらってるけど。
フリクエさん達はよくタルゴー商会の護衛をするらしく、孫自慢ならぬ私自慢をよく聞かされているらしい。
タルゴーさんの口癖は三つ。「流石セナ様ですわ!」「セナ様にご報告を」「ダーリ!」なんだって。この口癖を私自慢中に連発するらしい。
レシピの件でも話しているのかと思ったら、中敷き工房の話だった。
最初は各パーティで好き勝手に喋ってたけど、近付くにつれて緊張感が漂い始めた。それに伴い、だんだんと会話が減ってくる。
早歩きで二時間。他のパーティが疲れて遅れをとり始めたころ、イグアナドンの近くに到着した。
「ここから先で目撃されました。森の中を移動しつつ、発見次第討伐をお願い致します」
小声で案内をしていた騎士が言い、冒険者達が頷くと「では」と村に戻って行った。
目の前まで案内してくれるワケではないらしい。
まぁ、気配で居場所はわかるし、バラけてるワケじゃないから、他の冒険者達のサポートもしやすそう。
「お兄さん達休む? ここから十分くらいで戦闘になるよ」
「は!?」
「フッ。先ほどのやり取りを見て思ったが……その青みがかった銀髪……おたくキアーロ国の救世主だろ?」
「げっ! チガウヨー。ナンノコトカナー?」
「下手な芝居は辞めたまえ。従魔を肩に二匹も乗せているなんて目立つに決まっている」
「えぇ……そんなの知らない。大好きな家族と離れたくないもん。ね?」
「フッ。まぁ、いい」
若いお兄さん達に聞いただけなのに、なんでモノクルおじさんが絡んでくるのさ……しかも忘れてた〝救世主〟なんて思い出させないでよ!
お兄さん達の息が整うのを待って、他の冒険者達をイグアナドンのすぐ近くまで連れて行く。案内役はモノクルおじさんのパーティ。全員気配察知ができる、この中では一番ランクが高い、Bランクパーティなんだって。
「うわ……マジかよ……」
私がイグアナドンを見た最初の感想はそれだった。
どっからどう見ても私には恐竜にしか見えない。
前に見たドラゴン達よりは小さいけど、七、八メートルはありそう。皮膚も硬そうだし、走ったら速いのかもしれないけど動きは鈍い。それが十五匹ほど。
流石異世界……ただのイグアナじゃなかった……
私が呆気に取られていると、しびれを切らしたグレンが〈肉だ!〉と飛び出してしまった。
「えぇー!? ちょっとグレン!」
「クソッ! 気付かれた。全員散れ! パーティで協力しろ!」
様子を窺うために隠れていた草むらから急いで飛び出し、襲ってきたイグアナドンの攻撃を躱す。
それぞれ戦闘が始まり、私も! って思ったら、グレンが既に倒していた。
素手で殴ったのか、イグアナドンは外傷なし。これは高値が付きそうだ。
〈まだいるな! ちょっと狩ってくる! セナも狩るだろ? 肉だぞ肉!〉
グレンは声を張りながら二匹目に突っ込んでいった。
そんな〝ひと狩りいこうぜ〟みたいなノリで言わないで欲しい……
グレンはテンション高く、イグアナドンを殴っては蹴っている。
(グレンさん……ハジけすぎじゃない?)
グレンが狩っている間に私は他のパーティのサポート。
弓で牽制したり、結界を使って盾替わりにしたり、吹っ飛んだ先に風魔法と水魔法でクッションを作ったり、と忙しい。
「ジル! グレンをお願い!」
「はい!」
言葉少なくジルにグレンのサポートをお願いして、私は戦っているパーティの後ろから襲いかかるイグアナドンに水魔法をお見舞いする。
「グァッ!」
ちょっと目を離した隙にフリクエさんが弾き飛ばされてしまった。
(もう! 忙しすぎだよ!)
エルミスとプルトン、クラオルとグレウスにも援護をお願いすると、『ゴシュジンサマ、カッテイイデスカ?』とポラルが聞いてきた。
私が許可を出すと、『ヤッタ!』と喜びながら糸を出し、樹上に移動。糸を使ってあっちこっちに素早く動きながら、攻撃を開始。すぐに一匹が倒れた。
(ポラルさん……速すぎて目で追えないよ……)
グレンとポラルはどんどんイグアナドンを倒しているけど、他のパーティ達は各一匹に手間取っている。
その中でも、モノクルおじさんのパーティは私がサポートしなくても連携が取れていた。
手伝いながら、グレン達が狩ったイグアナドンをちょこまかと走り回って回収。
他の人達が戦っているイグアナドン以外をグレン達が倒してくれ、残るは後四匹。
ジルもサポートを手伝ってくれ、私はかなり楽になった。
--------キリトリ線--------
昨夜近況ボードとお知らせ更新しましたが、本日対応してもらえるそうです。
読まれていない方は〝しおり〟と連載に関係しますので、ご一読願います。
ご迷惑をおかけして申し訳ありません。
応援ありがとうございます!
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