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13章

ピリクの街でオフモード

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◇ ◆ ◇

 次の日、長もやしと豆乳の説明を忘れていた私は、再び村人達に集まってもらって説明。ついでに料理教室を開いた。

 作った豆乳と豆乳スープのレシピは簡単にメモって村長に渡しておく。
 村長の目がさらに心酔した気がしたけど、気にしたら負けだ。

 ミソの実とショユの実は食べられないと思っていた村人達は、邪魔な木だと思っていたらしい。
 あるおばさんなんか、「いらない物だと思うと匂いすらイラ立つけど、こんなに美味しくなると思うといい香りに思えてくるわ」なんて言っていた。

 石窯でパンのレクチャーをしたときに、冗談半分で味噌パン(群馬名物)モドキを作ってみせると、思いの外食いつかれて驚いた。

「まぁ! これだけでこんなにおいしくなるなんて!」
「前に食べた甘いエダマメみたいだわ!」
「セナ様は何でも知ってるのね!」
「子供も喜ぶし、おなかにも溜まるわ!」

 と、奥様方は大騒ぎ。
 この村にみりんがないから、代わりに蜂蜜使った完全になんちゃって味噌パン。
 まさかもやしよりも喜ばれるとは……

「んん!! こっちも美味しいっ! ミソの実だけじゃないわ! ほら、食べてみて! セナ様もどうぞ!!」

 オーバーリアクションで渡されたパンを見てみると……あろうことか、間に砂糖醤油が塗られたパンだった。
 おばさん達はこれも気に入ったようで、大絶賛しながらつまんでいる。
 お餅ならウェルカムなんだけど、たっぷりと塗られた砂糖醤油パンには惹かれない。
 後で村長にあげようと、こっそり無限収納インベントリにしまっておいた。

◇ ◆ ◇

 もやしや長もやしの栽培、新しいレシピも村人達だけで作れることを確認した私達は、村を出発。
 ものすごーく惜しまれたけど、最後に村人達が育てたもやしをお土産に大量に持たせて送り出してくれた。

 のんびりとピリクの街を目指したハズだったんだけど……道中、グレンやネラース達が嬉々として魔物を狩ってくれていたため、予定より早い到着になった。
 私はその間、ご飯を作る以外はひたすらゴロゴロ。クラオルとグレウスをモフモフしながら寝落ちして、グレンに起こされる二日間だった。

 三日目のお昼、街に入る検問を通過した私達はそのまま真っ直ぐ、前に泊まったタルゴーさんオススメの宿へ。
 ベッドにダイブすると、グレンからお昼ご飯をせっつかれた。
 契約したから食べなくても支障はないハズなのに、グレンだけは食欲が変わらない気がする。

「うぅー。ちょっと面倒……グレンとジルは食べておいでよ。私おなか空いてないし、ゴロゴロしてたい……」
『ダメよ! ただでさえ主様は量食べないんだから!』
「えぇー……二日くらい食べなくても人間死にはしないよ~」

 実際、昔食べるのが面倒で食べない日もあった。三日目くらいからちょっとフラフラするけど、それでも死んだりはしない。
 完全にグータラスイッチが入った私は動きたくない。モフモフしながら幸せな惰眠を貪りたい。
 さぁモフモフタイムだと、寝転がったままクラオルに手を伸ばすと……『ダ……ダメに決まってるでしょーっ!!』と手をバチンと叩き落とされた。
 叫んだクラオルは目が座ってらっしゃる。
 あ……これはヤバげ……

『んもう、主様ったらいつもいつも! ちゃんと食べなきゃダメって言ってるでしょ!? いつも人のことばっかりで! ここ最近前にも増して食べてないじゃない! 主様が倒れたらどうするの!?』
「ごめっ……わかった! わかったから叩かないでー」
『気持ちがこもってないわ!』
「ちゃんと食べるから、そんな怒らないで?」

 クラオルにベシベシと抗議されて私は降参。
 起き上がって謝りながら手を伸ばすと、今度は叩かれなかった。『フンッ』って鼻を鳴らされたけど。

〈ちゃんと食べるなら肉だな!〉
「グレンはいつもお肉じゃん」
〈一番力が出るからな〉
「野菜も食べた……わっ!」

 ベッドから降りようとすると、グレンに持ち上げられて驚いた。

〈疲れてるならわれが運んでやる〉
「……お願いします」

 別に疲れてるわけじゃないんだけど、オフモードが抜けきらないし、甘えちゃお。

 宿を出て、美味しいご飯屋さんを探すのにプラプラしていると、前から歩いて来た人と目が合った。

「お?」
「あ、護衛のお兄さん。久しぶりだねぇ」
「おぉ! 久しぶりだな。この街に戻って来たのか?」
「うん。さっき着いたんだ~。あ! お兄さん、お兄さん。美味しいご飯屋さん知らない?」

 タルゴーさんと初対面のときに護衛していたお兄さんに聞いてみると、少し悩んだ後、「あそこだな」と何やら思い付いたみたい。

「約束だからご馳走してやるよ。そん代わり、メンバーも一緒でいいか?」
「全然いいよ~」
「呼んでくっからちょっと待ってろ」
「はーい」

 あのときの口約束を覚えてるなんて律儀なお兄さんだ。
 五分ほどでお兄さん達は走って戻って来た。

「待たせた」
「大丈夫だよ。走らなくてもよかったのに。みなさんお久しぶり~」

 私が声をかけると、パーティメンバーは口々に「久しぶり」と挨拶してくれた。
 お兄さんの案内で街の食堂へ向かう。
 辿り着いたお店は〝大衆食堂〟って感じで、ゴツイ冒険者達にウケそうな武骨な雰囲気だった。
 お昼ご飯の時間を過ぎているからか、お店は空いていて、すぐに席に座れた。

「店のナリはこんなだが、味は確かだぜ。オススメは……」
われはこのボアとラビのステーキ盛り合わせを大盛りだな!〉

 グレンは早速メニューを見ていて、お兄さんの話をぶった切る。
 
「ごめんね」
「いや、構わん。好きなの頼んでくれ。嬢ちゃんはどうするんだ?」
「私は野菜が多いやつがいいな」
「んじゃ野盛やもり炒めだな」
「ヤモリ!?」

 ヤモリってあのイモリ、ヤモリのヤモリ!? この世界で食べられてるとしても、私は食べたくないぞ……

「ん? 何を想像したのかわかんねぇが、野菜がいっぱい入ったやつを野菜盛りって言うんだよ。俺達冒険者は野盛やもりって呼んでんだ」
「そ、そうなんだ……野菜の盛り合わせで野盛やもりってことね……よかった……」

 ホッと息を吐く私を「常識だと思ってたんだがな……」なんて不思議そうに見つめてくるお兄さん。
 この世界の常識をイマイチよくわかっていないことを痛感した。

「いつも大体作ってたから……」
「あぁ、なるほどな。あのスープ美味かったもんな。な?」
「うんうん! 普通のコンソメスープとはちょっと……いや、かなり違った! 兄ちゃんなんか『もっと食いたい』ってずっと言ってたよ。ね?」

 お兄さんがパーティメンバーに同意を求めると、一番若そうな男の子が反応した。
 男の子に話を振られた男性は「あんなに美味いコンソメスープは初めてだったからな」と、顔を赤くして、恥ずかしそうに答えた。
 
 あのときのスープって……かなり適当に作ったやつだったんだけど……こんなに褒められると、申し訳なくなってくる。

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