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13章

もやし工房

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 ジルと協力して保管庫の一階を暗幕で覆っていく。
 手が届かないところは精霊達が手伝ってくれた。

「よし! みんなありがとう! これで長もやしも作れるね!」
《暗いところじゃないとダメなんて面白いわね~》

 プルトンが部屋を見渡している横で、ジルが汗を拭っていた。
 あぁ……風が通らないから空気が籠るのか……文化祭のお化け屋敷みたいな感じだね。
 パパ達のチート服のせいで気付いてなかった。

「もやしが傷んだら困るし、明日換気扇の魔道具作ろう!」
《魔道具の子達の出番ね!》

 私が作るつもりだったんだけど……《喜ぶわ~》なんて言われてしまい、お願いすることにした。
 どんな魔道具かを話しながら、揃って建物から出ようとすると、グレンから念話が飛んできた。

〈((変なショユの実があるぞ))〉
「((変なショユの実??))」
〈((うむ。【ショユツユ】というらしいが……色が異なるのも同じ名前だ))〉

 ショユツユ……つゆ? んん?? もしかして……!?
 思い付いた私はグレンに採取をお願い。
 機嫌がよくなった私をクラオルが怪しんでるけど、楽しみだから仕方ない。
 だって醤油味のつゆかもしれないんだよ!?

「ふふふふふ」
『また主様ったら……』
「入り口で待ってよー!」

 私達が村の入り口に向かうと、門番さんが「出かけるのか?」と聞いてきた。

「違う、違う。グレン待ってるの」
「なるほどな。そろそろ戻ってくると思うぞ」
「うん! あ、そうだ。明日、村の人達に集まってもらいたいんだけどいい?」
「んなら、みんなに伝えてくる。ここ頼んでもいいか?」
「もちろん! ちゃんと見てるよ」
「じゃあ、頼んだ」

 門番さんが伝達しに離れ、私は今か今かとグレンを待つ。

「あ! グレーン!」

 戻ってきたグレンに手を振ると、羽で加速しながら一気に私の目の前まで来てくれた。

〈セナ! 待っててくれたのか?〉
「グレン! ショユの実は!?」
〈……これだ。われを待ってたわけじゃないのか……〉

 グレンが見せてくれたのは薄黄緑色っぽいのと、薄青色っぽい二色の木の実。
 見た目は完全に色違いのショユの実。触った感じだと、味噌より醤油に近い。
 奪うようにグレンから引ったくり、早速鑑定をかけてみる。

「おおおおおおおお!! 昆布だしと鰹だしの〝めんつゆ〟! キャー!! グレン最の高だよ! 大好きー!!」
〈うむ。まぁ、喜んでいるからよしとしよう〉
「これで醤油から作らなくても済むよ~! 時短、時短!」

 なんで出汁入りの木の実なのかわからないけど、ラッキー!
 冷たいうどんとかは醤油から作ったつゆより、めんつゆの方が馴染み深い。
 今日の夜ご飯はぶっかけうどんにしよう!
 数はどれくらい実っていたのか聞いてみると、めんつゆ二つはそこまで多くはないらしい。その代わりと言っていいのか、ショユの実とミソの実は群生地があったそう。
 これは……要相談だね。

 門番さんと交代して私達は村長宅で村長と交渉。
 村長は私の要望を二つ返事で了承してくれた。

「本当にいいの?」
「もちろんでございます。セナ様のおかげで、この村は飢えることがなくなりました。セナ様がお望みでしたら、喜んで保管しておきます」

 流石洗脳村……でも今はとってもありがたい!
 めんつゆはほとんど私用に保存してもらうけど……お詫びにもやし料理と、味噌と醤油を使ったレシピを教えてあげよう!

◇ ◆ ◇

 魔道具の子達に作ってもらった魔道具を朝早くから設置。
 さらに二階で保存する食材が時間経過しないように、これまた精霊の子達に作ってもらった魔道具を埋め込んだ。
 それが終わったら、村人全員に集まってもらう。
 目立つように踏み台に乗ると、ザワザワとしていた村人達は静まり返った。

「みなさん、おはようございます。今日はもやし工房と新しいレシピの話です!」

 私が宣言すると、村人達から歓声が上がった。

「まず、一人一つずつボウルとザルを受け取って下さい。これでそれぞれ、もやしを作ってもらいます。保管庫の一階を改造しました。中は暗いです。置いてあるテーブルの上に置いて、もやしを育てて下さい。位置は相談して決めてね。これはみなさんも食べるものだし、へ売る商品でもあります。作り方は以前話した通りですが、【クリーン】を必ずかけること、栽培中は手で触れないことに気を付けて下さい」
「「「「はい!」」」」

 めっちゃいい返事……
 村人達は一列に並んでジルから道具を受け取っていく。

「お次は商業ギルドに登録したレシピです。村長にメモを渡しているので、後でわからなくなったら村長に聞いてね」
「「「「はい!」」」」

 キラキラとした顔を向けてくる村人達に、もやし炒め、ネギ玉もやし、もやしの卵スープを作りながら説明していく。
 作ったものは味見ということでみんなに配った。

「これはレシピ登録したから、ピリクの街でも販売されます。……が、この村のみんなには別のレシピも教えるね。それにはこの実が必要不可欠です!」

 私の発言にいちいち「おぉー」と反応してくれる村人達の前にデデン! とミソの実とショユの実を見せつける。
 すると門番さんから「それ使うのか!?」と驚かれた。

「もちろん! 超美味しいから! まずは簡単なお味噌汁ね。これは~、いつも食べてるスープに塩の代わりに入れるだけ! これくらいの鍋でミソの実一つだよ。せっかくだからもやしのお味噌汁ね。干し肉をちぎって入れると味に深みが増すの」

 お味噌汁を作って配り、続いて醤油炒め、味噌炒めと実演していく。
 村人達は興味津々の様子で作業工程を見つめ、食べる度に感動している。

「覚えきれなかったら、ミソの実はスープ、ショユの実は炒め物に使うといいよ。それでね、この薄黄緑色のと薄青のは別物なんだけど……」
「セナ様が欲しいそうです。見つけ次第収穫するように」

 言い淀む私の言葉に続けて、村長が代弁してくれた。

「ふーん。これを集めりゃいいんだな」
「ごめんね?」
「ん? ハハハハハ! 相変わらず欲がねぇな! 俺達じゃ使い道がわからねぇ。こんだけ教えてもらったんだ。集めるくらい造作もねぇよ。何よりアンタは恩人だしな」

 以前解毒したお兄さんが笑いながら言うと、周りにいた村人達がブンブンと頷いた。
 洗脳状態とはいえ、みんな優しい。

「ありがとう……この前作ってた石窯はパンを焼くのに便利だよ。焼き方はいつも竈でやってるのと同じ感じね。燃やした薪を中に入れて、その熱で焼くの。パン生地に茹でた枝豆を入れたり、平べったく焼いたパンの上にこういう炒め物を乗せたりしても美味しいよ」
「そのためにわざわざ作ってくれたのか?」
「うん。みんなパン焼くの大変って言ってたから、村に一つ石窯があればもっと食べられるようになるかなって。そうそう、今回、ソイ豆と枝豆をたくさんもらったから、お礼のポーションも配るね」
「はぁ!? これが礼じゃないのか!? あの窯や商業ギルドに登録したのも村のためだろ!?」
「え? 別だよ~。それはそれ、これはこれ」
「んな……!?」
「家族単位でまとめたから、各家族で大きさが違うよ。容器に使用用途が貼り付けてあるから、症状によって飲むポーション変えてね。まず、アラーマさん一家」
「あらま!」

 驚いたお兄さんを放置して、村長からもらったメモを頼りに名前を呼ぶ。
 呼ばれたおばさんはびっくりしつつも、救急箱を嬉しそうに受け取った。

「家内安全のお守りにするわ」
「いや、ちゃんと使って! そのために用意したから!」
「あら、そう? もったいない気が……」
「みんなの健康のが大事だよ!」

 私が叫ぶように言うと、「流石セナ様、優しいわぁ」なんて感心されてしまった。
 順番に呼んでいくと、受け取った人の中には涙を流してお礼を伝えてくる人までいた。
 「ちゃんと使ってね」と言ったら頷いてたけど……ホントに大丈夫かな……? 

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