上 下
384 / 537
13章

ソイヤ村は特化村

しおりを挟む


 倉庫は二階建てで、大きさもそうだけど、一番頑丈そうで新しかった。

「こちらセナ様用の保管庫となっています」
「え!? 私専用なの!?」
「はい。村の住人の倉庫はあちらです」

 村長が手で示した先には、前も見た倉庫。

「いやいや! 普通逆でしょ!」
「何故ですか?」

 理解できないと言わんばかりに、首を傾げられ、私は言葉を失ってしまう。
 気に入らないかと聞いてくる村長に「そうじゃなくて……」としか返せない。

「セナ様はタルゴー商会の商会長もお助けになられ、国王様の信頼も厚く、隣りのシュグタイルハン国でもご活躍なされているとお聞きしました」
「うひぃ……」
「担当のタルゴー商会の行商人にソイ豆とエダマメのことを聞かれましたが、お断り致しました」
「えぇ!? 断ったの!?」
「はい、もちろん。セナ様が村のために教えてくださったレシピですから。タルゴー商会にも納得していただきました。セナ様用の保管庫を造るにあたり、タルゴー商会が援助してくれたのです」
「わーぉ……」

 村長は至極当然のように、ニコニコと語っている。
 マジかよ……タルゴーさんからそんな話は聞いてないぞ。売らないのに倉庫造るとか優しすぎじゃない? っていうか、これ売ったらもっと暮らしが楽になるでしょうよ……
 何か言って欲しくてグレンとジルを見てみると、二人は満足そうに頷いていた。
 そうだ……ジルは信者だった……
 グレンはおそらく、私が褒められてるのが嬉しいんだろう。
 私の周りにはツッコミ属性がいないの!? こういうときにガルドさんがいれば……
 パパ達のお使いで、あっちこっちに飛び回っているガルドさん達を想う。

「えっとね……まず、私のことより村のみんなの方が大事。売ったって私は怒ったりしないよ?」
「いえ。セナ様が我々だけに教えてくれたことが嬉しいのです。それにソイ豆は他の村でも作られております。これを売るとなると、セナ様のレシピを口外することになります。それは我々が嫌なのです」
「セナ様のレシピが独占できるからですね」
「はい。この村を想っていただいた証であり、セナ様のが込められている気がします。それを何も知らない者に教えたくはありません。……我々だけなのです」

 村長はさも重要事項だと真顔で説いた後、破顔した。
 重い……ただ大豆と枝豆が美味しいんだよって教えたかっただけなのに……ジルより重症かもしれない……
 かなりの勘違いではあるけど、ここまで言われちゃうと何も言えなくなってしまう。

「村長達がいいならいいんだけどさ……」
「はい。では中に入りましょう。一階にはエダマメを、二階にはソイ豆を保管しております」

 村長に促されて倉庫の中に入ると……ものすごい量だった。
 鞘状の枝豆がこれでもかとてんこ盛り。

「大量だね……」
「傷み具合を見て、古いものは交換しております。好きなだけどうぞお持ちください」
「いや、買い取るよ。これは絶対譲らないから」
「でしたら、村人にポーションをお願いできますか? みなが欲しがっておりますので」
「そんなんでいいの?」
「はい。そちらの方が喜びます」

 それなら、と作ったものを救急セットとして渡してあげよう。
 村長にこの村の住人の家族構成をまとめて欲しいと頼み、私は枝豆の鑑定。これは山盛りすぎるため、みんなにも手伝ってもらう。
 枝豆の鑑定が終わったら、二階に上がって大豆のチェック。

 途中でお昼休憩を挟んだけど、あまりの量の多さに、終わったころには夕刻近かった。
 村長が言っていた通り、傷んで食べられないものは少なかったけど、枝豆は傷みかけのものが多かった。
 もっと村人達に食べてもらいたい。量があるのは嬉しいけど……ここへ来る度にこの山のような枝豆と大豆の鑑定をしなきゃいけないのは面倒。
 グレン達に相談して、しばらく村に滞在することにした。

◇ ◆ ◇

 次の日、私は村人でも作れるように簡単なメニューをレシピアプリで検索。作り方をメモしておく。
 手順を把握するために一度作って、枝豆の準備は終わり。
 問題は大豆だ。スープ以外って言えばあれだけど……果たして私に作れるのか……
 ないかもしれないと思いながら、レシピアプリを見てみると……

「おおお! 載ってるじゃん! 見知らぬ主婦さんありがとうー!!」

 レシピ通りにボウルとザルを使って大豆を洗い、井戸水に浸ける。そして暗い場所で放置。
 毎日これをやれば芽が出てもやしになってくれるハズ! 途中で傷まなければだけど……
 私だけなら空間魔法で時間経過させられるけど、村人はできない。時間はかかるけど、手順を踏まないと。

 お昼ご飯を食べたら井戸の近くで石窯作り。
 これは私はさっぱりわからないから、精霊ののアレスとのクロノスを呼んでアドバイスをもらう。
 村人達にバレないように、ちゃんと目隠し用の壁を作ったから、怪しまれることもない。

 精霊達が窯をすぐ造ってくれたから、簡単にできるんじゃないかと思ってたんだけど……耐火レンガが必要ということで、デタリョ商会に買いに飛んだ。詮索されたくないときはおじいちゃんのところが一番!
 買ってきたレンガをみんなで積んでいく。

 結局、一日中準備に追われて終わってしまった。

◇ ◆ ◇

 次の日の朝、もやしの様子を見てみると、すでに芽が出ていた。
 レシピには数日かかるって書いてあったのに!
 不思議に思いながらも、石窯を完成させる。
 村人達は私が何をしているのか気になっているみたいだけど、訊ねてきたりはしなかった。


 さらに次の日、もやしは〝ザ・もやし〟ほどに成長していた。
 さすがにこれはおかしいと、自分の水魔法を使って時間経過させてみる。

「な、なんで……」

 芽が出なくて、さらに空間魔法を使ったら茶色く変色。腐ったようなにおいまで放っている。
 鑑定してみると、〝毒化。腹下し作用あり〟と書かれている。

「もしかして、魔法使っちゃダメなの?」

 念のため、井戸水を使ってもう一度試してみると……今度は腐らなかった。

「なんで?」

 井戸水を鑑定してみても、普通の井戸水としか出てこない。
 意味がわからなくて、頭を悩ませる。
 うんうん唸っていると、ふと、以前村長が「この村ではソイ豆の成長が他の村より早く、一ヶ月で収穫できます」と言っていたのを思い出した。
 もしかして……この村だから? 全てにおいて大豆系の成長が早いとか……?
 まさかと思いつつコテージに移動して、魔力水と井戸水で実験してみる。

「マジか……」

 まさかのまさかだった。
 しかも、井戸水のほうは腐りにくいみたい。
 日本ならありえないことも、魔法が使えちゃうこの世界ならありえる。
 ソイヤ村は完全に大豆村だったのね……この村を出るときに井戸水をしこたまもらわないと……
 私は衝撃の事実にフラフラしながら村長宅に戻った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

転生幼児は夢いっぱい

meimei
ファンタジー
日本に生まれてかれこれ27年大学も出て希望の職業にもつき順風満帆なはずだった男は、 ある日親友だと思っていた男に手柄を横取りされ左遷されてしまう。左遷された所はとても忙しい部署で。ほぼ不眠不休…の生活の末、気がつくとどうやら亡くなったらしい?? らしいというのも……前世を思い出したのは 転生して5年経ってから。そう…5歳の誕生日の日にだった。 これは秘匿された出自を知らないまま、 チートしつつ異世界を楽しむ男の話である! ☆これは作者の妄想によるフィクションであり、登場するもの全てが架空の産物です。 誤字脱字には優しく軽く流していただけると嬉しいです。 ☆ファンタジーカップありがとうございました!!(*^^*) 今後ともよろしくお願い致します🍀

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

転生幼女の愛され公爵令嬢

meimei
恋愛
地球日本国2005年生まれの女子高生だったはずの咲良(サクラ)は目が覚めたら3歳幼女だった。どうやら昨日転んで頭をぶつけて一気に 前世を思い出したらしい…。 愛されチートと加護、神獣 逆ハーレムと願望をすべて詰め込んだ作品に… (*ノω・*)テヘ なにぶん初めての素人作品なのでゆるーく読んで頂けたらありがたいです! 幼女からスタートなので逆ハーレムは先がながいです… 一応R15指定にしました(;・∀・) 注意: これは作者の妄想により書かれた すべてフィクションのお話です! 物や人、動物、植物、全てが妄想による産物なので宜しくお願いしますm(_ _)m また誤字脱字もゆるく流して頂けるとありがたいですm(_ _)m エール&いいね♡ありがとうございます!! とても嬉しく励みになります!! 投票ありがとうございました!!(*^^*)

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。