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13章

懐かしのソイヤ村

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◇ ◆ ◇

 朝ゆっくり眠った翌日、二時間ほどで森に到着。
 結局魔物とは遭遇しなかったため、みんなはうずうずしている。

「ストレッチ終わったから、遊びに行っていいよ。お昼になったら私のところに集合してね。行ってらっしゃい」

 私がそう言うと、「行ってきまーす!」と元気に走り出した。
 相当楽しみだったみたい。
 ジルは私と一緒にいたかったみたいなんだけど、グレンが引っ張って行った。
 私は精霊達と一緒に、休憩用の場所取りのために歩き出す。

あるじよ、そんな警戒しなくとも……あのとき、全て精霊の国に送ったではないか》
「わかんないじゃん。違う子がいるかもしれない。あのタイプはこりごりだよ」
《本当に苦手なのだな》

 あの幼虫の大群にもう会いたくなくて、気配察知に神経を尖らせる。
 前回より森には魔物が多いけど、あの幼虫のような弱い気配は今のところ私の周りにはない。
 精霊達と話しながら歩いていると、プルトンが何かを発見した。

《セナちゃん、セナちゃん。これ食べられる? 甘い匂いがするわ》
「んーと、スイトヅル? あぁ! さつまいものつるだね。こっちだとさつまいもとは関係ない別物扱いなんだね。食べられるよ」

 鑑定結果を教えると、《採りましょ!》とプルトンが刈り始めた。
 日本ではつるの下にさつまいもが実るけど、こっちの世界ではさつまいも――スイト芋自体とは関係のない、ただのつる
 ここでは日本のさつまいものつるの部分だけ別物として存在しているらしい。
 なんともわかりにくい。
 スイトヅルという名前で、日本のさつまいものつるのように食べられるものだと思えばいいか。

《穫れたわ!》

 私が考えている間に、見つけたスイトヅルはプルトンによって全て刈られ、小山を作っていた。
 お礼を伝えて、無限収納インベントリにしまう。

「ちょうど開けてるから、ここにしよっか」
《今日のご飯はなーに?》
「今日は肉巻きおにぎりにしようかと思って。みんな午後も狩りに行くだろうから。手伝ってもらってもいい?」
《私でもできることならいいわよ!》
「ありがとう」

 俵型おにぎりに豚肉を巻き、魚を焼く用に買っていた木の串にぶっ刺す。それをたき火の周りに立てていく。味が染み込むように、何回かタレにくぐらせた。
 それだけだと絶対足りないから、フライドポテトと卵焼きも作った。

 辺りにいい香りが充満するころ、ウキウキと戻ってきたみんなといただきます。

〈セナ、シラコメが食べたい〉
「これ、おにぎりだよ?」
〈これを食べながらシラコメを食べる〉
「僕もよろしいでしょうか?」
「マジか……」

 よそったご飯をグレンとジルに渡すと、パクパクと食べ始めた。
 まさかおにぎりをおかずに白米食べるなんて……味付きだと全部おかずになるのかな……


 驚きの昼食を終えると、みんなは予想通りに午後も狩りに出かけて行った。
 戻ってきたグレンに〈これは美味しいぞ!〉と大量のコウモリを渡されたり、ネラース達にアナコンダみたいな蛇を渡されたり……といろいろあったものの、森で過ごした四日間はみんなのストレスを発散させてくれたみたい。

◇ ◆ ◇

 ソイヤ村に近付くと、雰囲気が変わっていることに気が付いた。
 前回とは違って、心配事がなくなったからかな? なんて思ってたけど、どうやら村に新しい建物が増えているっぽい。

「やっほー! お久しぶりでーす!」
「ん? あぁーー!! セナ様!?」

 少し離れた場所から門番のお兄さんに手を振ると、面白いくらいオーバーリアクションされた。
 門番のお兄さんが叫んだおかげで、私達が村の入り口に着くころには、半数ほどの村人が集合していた。

「これはセナ様、ようこそおいでくださいました」
 
 村長に出迎えられ、村人達も口々に「ようこそ」や「待ってました」と言ってくれた。
 門番のお兄さんが騒ぐ村人達を帰し、私達は村の中へ足を進める。
 村には村長宅以外にも二階建ての建物があり、修復跡があちこちにあった村の住人の家も小綺麗になっていた。

「村全体が明るくなったねぇ」
「はい。セナ様がタルゴー商会を紹介してくださったおかげで、村は裕福になりました。エダマメとソイ豆で飢えることもない。全てセナ様のおかげです」
「いやいや。私は紹介しただけだから、みんなの力だよ」

 私のおかげと言うよりは、ダーリさんの目利きのおかげ。ダーリさんがタルゴーさんに言わなければ、タルゴーさんがこの村と商談することもなかった。
 それに村長は裕福になったって言ってるけど、貧しくなくなったの間違いだと思う。まだまだ余裕があるようには見えない。貧民が平民になった感じ?

「村人一堂歓迎致します」
「ありがとう。でも、そんな持ち上げられると困っちゃうから、普通がいいな」
「本当にお優しい……」
「いや、普通だよね? まぁ、それはおいておいて……遊びに来たのもあるんだけど、ソイ豆と枝豆売ってもらってもいい?」
「もちろんです。いつセナ様が訪れても大丈夫なように確保してあります」
「おぉー! ありがとう! でも村のみんなの方が大事だから、無理しないでね?」
「……ありがとうございます……」

 涙目で村長にお礼を言われ、私は困惑。
 大丈夫かな? なんか昔のジルみたいなんだけど……

 村長の案内で倉庫に向かう。何故か村人達は遠くから私達に付いてくる。
 その村人達をかき分けて、見知った顔の人物が現れた。

「よ! 久しぶりだな!」
「あ、お兄さん。元気そうでよかった」
「ハッハッハ! ポーションで解毒してもらってからずっと調子がいいんだよ。倉庫か?」
「うん」

 お兄さんも一緒に着いた建物は、村一番の大きな建物だった。

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