383 / 537
13章
懐かしのソイヤ村
しおりを挟む◇ ◆ ◇
朝ゆっくり眠った翌日、二時間ほどで森に到着。
結局魔物とは遭遇しなかったため、みんなはうずうずしている。
「ストレッチ終わったから、遊びに行っていいよ。お昼になったら私のところに集合してね。行ってらっしゃい」
私がそう言うと、「行ってきまーす!」と元気に走り出した。
相当楽しみだったみたい。
ジルは私と一緒にいたかったみたいなんだけど、グレンが引っ張って行った。
私は精霊達と一緒に、休憩用の場所取りのために歩き出す。
《主よ、そんな警戒しなくとも……あのとき、全て精霊の国に送ったではないか》
「わかんないじゃん。違う子がいるかもしれない。あのタイプはこりごりだよ」
《本当に苦手なのだな》
あの幼虫の大群にもう会いたくなくて、気配察知に神経を尖らせる。
前回より森には魔物が多いけど、あの幼虫のような弱い気配は今のところ私の周りにはない。
精霊達と話しながら歩いていると、プルトンが何かを発見した。
《セナちゃん、セナちゃん。これ食べられる? 甘い匂いがするわ》
「んーと、スイトヅル? あぁ! さつまいもの蔓だね。こっちだとさつまいもとは関係ない別物扱いなんだね。食べられるよ」
鑑定結果を教えると、《採りましょ!》とプルトンが刈り始めた。
日本では蔓の下にさつまいもが実るけど、こっちの世界ではさつまいも――スイト芋自体とは関係のない、ただの蔓。
ここでは日本のさつまいもの蔓の部分だけ別物として存在しているらしい。
なんともわかりにくい。
スイトヅルという名前で、日本のさつまいもの蔓のように食べられるものだと思えばいいか。
《穫れたわ!》
私が考えている間に、見つけたスイトヅルはプルトンによって全て刈られ、小山を作っていた。
お礼を伝えて、無限収納にしまう。
「ちょうど開けてるから、ここにしよっか」
《今日のご飯はなーに?》
「今日は肉巻きおにぎりにしようかと思って。みんな午後も狩りに行くだろうから。手伝ってもらってもいい?」
《私でもできることならいいわよ!》
「ありがとう」
俵型おにぎりに豚肉を巻き、魚を焼く用に買っていた木の串にぶっ刺す。それをたき火の周りに立てていく。味が染み込むように、何回かタレにくぐらせた。
それだけだと絶対足りないから、フライドポテトと卵焼きも作った。
辺りにいい香りが充満するころ、ウキウキと戻ってきたみんなといただきます。
〈セナ、シラコメが食べたい〉
「これ、おにぎりだよ?」
〈これを食べながらシラコメを食べる〉
「僕もよろしいでしょうか?」
「マジか……」
よそったご飯をグレンとジルに渡すと、パクパクと食べ始めた。
まさかおにぎりをおかずに白米食べるなんて……味付きだと全部おかずになるのかな……
驚きの昼食を終えると、みんなは予想通りに午後も狩りに出かけて行った。
戻ってきたグレンに〈これは美味しいぞ!〉と大量のコウモリを渡されたり、ネラース達にアナコンダみたいな蛇を渡されたり……といろいろあったものの、森で過ごした四日間はみんなのストレスを発散させてくれたみたい。
◇ ◆ ◇
ソイヤ村に近付くと、雰囲気が変わっていることに気が付いた。
前回とは違って、心配事がなくなったからかな? なんて思ってたけど、どうやら村に新しい建物が増えているっぽい。
「やっほー! お久しぶりでーす!」
「ん? あぁーー!! セナ様!?」
少し離れた場所から門番のお兄さんに手を振ると、面白いくらいオーバーリアクションされた。
門番のお兄さんが叫んだおかげで、私達が村の入り口に着くころには、半数ほどの村人が集合していた。
「これはセナ様、ようこそおいでくださいました」
村長に出迎えられ、村人達も口々に「ようこそ」や「待ってました」と言ってくれた。
門番のお兄さんが騒ぐ村人達を帰し、私達は村の中へ足を進める。
村には村長宅以外にも二階建ての建物があり、修復跡があちこちにあった村の住人の家も小綺麗になっていた。
「村全体が明るくなったねぇ」
「はい。セナ様がタルゴー商会を紹介してくださったおかげで、村は裕福になりました。エダマメとソイ豆で飢えることもない。全てセナ様のおかげです」
「いやいや。私は紹介しただけだから、みんなの力だよ」
私のおかげと言うよりは、ダーリさんの目利きのおかげ。ダーリさんがタルゴーさんに言わなければ、タルゴーさんがこの村と商談することもなかった。
それに村長は裕福になったって言ってるけど、貧しくなくなったの間違いだと思う。まだまだ余裕があるようには見えない。貧民が平民になった感じ?
「村人一堂歓迎致します」
「ありがとう。でも、そんな持ち上げられると困っちゃうから、普通がいいな」
「本当にお優しい……」
「いや、普通だよね? まぁ、それはおいておいて……遊びに来たのもあるんだけど、ソイ豆と枝豆売ってもらってもいい?」
「もちろんです。いつセナ様が訪れても大丈夫なように確保してあります」
「おぉー! ありがとう! でも村のみんなの方が大事だから、無理しないでね?」
「……ありがとうございます……」
涙目で村長にお礼を言われ、私は困惑。
大丈夫かな? なんか昔のジルみたいなんだけど……
村長の案内で倉庫に向かう。何故か村人達は遠くから私達に付いてくる。
その村人達をかき分けて、見知った顔の人物が現れた。
「よ! 久しぶりだな!」
「あ、お兄さん。元気そうでよかった」
「ハッハッハ! ポーションで解毒してもらってからずっと調子がいいんだよ。倉庫か?」
「うん」
お兄さんも一緒に着いた建物は、村一番の大きな建物だった。
533
お気に入りに追加
24,616
あなたにおすすめの小説
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
転生幼児は夢いっぱい
meimei
ファンタジー
日本に生まれてかれこれ27年大学も出て希望の職業にもつき順風満帆なはずだった男は、
ある日親友だと思っていた男に手柄を横取りされ左遷されてしまう。左遷された所はとても忙しい部署で。ほぼ不眠不休…の生活の末、気がつくとどうやら亡くなったらしい??
らしいというのも……前世を思い出したのは
転生して5年経ってから。そう…5歳の誕生日の日にだった。
これは秘匿された出自を知らないまま、
チートしつつ異世界を楽しむ男の話である!
☆これは作者の妄想によるフィクションであり、登場するもの全てが架空の産物です。
誤字脱字には優しく軽く流していただけると嬉しいです。
☆ファンタジーカップありがとうございました!!(*^^*)
今後ともよろしくお願い致します🍀
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!
饕餮
ファンタジー
書籍化決定!
2024/08/中旬ごろの出荷となります!
Web版と書籍版では一部の設定を追加しました!
今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。
救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。
一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。
そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。
だが。
「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」
森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。
ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。
★主人公は口が悪いです。
★不定期更新です。
★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。
転生幼女の愛され公爵令嬢
meimei
恋愛
地球日本国2005年生まれの女子高生だったはずの咲良(サクラ)は目が覚めたら3歳幼女だった。どうやら昨日転んで頭をぶつけて一気に
前世を思い出したらしい…。
愛されチートと加護、神獣
逆ハーレムと願望をすべて詰め込んだ作品に…
(*ノω・*)テヘ
なにぶん初めての素人作品なのでゆるーく読んで頂けたらありがたいです!
幼女からスタートなので逆ハーレムは先がながいです…
一応R15指定にしました(;・∀・)
注意: これは作者の妄想により書かれた
すべてフィクションのお話です!
物や人、動物、植物、全てが妄想による産物なので宜しくお願いしますm(_ _)m
また誤字脱字もゆるく流して頂けるとありがたいですm(_ _)m
エール&いいね♡ありがとうございます!!
とても嬉しく励みになります!!
投票ありがとうございました!!(*^^*)
転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~
hisa
ファンタジー
受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。
自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。
戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?
教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!!
※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく!
※第5章に突入しました。
※小説家になろう96万PV突破!
※カクヨム68万PV突破!
※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。