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第三部 12章
友好条約締結パーティー【2】
しおりを挟むアーロンさんはすりこぎ棒のようなものを片手に話し始めた。
「本日は集まっていただき感謝する。紹介しよう。こちらへ」
手招きされた私はグレンとジルと一緒に壇上に上がる。
アーロンさんは「これは拡声の魔道具だ。これに向かって話せ」と小声で手短に説明しながら、持っていた棒を渡してきた。
ただの棒にしか見えないのに、マイクの魔道具なのね……
「えっと……皆さん初めまして。私のことを探してくれていたと聞きました。この場を借りてお礼申し上げます。本日は……記憶を失い、話す言葉すらわからない私を手厚く保護してくれたニェドーラ国、シュグタイルハン国、キアーロ国の三ヶ国の国交が結ばれた記念すべき日です。皆様、盛大な拍手をお願い致します!」
壇上で私達が手を叩くと、サルースさん達が続き、他の参加者もそれに倣った。
よしよし。名前も言わなかったし、これで矛先が国交問題にいけばいいんだけど……最後芝居がかっちゃったのを怪しまれませんように!
私はアーロンさんにマイクを返し、そそくさとニキーダの下へ戻る。
ニキーダは「お疲れ様」と私を労ってくれた。
「こちら、ニェドーラ国の代表として来ていただいたジュラル殿だ」
「あー、今紹介していただいたジャレッド・ジュラルだ。己の国は雪深く、この大陸の国とは国交がなかった。この度はこのような場を設けていただき嬉しく思う」
ジィジはそのまま演説しているけど、来場者はジィジの名前を聞いてザワザワとさざめき始めた。
アーロンさんも歴史上の人物みたいなこと言っていたけど、ジィジは有名みたい。
ジィジは不老不死を実感するからか、そういう話は嫌がるんだよね。本人が嫌煙する話を調べるのもどうなのかと、歴史系の本は読んでいない。おかげで、どう有名なのかがよくわからない。
〝流血王〟と違って、いいイメージだったらいいな。
「……以上だ」
「我が国は今日のことを記念して、我が国自慢のドライカレーを用意した。存分に楽しんでくれ」
アーロンさんが宣言すると、バタン! と扉が開き、すごい数のカレーが鍋ごと運ばれてきた。
使用人の人達は手早くテーブルをセッティングして、各カレーのコーナーを作っていく。
しかも【甘くて食べやすい】【スタンダードタイプ】【ちょっとピリ辛!】【! 激辛 !】と目立つようにPOPが貼り付けてある。
そして各コーナーのど真ん中に山のように積まれた大量のパン!
子供を中心に来賓の王族達もそれぞれ、自分で各コーナーを見て回り始めた。
え? ここはフードフェスタの会場かな?
「以前セナ様が仰った〝食の祭典〟のようですね」
「あぁ……そういえば前もそれでパーティーしたって言ってたね……あのPOPは前回からあるのか、前回の教訓を活かしたのか……」
〈セナ! 取って来ていいか!?〉
「うん。食べ放題って言ってたから、好きなの好きなだけ食べて大丈夫だよ」
グレンは早速早足でカレーを取りに行った。
ニキーダとアチャはカレーは初めてなので、各コーナーを回って説明してあげる。
担当の料理人さんは全員顔見知りで……ものすごくいい笑顔でカレーを渡されたあげく、「先生、明日にでも食堂に来て下さい!」と言われてしまった。
一応お礼と了承は伝えたけど、私は激辛は得意じゃない。そのため、辛いのも大丈夫なグレンにお願い。
グレンはお米を食べたがっていたけど、ここで出すわけにもいかず、なんちゃってナンで我慢してもらった。
グレンは〈やはりセナのカレーの方が美味しいな〉なんて言いながら、流し込むように食べている。
カレーは飲み物……
私は普通に一皿でおなかがいっぱい。
ジィジ達はアーロンさんと共に挨拶回り。ブラン団長達はそれぞれ別な人と喋っている。
会場の様子を見ている限りではそこまで変な人はいないし、モヤモヤする人もいなそう。
カボチャパンツとか頭の変な飾りとかは気になるけどね!
(うわ……あの人のドレス、めっちゃ重そうだわ……パパ達からもらったアクセが軽くてよかった……ん!?)
おかわりに行ったニキーダとアチャに近付く男性を発見。
アチャとの会話に夢中のニキーダの腰に手を伸ばした男性の手は、風の子達によって弾かれた。
驚いた男性はそそくさといなくなる。
(ふっふっふ。セクハラ男撃退だぜ! ニキーダとアチャにお近付きになりたければ、まずは挨拶でしょ! そこ大事!)
精霊の子達に頼んでおいて正解だった。後でたっぷり褒めてあげないとね。
カレーをおかわりする人が少なくなると、今度は飲み物が運ばれてきた。
来場者に飲み物が行き渡ると、カレーコーナーは縮小されて隅の方に。
BGMも変わり、少しムーディな雰囲気。
レナードさんが女性の手を引き、会場の中央で踊り始めた。
「これからダンスタイムだ」
「アーロンさん。ジィジとスタルティもおかえり。もういいの?」
「あぁ。紹介しておきたい国とはしたからな。他の国が関係を持ちたければ、向こうから来るだろ」
「なるほど。ジィジとスタルティ、大丈夫?」
「大丈夫だが……あの食べ物のせいか暑いな」
そういうジィジの隣りにいるスタルティも元気がない。
ニキーダとアチャは平気そうだけど、この二人は挨拶回りの疲れもあるだろう。
二人に保冷剤を渡すと、「冷たくて気持ちがいい」とホッと息を吐いた。
「アイス食べる?」
「いいのか?」
「あら! いいわね!」
「何だそれは?」
アーロンさんの質問に「向こうで登録したレシピだよ」と説明すると、「オレも食いたい!」と食いつかれた。
この場にいるメンバーにアイスを配る。ちゃんと好みを考えてジィジのは甘さ控えめのやつにした。
「冷たくて美味い……セナ!」
「絶対言うと思ったんだけど、無理」
目で許可を出せと訴えられ、断る。「何故だ」と聞いてくるアーロンさんに、説明してあげる。
「これは、ジィジの国で手に入る素材が必要。それがないとこの味にはならないんだよ。そして私はパーティー嫌い」
「う……しかし、ちゃんと配慮しただろう?」
「うん。だから、ジィジの国から素材をいっぱい買い取ったら、許可してあげる」
「……策士め。ジュラル殿、この素材を大量に頼む」
アーロンさんは私の意図を理解してくれたみたい。ニヤリと私に笑いかけ、ジィジに頼んだ。
ジィジの国ニェドーラも、アーロンさんの国シュグタイルハンも、もちろんドヴァレーさんの国キアーロも仲よしの国になって欲しい。
貿易が必要不可欠になれば簡単に関係は切れないし、街の商店にも商品が並べば住民にも認知される。お互いにウィンウィンが理想。
実験したみたいになっちゃったけど、勝手にパーティーのことを決められた私からのちょっとした仕返しだ。
みんなから離れてトイレに行った帰り道、子供の言い争う声が聞こえてきた。
イジメはよろしくないと気配を殺して近付くと、イジメというよりも意見の相違みたいだった。
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一人の女の子には会場にカッコイイと思う男の子がいるみたいなんだけど……一人の男の子に「お、お前趣味悪いな!」と言われ、怒っている。
言った男の子は多分、その女の子のことが好きなんだと思う。「オレが……」とモゴモゴしているのが、何とも甘酸っぱい!
(ユー、言っちゃいなよ!『オレが踊ってやる』でもいいし、『オレがいるだろ!』でもいい。ちょっと態度を改めて『踊ってください』って言うのもありだよ!)
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