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第三部 12章
魅了しないで魅了される
しおりを挟む「ははは! 思いついた嘘がおやつ抜きって……」
「ふふっ。可愛らしいね」
「いやぁ、あんたら面白いな!」
ん? そんな面白いことだった? 笑いのツボが浅いのかな? そんなことより……
「ダンジョンはお風呂よりボスに気を付けて欲しいんだよね」
「あぁ、強いって言ってたな。だがユキシタダンジョンは雪が降ると中級ダンジョンレベルの魔物が出たりする」
〈あれは上級ダンジョン以上の強さだ。寒すぎて鑑定できなかったのが悔やまれる〉
「何だと!? 本当か!?」
「本当だよ。私達が戦ったようなボスは滅多に出ないと思う。ただ、〝雪が降る中、ボスに挑むときは気を付けて〟って、冒険者に注意喚起して欲しいの」
元々ジィジ達と話したときに「そんな魔物知らない」って言われて、クラオルに頼んでガイ兄に聞いてもらったんだよね。
パパ達が調べた結果、めっちゃレアな魔獣だったらしくて、〝なかなか出ないけど、全く出ないわけではない〟ってことだった。腕に覚えのある者からすれば、ドロップ品が豪華になるためラッキー。初心者からすれば不運でしかない。
ユキシタダンジョンはそういうダンジョンなんだって。
だから一応、注意を促すためにギルドに報告に来た。
「あそこはランダムボスだったのか……だが、滅多に出ないなんて何故言える?」
怪しそうに見つめてくるサブマスに、昔から初心者ダンジョンとして問題がなかったこと、元々雪が降れば中級ダンジョンとなっていたこと、総じて過去に問題がなかったことを説明する。
パパ達からの情報をそのまま伝えるわけにはいかないからね。
「なるほど。運ということか……あのパーティはあんたらに会えてラッキーだったな」
「キミ達が戦ったのはどんな姿形だったのかな?」
「んとね、見た目はフォン系。白銀の毛並みに青い透明な角でめっちゃキレイだった! ただ、鳴いた瞬間から吹雪いて視界ゼロになったけど」
「何だと!?」
「それってまさか……」
ギルマスがバッと立ち上がり、本棚からボロボロの薄い冊子のような本を持ってきた。
本の表紙には【伝説の魔物】と書いてある。
え? マジで?
「これですか!?」
「んん? んー、多分そう。こんな感じ。ただ、この絵より角は小さかったよ」
「……まさかあのダンジョンだったなんて……」
それは幼稚園児がクレヨンで描いたような絵だけど、青い角が植物の根みたいに広がっていた。
どういうことかと聞いてみると、この本は大昔に目撃されたと言われているけど、それ以降目撃されていない魔物、及び魔獣が載っているらしい。
伝説とはなっているものの、狂言や妄言のように信じられていないものがメインのヨタ話本。
実際にいるんじゃないか、いたんじゃないかと言われている伝説とは違う括りみたい。
私達が戦った【ベリルブルーレンヌ】もその一つ。
ダンジョンから逃げ帰ってきた冒険者が見たと証言。説明から絵は描けたものの、数日後に亡くなってしまい細かいことはわからない……と書かれていた。ちなみに魔獣の名前はこの絵を描いた人物が名付けたんだそう。
ジィジがイチ冒険者が目撃したヨタ話なんか知るわけないだろうし、いろいろ納得だわ。
「やっぱり本当にいるんだ……」
「はい?」
「僕は小さい頃にこの本を見つけてからずっと信じていたんだよ! 本物が見られるなら、通おうかな!?」
「さっき滅多に出ねぇって言ってただろ」
先ほどまでの仄暗い瞳ではなく、生き生きと話し出したギルマスにサブマスが冷静にツッコんだ。
サブマスのツッコミにギルマスは打ちひしがれるように「そうだった……」と意気消沈。
「は! ドロップ品は?? 個人的に売ってもらえないかな!?」
「おい、落ち着け」
「ドロップ品は薬草と霊草、宝石だったよ。宝石なら売ってあげられるけど……」
「本当かい!?」
「うん。これだよ」
興奮冷めやらぬギルマスに一センチほどのラピスラズリを見せてあげる。
本当は魔道具もあった。アンクレット型でどんなに吹雪いても方向感覚を失わないというもの。【ホワイ・トイン】なんて名前はふざけてる気がするけど、雪山で重宝しそうな魔道具だった。
何故か消えなかった角には魔力がたっぷり詰まってて、天狐が自分が遭遇したいって言ってたから片方の角はプレゼントしちゃったんだよね。もう片方は私が実験に使いたい。
ギルマスは「わぁ……」と触るわけでもなく、テーブルの上のラピスラズリを見つめている。
小さい頃からの心の拠りどころだった伝説の魔物に魅了されているらしい。
「はぁ……悪ぃな。こいつはそういう話が好きなんだよ」
「それはいいんだけど……あのダンジョンのこと、ちゃんと注意喚起してあげてね?」
「あぁ。もちろんだ。情報感謝する」
仰々しく頷いたサブマスに、ダンジョンでネラース達が狩ってくれていた魔物のいらないドロップ品の買い取りをお願いすると、快く応じてくれた。
ジルがチェックしに来たときには依頼がなかったんだけど……今はドロップ品の依頼が出ていると、そちらも受けて納品することになった。
サブマスにギルドカードを見せると、Cランクということに驚かれ、「だからか……」と、よくわからない納得のされ方をした。
「アランさん、それあげるよ」
「え!?」
「アランさんにとって特別みたいだから。大事にしてくれるでしょ?」
「……はい! ありがとう!!」
ギルマスは本当に嬉しそうに笑った。
おそらく、私が全財産と交換だと言ったら、本当に全財産渡してきそう。
ラピスラズリはまだあるし、アランさんなら転売することもないだろう。
家宝にする勢いで大事にするか、肌身離さず持ち歩くんじゃないかな?
みんなには「優しすぎる!」って言われたけど、たまにはこういうのもいいと思うの。ちょっとした幸せをプレゼントっていう自己満よ!
ギルドでの用事を全て終わらせ、帰り道にアチャに紹介してもらった八百屋さんに寄る。
八百屋のおじさんは私達が捕まえた雪下野菜の数にド肝を抜かし、大喜びで数個ずつ買い取った。
キャベツと白菜は数年ぶりの入荷となったらしく、お金も払ったのにお礼だと他の野菜をわけてくれた。
ちょっといいことした気分でお城に戻る。今日はいい夢が見られそう!
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