転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい

高木コン

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1巻

1-2

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     ◇ ◆ ◇


 うん。
 今日も目を開けたら目の前には木肌。
 安定の木肌。


 昨日一日彷徨さまよい歩いたけど、結局なにも見つからなかったんだった。
 夜残しておいたリンゴが左右のポケットで一つずつ丸々復活していて、ログインボーナスだと大喜びした。
 それからまた丸一日歩き回ったのに、心躍るものには何一つ遭遇しなかった。
 遭遇したのは多種多様な獣と虫だけ! 唯一のイイことと言えそうなのは、魔法の精度と威力が上がっている気がすること。気がするだけで勘違いかもしれないけど。おかげで今のところは、そう苦労しないで獣と虫を倒すことができている。


     ◇ ◆ ◇


 今日も木から降りる前に祈るようにポケットを確認すると、ちゃんとリンゴが二つ入っていた。
 リンゴがあるとものすごく安心する。
 うん。ご飯大事だわ。
 木から降りて安心のリンゴを食べる。今日も美味しい。
 さて、朝のストレッチをしたら今日も行きますか。


(もうマジでお風呂入りたい。トイレットペーパーもその辺の葉っぱだよ!)

 もうっ! っとプリプリしながら歩いて行く。
 四日目ともなれば慣れてきたもので、今のところ虫も獣もそう苦労しないでサクサクと倒せている。
 遭遇しては襲ってくるいろいろな獣と虫を倒しつつ歩いていると、どこからか水の流れる音が聞こえてきた。

「この音って川じゃない⁉」

 期待を込めてダッシュ!
 一時間くらい走り続けてるけど着かない。でも音は大きくなっているから近付いていることは間違いない!
 結局、そのあと二時間くらい走り続けてようやく川に辿り着けた。川の周りは少し開けていて、学生時代にBBQをした河原みたいだった。

「やったー! キレイな川だー!」

 あまりにも嬉しくて服を着たまま川に飛び込んだ。
 バシャバシャと泳いで気が済んだところで、濡れた服を脱いでゴシゴシと洗っていく。この森での汚れをキレイさっぱり落とすように念入りに。
 洗い終わったら川岸の大きい岩に洋服を干して、今度は体を洗っていく。
 体の隅々まで念入りに川で洗って、上がろうとしてからふと気が付いた。
 ……コレ、このままでいたら寒くない? 焚き火おこしてからにすればよかった! 失敗した!
 まぁ、誰もいないからいいかと、そのままで小枝を拾い集める。
 リアルでやったら捕まるけど夢なら大丈夫でしょ!
 森の中では木や草が燃えて火事なんかになっちゃったり、自分も逃げ切れずに丸焼けになったりしそうで、火魔法は使わなかったんだよねぇ。
 拾った小枝を焚き火にするべく某有名RPGの火魔法を想像しつつ、厨二病よろしく呪文を叫ぶ。

「ファイアボール!」

 …………あれ?

「ライター!」

 …………むむっ⁉

「マッチ!」

 …………ぐぐぐっ。

「火! 炎!」

 …………

「なんで付かないの……夢なら万能じゃないの? 焚き火っていうか、火おこしって重要だよ?」

 森の中で風魔法が使えたから送風を想像して「ウィンド」と唱えてみる。
 うん。よかった。乾いた。
 とりあえず風邪は引かなくて済みそう。服も風で乾かしちゃおう。
 しっかりと乾いたのを確認して服を着ていく。

「まさか火魔法が使えないなんて思ってなかった……ショックが否めない」

 せっかく川を見つけたんだから、しばらく近くに留まって自分に何ができて何ができないのかを明日にでも確認しよう。
 走りまくったからか、川ではしゃいだからか、それとも体がスッキリしたからかわからないけど、今日も日が陰る頃には眠くなったのでリンゴを食べ、木に抱きついてコアラ状態で眠りについた。


     ◇ ◆ ◇


 うん。今日も起きたら目の前には安定の木肌。
 そしてポケットにはちゃんとリンゴ。
 ゆっくり木から降りて今日は川で顔を洗い、寝起きでボーっとした頭からシャキっと覚醒した。
 リンゴも食べて日課になりつつあるストレッチで気合いを入れる。
 今日は魔法の確認だ! と思い付く限りの魔法を試していく。
 ゲームや小説に出てくる魔法の呪文を叫びまくる。
 誰かに目撃されたら頭がおかしい人だと思われそう。
 だけどここは夢! こんな夢を見ている時点で私の頭はおかしいけど。


 結局使えたのは風と水だけだった。
 自分の妄想もしくは夢なら、チートなんじゃないかと思っていたのが打ち砕かれた。
 まぁ、魔法が使えるだけよしとしよう。落胆が否めない自分に言い聞かせる。
 はたして夢はいつめるんだろう。もう五日目なんだけど……
 まさか小説みたいに異世界来ちゃった! なんてパターンはありえないだろうし……

「さてと。考えてもわからないことは止めておこう」

 今日は一日魔法の練習に充てよう。完全に無詠唱でできるようになりたい。
 誰も聞いていないとは言え、やっぱり恥ずかしいもん!
 昨日もさっきもノリノリで言ってたけど。大声で言って発動しなかったときの恥ずかしさったらなかったよ! 無詠唱の方が戦いでも有利になりそうだしね。
 ついでに森で役に立っていたと思われる、身体強化や気配察知、気配遮断も練習しておく。


 しばらく練習して、おそらく昼過ぎの時間に一ヶ所からものすごい強者の気配がした。
 これはヤバそうだと本能が警鐘けいしょうを鳴らしている。

「これ遭遇したらまずいね」

 相手の気配をずっと探っていると、離れて行ったのでホッと一安心。
 そのあとは夕方まで何もなく、ずっと魔法の練習に充てられたおかげか、イメージ次第で完全に無詠唱でもできるようになった!
 何となく風魔法と水魔法は上級も撃てそうな気がする。気がするだけかもしれないけど。
 夕方になったので練習を止めて水浴びすることにした。

「ボディーソープとかシャンプーとか欲しい。服の洗剤も欲しい。歯ブラシと歯磨き粉も欲しい! 切実に!」

 ブツブツと文句を言いながら川で体と服を洗う。
 スッキリしたところでリンゴを食べて口をすすぎ、今日もコアラ状態で早めに寝てしまおう。


 夜中、何かの獣の雄叫びで目が覚めた。
 何がなんだかわからないけどまた頭の中で警鐘けいしょうが鳴り響いている。

「お昼の気配と似てる……」

 とりあえず状況確認をしようと辺りを見回した瞬間、グラグラと立っていられないくらいの地面が波打つような地響きと獣の雄叫びが響き渡り、木にしがみつくので精一杯になった。

(うわっ! 何⁉ 何なの⁉ ひぃぃー‼ 勘弁してー!)

 目が辺りの暗さに慣れ、地響きが落ち着くのを待ってから辺りを見回す。
 川の対岸の開けたところで、馬鹿みたいにどデカい深緑色の熊とこれまた大きい猪八戒ちょはっかいみたいなのが戦っているのがわかった。
 あの猪八戒ちょはっかいはラノベお馴染みのオークじゃなかろうか……オークって女の子を襲うってよく言われるよね……ここにいるのがバレたら殺される&襲われるとかシャレにならない。
 ひたすら息と気配を殺して、バレませんようにと願いながら必死に木にしがみつく。


 三時間くらい経っただろうか。
 いまだに決着がつかないけど、ようやく熊が優勢になってきたみたい。
 でも戦いの影響で周りに被害が出ている。

(こっちこないで! 気付かないで!)

 祈りも虚しく、そろそろ決着がつきそうなタイミングで、しがみついている木のすぐ近くに猪八戒ちょはっかいの攻撃の余波がぶつかり、思わず「ひぃぃ!」と叫んでしまった。

「ヤバい」

 どデカい二匹に見つかってしまった。とりあえず木から降りてどうしようかと考える。

(ヤバい。ヤバい。とりあえずものすごくヤバい)

 頭の中にあの芸人さんがチラついているけど、それにかまっているヒマはない。生死がかかっているんだから冷静にならなければ。
 逃げるにしても二匹が追いかけてきたら地響きの揺れで足がもつれそう。
 しかし、見れば二匹とも満身創痍まんしんそうい
 いいところ取りしよう。
 最後なんとかすればきっと大丈夫! 私の夢なら私に勝機があるはず。私はやればできる子よ!
 まず寒気がしそうなニヤつく顔を向けてくる猪八戒ちょはっかいをなんとかしよう!
 熊が攻撃したタイミングにかぶせて、その攻撃がちゃんと入るように猪八戒ちょはっかいの顔周りにウィンドショットを何発か打つ。
 熊の攻撃がモロに入って、猪八戒ちょはっかいが怒って雄叫びを上げた。そのタイミングで特大ウィンドカッターを首めがけて放つ。

「よっしゃー!」

 読み通り猪八戒ちょはっかいを倒すのに成功して思わず飛び上がって喜んだけど、熊の咆哮ほうこうで現実に引き戻された。

「そうだ。まだ終わってないんだった」

 熊は大きくて、腕のリーチがあるため近付くのは危険。
 牽制けんせいのためにさっきと同じくウィンドショットを顔周辺に乱発したけど、咆哮ほうこうしながら手で払い除けられてしまった。
 これ詰んでない⁉
 焦りながらも、こっちに突進してこないようにと、さっきより大きめのウィンドショットを顔周辺に撃ちながら時間を稼ぐ。

(考えろ。考えるんだ。……いいこと思い付いた!)

 ウィンドショットの中にウィンドカッターとウォーターニードルを入れる感じで……変則二段階攻撃だ!
 何発も撃っていると運よく目潰しに成功したらしい。
 熊はイライラからか、目が見えないからか、動きが大雑把になって動きが読みやすくなってきた。
 最後の仕上げにと、フェイントにウィンドショットとウォーターニードルを乱発し、力いっぱいのウィンドカッターをお見舞いする。


 ――――バシュッ!
 ――――ドン!
 ――――ガラガラ!
 ――――バタバタバタ!


 いろんな音がして土ぼこりが収まるのを待って見てみると、熊の首は胴体と離れ、討ち取ることに成功していた。

「ハァ……ハァ……なんとかなったぁ……」

 緊張から解放されて地面にへたり込む。
 しばらく放心状態でボーッとしていると、いつの間にか森が明るくなってきている。

「ボーっとしてる場合じゃない。深緑熊と猪八戒ちょはっかいを消さないと」

 フラフラと近付いて二匹とも手をかざして消した。
 二匹を消して顔を上げると、熊の後ろ側の木が大量に倒れていることに気が付いた。

(なんで?)

 そういえばさっき熊を倒したときにガラガラって音がした気が……しなくもない。
 薪にするにも火魔法が使えなきゃ意味がない。
 散乱した木は邪魔なので近付いて消していく。
 気分はブラックホールのゴミ箱に投げ入れている感じ。
 木に近付いては消して、近付いては消してを繰り返してる最中に、ふと、この木で武器を作れないかなと思い付いた。

「そうとなったら今日は武器製作だ! もう明け方だし、さっきの戦闘のせいで目が冴えて寝れないし……」

 気合いを入れて倒れた木の中から頑丈そうな木を選別していく。
 選んだモノ以外の木を全て消し、風魔法でいらない葉っぱや枝を落として四角く加工した。
 しばらく作業に没頭してから空を見上げると、すっかり明るくなっていた。

「もう普通に朝の時間すぎてるみたいだわ。木を消すのに時間がかかったもんね」

 木を回収した場所は、大きく細長いU字型になっている。
 とりあえず不要な木を消す作業と木材化が終わって落ち着いたので、恒例の朝ご飯のリンゴを食べて心を落ち着かせる。

「今日もリンゴがあってよかった。けど、いつの間にポケットに現れるんだろう? 戦ってるときはなかった気がしたんだけどな」

 戦いで汚れた気がしたので川で水浴びしながら、食べたリンゴに感謝した。
 満腹になったのと水浴びで心が落ち着いたので、いつものストレッチをして体を動かす。
 ストレッチを終え、よしっ! っと気合いを入れて武器製作に取り掛かった。


「日本人的にはやっぱり刀に憧れるけど、体格的には短くないと無理だよねー。短めの木刀なら扱いやすいかな? あとはヤリとか短剣かな? やっぱりヤリも短くないとダメだろうけど」

 自分の今の体格を考えて、振り回すのにちょうどいい大きさはやはり短めの武器。
 とりあえず木刀を作ろうと、長さを決めて尖った石で削っていくけど上手くいかない。繊維が毛羽立つ感じになってしまう。
 加工途中の木片を前にムムムと悩む。
 十分くらい悩んで、木材を乾燥させていないことに気が付いた。

「しかも、さっきまで風魔法で切ってたのに、なんで石で削ろうとしたんだろう……一瞬で魔法使えることが頭から吹っ飛んでたわ」

 ふぅっと息を吐いてから違う木材を乾燥させる。
 木材に両手をかざし、水分が抜けて蒸発する水魔法をイメージ。

「おぉ! 成功したっぽい!」

 キレイに乾燥させることに成功して、一人でニヤニヤしてしまう。
 次に風魔法で研磨するイメージをしながら削っていく。
 魔法の加減が難しく、力を込めすぎて割ってしまった。
 何本も割ってから、急いじゃダメだとゆっくり削っていく。ゆっくり削るのも調整が難しい。
 厚さやフォルムなど何回も確認しながらの作業になった。
 実際に振り回さないとちょうどいい長さや厚みがわからないので、少しずつ長さや厚さの違う木刀を作っていく。


 数時間後、木刀が何本かできた。早速振り回してどの形の木刀が一番いいのかを確認したら、握る部分に滑り止めがあると便利だと思い付いた。
 思い付くまま身体強化を使い、木から麻紐のような紐を作って木刀の手持ち部分にほどけないように巻き付けてみる。
 試しに振り回して、滑ったり手が痛くなったりしないかをもう一度確認。先程と持ち手の厚みや握った感触が変わっていて少し扱いにくい。何度も振り回しながら微調整していく。

「よっしゃ! やっと木刀完成だー! 近接戦用に短剣も作ろう!」

 理想は投げても大丈夫な忍者のクナイ。
 乾燥させた木の残りを使うけど、木だけだと刺したり切ったりできないので石も使う。
 川原の石は大体丸みをおびているので石を石で叩いて割っていく。
 なかなかキレイに割れてくれないけど、身体強化の力で割り続ける。数時間後、大きさを揃えて二枚で一組にして三組ほど作れた。
 残りの木材を風魔法で形を整えて、刃にした二枚の石で柄にする木材を挟み、刃先が十センチ程出るようにする。木材に触れていない石の先端と先端を組み合わせ矢印のような形に紐で固定していく。
 握る部分にも紐を巻き付けて滑らないようにした。

「一応完成したけど……うん。大変不格好でいらっしゃるわ。むぅ……頑張ったのに大失敗だなんて!」

 やっぱり刃となる石は一枚の方がよさそう。
 木材を手頃な大きさにしてから切り込みを入れて、そこに石を差し込んで固定する方法にしよう!
 紐を巻き付けて完成品を見ると、やはりさっき作った二枚刃より短剣感がある。

「短剣ってより小刀? いや石器か……縄文時代みたいだわ……」

 残りの石も時間をかけて全て短剣に加工していく。

「完成したけど、これどうやって持ち運ぼう……」

 また完全に失念していた。持ち運びのためにベルトも作らなければ。

「もう夕方じゃん……集中していると時間が早いわ」

 木刀を振り回すとき以外ほとんど座って集中していたからか体が固まっている気がして、ゆっくりストレッチをしてほぐしていく。
 もう夕方だからベルト作りと、木刀と短剣のお試しは明日にしよう。夜中に起こされたから早めに休んじゃおう。
 水浴びしてスッキリしたあと、いつも通り夜ご飯にリンゴを食べ、口をすすいで樹上にジャンプ。コアラ状態で幹に抱きつくと、戦闘と作業後の疲れからか、暗くなりきる前に眠りに落ちた。


     ◇ ◆ ◇


 昨日夜中に起こされたせいでトラウマ化したのか、寝ている間に途中で何回も目が覚めてあまり休んだ気がしない。
 目の前に木肌があって自分は無事だと安堵する。
 まだ夜明け前だけど、起きることにしてのそのそと木を降りて顔を洗った。
 顔を洗ってスッキリしたところでリンゴを食べて気が付いた。
 疲れが取れてる……?
 そういえば初日のすり傷も次の日には治っていたし、獣の攻撃をけるのに転んだ傷も治っている。大きなケガはしていないけれど、小さな傷は森を通ったときにいっぱいできていたハズ。
 傷を次の日に持ち越したことがない衝撃の事実に驚愕きょうがくした。

「今気付いたけど、寝たら治るって普通ないよね。寝て全回復するのはゲームと夢くらい。夢でよかったわ。リンゴ食べたらおなかも空かないし、喉も全然渇かないから川の水も飲まなくて済んでるし……さっきまでの寝不足の疲れもなくなったことを考えると、多分リンゴパワーだわ」

 美味しさばかりに気を取られていたけど、リンゴは万能薬だったのか。
 今後はもっと感謝して食べようと心に決めた。
 リンゴのありがたみがわかったところで日課のストレッチで体を動かしていく。


「ふぅ。今日はベルト作らなきゃ。たしかあっちの森の中につるって言うかつたみたいなのがあったよねー」

 記憶を頼りにつたを探して引きちぎり、作業場所まで運んだらベルト製作スタート。
 乾燥させたつた数本を編み込み、紐状にしてから紐と紐を編んで幅広のベルト状にした。
 さらに別の紐で短剣を差し込んでベルトにつなげられるように、あーでもない、こーでもないと編み込んでいく。
 ベルトをおなか周りに装着して長さを調整したら短剣を差し込んで完成だ!

「ふおぉぉぉ! やっとできたー! 編み物とかロクにやったことないけどなんとかなったー!」

 一番小さめの刃の短剣はいざというときのために別の場所に身に付けておこう。

「ふふふ……乙女の隠し短剣と言ったらあそこしかないよねぇー」

 テンション高くニヤニヤしながら作業再開!
 先程取ってきたつたを乾燥させ、柔らかくするために揉む。ひたすら揉む。
 肌に長時間こすれても痛くないように柔らかくなったら、紐状に編んでいく。
 作った紐を再度揉んで柔らかくして、さっき作ったベルトよりも細いベルトにする。
 短剣のさやも紐を編み込んで作ったら、短剣を差せるように作った穴に合わせて固定させた。
 お目当ての場所に巻き、締め付け度を調整したら完成!

「ふっふっふ。隠し短剣って言ったらやっぱり太ももだよね!」

 ワンピースのスカートをまくり、太ももから短剣を取り出す練習をする。その完成度にニヤニヤが止まらない。
 ベルトと隠し短剣を装着して飛んだり走ったりして動くのに邪魔にならないか、肌を傷付けたりしないかを確認していく。

「うん! 大丈夫そう!」

 朝早くから作業をしていたので、まだ朝とお昼の間くらいの時間だろう。

「早速作った木刀と短剣のお試しだ!」

 獣を探そうと気配を探る。

「んーと……見つけたっぽい? ちょっと遠いけど……」

 木刀を握り、身体強化と気配遮断を使いながら走って向かう。
 気配察知した場所にいたのは、二日目に戦ったのと同じでっかい熊だった。
 幸い、後ろを向いていてこちらには気付いていなさそう。

「うわぁ。大人の人間の二倍はありそうなデカさだわ」

 気合いを入れ直して周りを見て他に敵がいないことを確認して奇襲する。
 木刀に風魔法をまとわせて勢いを増し、後ろからジャンプ! 頭めがけて木刀を振り下ろす。
 ボゴォ! と骨が砕ける音がして一撃で終わった。

「ワォ。一撃とか強すぎて怖いわ。短剣使うまでもなかった」

 まぁ、強い分にはいいかと、倒した熊を消して短剣用の獲物を探す。
 察知で見つけて気配遮断をしながら近付くと、大きな赤い猿が二匹いた。
 見た目が人に近いお猿さんはとっても攻撃しづらいかと思ったけど、猿達は小動物をいじめていた。
 その小動物は金色の毛並みのオコジョに、リスのような長く太い尻尾が生えている。その可愛い動物の尻尾を乱暴に掴んで持ち上げ、まるでキャッチボールのように投げて遊んでいやがった。
 投げるのを失敗して木の幹にぶつけては笑っている姿を見てイライラしてくる。
 私の殺気が漏れたのか、猿に気付かれてしまった。猿達はギャアギャアとこっちを指差し、何かを叫び始める。

「多分、雰囲気的になんか文句言ってるんだろうな。『なんなのあの小娘! ワタクシに殺気を向けてきたわ! キィィー!』」

 一匹の猿に勝手にアテレコして笑う。
 私が笑ったせいか、さらに怒りまくってドスドスと足踏みをし始めた。

「コレが地団駄ってやつかな?」

 あまりに猿が怒るので少し冷静になった。
 とりあえず通じるかはわからないけれど、可愛いオコジョリスちゃんを離すようにジェスチャーしてみる。
 それを見て猿はこちらに見せつけるように、リスちゃんを握り潰すような仕草をしてわらった。
 猿が嘲笑したのを見て、私の中で何かがプツンと切れた。
 身体強化で一気に近付き、リスちゃんを掴んでいる腕を風魔法をまとわせた短剣で切りつける。
 腕を切り落とし、強く握られていたリスちゃんを救出。また猿達と距離を取りつつ、リンゴが入っていない方のポケットに避難させた。
 そのとき、こちらに向かって石が飛んでくる気配を察知して、本能でける。
 腕を切り落とした方は叫びまくっているが、もう一匹の方が黄色いオーラみたいなのをまとっている。

「多分魔法だ……」

 大量に飛んでくる石を自分の体全体に風魔法をまとわせることで弾き飛ばし、当たらないようにした。
 自分が小さい竜巻の中心にいるようにイメージして風魔法で風をグルグルと回す。
 どれだけ石を飛ばしても当たらないからか、猿は焦りだした。

「リスちゃんに酷いことしたの許さないよ。苦しめてやりたいけど、血なまぐさいのは好きじゃないからもう刃物は使わないね」

 ニッコリと笑いかけ、もう一度距離を一気に詰め、猿の顔をウォーターボールで覆って溺死させる。
 猿が動かなくなったのを確認して手をかざし消してから、リスちゃんを確認した。弱ってはいるけど生きていることに安堵し、とりあえず安全な川原に急いで戻る。


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