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第三部 12章

王様達の計画

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 目の前に着いた途端、ギュッと抱きしめられた。

「天狐?」
「うふふ。心配で来ちゃった! これから入るの?」
「ううん。今さっき終わって出てきたとこだよ」
「あら! 流石セナちゃん! 早いわね! 体も冷えてるし、さっさと帰りましょ?」

 私を抱えたまま、天狐がボソボソボソッと早口で何かを呟くと、ネラース達も全員、ジィジの部屋に転移していた。
 あの人達そのまま置いて来ちゃったじゃん……まぁ、回復してあげたし、あの様子なら自力で戻れそうだよね。

「驚かせるな」
「ジィジただいま!」
「おかえり。手伝いに行ったんじゃないのか?」
「行ったわよ」
「あのね、ちょうど出たところで天狐と会ったんだよ」
「もう終えたのか。早いな。どうだったんだ?」
「みんなが手伝ってくれたからいっぱい手に入ったよ! あとね、生クリームあったの!」
「「なまくりぃむ?」」

 ジィジと天狐、二人に首を傾げられ、私はダンジョンで手に入れた【ホイップフラワー】を出す。

「何だこれは?」
「これって確か、すごい寒いときに咲く花よね?」
「そう! 十一階層のセーフティーエリアで雪が降ってきてね、十二階層に降りたらいっぱい咲いてたの!」
「セナちゃんまさか……食べるの?」
「うん! 美味しいよ!」

 ジィジはよくわかっていないみたいだけど、天狐は「これがねぇ……」と信じられない様子。
 それなら作るしかないよね?
 砂糖を混ぜたホイップクリームを食パンに挟んで二人に渡す。食べたジィジは「甘い……」と呟き、天狐は「おいしー!」と叫んだ。

「セナちゃん天才だわ!」
「女共が好きそうな味だな……」

 ジィジには甘すぎたらしく、食べるのが遅い。そんなジィジから天狐が生クリームサンドを奪って食べ始めた。

「セナがダンジョンに行っている間に決まったことがある」
「決まったこと?」
「キアーロ国やシュグタイルハン国と話し合い、パーティーが開かれることになった」
「は!?」

 ジィジの説明では――私がキアーロ国やシュグタイルハン国に戻ったら、ジィジとなかなか会えなくなる。それなら、キアーロ国やシュグタイルハン国と国交を結べば、情勢もわかるし、何かあったときに介入できると考えた。
 ……それで二ヶ国に手紙を送ったら、了承されたそう。

「セナの捜索に周辺国にも協力を求めたから、会わせたいらしい。セナに言うと嫌がるだろうからどうしようかと悩んでいたと書かれていた。パーティーなら一堂に会せるだろう?」
「えぇ……」
うぬらも行く。ここから向かうと時間がかかるからな、ヴィーに送ってくれと頼んだ」
「マジか……もう決定事項じゃん……」
「あと、シュグタイルハン国のアーロン王から『俺達に心配をかけた罰だ。逃げるなよ』と伝言だ」
「う……」

 くそぅ……釘刺された!
 私抜きでやって欲しい……
 天狐やアチャ、スタルティも一緒に行くらしく、天狐は「カッコイイ人いるかしら?」とテンションが高い。
 しかも、すでに日程まですでに決まっているそう。
 おばあちゃんが送ってくれるから、それまでは自由にしてていいらしい。

 盛大に落ち込む私をクラオルとグレウスがスリスリして慰めてくれる。
 もう腹をくくるしかないのかもしれない。

「そんなに嫌だったのか?」
「面倒じゃん……マナーとか言葉遣いとか……それに注目されたくない。自由がいい」

 囲おうとされるのも嫌だし、利用しようと絡んでくるのも嫌。

「なんだそんなことか」
「え?」
「うふふ。セナちゃんに何かしてきたら……任せてちょうだい」

 笑う天狐の紅い瞳がキラリと煌めいた気がした。

われがいるだろう〉

 不満そうに口を尖らせるグレンに思わず笑みが浮かぶ。

「そうだね。みんなが一緒だもんね。一日だけ頑張ろう! それに国交が繋がったら、ホイップフラワーが向こうでも手に入るだろうし、悪いことばかりじゃないよね」
「そうね! ってことは、逆もあるわよね? こっちではなかなかない薬草や面白いものが手に入るわ!」

 天狐も輸入品に興味があるらしい。
 今まで私が見てきたものや採取したものを「こんなのがあるよ」と説明すると、俄然行く気満々になった。

「ふむ。そういった書類もまとめねばならんな……上手くいけば豊かになる」
「ホイップフラワーもリストに入れてね!」
「あれをか? 確かに女が好きそうではあるが……」
「ジィジ甘い!! 絶対売れるし、売る方法もあるんだよ!」
「売る方法? 一方的なのはいかんぞ」

 ジィジをビシッと指さすと、やんわりと腕を下ろされた。

「むぅ。そんなことしないよ! 普通に売っても活用法がわからなそうだから、レシピ登録すればいいと思うの」
「レシピ登録って商業ギルドのか?」
「そうそう。料理の作り方と一緒に素材を売り込むんだよ」
「それが可能なら売れるだろうが……」
「レシピは任せて!」

 ジィジのためなら一肌脱ぐよ! それに私も普通に手に入るようになったら嬉しいしね!
 タルゴーさんに言ったら大喜びで広めてくれそうだ。

 一番の問題は劣化。おそらく、要冷凍ないしは要冷蔵。
 それを伝えると、それは問題ないと返ってきた。この国に多い雪族は氷魔法が使える人が多いらしい。天狐が口添えすれば村単位で協力が仰げるそう。

 売れることを予想して、買い取りを強化しなければならない。
 そのため、先んじてこの国でレシピ登録することになった。

「ねぇ、セナちゃん。前に登録したレシピってなーに?」
「えっとね……ジャムパンと、ナッツパンと、ドライフルーツパンと、カレーと、ベビーカステラと……あと何だっけ?」
「キーウィのスムージー、スイートポテト、すき焼き、トンコツスープでしょうか?」
〈スモークチーズやスモーク卵もあったぞ〉

 天狐の質問に私が答えきれずにいると、ジルとグレンが補ってくれた。
 それを聞いたジィジは「そんなにか……」と、ちょっと引き気味。

「パンってパンよね? それ以外は想像もつかないわ」
〈どれも美味しいぞ〉
「セナ様は料理だけではなく、便利道具も登録しています」
「はぁ……規格外だと思っていたが、ここまでとは……」
「流石セナちゃん! すごいわ! 料理が上手だとは思ってたけど、多才なのね」

 ため息をつくジィジとは対照的に天狐はニコニコと私の頭を撫でる。

 他にも料理や道具に使えるものがあるかもしれない。
 ジィジと天狐にこの国で手に入るものを聞き、輸出可能品をリストアップしていく。
 逆にジィジ達は、グレンやジルからこちらにはないものや、民が喜びそうなものを聞き、こちらも一覧表に。

 アチャやスタルティも巻き込んで、ワイワイと賑やかに計画を練ることになった。

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