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第三部 12章
野菜爆弾
しおりを挟むデザートを食べたらいざ、ボス戦へ!
ギギィと音を鳴らしながら開いた扉の先には、アクアマリンのような青く透き通る角と白銀の毛並みを持つトナカイが待ち構えていた。
「うわぁ~、キレイだねぇ」
『ちょっと主様? 何呑気なこと言ってるの! 敵よ、敵!』
「わかってるよ~」
トナカイは私達を一瞥した後、遠吠えをするかのように上を向いた。私にはホイッスルのような音にしか聞こえなかったけど、音がした瞬間――雪が激しく降り始め、すぐに吹雪になってしまった。
「プルトン、グレンをお願い!」
《任せて!》
「アルヴィン、ジルの安全確保!」
《承知》
ホワイトアウトのように視界は真っ白になり、誰がどこにいるのかも魔力でかろうじてわかる程度。
指示を出したはいいけど、視界が悪すぎてトナカイの位置がわからない。
「うお! 危な……」
咄嗟に体が反応してトナカイの攻撃を躱す。
急に目の前に現れたトナカイの突進をモロに受けるところだった。
危険察知スキルがあってよかった……
「((ねぇ、グレン。グレンの炎の魔力……魔力だけ出せる?))」
〈((わかった……寒いから早く終わらせるぞ……!))〉
「((プルトン、エルミス、ウェヌス、アルヴィンはグレンの魔力からみんなを守って欲しいの))」
グレンは念話の声まで震えていて、ちょっと心配になってくる。
精霊達からは《頑張る》と返ってきた。おそらく、グレンの魔力の強さがネックなのかも。
私は自分に何重にも結界を張り、グレンにタイミングを合わせてもらう。
グレンが〈ウオオオオ!〉と叫びながら魔力を解放させた刹那――熱波がボス部屋に広がった。
グレンが発した魔力により、吹雪は雨となり蒸発。地面の雪も全て溶けた。
視界が確保できた私は刀を右手にトナカイに向かって走る。
動きが鈍くなったトナカイを斬ろうとすると、トナカイの魔力を感知したため、咄嗟にジャンプ。
体の向きを調整しようとトナカイの角を掴むと……取れた。
「げ!?」
このままだと落下しちゃう! とそのまま無事な方の角に手を伸ばすと……握ったままだった角が当たって、ポロッと折れた。
「うそーん!! ゔぶ!」
地面をゴロゴロと転がった私の左手には絡まったトナカイの二本の角。
トナカイを見上げると、バランスがおかしくなったのか少しヨロヨロとしている。
今が好機だと思ったのか、ネラース達がヨロけるトナカイに突っ込んで行った。
数分で討伐のエフェクトが現れ、戦闘は終了。
宝箱を回収してボス部屋の続き部屋へ進む。ここは雪もなく、室温も外と大差なかった。マイナスの冷凍庫から冷蔵庫になった感じ。
グレンは初めての行動でお疲れ気味。あの熱波を出したのにまだ寒いらしい。
「セーフティーエリアだし、このままだと風邪引いちゃうからお風呂に入ってから戻ろ?」
〈う……うむ……そうだな……〉
グレンがカタカタと震えているため、グレウスと急いで露天風呂制作。
お湯に湯の花を浮かべると、グレンは服も脱がずに飛び込んだ。
〈あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……生き返る……〉
「ジルも寒かったでしょ? 入って」
「あの……セナ様は……」
「私は大丈夫だから、温かい飲み物作るよ」
中々入らないジルを精霊達に頼んで温泉に押し込み、私は薬湯作り。
その間にもグレンは〈臭くなければいいんだがな……〉とボヤいている。
プリン風卵酒と作り置きしていた〝チートなリンゴマドレーヌ〟を配ると、みんなはホッと息を吐いていた。
「あのボス、初級ダンジョンにしては強くない??」
「そうですね。初心者でしたら殺られていると思います」
ゆっくりと休んだ後、ジルと話しながら転移魔法陣を起動してダンジョンの入り口へ。
ダンジョンの外にはあの冒険者パーティがボロボロの状態で待っていた。
「大丈夫だったのか!?」
「へ?」
何のことだかわからない私達は顔を見合わせる。
どういうことかと聞いてみると、このダンジョンは雪が降ると魔物が凶暴化するそう。その際はボスは中級ダンジョンと変わらないくらいの強さの魔物が出る。思い出したときには私達はすでに下層に降りて行った後だったらしい。
彼らがボロボロなのは撤退を決め、ダッシュで来た道を戻っている途中、雪に足をとられて転倒。その度に雪下野菜に何回も吹き飛ばされたからだった。
お兄さんいわく、特に白菜とキャベツの威力が〝やべぇ〟んだそう。
そりゃ、あのスピードが下から直撃したら吹き飛ぶし、ケガもするわ……
とりあえず、心配してくれていたみたいだからヒールをかけて傷を治してあげる。
「あの野菜はある意味爆弾なのね……ボスにも勝てたから大丈夫だよ」
「そうか……あんたら強いんだな……こんな子供なのに……」
「あはは。それはどうも。それより、よく走って入り口まで戻れたね?」
「いいもの見つけたんだよ!」
先ほどまで私達と話していた落ち着いた雰囲気の男性の隣りにいるちょっと若い子が得意気に話し出した。
温かいお湯の池を発見。臭かったけど、体を温めるために入ると疲れが取れたという内容だった。
それは……もしかしなくても私が作った露天風呂だよね……ダンジョンだから勝手に元に戻るかなって思ったんだもん!
グレンやジルから〝どうするんだ?〟と視線を受けた私は「それはよかったねぇ」とシラを切った。
「あぁ。だが、動けるようになったのはあんたらのおかげだ。ありがとう」
「どういたしまして」
「セナちゃーーん!」
「ん?」
お兄さんと話していると私を呼ぶ声が聞こえた。振り返ると、地面の雪をものともせず天狐がすごいスピードでこちらに向かって来ている。
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