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第三部 12章

お墓参り

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「セナ……怪しすぎるぞ……」
「あれ? ジィジ、終わったの?」
「うむ。とりあえずはな。アリシア、うぬにも茶を」

 ジィジはそのままスタルティの隣りに腰を下ろした。

「えっと……」
「どうぞ。ジンベリの木のすりおろしが入っています。お好みでミエールツをお使い下さい」

 言いにくそうなアチャの横からジルがジンジャーティーを出すと、ジィジはすぐに合点がいったみたい。

「……そうか。説明を忘れていた。あのドアが専属執事室に繋がり、その執事室の続き部屋に簡易キッチンがある」

 ジィジが教えてくれたけど、使うことがあるとすればアチャくらい。私達はこのエリアに用はないし、スタルティは王族だから自分で用意したりしない。

「で、結局どうなったのよ?」

 王様も移動してきて、全員に紅茶が行き渡ると天狐が話題を戻した。
 ジィジの説明では王様はそのまま王位を続行。チスタ家は爵位剥奪で一族全員投獄。チスタ家の使用人達はメイド長のように脅されている人もいるため、こちらは調べてから。メイド長はそのままジィジの王宮エリアで監視の下働かさせる。他の貴族も罪を犯していれば爵位関係なく裁かれるらしい。

「こやつは魅了にかからなければ仕事はできるはずだ。他のは民のことを考えておらん」
「え!?」
「何だ?」
「い、いえ……お爺様にそう言われるとは思っておりませんでした。我々には興味がないのかと……」
うぬの子孫だぞ? 引退して久しいからあまり口出さぬようにしていたが、興味がないわけないだろう」
「ふふふ。ジィジは誤解されやすいだけで、優しいから。ね? スタルティ」
「うん」

 頷くスタルティをジィジが優しく撫でた。その顔はちょっと嬉しそう。

「王たる素質を兼ね備えていなければ、王位に就くことを許可しない」
「ふーん。ジャレッドが言うならいいんじゃない? スタルティの信用を得るためにも頑張んなさい」
「はい。肝に銘じておきます」

 王様は天狐の言葉に恭しく頷いた。

「よし! じゃあ、報告に行こう!」
「教会か?」
「ノンノン。違うよ~。アマンダさん!」
「……アマンダ……そうだな。誤解も解けたし、行ってもいいかもしれん」
「じゃあ、ちょっと準備してくるから、また後で集合にしよ?」
「ん? あぁ、わかった」

 ジィジ達のお世話をアチャに任せ、天狐を連れて私達はジィジの部屋に戻る。

「セナちゃん、準備って何するの?」
「お墓参りって言ったらお供え物だよ!」
「お供え物?」

 首を捻る天狐の前に、コテージへのドアを出す。

「!」
〈セナ、いいのか?〉
「うん。ちゃんとおばあちゃん達に許可もらってるよ。入ろ?」

 ジィジとアチャも許可は下りてるんだけど……スタルティは下りていないから、連れてこれないんだよね。一人放置は可哀想だからちょうどいい。
 驚く天狐の手を引いてコテージのドアをくぐると、天狐は「わぁ~」と声を弾ませた。

「キッチンでみんなのご飯作るから、グレンとジルは案内してあげてくれる?」
〈仕方ないな〉
「かしこまりました」

 天狐達と別れ、私は宣言通りにキッチンへ。
 クラオル達に手伝ってもらいながら大量のサンドイッチを作る。
 グレンが絶対肉を希望するだろうから、唐揚げとウィンナーも用意したぜ。

「セナちゃん、セナちゃん!」
「あ、おかえり!」
「錬金部屋とかお風呂もすごかったけど、トイレがすごいのよ! トイレ!」
「ふふふ。みんなトイレは言うんだよね」
「面白くて何回も流しちゃったわ!」
「気に入った?」
「もちろんよ!」
「それならよかった。ちょうどご飯も作り終わったから戻ろ?」

 残念がる天狐を「いつでも来られるから」と宥めてジィジの部屋に戻ると、目の前にジィジがいた。

「!」
「ただいま。アチャとスタルティは?」
「……上着を取りに行った」
「ちょっとジャレッド聞いてちょうだい! セナちゃんったらすごいのよ!」

 天狐がコテージについて熱弁を繰り広げ、ジィジは「お、おう……」とタジタジ。
 私はスタルティに目撃されていなくてホッと一安心。
 家族会議の延長でまだ話してるかと思ってたのに、もう戻って来てるなんて……危なかった……ジィジに頼んで人目に付かない安全な部屋でも用意してもらおうかな?

 戻ってきたアチャとスタルティは天狐の様子に目を丸くしていて、当の天狐は「セナちゃんの料理がすごかったのよ~」と誤魔化していた。



 ジィジの案内で王城の敷地内にあるアマンダさんの墓所へ向かう。
 ジィジが立ち入り禁止エリアに指定していたから荒れているのを想像してたんだけど……そこは色鮮やかな花が植えられていて、レンガで仕切られている可愛らしい花園だった。

「とても……キレイですね……」
「意外ねぇ……」
「アマンダが好きな花を植えさせている。トープ! トープはいるか?」
「はい、ここにおりますよ」

 ジィジが呼ぶ声にゆっくりとやってきたのはおじいさん。
 土竜もぐら族で代々専属の庭師をしているらしい。
 おじいさんはジィジにニコニコと応対していて、ジィジをちゃんと慕ってくれている人もいるんだとちょっと安心した。

 ジィジがおじいさんに花束を頼むと、なんとおじいさんは天狐やアチャ、私の分まで花束を作ってくれた。
 それぞれまとめられている花が違い、私達のイメージで変えてくれたらしい。「キレイな女性にはやはり花が似合いますな。ふぉっふぉっふぉ」なんて笑っている。


 お墓は花園の奥にあり、花に埋もれて墓石がわかりにくかった。
 それでも草がボーボーなんてことはなく、キチンと整えられている。

「花の方が目立ってるじゃない」
「わざとだ。当時は目撃者もいて、アマンダが犯罪者にされそうになった。息子の成長を見守れるようにと、密かにここに埋葬した」

 悲しげに墓石を見つめるジィジにスタルティが寄り添った。
 花束をお供えしてそれぞれ祈りを捧げる。

「アマンダ……すまなかった。許してくれ……」

 ジィジの言葉にはいろいろな意味が込められているんだろう。囁くような声だったのに、重く心に響いた。

 お祈りが終わったら、この場で遅いランチタイム!
 理由は私が家族でお墓参りしたときにそうだったから。〝故人も一緒に楽しくご飯(お弁当)を食べよう!〟っていう母親の教育です。今思えば我が家特有のイベントだよね。大きな霊園だからできたことだし、周りにウチのみたいな騒がしい人はいなかった。
 おかげで私にとってお墓参りはピクニック感覚。これを機にジィジ達もよく訪れるようになったらいいな。

「サンドイッチにしてみたよ~。グレン、唐揚げとウィンナーはみんなの分も入ってるからね」
〈仕方ないな。分けてやろう〉

 いや、だから全部グレンのじゃないって……まぁ、いいか。

「カツ、ツナマヨ、ベーコンレタス、ハムチーズ、たまご……いろいろ作ったから好きなの食べてね」
「初めて見る料理です。パンに挟むだけでこんなにキレイなんですね」
〈セナだからな!〉

 グレンさん、それ理由になってないよ……そんなドヤ顔披露しなくても……

「……うまい」
「流石セナちゃん! すっごく美味しいわ!」
「ん~!! 幸せの味がします!」
「よかった! いっぱい食べてね!」

 サンドイッチはみんなお気に召したようで、和気あいあいとした時間がすぎていく。


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